そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

文字の大きさ
上 下
47 / 247
2 学園編

46 元婚約者候補たち 3 【元男爵令嬢、現伯爵令嬢 エリザベス・キース】

しおりを挟む
「何がなんでも、王子の心をつかめ。心がダメなら身体でもなんでも使え。資金を惜しむな。失敗したら帰ってくる家はない、そう思え」

王太子殿下の婚約者候補としての座を勝ち取ってきたと、自慢げに告げる父は私にそう言った。

その時、私は7歳になったばかり。
言葉の意味は半分もわからなかったが、とにかく、父から失敗してはならないミッションを与えられたことだけは分かった。

王子の心をつかむ。
正妃が無理なら、第二夫人でも第三夫人でもいい、王家にしがみつけ。
それが父の命令だった。

私はエリザベス・キース。殿下は私の一つ上の少年だった。
父は、商人から身を起こした祖父の得た男爵位をコネとカネと策略をフルに使って伯爵家にまで格上げしたやり手の実業家だった。
そして、その家をさらに繁栄させるための道具の一つが私だった。
王妃の妊娠を知ると、すぐに母や愛人を妊娠させて将来に備えようとしたとか。
残念ながら、年の頃がちょうどいい娘は私一人しか生まれなかった。
もっと美貌なら良かったのに、と言われたことは一度や二度ではない。
親の子ですけどね?

婚約者候補に押し込まれてから、毎月のお茶会で王太子殿下にお会いするようになったが、殿下は氷のように冷たく、また機械のようなお方で人間としての魅力はカケラもなかった。
機械のように挨拶して、お茶を飲んで、全員に同じような質問を同じだけして、特に婚約者候補からの回答に対し感情も意味も持たない。聞いているのかすら不明だ。
いったいこのような方をどうやって誘惑したらいいのか、見当もつかない日々が続いていたが、ある日、一方的に婚約解消を告げられた。
抗うすべもなかった。本音は抗いたくもなかった。ホッとした、というのが本音だ。
機械と結婚したい人間がどこにいるのか。

しかし、父はそうは受け止めなかった。
私の努力不足を責め、なんとかもう一度婚約者候補に戻れるように、強いては婚約者になれるように、ダメなら愛妾でも、といういつもの話が繰り返された。
とにかく、王家に取り入り、さらには子を成せと。
そのために私は産まれてきたのだ、と繰り返された。

正直、それほどの容姿とも思えない。
公爵家のルシアナ様や侯爵家のリーラ様は一目見たら忘れられないような美しさをお持ちだが、先日まで男爵家の一令嬢に過ぎなかった私の容姿はそれほどでもない、凡庸だ、とどこか冷静に判断していた。
こんな私でも、何か取り柄があるのだろうか。
身体で堕とすとは?想像もつかない。そもそも、そのような技量が私にあるとも思えない。
しかし、そんなことをうっかり言ってしまったら娼館にでも修行に出されてしまいそうだ。

殿下が気にいる女がいたら、なんとしてでも足を引っ張れ、引きずり落とせ、父はそうも言った。
男が好きなら弟を差し出すから即報告しろ、とまでも。

「自分の子を道具のように扱うんだ」、という言葉がどこかから聞こえてきたような気がしたが、この家で生きていくために、その声を無視した。

また、いつか、その声が聞こえてくるような気はしたけれども。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

処理中です...