上 下
38 / 54

番外編1 壮介 その後のふたり

しおりを挟む
俺と勇太が付き合うようになってから、まあ、何が変わったかと言うと、特に何も変わらなかった。

相変わらずあいつはバイト、俺は練習やトレーニングで忙しくしていたし、そろそろ、これからの進路を本気で考えなければならない時期にもさしかかっていた。

俺は、できれば大学は柔道の推薦をもらえるところに行きたいと思っていたし、まあ、まさか勇太が同じ大学に行くとは思えないので、大学は離れてしまうんだろうな。
考えただけで胸がキリキリ痛む。
こんな感情があるなんて知らなかった。憂鬱ってのはこう言うことを言うんだな。

ま、でもまだ卒業までに一年以上あるんだし、今を大事に生きなきゃだろ。
あの姫が、俺を好きになってくれるとは、まさか夢にも思えなかったし?
なんとか近づきたいと思っていたのに今は親友兼恋人だ!
でへへへ。
いや、あいつ可愛いよなあ?
俺を見て真っ赤になったり、うろたえたり、しょんぼりしたりする姿を見るだけで‥‥‥めっちゃ滾る。
ま、将来のことは後で考えよう。

今日は久しぶりのオフ。
そして、勇太が遊びにくることになっている。
最近は少し涼しくなりかけてはまた暑さが戻ってくる。

(あいつ、薄着で遊びにくるかな)

俺は大いなる期待と心配が入り混じった気分で、家の中をウロウロと歩き回ってしまう。

(いや、俺が見るのはいいんだ。でも、ほかの男に見せちゃいかん。綺麗すぎるから。でも、デフォで薄着じゃ無いと、俺も見られないだろ)

いろいろ、心配は尽きない。

当然のことだが、かーちゃんとばーちゃんは買い物に行って留守だ。
そして、姉貴は、神出鬼没すぎるが、おそらく薄い本を書いている友人の手伝いに行っているか、薄い本を漁りに行っているか、もしくはどこかに取材と称して覗きに行っているか‥‥‥どれかだろう。
最近はほとんど家にいない。
そう言えば大学生だから、学校に行っていることもある。
いずれにせよいないだろう。
っつーか、かえってくんな。

付き合っている相手が、家族が留守の家に遊びにくる‥‥‥
これは、ビックイベントじゃね?だろ?だろ?
あ、一応勉強を一緒にやるって名目な?
でも、俺、誰もいない家であいつの柑橘の匂いを嗅いだら、冷静でいられるんだろうか。
ちょっと不安になってくる。
でも、薄着にはやっぱり期待している。
VネックのTシャツとかはダメだよな?
上から覗き込んだら見えちゃうかもしれないし。
いや、別に俺が見るわけじゃないぞ?
見えたとしたらたまたま、たまたまだ。

‥‥VネックのTシャツもいいな。

でも、まて、俺。落ち着くんだ。
こう言うことは一方的にやっちゃいかん。
そうだろ?
だって俺たちの間にはまだ、解決していない大きな問題があるじゃないか。

俺はふうっとため息をついた。
重要な問題が、残ってるんだよな。

いや、喧嘩とかしたことないぞ?
あいつはいつだって綺麗だし可愛いし、真面目だし、いとし‥‥げふんげふん。
まあ、それは置いておいて、だ。

先週末は俺の試合を見にきてくれた。俺は勇太に無様な姿を見せたくないから、いつもよりも冷静に相手に食らいついていって結局いい結果が出た。
小さな地区大会だったけど、コーチの指導どおりに冷静に試合を運べて、次の上部大会に繋げられる内容だったって、監督もコーチもご満悦だった。
吹き出す汗を拭きながら、携帯をチェックすると、
「優勝おめでとう。頑張ったな。今日は帰るね」
とメッセージが入っていた。

着信は5分前だ。走れば追いつけるかもしれない。

「ダチに応援の礼を言ってきます!」

コーチが後ろでなんか言ってるが知ったこっちゃ無い。

試合帰りの人の波の中、あいつの陽に輝くふわふわとした髪を見つけた。
背筋をピンと伸ばしてゆっくりと歩く後ろ姿は、凛としていて一目でわかる。
ま、どこにいたって見つけられる自信はあるけどな?

「勇太」

後ろから声をかけると、弾かれたように勇太が振り返った。
大きな目がますます大きく見開かれた。

「壮介」

俺の名を呼ぶと、勇太が、笑った。

世界が輝く。
そして、周りにいる人もざわめきも、試合の結果も何もかもが吹っ飛んだ。

勇太しか、見えない。
日差しを浴びてきらきらひかるあいつのまつ毛。
丸みを帯びて紅潮する頬。
会えて嬉しいと全身で伝えてくるあいつの姿を見ると、頭に浮かぶのは一つだけ。

(あー、きれいだなあ。)

俺はいつだって、もう何も言えなくなっちまうんだ。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...