46 / 247
2 学園編
45 元婚約者候補たち 2 【侯爵令嬢リーラ・コンラッド、伯爵令嬢タチアナ・グラン】
しおりを挟む
ふわふわした可愛らしい令嬢。リーラのことをそう評する者は多いだろう。
カールした金髪に大きくつぶらなブルーの瞳。小柄で華奢な体躯。天使とはリーラのことだと評するものは幼い頃から多かった。
そして、それは14歳になった今も続いている。
ただし、見た目だけ。
(ま、王太子殿下の正式な婚約者が決まるまでの我慢だから。)
子どもの頃から、無類の剣好き。常に剣も鍛錬も当たり前のものとして近くにある環境に育った。
父はガチムチマッチョで母は天使のようと称された美女である。リーラが誰に似たのかは一目瞭然だ。
父に惚れ込んだ母が半ば押しかけるようにして結ばれた夫婦だったそうで、今でも二人は仲良く円満だ。
そんな両親を見て育ったため、当然政略結婚に興味はなかった。もちろん家のためにある程度は仕方ないと分かってはいるが、武に優れた実家は質実剛健を良しとするため、今のところ特に必要もなさそうだし。
幼い頃から続けた剣術は、身体が小さいため、あまり上達はしなかったが、国内一の武闘派として知られる侯爵家の兄たちに混じって幼い頃から鍛錬を続けてきた。まだ、背が伸びる期待は捨てていないため、強くなれる可能性もある。ともに鍛錬を続けてきた兄達は手加減はするが容赦はなかった。そして、リーラはそんな兄達が大好きだったのだ。
なぜか王太子の元婚約者候補として当然のことと言われ学園に入学したが、十分な鍛錬ができない。
もちろん剣の鍛錬をこっそりと続けているが、早朝か自室でしか出来ないためストレスが溜まり続けている。
しかも、鍛錬について語り合える友さえいないのだ!
(あー、広いところで思いっきり剣が振りたい!!)
そして、剣好きが高じて今はマッチョも大好きだ。
こっそりと騎士科の生徒たちの訓練を眺めては妄想を滾らす毎日。これはこれで意外と充実していた。学園に入って唯一の良い点と言えるだろう。
なぜ自分が王太子殿下の婚約者候補に選ばれたのかは全く分からない。おそらく、ふわふわした金髪と絶妙なバランスのとれた蒼い瞳の文句のつけようがないルックス、そして公爵家の令嬢達からしたら格下でちょうどよいダミー候補だったのではないか、と思っている。
王太子とは初顔合わせの日からまともに話したことは一度もなく、お互いに興味のかけらすらない。礼儀として、無視しない程度の関係を保ち続けているだけだ。
(そもそも、王太子殿下はマッチョさが足りないしね)
そう、誰だって、そう思うでしょう?
ふわふわ令嬢ことリーラは日課の指3本での腕立て伏せをこなしながら、そう思った。
************************************************
(へえ、あのお方も人間だったんだ)
伯爵令嬢タチアナはハルヴァートが聖女を出迎えた時の話を聞いたときに、そう思った。
なんと、ハルヴァートは聖女を出迎えるためにソワソワしたり、心配したり、最後には顔を真っ赤にして怒ったというではないか。驚きしかない。
タチアナの母がハルヴァートの母の学友だった縁で、幼い頃から王宮に連れられて行っていた。王太子とは気心が知れている上、欲もないだろう、という理由から、数合わせ要員として、婚約者候補の役目を仰せつかっていた。
お互い全くその気が無いことはわかっていたのだ。
幼少の頃からハルヴァートは未来の王太子として厳しく育てられていた。母である王妃に抱きしめられることも、笑顔を向けられることもなかった。感情を表すことを極端に禁じられ、気がつくと機械のような氷の王太子が出来上がっていた。
一緒に遊ぶ、というような非生産的なことはしたこともない。
遊んでらっしゃい、と親たちに放り出されると、難しい本を読んで勉強しているような子どもだった。
ただ、お茶の時間になると完璧なマナーでお茶を飲み菓子を食べる姿が不思議で、食べたものはお腹にある袋に入って、そのまま後で処理するために取り出されるのではないか、と思いながら見ていたこともある。
到底同じ人間とは思えなかった。
身体の後ろにネジがあるのでは、と伸び上がって探してみたことさえある。
ただ、ハルヴァートの婚約者候補としての立場のおかげで、他の婚約者を押し付けられることもなく、本の虫だった自分が、責められずに本ばかり読んで過ごせたことには感謝しかない。
自分は地味なタイプだし、あの公爵令嬢たちのように本気で正妃の座を狙うほどのやる気もない。注目されるのもゴメンだ。
そう考え、どこにも敵を作らず、大人しい婚約者候補として勤めてきたが、3年ほど前に、それも解消になった。
父母は諦めきれないらしく、新たな婚約者を押し付けられていないのも、それはそれでよかった。新しい婚約者が面倒な方だったら、厄介だものね。
その程度の感情しかない。
ま、このまま大人しく過ごして、残りの学園生活を全うできればそれで良い。
タチアナはそう考えると、読んでいた本に視線を戻した。
カールした金髪に大きくつぶらなブルーの瞳。小柄で華奢な体躯。天使とはリーラのことだと評するものは幼い頃から多かった。
そして、それは14歳になった今も続いている。
ただし、見た目だけ。
(ま、王太子殿下の正式な婚約者が決まるまでの我慢だから。)
子どもの頃から、無類の剣好き。常に剣も鍛錬も当たり前のものとして近くにある環境に育った。
父はガチムチマッチョで母は天使のようと称された美女である。リーラが誰に似たのかは一目瞭然だ。
父に惚れ込んだ母が半ば押しかけるようにして結ばれた夫婦だったそうで、今でも二人は仲良く円満だ。
そんな両親を見て育ったため、当然政略結婚に興味はなかった。もちろん家のためにある程度は仕方ないと分かってはいるが、武に優れた実家は質実剛健を良しとするため、今のところ特に必要もなさそうだし。
幼い頃から続けた剣術は、身体が小さいため、あまり上達はしなかったが、国内一の武闘派として知られる侯爵家の兄たちに混じって幼い頃から鍛錬を続けてきた。まだ、背が伸びる期待は捨てていないため、強くなれる可能性もある。ともに鍛錬を続けてきた兄達は手加減はするが容赦はなかった。そして、リーラはそんな兄達が大好きだったのだ。
なぜか王太子の元婚約者候補として当然のことと言われ学園に入学したが、十分な鍛錬ができない。
もちろん剣の鍛錬をこっそりと続けているが、早朝か自室でしか出来ないためストレスが溜まり続けている。
しかも、鍛錬について語り合える友さえいないのだ!
(あー、広いところで思いっきり剣が振りたい!!)
そして、剣好きが高じて今はマッチョも大好きだ。
こっそりと騎士科の生徒たちの訓練を眺めては妄想を滾らす毎日。これはこれで意外と充実していた。学園に入って唯一の良い点と言えるだろう。
なぜ自分が王太子殿下の婚約者候補に選ばれたのかは全く分からない。おそらく、ふわふわした金髪と絶妙なバランスのとれた蒼い瞳の文句のつけようがないルックス、そして公爵家の令嬢達からしたら格下でちょうどよいダミー候補だったのではないか、と思っている。
王太子とは初顔合わせの日からまともに話したことは一度もなく、お互いに興味のかけらすらない。礼儀として、無視しない程度の関係を保ち続けているだけだ。
(そもそも、王太子殿下はマッチョさが足りないしね)
そう、誰だって、そう思うでしょう?
ふわふわ令嬢ことリーラは日課の指3本での腕立て伏せをこなしながら、そう思った。
************************************************
(へえ、あのお方も人間だったんだ)
伯爵令嬢タチアナはハルヴァートが聖女を出迎えた時の話を聞いたときに、そう思った。
なんと、ハルヴァートは聖女を出迎えるためにソワソワしたり、心配したり、最後には顔を真っ赤にして怒ったというではないか。驚きしかない。
タチアナの母がハルヴァートの母の学友だった縁で、幼い頃から王宮に連れられて行っていた。王太子とは気心が知れている上、欲もないだろう、という理由から、数合わせ要員として、婚約者候補の役目を仰せつかっていた。
お互い全くその気が無いことはわかっていたのだ。
幼少の頃からハルヴァートは未来の王太子として厳しく育てられていた。母である王妃に抱きしめられることも、笑顔を向けられることもなかった。感情を表すことを極端に禁じられ、気がつくと機械のような氷の王太子が出来上がっていた。
一緒に遊ぶ、というような非生産的なことはしたこともない。
遊んでらっしゃい、と親たちに放り出されると、難しい本を読んで勉強しているような子どもだった。
ただ、お茶の時間になると完璧なマナーでお茶を飲み菓子を食べる姿が不思議で、食べたものはお腹にある袋に入って、そのまま後で処理するために取り出されるのではないか、と思いながら見ていたこともある。
到底同じ人間とは思えなかった。
身体の後ろにネジがあるのでは、と伸び上がって探してみたことさえある。
ただ、ハルヴァートの婚約者候補としての立場のおかげで、他の婚約者を押し付けられることもなく、本の虫だった自分が、責められずに本ばかり読んで過ごせたことには感謝しかない。
自分は地味なタイプだし、あの公爵令嬢たちのように本気で正妃の座を狙うほどのやる気もない。注目されるのもゴメンだ。
そう考え、どこにも敵を作らず、大人しい婚約者候補として勤めてきたが、3年ほど前に、それも解消になった。
父母は諦めきれないらしく、新たな婚約者を押し付けられていないのも、それはそれでよかった。新しい婚約者が面倒な方だったら、厄介だものね。
その程度の感情しかない。
ま、このまま大人しく過ごして、残りの学園生活を全うできればそれで良い。
タチアナはそう考えると、読んでいた本に視線を戻した。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】嫉妬深いと婚約破棄されましたが私に惚れ薬を飲ませたのはそもそも王子貴方ですよね?
砂礫レキ
恋愛
「お前のような嫉妬深い蛇のような女を妻にできるものか。婚約破棄だアイリスフィア!僕は聖女レノアと結婚する!」
「そんな!ジルク様、貴男に捨てられるぐらいなら死んだ方がましです!」
「ならば今すぐ死ね!お前など目障りだ!」
公爵令嬢アイリスフィアは泣き崩れ、そして聖女レノアは冷たい目で告げた。
「でもアイリ様を薬で洗脳したのはジルク王子貴男ですよね?」
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる