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29 勇太
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「冷たい水でも買ってくるな?陽の当たらないところで休んでろ」
壮介は、オレを岩場の陰に座らせ、急いで水を買いに行ってしまった。
(ああ、情けない)
やさしい声色も気遣うような視線も、嬉しいけど、辛い。そして、そう思う自分も痛い。
自分のものにならないからと、そんなことを考えてしまう自分が情けなかった。
最初から、あいつがノンケだってわかっていたはずなのに。
それに、昨夜、緊張から眠れなかったオレは寝不足と疲労から、すっかり体調が悪くなってしまった。
夏の強すぎる日差しのせい、高過ぎる湿度のせい、でもあった。
でも、
(せっかく遊びに来たのにな・・・)
あの日の痛い失恋からなんとか立ち直り、また、9月からは「親友」として過ごしていこうと思っていた。
今日だけは大切な思い出として、心に残せるようにしたいと思っていたのに。
壮介に彼女がいるという話を聞いてしまったあの日から、修了式までのまるで永遠かとも思える期間、なんとか自分を取り繕い、素知らぬ顔で過ごしていた。でも、心の中では早く夏休みになってほしいとそれだけを願っていた。
・・・壮介と少し距離を置く必要を感じていた。
これ以上側にいたら、いつかは取り乱してしまうのではないか、友達以上の感情を抱いていることを知られるのではないか、と未来への恐怖ばかりが募り、おかしくなってしまいそうだった。
夏休みの間になんとか気持ちの整理をつける。
必ず。
必ず、「親友」に戻る。
ただ、「親友」としてのオレに完全に戻る前に一つだけ、オレの誰にも知られてはならないこの恋の記念のような存在として、「誕生日プレゼント」を送った。
壮介のカバンで揺れるそのキーホルダーは、「オレの恋の思い出」というか「未練」そのもの、のような気もしていたが、やっぱり、物でもいいから何かオレの渡したものを持っていてくれる、側においてくれる、ということはそれだけでも嬉しいことだった。
夏休み中のオレは、バイト以外は特に遊び歩くこともなく、友人からの誘いも断り、家で静かに自分の恋の傷跡を舐めていたように思う。
食欲もないし、特に楽しいこともない。
何もやりたくない。
2人で話し、楽しんだ動画も、見たくない。
2人でやった、ゲームもやりたくない。あんなに楽しかったのに。
本も、テレビも、2人を繋いだものは全て見たくない。
見るだけで涙が溢れてしまいそうだ。
一緒に楽しんだ何かを見れば、すべてが壮介を活き活きと思い出させ、苦しくなるばかりだ。
壮介の笑い顔、授業を聞いている時の真面目な顔、楽しそうな顔、柔道の稽古やトレーニングの時の真剣な顔。
あいつの視線、偶然触れた指先、汗の匂い。
耳に残るあいつの声。
笑いあった日々。
すべてが苦しかった。
すべて、大切な思い出なのに。
そして、絶対消すことはできない大切な思い出だ、という紛れもない事実が、一層オレを苦しめた。
夏休み中、大会の応援に来ないかと誘われたが、彼女といる壮介の姿を見ることが怖くて、とても行けなかった。
壮行会で送り出され、かなり活躍が期待されている選手であることも、もちろん知っていた。
近くで応援したい気持ちはあった。
でも、それよりも、大きな試合だから応援に来るだろう彼女と一緒にいる壮介の姿を見た瞬間に、胸から血が吹き出して、そのまま、倒れ伏してしまうのではないかと恐れた。怖かった。
彼女と壮介がお互いを想い合うように見つめ合う姿を見ることが、怖かった。
想像するだけでも怖いのに、現実をまざまざと、目の前で、まぎれもない生きた証拠として見せられる、という未来を想像しただけで、心臓が石になり、そのまま止まってしまいそうになるほどの痛みを覚える。
本当に死ぬわけじゃないけど、死んでしまいたい、気持ちは分かる・・・
もちろん、そんなことはダメだとわかってる。
でも、このまま消えて失くなりたい。
会いたくてたまらないけど、会うのが怖い。
そんなことばかりを考えて、夏休みの日々は過ぎていった。
でも、壮介から誘ってくれた海にだけは行きたかった。
きっと、それがオレたちの「親友」としての、最初で最後の遠出になることを確信していたからだ。
(楽しもう・・・できるだけ。)
2人で出かける前日。
伸びすぎた髪を切り、壮介に会うための準備を進めながら、そう決めた。
壮介は、オレを岩場の陰に座らせ、急いで水を買いに行ってしまった。
(ああ、情けない)
やさしい声色も気遣うような視線も、嬉しいけど、辛い。そして、そう思う自分も痛い。
自分のものにならないからと、そんなことを考えてしまう自分が情けなかった。
最初から、あいつがノンケだってわかっていたはずなのに。
それに、昨夜、緊張から眠れなかったオレは寝不足と疲労から、すっかり体調が悪くなってしまった。
夏の強すぎる日差しのせい、高過ぎる湿度のせい、でもあった。
でも、
(せっかく遊びに来たのにな・・・)
あの日の痛い失恋からなんとか立ち直り、また、9月からは「親友」として過ごしていこうと思っていた。
今日だけは大切な思い出として、心に残せるようにしたいと思っていたのに。
壮介に彼女がいるという話を聞いてしまったあの日から、修了式までのまるで永遠かとも思える期間、なんとか自分を取り繕い、素知らぬ顔で過ごしていた。でも、心の中では早く夏休みになってほしいとそれだけを願っていた。
・・・壮介と少し距離を置く必要を感じていた。
これ以上側にいたら、いつかは取り乱してしまうのではないか、友達以上の感情を抱いていることを知られるのではないか、と未来への恐怖ばかりが募り、おかしくなってしまいそうだった。
夏休みの間になんとか気持ちの整理をつける。
必ず。
必ず、「親友」に戻る。
ただ、「親友」としてのオレに完全に戻る前に一つだけ、オレの誰にも知られてはならないこの恋の記念のような存在として、「誕生日プレゼント」を送った。
壮介のカバンで揺れるそのキーホルダーは、「オレの恋の思い出」というか「未練」そのもの、のような気もしていたが、やっぱり、物でもいいから何かオレの渡したものを持っていてくれる、側においてくれる、ということはそれだけでも嬉しいことだった。
夏休み中のオレは、バイト以外は特に遊び歩くこともなく、友人からの誘いも断り、家で静かに自分の恋の傷跡を舐めていたように思う。
食欲もないし、特に楽しいこともない。
何もやりたくない。
2人で話し、楽しんだ動画も、見たくない。
2人でやった、ゲームもやりたくない。あんなに楽しかったのに。
本も、テレビも、2人を繋いだものは全て見たくない。
見るだけで涙が溢れてしまいそうだ。
一緒に楽しんだ何かを見れば、すべてが壮介を活き活きと思い出させ、苦しくなるばかりだ。
壮介の笑い顔、授業を聞いている時の真面目な顔、楽しそうな顔、柔道の稽古やトレーニングの時の真剣な顔。
あいつの視線、偶然触れた指先、汗の匂い。
耳に残るあいつの声。
笑いあった日々。
すべてが苦しかった。
すべて、大切な思い出なのに。
そして、絶対消すことはできない大切な思い出だ、という紛れもない事実が、一層オレを苦しめた。
夏休み中、大会の応援に来ないかと誘われたが、彼女といる壮介の姿を見ることが怖くて、とても行けなかった。
壮行会で送り出され、かなり活躍が期待されている選手であることも、もちろん知っていた。
近くで応援したい気持ちはあった。
でも、それよりも、大きな試合だから応援に来るだろう彼女と一緒にいる壮介の姿を見た瞬間に、胸から血が吹き出して、そのまま、倒れ伏してしまうのではないかと恐れた。怖かった。
彼女と壮介がお互いを想い合うように見つめ合う姿を見ることが、怖かった。
想像するだけでも怖いのに、現実をまざまざと、目の前で、まぎれもない生きた証拠として見せられる、という未来を想像しただけで、心臓が石になり、そのまま止まってしまいそうになるほどの痛みを覚える。
本当に死ぬわけじゃないけど、死んでしまいたい、気持ちは分かる・・・
もちろん、そんなことはダメだとわかってる。
でも、このまま消えて失くなりたい。
会いたくてたまらないけど、会うのが怖い。
そんなことばかりを考えて、夏休みの日々は過ぎていった。
でも、壮介から誘ってくれた海にだけは行きたかった。
きっと、それがオレたちの「親友」としての、最初で最後の遠出になることを確信していたからだ。
(楽しもう・・・できるだけ。)
2人で出かける前日。
伸びすぎた髪を切り、壮介に会うための準備を進めながら、そう決めた。
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