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2 壮介

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白石勇太は可愛い。

165センチの男にしては小柄で華奢な身体。白い肌に大きなアーモンドアイ。
ふわふわの癖っ毛。その毛先に陽が当たると、キラキラ光る。
ついたあだ名が「姫」

でも負けず嫌い。結構、強い。

男子校だから勇太を女扱いしようとする勘違いヤローもいたけど、みんな秒で床に沈められた。

女の子にしか見えないほど可愛い顔にカラッとした性格。
本人が嫌がるからみんな表には出さないが、狙っているやつは何人もいる。


俺もその一人だ。

 
「めっちゃくそ可愛い子がいる」
騒ぎ出したのは誰だったか。
入学式ではすでに可愛い子がいると一部のヤローどもが騒いでいたが、かわいいって言ってもどうせ男だろ、と気にも留めていなかった。その騒ぎは治まることなく、あれぞ男子校の姫だと熱弁を振るう声が、聞きたくなくても耳に入ってきた。学年を超えて見物に来る奴さえいるらしい。

(でもなー、ちょっと可愛かろうが男だろ?おんなじもん付いてるし、まあ姉貴みたいなうるさい女はお断りだが、女にはおっぱいあるしな。優しくてふわふわしてて良い匂いのする女の子は男の夢だろう?)

って思うよな?フツー。

そう思っていた俺が、勇太を初めて見たのは、忘れもしない、1年の4月20日だ。
職員室に向かう途中での出来事だった。

(ったく程のいいパシリだな)

とはいえ、新入部員の俺は顧問には逆らえない。
顧問が担当する教科の配布物を各教室に届けている途中、突然大きな声が聞こえてきた。

「やめろ!俺は男だ!」

どん。
大きな鈍い音。
誰かが尻餅でもついたのか?
ざわつく空気。
覗き込むと、一組の廊下の前で仁王立ちになっている男とその前で尻餅をついている男がいた。
そしてその周りにはたくさんの野次馬たち。

「なんでオレがお前と二人で遊園地に行くんだよ!おかしいだろ!」
 
細身の後ろ姿に、少し茶色がかった髪。
その肩に入った力から、そいつが怒っていることがわかる。
目の前の男は尻餅をつき、膝をたてた状態で、呆然と相手を見上げている。
まさか、そんなことになるとは思わなかった、と顔に書いてある。
行き違いか?でも遊園地?二人で行く?
でも、まあ、ダチでもないのに一緒には行かんだろ。
姫の反応からは一目瞭然だしな?

「お、おいやめろよ」
慌てて飛んできた一組の委員長が、仁王立ちの男の後ろから取り成すように声をかけた。
その男が振り返った瞬間。誰だかわかった。
こいつが「姫」だ。まちがいない。

「お前たち、まだ4月なのに喧嘩なんかするなよ。なっ」
ちょっと焦ったように、必死で取り成す委員長に、「オレは喧嘩なんてしていない」と姫が言い張った。
「ただオレは女じゃないし、女の代わりに遊園地になんて行かないって何回も言ってる」
「遊園地・・・?」委員長が困ったような顔で二人を見比べた。

「しかもな」姫の目がつり上がった。
「トイレまで付いてくんなよ。いい加減にしろよな、お前」

しーん・・・

その場にいた全員の空気が固まった。
トイレまで付け回して、遊園地に誘うヤツって・・・

姫はその場の空気を断ち切るように勢いよく教室に入り、ドアをぴしゃりと閉めた。 

「・・・男二人で遊園地・・・」
「友達でって意味じゃないってことだよな・・・」
「GW前だからな」
「姫はなかなか手強いね」
「トイレについてくって・・・」
「きも」
「うらやましい」

外野たちは好き勝手に感想を言い合っている。
配布物を届けに教室に入ると、窓際に座る姫の姿が見えた。
あえて廊下を見ないようにそっぽを向いている。

教卓の近くからは、肘をついて頬杖をつく白いシャツと髪の毛しか見えない。

でも、その癖のある髪は陽の光を受けて毛先が金色に輝いている。
窓から入る風を受け、毛先が踊るように輝き、姫が顔を上げ、心地よさげに目を細める姿が見えた。

その瞬間。

俺の中で何かがカチッと音を立てたんだ。




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