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2 学園編

45 元婚約者候補たち 2 【侯爵令嬢リーラ・コンラッド、伯爵令嬢タチアナ・グラン】

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ふわふわした可愛らしい令嬢。リーラのことをそう評する者は多いだろう。
カールした金髪に大きくつぶらなブルーの瞳。小柄で華奢な体躯。天使とはリーラのことだと評するものは幼い頃から多かった。
そして、それは14歳になった今も続いている。
ただし、見た目だけ。

(ま、王太子殿下の正式な婚約者が決まるまでの我慢だから。)

子どもの頃から、無類の剣好き。常に剣も鍛錬も当たり前のものとして近くにある環境に育った。
父はガチムチマッチョで母は天使のようと称された美女である。リーラが誰に似たのかは一目瞭然だ。
父に惚れ込んだ母が半ば押しかけるようにして結ばれた夫婦だったそうで、今でも二人は仲良く円満だ。
そんな両親を見て育ったため、当然政略結婚に興味はなかった。もちろん家のためにある程度は仕方ないと分かってはいるが、武に優れた実家は質実剛健を良しとするため、今のところ特に必要もなさそうだし。

幼い頃から続けた剣術は、身体が小さいため、あまり上達はしなかったが、国内一の武闘派として知られる侯爵家の兄たちに混じって幼い頃から鍛錬を続けてきた。まだ、背が伸びる期待は捨てていないため、強くなれる可能性もある。ともに鍛錬を続けてきた兄達は手加減はするが容赦はなかった。そして、リーラはそんな兄達が大好きだったのだ。
なぜか王太子の元婚約者候補として当然のことと言われ学園に入学したが、十分な鍛錬ができない。
もちろん剣の鍛錬をこっそりと続けているが、早朝か自室でしか出来ないためストレスが溜まり続けている。
しかも、鍛錬について語り合える友さえいないのだ!

(あー、広いところで思いっきり剣が振りたい!!)

そして、剣好きが高じて今はマッチョも大好きだ。
こっそりと騎士科の生徒たちの訓練を眺めては妄想を滾らす毎日。これはこれで意外と充実していた。学園に入って唯一の良い点と言えるだろう。

なぜ自分が王太子殿下の婚約者候補に選ばれたのかは全く分からない。おそらく、ふわふわした金髪と絶妙なバランスのとれた蒼い瞳の文句のつけようがないルックス、そして公爵家の令嬢達からしたら格下でちょうどよいダミー候補だったのではないか、と思っている。

王太子とは初顔合わせの日からまともに話したことは一度もなく、お互いに興味のかけらすらない。礼儀として、無視しない程度の関係を保ち続けているだけだ。

(そもそも、王太子殿下はマッチョさが足りないしね)

そう、誰だって、そう思うでしょう?
ふわふわ令嬢ことリーラは日課の指3本での腕立て伏せをこなしながら、そう思った。


************************************************

(へえ、あのお方も人間だったんだ)

伯爵令嬢タチアナはハルヴァートが聖女を出迎えた時の話を聞いたときに、そう思った。
なんと、ハルヴァートは聖女を出迎えるためにソワソワしたり、心配したり、最後には顔を真っ赤にして怒ったというではないか。驚きしかない。

タチアナの母がハルヴァートの母の学友だった縁で、幼い頃から王宮に連れられて行っていた。王太子とは気心が知れている上、欲もないだろう、という理由から、数合わせ要員として、婚約者候補の役目を仰せつかっていた。
お互い全くその気が無いことはわかっていたのだ。

幼少の頃からハルヴァートは未来の王太子として厳しく育てられていた。母である王妃に抱きしめられることも、笑顔を向けられることもなかった。感情を表すことを極端に禁じられ、気がつくと機械のような氷の王太子が出来上がっていた。

一緒に遊ぶ、というような非生産的なことはしたこともない。
遊んでらっしゃい、と親たちに放り出されると、難しい本を読んで勉強しているような子どもだった。

ただ、お茶の時間になると完璧なマナーでお茶を飲み菓子を食べる姿が不思議で、食べたものはお腹にある袋に入って、そのまま後で処理するために取り出されるのではないか、と思いながら見ていたこともある。
到底同じ人間とは思えなかった。

身体の後ろにネジがあるのでは、と伸び上がって探してみたことさえある。

ただ、ハルヴァートの婚約者候補としての立場のおかげで、他の婚約者を押し付けられることもなく、本の虫だった自分が、責められずに本ばかり読んで過ごせたことには感謝しかない。

自分は地味なタイプだし、あの公爵令嬢たちのように本気で正妃の座を狙うほどのやる気もない。注目されるのもゴメンだ。

そう考え、どこにも敵を作らず、大人しい婚約者候補として勤めてきたが、3年ほど前に、それも解消になった。
父母は諦めきれないらしく、新たな婚約者を押し付けられていないのも、それはそれでよかった。新しい婚約者が面倒な方だったら、厄介だものね。
その程度の感情しかない。

ま、このまま大人しく過ごして、残りの学園生活を全うできればそれで良い。
タチアナはそう考えると、読んでいた本に視線を戻した。 
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