上 下
21 / 54

21 勇太

しおりを挟む
やった!やった!友達になれるかもしれない!

嬉しくて、下がっていた気持ちがまるで一斉に舞い上がるシャボン玉のように浮かび上がってくる。
降るように舞い散る桜の木の下で浮かれて、風に舞い上がる桜の花びらとともに、空に飛んで行ってしまいそうだ。
そんな喜びの中、神頼みの効果があったのかもしれないとうっすら思った。


同じクラスになってみると、富山くんはすごく気が合う相手だということが分かった。
不思議なぐらい気が合う。
あっという間にお互いを、壮介、勇太と呼び合うようになった。

別に同じ本を偶然読んでた、とかそんなテンプレじゃない。

共通する部分がなくても、壮介といるだけで、楽しい。そして、幸せな気分だった。

ゲームを一緒にプレイすれば、何倍も楽しくなる。
好きな動画サイトが同じで、驚いたこともあった。
こんな本読んだ、と聞いて借りてみれば面白い。
こんな番組が面白い、と紹介すれば楽しんでくれる。

時々合わないことがあっても、ああ、そういう考え方もあるのか、と妙に納得できた。

壮介はあまり喋らない。口が重いタイプっていうのかな?
でも、いつだって一番大切なことを言ってくれた。
オレの心を救ってくれるような一言だったり、人として忘れてはならないような大切な言葉だったり。

知れば知るほど、惹かれていく。

そして、何よりも、お互いに一緒にいて心地よい相手だった。


だから、オレはこれまで以上に、絶対にオレの気持ちを悟られないように、油断しないようにと気を引き締めていたんだ。
これだけ気が合えば、今だけじゃなくて、卒業してからもずっと友達で居られるかもしれない、

まるで願いのように、そう思っていたんだ。


そんな穏やかな日々が続く中、あの修了式前日にバケツの水をかけようとしてきたストーカーが、事件以来全く近寄って来ていないことに気がついた。

(もしかして諦めたのか?・・・だといいけど・・・)

年が明けて早々に、一度、遠くからの視線を感じて振り返ったが、オレが振り返ると、怯えたような様子で踵を返し、そのまま走り去っていった。
それ以来、全く接触されることがなくなった。
もちろん、接触されることを望んでいたわけではないので、ストーカーことすら気がつかなかった。
奴のことを考えたくもなかったことも、その理由の一つかもしれない。
そして、ストーカーが諦めてくれたのではないか、という微かな期待は、春が過ぎて、夏の日差しを感じ始める季節になると、淡い期待から確信に、少しずつ変わっていった。


そういえば、男から告白をされたり、いきなり触られそうになったり、ましてやトイレで覗き込まれるような虫酸が走る行為も、年が明けてから、少しずつ減っていったように思う。
根拠はなかったが、もしかして、少なくとも4月以降は壮介が睨みを聞かせてくれているのではないかと、ふと気がついた。

___________________________

お読みいただきまして、ありがとうございました。
少しでもお楽しみいただけたら、幸いです。

お気に入りに入れていただいた方が50名様になりました。(※1は私が管理用に入れています)
いつも、ありがとうございます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

始まりの、バレンタイン

茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて…… 他サイトにも公開しています

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル
BL
(2024.6.19 完結) 両親と離れ一人孤独だった慶太。 容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。 高校で出会った彼等は惹かれあう。 「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」 甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。 そんな恋物語。 浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。 *1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】終わりとはじまりの間

ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。 プロローグ的なお話として完結しました。 一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。 別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、 桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。 この先があるのか、それとも……。 こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。

処理中です...