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番外編1 壮介 その後のふたり

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俺と勇太が付き合うようになってから、まあ、何が変わったかと言うと、特に何も変わらなかった。

相変わらずあいつはバイト、俺は練習やトレーニングで忙しくしていたし、そろそろ、これからの進路を本気で考えなければならない時期にもさしかかっていた。

俺は、できれば大学は柔道の推薦をもらえるところに行きたいと思っていたし、まあ、まさか勇太が同じ大学に行くとは思えないので、大学は離れてしまうんだろうな。
考えただけで胸がキリキリ痛む。
こんな感情があるなんて知らなかった。憂鬱ってのはこう言うことを言うんだな。

ま、でもまだ卒業までに一年以上あるんだし、今を大事に生きなきゃだろ。
あの姫が、俺を好きになってくれるとは、まさか夢にも思えなかったし?
なんとか近づきたいと思っていたのに今は親友兼恋人だ!
でへへへ。
いや、あいつ可愛いよなあ?
俺を見て真っ赤になったり、うろたえたり、しょんぼりしたりする姿を見るだけで‥‥‥めっちゃ滾る。
ま、将来のことは後で考えよう。

今日は久しぶりのオフ。
そして、勇太が遊びにくることになっている。
最近は少し涼しくなりかけてはまた暑さが戻ってくる。

(あいつ、薄着で遊びにくるかな)

俺は大いなる期待と心配が入り混じった気分で、家の中をウロウロと歩き回ってしまう。

(いや、俺が見るのはいいんだ。でも、ほかの男に見せちゃいかん。綺麗すぎるから。でも、デフォで薄着じゃ無いと、俺も見られないだろ)

いろいろ、心配は尽きない。

当然のことだが、かーちゃんとばーちゃんは買い物に行って留守だ。
そして、姉貴は、神出鬼没すぎるが、おそらく薄い本を書いている友人の手伝いに行っているか、薄い本を漁りに行っているか、もしくはどこかに取材と称して覗きに行っているか‥‥‥どれかだろう。
最近はほとんど家にいない。
そう言えば大学生だから、学校に行っていることもある。
いずれにせよいないだろう。
っつーか、かえってくんな。

付き合っている相手が、家族が留守の家に遊びにくる‥‥‥
これは、ビックイベントじゃね?だろ?だろ?
あ、一応勉強を一緒にやるって名目な?
でも、俺、誰もいない家であいつの柑橘の匂いを嗅いだら、冷静でいられるんだろうか。
ちょっと不安になってくる。
でも、薄着にはやっぱり期待している。
VネックのTシャツとかはダメだよな?
上から覗き込んだら見えちゃうかもしれないし。
いや、別に俺が見るわけじゃないぞ?
見えたとしたらたまたま、たまたまだ。

‥‥VネックのTシャツもいいな。

でも、まて、俺。落ち着くんだ。
こう言うことは一方的にやっちゃいかん。
そうだろ?
だって俺たちの間にはまだ、解決していない大きな問題があるじゃないか。

俺はふうっとため息をついた。
重要な問題が、残ってるんだよな。

いや、喧嘩とかしたことないぞ?
あいつはいつだって綺麗だし可愛いし、真面目だし、いとし‥‥げふんげふん。
まあ、それは置いておいて、だ。

先週末は俺の試合を見にきてくれた。俺は勇太に無様な姿を見せたくないから、いつもよりも冷静に相手に食らいついていって結局いい結果が出た。
小さな地区大会だったけど、コーチの指導どおりに冷静に試合を運べて、次の上部大会に繋げられる内容だったって、監督もコーチもご満悦だった。
吹き出す汗を拭きながら、携帯をチェックすると、
「優勝おめでとう。頑張ったな。今日は帰るね」
とメッセージが入っていた。

着信は5分前だ。走れば追いつけるかもしれない。

「ダチに応援の礼を言ってきます!」

コーチが後ろでなんか言ってるが知ったこっちゃ無い。

試合帰りの人の波の中、あいつの陽に輝くふわふわとした髪を見つけた。
背筋をピンと伸ばしてゆっくりと歩く後ろ姿は、凛としていて一目でわかる。
ま、どこにいたって見つけられる自信はあるけどな?

「勇太」

後ろから声をかけると、弾かれたように勇太が振り返った。
大きな目がますます大きく見開かれた。

「壮介」

俺の名を呼ぶと、勇太が、笑った。

世界が輝く。
そして、周りにいる人もざわめきも、試合の結果も何もかもが吹っ飛んだ。

勇太しか、見えない。
日差しを浴びてきらきらひかるあいつのまつ毛。
丸みを帯びて紅潮する頬。
会えて嬉しいと全身で伝えてくるあいつの姿を見ると、頭に浮かぶのは一つだけ。

(あー、きれいだなあ。)

俺はいつだって、もう何も言えなくなっちまうんだ。



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