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番外編12 壮介 牽制

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あの日から、勇太の目が見られない。
だって、どうしようもないだろ?
あの、大きくて綺麗な目に「俺が好きだ」って書いてある。
潤んだ瞳に柑橘の匂い。それだけでもう平常心を保つのに必死だ。
ぐらぐらぐらぐらぐら
そんな目で見られたら俺だって平静ではいられないんだよ!オトコノコなんだから!!

んなわけで、試験期間終了後も、あいつに話しかけられても素っ気なく返すことしかできなくなってしまった。しかもちょうど部活は繁忙期。
秋の大会は来年度に繋がって行く大会なんだから気を抜くなとコーチに発破をかけられる。
まあ、確かに柔道で推薦を目指す俺にとっても重要な時期なのは間違いない。
気を散らすな。自分に言い聞かせても、そうは簡単には行かないもんなんだよな。

ただ、めちゃめちゃ自分を追い込んで、色々なもんを運動で発散するのは男にとって必要なことだって学んだよ。
いつも付き合わせて瀕死になっていた山田を初めて少し気の毒に思った。
たまには茶でも奢ってやるべきか?ペットボトルのでいいだろ?お前好きみたいだから。
ぶっ倒れている山田の頭の上に置き、念の為拝んでおいた。

(ありがとな、山田)
心の中で礼を言う。

「ま、まだ生きてるから、拝むんじゃねー・・・」
そうか、そうだったか。じゃ、先に帰るな?
「また明日」
「ふ、ふざけんな・・・」
まだ生きてるから大丈夫だろうに。

そんな毎日が続いていたが、今日、どっかのバカモンが柔道場でゲロを吐いたらしい。
おかげで道場は閉鎖。急遽業者を入れて消毒することになった。
・・・ラッキ。

俺は、久しぶりに勇太を誘ってみることにした。
ちょっと、いや大いに勇太不足だったんだよ。やっぱりたまには勇太きゅんを補充しないと、だろ?
顧問に呼ばれ、部員たちへの伝達と明日以降の練習体制について指示を受けた後、即座に勇太にメッセージを送った。確か今日はバイトがない曜日のはずだ。

勇太にメッセージを送ると間を置かずに猫のスタンプが送られてきた。
小さなハートを抱えた猫・・・かわいい。
おい、鼻の下伸びちゃうだろ!思わずニヤニヤしていると山田が覗き込んできた。
「ふーん?」
何かを察したような山田のドヤ顔がムカつく。
「ま、幸せならいいんじゃない?」そう言いながら山田は右手をひらひらと振り、「俺、彼女とデートだから、連絡はよろしくねぇ」と去っていった。
なんだあいつ。元気じゃねーか。しかしなぜか大きな弱みを握られた気がする。

ぴこん

「教室で待ってる」

その瞬間、山田のことは全部忘れた。
さっさと部員への連絡を済ませ教室に急ぐ。

そこには、勇太と勇太を狙うハイエナどもがいた。

「ちっ」
舌打ちは教室の外で済ませたぞ?勇太が心配するからな?
ハイエナどもは俺が教室に入ると、さっと目をそらした。
やっぱりな?後ろ暗いところがあるんだろ?このハイエナ野郎ども。
俺はギロリと奴らを睨み付けると、勇太と教室を出た。
ったく、懲りないやつらだ。思わずまた舌打ちしてしまう。

勇太は何も気がついていない。
ただ、今日はいつも以上にニコニコとかわいくしゃべっている。
「学校では控えめにしろよ?じゃないと俺が危ないから」と心の中で注意しておいた。学校で襲いかかっちゃったら、本物の事件になっちゃうからな?

昇降口から教室を振り返ると、さっきのモブどもが教室の窓から俺たちのことをのぞいていた。
不思議なことに、勇太を本気でダチとしてしか見ていないやつとそうでないやつは見分けがつく。ある意味、同族嫌悪なのかな。それともライバル?
ま、何れにせよ、しっかり牽制しておこう。
俺は教室を見上げて、勇太に見つからないように気をつけながら、モブたちに中指を突き立てた。

「ひっ」

小さな叫び声とともに、ハイエナどもは全員首を引っ込めた。
わかりゃーいいんだよ、わかりゃーな?

「でさぁ、聞いてる?」

勇太が何かを話していたらしい。

「お、おう」
「じゃ、よかった。それでね、オレ壮介が読んだら絶対に面白いと思うんだよ」
「そうか」
「今日オレ続き買うから、1巻読まないか?その作者がね・・・」

勇太が何やら話し続けている。どうやら今から行く本屋で紹介したい作家がいるようだ。それだけわかってれば十分。
俺は勇太の柑橘の匂いを吸い込んだ。変態じゃないぞ?言っとくけど。勇太の柑橘の匂いはどこかから漂ってきた金木犀の匂いと混じり合い、なんとも言えないいい匂いになっていた。
こ、これが極楽の匂いかもしれん。そう思うよな?

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