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9 壮介

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「!!!!!」

思わず、反射的に布団をひっかぶって丸まった。
漫画だったら目玉ビヨーンの瞬間だぞ?

俺の心臓は激しい動悸で発作寸前だ。
目も、耳も、それどころか全部の神経がドアに向かって全集中だ。
でもヘタレな俺、頭から布団を被って身動き取れない・・・

「あの・・・今日、熱出して学校休んだって聞いたんで・・・これ、何が好きか分からなかったから、少しだけど、お見舞い・・・」

ビニール袋のカサカサと鳴る音が聞こえる。

「あと、プリントとかも担任から預かってきた。流石に通知表は後日郵送か受け取りに来てほしいって」

姫の声が聞こえる。
俺よりも少し高い、遠慮がちな声。
友達じゃないから、距離をとってるのかな。

それとも、俺がカメみたいに布団を被ってるせいか?
気にしてるとか?ああああ、でも、でも恥ずかしい。
穢れた妄想ばかりしてごめんなさい。
すみません、すみません・・・
「ちょっと、壮介、布団から顔ぐらい出しなさいよ。」

姉貴が俺の布団を剥がそうとしてくるので、必死で上掛けを握りしめる。

「いえ。体調悪いところ、すみませんでした。すぐ帰りますから。」

え。帰っちゃうの?もう?
は、早すぎじゃない?
ちょっと、待ってくれ、今、勇気をチャージ中なんだ。
あ、あと10カウント。10、9、8・・・
布団の隙間からそっと覗き見ると、スリッパを履いた足先が、ドアに向かって向きを変えようとしているところだった。
 
「いや、その!」

俺はガバリと起き上がった。
 
「違うから!白石のせいとかじゃないからな」

勇太の大きな目と俺の目が合った。
その目はまん丸に見開かれ、相当驚いているようだ。

「いや、本当に、たまたま、というか、昨日の練習後に濡れた道着のまま走って帰ったのも悪かったし、他にもまあ・・・いろいろな。」

詳しくは聞かないでくれ。
 
「そっか」勇太の表情が緩んだ。「富山くん、優しいんだな。ありがと」
 
まるで花が咲いたよう。微笑みが勇太の顔いっぱいに広がった。
また、どこかからカチリという音が聞こえる。

か、か、か、かわいすぎる・・・・・!!!!
でもそれ以上に心臓は激しくドラムを打ち鳴らし、近所中に響き渡っているのではないかと思えるほどの騒音が入り乱れていた。こ、これって年末の歌合戦で裸でドラム叩いてた・・・えっと、えっと・・・誰だっけ?
ロッカーの絶叫とドラムが激しく響き渡る。
うぎゃーーー!!

ちょっと待て!

そんなことより!

これは直視して良いものなのか?目が潰れるとか、天罰くらうとか?
もしかしてガラスケースに入れて博物館とかに飾っておくべきものなんじゃないのか?
それとも拝観料とか、投げ銭とか?どこに納めれば良いんだ?
スパチャ?
いや、違うスマホで撮影して待ち受けにするとか、いろいろあるだろ、俺!!!
俺の頭は大混乱のまま、呆然と勇太の顔を見つめた。

勇太がそっと俺に近づいた。

「まだ、熱あるんじゃない?顔赤いよ」
 
勇太の声に我に返る。めちゃくちゃ綺麗な顔が目の前にあった。やばい。

「いや、まあ、その・・・まあ少し」

まさか、姫の笑顔に赤面していたとは言えない。俺はもういちどごそごそと布団に潜り込んだ。
ドラマーには大人しくお帰りいただこう。 

「せっかく来てくれたんだから、どうぞ、お掛け下さいな」

姉貴が自分の部屋から折りたたみ式のスツールを持ってきて勇太に勧めている。

いたのか。
いや、珍しくグッジョブだ姉貴。

「じゃあ少しだけ・・・」と言って、勇太がスツールに浅く腰かけた。

「今、お茶をお持ちしますから、ごゆっくり」
姉貴がニヨニヨと俺の顔を見ながら部屋を出て行った。

相変わらずウザいが、姉貴を睨みつけながら心でいいね!と親指を立てた俺の顔は、なんとも情けなかったに違いない。
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