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1 聖女開眼
16 攻略対象! 騎士団長の息子 ジョセフ・ブラウン 2
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おっどろいたー、まさか、会えるとは思わなかった。
ゲームの世界だとは知ってたけど、本当にいるんだ‥‥‥
まさかこれってイベント?
いや、まだゲーム始まってないよね?
でも、攻略対象者が実在するってことは、私は本当に聖女ちゃん?
きゅるるんヒロインちゃん?うふふっ♡
‥‥‥ちょっと、向いてない気がする。
今目の前にいる攻略対象者のジョセフは、ゲームのパッケージにあったよりも、随分幼くて華奢に見える。
確か、騎士団長の息子のジョセフはマッチョ枠だと思ったけど。
これからマッチョに成長するのかな?
私が考え込んでいると、ジョセフは不思議そうにこくんと首を傾げた。
「どっ、どういたしまして。たまたま側にいて、助けられてよかった」
「僕はジョセフ。君は?」
「あー、私はス‥‥‥スー?」
危ない危ない、名乗っちゃうところだった。
うっかり知り合っちゃったけど、攻略対象者には近づかないようにしないと。
まだこの世界でどう生きていくか決めていない私には、不用意な攻略対象者との接触は危険しかない。
「今日は、ここで鍛錬をしてたんだ。だけど、この間、泳ぎが下手でバカにされたことを思い出して、練習しようとしたら、湖の中で足がつっちゃったんだ。君がいてくれて本当に良かったよ」
「偶然だけど、いて良かったわ」
明るく答えたけど、こ、これからどうしたら?
とりあえず、逃げる?それとも、留まる?何が正解なんだろう?
ゲームじゃないから選択肢も出てこないしなぁ。
「じゃ‥‥‥」これでサヨナラ、逃げるが勝ちっと‥‥・
「君は、この近くの子なの?見たことないけど」ジョセフが同時に被せてきた。
「えっ?あっ、あの、あっちの方から来たかな~あはは。なぁんて?」
腕を大きく振って、とりあえず小屋の方角を大雑把に指しておく。
ジョセフは一瞬考えるような仕草を見せたが、何かを決めたように顔を上げて言った。
「今日は、もう帰るけど、もう一度話してお礼ができないかな?ここに、明日も同じくらいの時間に来られない?」
「え?う‥‥‥うん。いいけど‥‥‥」
お礼なんていいのに‥‥‥
「じゃ、また明日ね。必ず来てね。」
そう言うと、ジョセフはさっき人命救助に使ったばかりのボートに乗って帰って行った。
多分、ジョセフの滞在先がこの湖の辺りのどこかにあるのだろう。
ボートの持ち主は、ジョセフだったらしい。
まあ、とりあえず、明日会ってもそれほど問題ないだろう。
話も聞けるだろうし、この世界の様子がもう少しわかるかもしれないしね。
翌日、約束の時間に湖に行くとジョセフが待ち構えていた。
昨日とは打って変わって元気そうだ。顔を合わせただけで明るいオーラが流れ込んでくる。
「やあ!スー!一緒に食事をしよう!準備してきたんだ!」
ジョセフは木陰に用意されたピクニックテーブルを指差した。
白いクロスの上には、美味しそうな軽食が並べられていた。
「家の人に少し手伝ってもらったんだ。気に入ってくれると嬉しいんだけど」
ジョセフはいたずらっぽく笑った。
あー、お礼がしたかったのね。可愛いとこあるじゃん。
色とりどりの食材を挟んだ一口大のサンドイッチ。
香ばしい匂いのする丸々としたローストチキン。
温かなチーズとジャガイモのポタージュ。
素朴だけど、どこか懐かしい味がする。
軽食を取りながら親しく語り合う。
鍛錬のこと、家のこと、昨日のこと。
なんでもない日常の話。
ああ、この子いい子だなぁ。
快活で、真っ直ぐな人だ。
良い友達になれそう。
「ジョセフは、いつもここで鍛錬をしているの?」
「そう。家族に内緒でね。こっそり鍛錬するために、よくここに来ているんだ。やりすぎると怒られちゃうからさ。」
「そう」努力家なんだなあ。
「僕の父は騎士団長で、兄2人も優秀な騎士なんだけど、僕だけがダメなんだ‥‥‥」
「何故ダメだと思うの?」
「身体が小さくて筋肉がつきにくいし、剣も体術も進歩が遅いんだよ。
なかなか泳げるようにもならなくて、昨日、少し練習しようとしたらあのとおり。情けないよね?」
ジョセフが、自分を情けなく思う心が私の中に流れ込んでくる。
(情けない‥‥‥でも、それってそうなのかな?)
ジョセフの心の動きに私の感情が引きずられ、瞳が、揺らぐ。
「今は結果が出ないだけでいつかは上達すると思うよ。成長すれば背だって伸びるはずだし。まっすぐにひたむきに目的に向けて努力するあなたは素晴らしい人じゃない。自分を認めてあげて。」
「スー、君の瞳‥‥‥金色‥‥‥?」
目がさめるようにハッとする。
揺らぎが戻った。
何だろう?
これは一体なんだろう?
前にも同じようなことがあった?
男爵夫人の部屋で?
感情が揺さぶられて、自分ではなくなるような、不思議な感覚。
なんだろう。怖い。
私はぞくりと身体を震わせた。
「と、とりあえず、今日は帰るわ。食事ありがとう。美味しかった。」
「スー‥‥?」
逃げるようにそこから走り去ると、後ろから、ジョセフの声が追いかけてきた。
「また会おう!僕はここで毎日鍛錬してるからね!」
ゲームの世界だとは知ってたけど、本当にいるんだ‥‥‥
まさかこれってイベント?
いや、まだゲーム始まってないよね?
でも、攻略対象者が実在するってことは、私は本当に聖女ちゃん?
きゅるるんヒロインちゃん?うふふっ♡
‥‥‥ちょっと、向いてない気がする。
今目の前にいる攻略対象者のジョセフは、ゲームのパッケージにあったよりも、随分幼くて華奢に見える。
確か、騎士団長の息子のジョセフはマッチョ枠だと思ったけど。
これからマッチョに成長するのかな?
私が考え込んでいると、ジョセフは不思議そうにこくんと首を傾げた。
「どっ、どういたしまして。たまたま側にいて、助けられてよかった」
「僕はジョセフ。君は?」
「あー、私はス‥‥‥スー?」
危ない危ない、名乗っちゃうところだった。
うっかり知り合っちゃったけど、攻略対象者には近づかないようにしないと。
まだこの世界でどう生きていくか決めていない私には、不用意な攻略対象者との接触は危険しかない。
「今日は、ここで鍛錬をしてたんだ。だけど、この間、泳ぎが下手でバカにされたことを思い出して、練習しようとしたら、湖の中で足がつっちゃったんだ。君がいてくれて本当に良かったよ」
「偶然だけど、いて良かったわ」
明るく答えたけど、こ、これからどうしたら?
とりあえず、逃げる?それとも、留まる?何が正解なんだろう?
ゲームじゃないから選択肢も出てこないしなぁ。
「じゃ‥‥‥」これでサヨナラ、逃げるが勝ちっと‥‥・
「君は、この近くの子なの?見たことないけど」ジョセフが同時に被せてきた。
「えっ?あっ、あの、あっちの方から来たかな~あはは。なぁんて?」
腕を大きく振って、とりあえず小屋の方角を大雑把に指しておく。
ジョセフは一瞬考えるような仕草を見せたが、何かを決めたように顔を上げて言った。
「今日は、もう帰るけど、もう一度話してお礼ができないかな?ここに、明日も同じくらいの時間に来られない?」
「え?う‥‥‥うん。いいけど‥‥‥」
お礼なんていいのに‥‥‥
「じゃ、また明日ね。必ず来てね。」
そう言うと、ジョセフはさっき人命救助に使ったばかりのボートに乗って帰って行った。
多分、ジョセフの滞在先がこの湖の辺りのどこかにあるのだろう。
ボートの持ち主は、ジョセフだったらしい。
まあ、とりあえず、明日会ってもそれほど問題ないだろう。
話も聞けるだろうし、この世界の様子がもう少しわかるかもしれないしね。
翌日、約束の時間に湖に行くとジョセフが待ち構えていた。
昨日とは打って変わって元気そうだ。顔を合わせただけで明るいオーラが流れ込んでくる。
「やあ!スー!一緒に食事をしよう!準備してきたんだ!」
ジョセフは木陰に用意されたピクニックテーブルを指差した。
白いクロスの上には、美味しそうな軽食が並べられていた。
「家の人に少し手伝ってもらったんだ。気に入ってくれると嬉しいんだけど」
ジョセフはいたずらっぽく笑った。
あー、お礼がしたかったのね。可愛いとこあるじゃん。
色とりどりの食材を挟んだ一口大のサンドイッチ。
香ばしい匂いのする丸々としたローストチキン。
温かなチーズとジャガイモのポタージュ。
素朴だけど、どこか懐かしい味がする。
軽食を取りながら親しく語り合う。
鍛錬のこと、家のこと、昨日のこと。
なんでもない日常の話。
ああ、この子いい子だなぁ。
快活で、真っ直ぐな人だ。
良い友達になれそう。
「ジョセフは、いつもここで鍛錬をしているの?」
「そう。家族に内緒でね。こっそり鍛錬するために、よくここに来ているんだ。やりすぎると怒られちゃうからさ。」
「そう」努力家なんだなあ。
「僕の父は騎士団長で、兄2人も優秀な騎士なんだけど、僕だけがダメなんだ‥‥‥」
「何故ダメだと思うの?」
「身体が小さくて筋肉がつきにくいし、剣も体術も進歩が遅いんだよ。
なかなか泳げるようにもならなくて、昨日、少し練習しようとしたらあのとおり。情けないよね?」
ジョセフが、自分を情けなく思う心が私の中に流れ込んでくる。
(情けない‥‥‥でも、それってそうなのかな?)
ジョセフの心の動きに私の感情が引きずられ、瞳が、揺らぐ。
「今は結果が出ないだけでいつかは上達すると思うよ。成長すれば背だって伸びるはずだし。まっすぐにひたむきに目的に向けて努力するあなたは素晴らしい人じゃない。自分を認めてあげて。」
「スー、君の瞳‥‥‥金色‥‥‥?」
目がさめるようにハッとする。
揺らぎが戻った。
何だろう?
これは一体なんだろう?
前にも同じようなことがあった?
男爵夫人の部屋で?
感情が揺さぶられて、自分ではなくなるような、不思議な感覚。
なんだろう。怖い。
私はぞくりと身体を震わせた。
「と、とりあえず、今日は帰るわ。食事ありがとう。美味しかった。」
「スー‥‥?」
逃げるようにそこから走り去ると、後ろから、ジョセフの声が追いかけてきた。
「また会おう!僕はここで毎日鍛錬してるからね!」
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