そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

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2 学園編

52 それぞれの反応 【モブ、元婚約者候補たち、王太子ハルヴァート】

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”氷の王太子の氷が溶けたらしい。”
”氷の王太子が聖女と手を取り合って笑いあっていた”
”二人は仲睦まじげに、寮に戻って行き、そして・・・♡”

噂は尾ひれ背びれをつけながら、学園を駆け巡った。
”氷の王太子”、”機械でできた王子”と噂され続けた王太子が笑っただと?しかも、ステラ嬢と共に笑いあっていた?心底可笑しそうに声を立てて?!その時の二人は手を取り合い、目を輝かせ、今にもキスしそうだった!
それを目撃した生徒は腰を抜かすほど驚いたという。
そしてこの世紀の大スクープをみんなと共有せねばと、教室に駆け戻ったという。
もありなん。

なんと、王太子は人間だったのだ。
それは、学園の生徒たちにとっては、大事件だった。

どんな美女にも目もくれず。(当然美男にも)
学業、公務、社交、さらには剣術、体術にも手を抜くことを知らず。
領主としても高い評価を得ている王太子が。
超優秀だが、人間じゃないことだけが「玉にキズ」と言われていた王太子が。
驚くなかれ、笑ったのだ。
しかも、どうやら聖女様に惚れているらしい。本気で。
これはびっくり。

**************************************************

「じょ、冗談ではございませんこと?」

その話を聞いた時、悪役令嬢こと公爵令嬢ルシアナは耳を疑った。
あの、殿下が、笑った?しかも、ステラと?

(嘘でしょう?)

足元から地面が崩れ落ちるような衝撃。
そんなバカな。そんなはずはない。
驚きすぎて、涙も出ない。

(いえ、信じない、信じたくない、そんなはずない・・・)

ルシアナは言葉を失い、息すら忘れ、窓の外を長いこと見つめていた。


**************************************************

(もしかして、もしかすると、交渉してみてもいいのかもしれない。)

伯爵令嬢タチアナはそう思った。その心臓はばくばくと騒ぎつづけている。

(王太子殿下が人間ならば、あの話を持ちかけてみてもいいのかも・・・)

実はタチアナが全くなる気のない婚約者候補を受けたのは理由があった。理由というか下心か。
ただ、あまりのハルヴァートの機械のような正確さや冷たさにどうにも言い出せずにいたのだ。瞬間的に「削除」される気しかしなかったからだ。

(勇気を出して言ってみよう!)

おとなしいタチアナは決死の覚悟でハルヴァートと交渉することを決意した。


**************************************************

アリアとエリザベスの反応は似たり寄ったりだった。

「ふーん、殿下が笑ったんだ」

じゃ、あの女は排除しないとね。
殿下は機械のままでいいのだ。
感情を持つなど厄介だ。
ただの氷の王太子のまま、子だけ授けてくれてこちらに関心を持たれないのが一番いい。親族のプレッシャーから逃れるためにはそれが一番、似た者同士の二人はそう思った。

もちろん、ライバル同士なのでそんな話はしないが。


**************************************************

侯爵令嬢リーラの関心は全く違うところにあった。

(ステラ嬢が、ジョセフ様と剣の手合わせをされた・・・!!)

リーラはジョセフのことも筋肉フェチとして推していた。
さすが騎士団長の家系とも言うべき美しい筋肉質な体。
ちょっとだけ細身なので最推しとは言い難い。
でも、序列2位には入る推しメンの一人なのだ。
しかも、そんな推しと手合わせをするステラ・・・!

(めっちゃ友達になりたい!)

学年は違うがどうにかして友達になれないだろうか。もしかして一緒に筋トレとか手合わせとかしたら楽しそう!!夢が広がる。
この学園に入ってから、周りは女らしい子女ばかりで、剣は自分で握るものではないと考えている女子が多かった。剣こそ我が命、の環境に育ったリーラは今ひとつ馴染みきれない。
鍛錬すらこっそりしていた環境の中、初めて気の合いそうな女子を見つけたのかもしれない!
ワクワクする!ああ、なんとか接点を作らなきゃ。
何で一つ年下に生まれなかったんだろう。惜しかったなあ。
どうやって話しかけようか。そればかりで頭の中はいっぱいだ。

王太子殿下が笑った?あ、そうですか。リーラにはその程度の関心しかなかった。

**************************************************

一方王太子ことハルヴァートは。
たった今受けた報告に苛立ちを隠せない。

(3年の男と剣で手合わせをしただと?あの痴れ者が。)

ステラはジョセフと白昼堂々と手合わせをしたらしい。

(貴族の令嬢が!しかも、私の婚約者でありながら!)

ハルヴァートの眼光が鋭くなる。周りにいた者たちは、ハルヴァートの怒りが爆発するではないかと、表面のみ平静を装おいながら、怯えていた。

(あいつには、私の婚約者であるという自覚が全く無い。馬鹿者め!弟のセオドアが気をきかせたようだが、男ゆえ、四六時中側に置くわけにもいかないし、全くどうしたものか)

「殿下、そろそろ、次の授業のお時間ですが・・・」
「殿下、公務のため退出のお時間が迫っております」

その日は一日中イライラし、数度話しかけられてやっと気づく始末。
頭の中はジョセフと楽しそうに笑い合うステラの顔がぐるぐると回っている。

側近たちは顔を見合わせてはいつもと違う殿下のご機嫌を損ねないようにと怯えていた。

(そうだ、最初からこうすべきだったのだ!)

あることを思いつき、ハルヴァートはニヤリと笑った。

(殿下の笑顔もコワイ・・・)側近たちは一同震え上がったという。
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