上 下
27 / 54

27 壮介

しおりを挟む
朝起きると、少し冷静になっていた。

そう、まだ告ってない。
付き合ってもいない。
付き合ってもらえるのかもわからない。

そもそも、自分の気持ちをはっきりと自覚したばかりだ。
勇太が望まない可能性だってある。その時はきっぱり諦める。・・・できるんだろうか。
まずは、この夏休みを使って少しずつ、距離を詰めていこう。

(大会前だから、稽古やトレーニングが詰まっているが、なんとかなるだろう)

そう決めたものの、人を好きになったことがないから、これ以上、距離をどう詰めていったらいいのかもわからない。

(メッセージをもっと送ってみるとか?どうなんだろう)

意外と難問だった。そもそも十分に友達としては近づいている。
単に人間として、あいつのことが好きだった。一生友達で居られるだろうと思うぐらいには。
でも心は贅沢だ。できれば友達以上になりたい。
俺があいつを思うように、あいつにも好きになってもらいたい。
望みはするものの、そんなことが起こる確率はまさに天文学的な数字だろうとも思う。
ただやっぱり永遠に一緒に居られるわけじゃない。そう考えれば、なんとか今の「オトモダチ」としての距離を少しずつ変えていきたいと思ったんだ。


「夏休み・・・?」

俺は、勇太を誘ってみることにした。
そう、やっぱり交際の基本はデートだろ?

「あー、まあ、1日くらいどこかに行かないか?」

勇太は一瞬困ったような、迷ったような気配を見せたが、

「そうだね。」

と答えた。よっしゃ!

「もし、よければ、大会もあるんだが・・・観に来ないか?」
「え・・・大会・・・うん、そうだね。都合が合うといいな。あとで日程を教えてくれたら、バイトとか家とかに都合を聞いてみるよ」

なぜか、視線が合わない。
もしかしたら、誘ってはいけなかったんだろうか?
なんとなく、取り繕ってはいるが、気乗りしていないようにも見える。

うーん、難しい。いつだって距離を詰めるのは難しい。
遠くから見ていた時も、近くにいる今も、やっぱり同じように難しい。
柔道の試合のように、相手の懐に一瞬で潜り込む、なんてのは夢のまた夢だ。

「まあ、都合が合えば、でいいからな」
「・・・ん・・・」

ちょっと気まずくなった気がしたが、とりあえず、遊びに行く約束は取り付けたからな!
しかも、1日だぞ!?
デ、デートだからな?


夏休み前半はお互い忙しく、あいつはバイト、俺は部活で終わってしまった。
ほぼ、毎日のようにメッセージアプリで簡単なやりとりをしていたが、まあ、それだけ。
でも随分進歩したよな?

お互いの簡単な近況を知らせたり、唯の無駄話をするようなそんなやりとりは、俺の夏休みを充実させてくれた。

俺は8月上旬にある大会のために、毎日必死で稽古とトレーニングを続けたし、忙しすぎて、エロい夢すら見ないほどきつい夏休みだった。
まあ、もちろん、色々と勇太きゅんにはお世話になっていたどな?ほら、俺って一途だからさ。

ただ、なんとなく、俺たちの立ち位置がどうなのか?

(つまり、どっちが突っ込む方で、どっちが突っ込まれる方か?ってことな!)

との疑問にぶつかり悶々としたり、「準備」とやらの与える身体への負担、とかその他諸々(カ、カンチョーとか・・・)を考えると、曖昧な妄想に浸っていた方が、安心なような気もしたし、でも、やっぱり、もし許してもらえるなら、触れてみたいし、と思考は堂々巡りに陥っていた。

俺の大会の日には、どうしてもバイトを休めない、ということで、来てはもらえなかった。
まあ、仕方ない。
みんな予定があるもんな。

(優勝、したんだけどな・・・)

金色のトロフィーが夕日を受けて煌めいているが、なぜか、少し寂しげに見える。
頭でもはわかっていても、優勝の瞬間に立ち会ってもらえなかったこと、俺の気持ちそのもののような気がした。

やっと日程を合わせて一緒に出かけられるようになった時には、お盆過ぎだった。
さらに上部大会があるため、毎日トレーニングと稽古は続けていたが、一日ぐらいいいだろう。
そう思えば、一層トレーニングに力が入った。

そう、もうすぐ、会える。
やっと、会える。

2人で出かけることができるんだ!
俺の中では「初デート♡」だからな?
楽しみだなぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

始まりの、バレンタイン

茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて…… 他サイトにも公開しています

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル
BL
(2024.6.19 完結) 両親と離れ一人孤独だった慶太。 容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。 高校で出会った彼等は惹かれあう。 「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」 甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。 そんな恋物語。 浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。 *1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】終わりとはじまりの間

ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。 プロローグ的なお話として完結しました。 一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。 別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、 桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。 この先があるのか、それとも……。 こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。

処理中です...