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2 学園編

74 公爵令嬢 アリア・デュポネ 2

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最初のきっかけは偶然だった。

急な教室変更があり、クラスメートたちは全員クラスから別の教室へと移動した後だった。
その日の髪を飾るリボンの色が気に入らなかったアリアは寮に戻ってメイドに髪型を直させていたため、別教室への移動が遅れてしまった。

慌てて教室を移動しようとした時に、ステラの机の中にある教科書が目についた。

ステラ・ディライト。
目障りな聖女気取り。

確かにプラチナブロンドの髪色は珍しいが少し白すぎるような気がする。
美しいとは思えない。まるで老婆のようではないか。
金環を纏う藍色の瞳が神秘的だという者もいるようだが、それが何か?
元々の身分の低さは隠しようもない。

しかも、学園に入る時に王太子がわざわざ迎えに出たという噂も気に入らない。
私こそが、王太子が膝を折る相手なのに。ご趣味が悪すぎるのか悪ふざけなのか、とにかく、いろいろ間違っているとしか思えない。

もっと言えば、次から次に男から男を渡り歩くあの態度。
軽々しく男子生徒に挨拶をしたり、微笑みかけたりして誘惑するはしたなさ。

いやらしい女。ここからいなくなればいいのに。

ビリビリビリ
そう思った瞬間に、ステラの机の中にあった教科書を破り捨てていた。
手の中でステラの教科書が形をなくし、ただの紙くずになっていく。
生まれて初めて感じる爽快感がそこにあった。
心の中を染めていた真っ黒な気持ちが少し晴れるような気がする。
あいつが聖女なんて、ありえない。
聖女がいるなら、私こそ選ばれるべきだ。

ビリビリビリ
もっと、破ってやれ。全部、破ってやれ。
全部お前のせい。

ビリビリビリ
お前のような卑しい存在がいるせいで私が不快になるんだ。
思い知れ。
どこかに行ってしまえ。
二度と顔も見たくない。

一瞬晴れたように思えた気持ちは、教科書を破り捨て、ステラの不幸を願えば願うほど黒く染まっていった。
いなくなれ。ここから!
私の目の前からどこかに行ってしまえ!

必死に教科書を破り捨てるアリアの表情は目は釣り上がり、口元は歪み、美しさをはかけ離れた表情だった。
もう一度最初の爽快感を得ようと必死に教科書を破り捨てるが、快感にすら思えた爽快感を感じることは二度となかった。

「ざまあみろ」

とても令嬢とは思えない言葉をボソリと口の中で呟いてみる。
いつもいじめを受けていた下男が、上司の食事に下剤を仕込んだ時に陰で笑いながら言っていた言葉だ。

その言葉は、妙に今の自分の気持ちにピッタリはまった。

きっと、あいつは泣くだろう。
それを見たらきっと私は楽しい気分になるに違いない。

ついでに、学園から出ていってくれればなおいい。
その時にはなんて素晴らしいことを思いついたんだと自分を褒めてしまうかもしれない。

アリアの顔に歪んだ笑みが浮かぶ。
美しいはずのアリアの顔は憎しみと妬みで歪みきっていた。

男爵家の私生児なんてこの私に相手にされるだけありがたく思いなさいよ。
はやくここからいなくなれ。

私の目の前から消えてしまえ。
大っ嫌い。

大っ嫌いなステラ・ディライト!
少しばかり美しいからって調子に乗ってるんじゃないよ。

そもそも、この私と同じクラスにいるなんて、おかしいって気がつきなさいよ。
このクラスは第二王子殿下も所属するクラスなのに、低すぎる身分に遠慮しない態度もおかしい。
最初から王太子殿下の婚約者なんて辞退すべきなのに、図々しい。

私とは生まれながらに立場が違うというのに。
王太子妃になるために生まれてきた存在。
将来は国の母となるための存在。

私を煩わせること自体がおこがましいというのに。

アリアは破りすてた教科書を踏みにじると、何食わぬ顔で移動教室に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきましてありがとうございました。

アリア編は胸糞悪くてすみません。

この話は第49話に続いています。
ステラが平気な顔してやり返します。
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