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2 学園編
83 王太子ハルヴァート 5
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街中に金色の閃光が走り、聖女が顕れていることが世に知られてしまった。
ステラが望むなら、聖女の顕現を隠し通すつもりでいたのに。
これだけ派手に存在を知らせてしまっては、もう隠すことはできないだろう。
ステラはこれから「聖女」として生きていくしか道がなくなってしまった。
そして、本人もそのことに気がつき怯えきっていた。
周りとは違う立場。
周囲からの目もこれまでとは変わってくるだろう。
何をしていても「聖女」としての態度や存在を求められる。
そこにはすでにステラという個人は存在し得ないのだ。
私が生まれながらに持っている「国を継ぐ者」としての重い枷と同じ、重い、重い枷。
しかも100年ぶりということは私のように父王がいるわけではない。
唯一の存在として、何をしていても一挙手一投足を注目される存在になってしまった、ということだ。
崇められ、尊敬され、大切にされる。
その代わり、常に期待に応え続けなければならない。
恐ろしいほどの責任と自分と周囲に対する恐怖と常に戦い続けなければならない。
求められるのは完璧な存在。
そして不完全な自分。
その時、ステラが本心を漏らした。
「聖女であることが怖い」と。
知ってしまえば、責任のある立場は恐ろしいものだ。
細い切り立った刃物の上を歩くような緊張に常にさらされ続ける。
決して間違ってはならない、失敗してはならない。
しかし表面は穏やかに、安定した心を常に持ち続け揺らいではならない。
そして、その緊張を周りに知られてはならない。
ハルヴァートはずっとそう思ってきた。
自分の中の弱さを人に知られてはならない。
決して。
弱さは弱みに直結し、付け込まれる元となる。
特別な立場に立つということは、それだけでも恐ろしく、そして孤独なのだ。
思わずステラを抱きしめてしまった時に感じた温かさは、ハルヴァートがずっと求めていたぬくもりだったのかもしれない。
私の聖女。
生涯離れることができない、私の運命。
この先何があろうと、そばにいて君を守り抜く。
そう思って抱きしめた私の心を君は理解してくれるだろうか。
腕の中で涙を流すステラを抱きしめ、そう、思った。
しかし、ステラはやはりステラで一筋縄ではいかなかった。
私の師でもあるヴィダルを虜にし、聖女のあり方を学び、まんまと自由を得るチャンスを掴んでしまった。
ヴィダルにステラの心を得るように宣告されたが、どうしたらいいのかわからない。
これまで全ての人間は私の前に傅いてきた。私が興味を示せば感謝する者たちばかりだったのに、どうやったら人の心を掴めるというのか。全くわからない。
しかし、ヴィダルには絶対に聞きたくない。
これは私の意地だ。
くそっ。
結局どうしたらステラの心を掴めるのか、そもそも心を掴むというのがどういうことなのかわからないまま日々が過ぎていく。
朝食を共にと思っていたが、王宮内での対応が続き、学生寮に戻ることすらままならない生活が続いていた。
しばらく不在にしてしまったので、ステラの様子が心配になった時、護衛につけていた影から連絡が入って、ステラと嫌がらせをしていたアリア・デュポネが対決しているという。
慌てて、現場に向かうと、アリアがステラに暴力を振るおうとし、弟がそれを止めたところだった。
愛を持ち出すアリアに虫唾が走る。老人に嫁がされようが自業自得だ。
そう思ったがステラの考えは違うらしい。
結局ステラの希望で事を穏便に済ませたが、どうも気持ちが落ち着かない。
なぜステラはいつも私を頼らないのだ?
街に遊びに行くときも、剣の練習をするときも、嫌がらせにあったときも。
いつも私を頼らないのは何故だ?
私は一番最初に頼るべき存在ではないのか?
私が、ステラの婚約者であるのに、何故頼らない?
その思いからついついステラを呼び止めてしまった。
細い腕と掴むと、理性が飛ぶ。
思わず口づけてしまったが、閨の授業では合意なしには他人に触れてはならないと教わっていた事を思い出した。
あの場で、冷静に合意を得る?
あり得ない!
だいたいどうやって合意を得るのだ?
「口づけしてもいいか?」と聞く?
‥‥‥死ねるかもしれない。
でも、初めて触れたステラの唇は柔らかく、その後何度も思い出し、夢の中にまで出てきて私を煩悶させたのだった。
しかも、隣の続き部屋に寝てるとか、これって拷問だよな?
絶対に鍵をかけるようにステラに厳しく伝えなければ。
‥‥‥私が一番信用できん。
ステラが望むなら、聖女の顕現を隠し通すつもりでいたのに。
これだけ派手に存在を知らせてしまっては、もう隠すことはできないだろう。
ステラはこれから「聖女」として生きていくしか道がなくなってしまった。
そして、本人もそのことに気がつき怯えきっていた。
周りとは違う立場。
周囲からの目もこれまでとは変わってくるだろう。
何をしていても「聖女」としての態度や存在を求められる。
そこにはすでにステラという個人は存在し得ないのだ。
私が生まれながらに持っている「国を継ぐ者」としての重い枷と同じ、重い、重い枷。
しかも100年ぶりということは私のように父王がいるわけではない。
唯一の存在として、何をしていても一挙手一投足を注目される存在になってしまった、ということだ。
崇められ、尊敬され、大切にされる。
その代わり、常に期待に応え続けなければならない。
恐ろしいほどの責任と自分と周囲に対する恐怖と常に戦い続けなければならない。
求められるのは完璧な存在。
そして不完全な自分。
その時、ステラが本心を漏らした。
「聖女であることが怖い」と。
知ってしまえば、責任のある立場は恐ろしいものだ。
細い切り立った刃物の上を歩くような緊張に常にさらされ続ける。
決して間違ってはならない、失敗してはならない。
しかし表面は穏やかに、安定した心を常に持ち続け揺らいではならない。
そして、その緊張を周りに知られてはならない。
ハルヴァートはずっとそう思ってきた。
自分の中の弱さを人に知られてはならない。
決して。
弱さは弱みに直結し、付け込まれる元となる。
特別な立場に立つということは、それだけでも恐ろしく、そして孤独なのだ。
思わずステラを抱きしめてしまった時に感じた温かさは、ハルヴァートがずっと求めていたぬくもりだったのかもしれない。
私の聖女。
生涯離れることができない、私の運命。
この先何があろうと、そばにいて君を守り抜く。
そう思って抱きしめた私の心を君は理解してくれるだろうか。
腕の中で涙を流すステラを抱きしめ、そう、思った。
しかし、ステラはやはりステラで一筋縄ではいかなかった。
私の師でもあるヴィダルを虜にし、聖女のあり方を学び、まんまと自由を得るチャンスを掴んでしまった。
ヴィダルにステラの心を得るように宣告されたが、どうしたらいいのかわからない。
これまで全ての人間は私の前に傅いてきた。私が興味を示せば感謝する者たちばかりだったのに、どうやったら人の心を掴めるというのか。全くわからない。
しかし、ヴィダルには絶対に聞きたくない。
これは私の意地だ。
くそっ。
結局どうしたらステラの心を掴めるのか、そもそも心を掴むというのがどういうことなのかわからないまま日々が過ぎていく。
朝食を共にと思っていたが、王宮内での対応が続き、学生寮に戻ることすらままならない生活が続いていた。
しばらく不在にしてしまったので、ステラの様子が心配になった時、護衛につけていた影から連絡が入って、ステラと嫌がらせをしていたアリア・デュポネが対決しているという。
慌てて、現場に向かうと、アリアがステラに暴力を振るおうとし、弟がそれを止めたところだった。
愛を持ち出すアリアに虫唾が走る。老人に嫁がされようが自業自得だ。
そう思ったがステラの考えは違うらしい。
結局ステラの希望で事を穏便に済ませたが、どうも気持ちが落ち着かない。
なぜステラはいつも私を頼らないのだ?
街に遊びに行くときも、剣の練習をするときも、嫌がらせにあったときも。
いつも私を頼らないのは何故だ?
私は一番最初に頼るべき存在ではないのか?
私が、ステラの婚約者であるのに、何故頼らない?
その思いからついついステラを呼び止めてしまった。
細い腕と掴むと、理性が飛ぶ。
思わず口づけてしまったが、閨の授業では合意なしには他人に触れてはならないと教わっていた事を思い出した。
あの場で、冷静に合意を得る?
あり得ない!
だいたいどうやって合意を得るのだ?
「口づけしてもいいか?」と聞く?
‥‥‥死ねるかもしれない。
でも、初めて触れたステラの唇は柔らかく、その後何度も思い出し、夢の中にまで出てきて私を煩悶させたのだった。
しかも、隣の続き部屋に寝てるとか、これって拷問だよな?
絶対に鍵をかけるようにステラに厳しく伝えなければ。
‥‥‥私が一番信用できん。
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