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天動地蛇の円環(クリカエス セカイ) 第22857章 波動の霊剣アポロバ
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その日、輝久はクローゼと二人、ソブラの大通り端にある倉庫内にいた。明日の武芸大会で使う、花飾りの作成を任されたのだ。
「あーーーっ! アタシ苦手だ、こういうの!」
小一時間ほど作業して、クローゼは作りかけの花飾りをほっぽり出し、大の字で寝っ転がった。輝久はおかしくなって笑う。
「俺も苦手だよ。やっぱ、ネィムに任せた方が良かったんじゃないかな?」
「ま、そりゃそうなんだけどよ」
薄暗くて物音が聞こえない倉庫の中、クローゼは四つん這いになって輝久に近付く。
「……テルと二人きりに、なりたかったんだよ」
「く、クローゼ?」
「なぁなぁ。せっかくだからさあ。もうちょっと楽しいことしねえ?」
にやりと笑うと、少し吐息を荒くしてクローゼは輝久の耳元で囁いた。
「口付けってしたことあるか?」
「い、いや、あの……!」
「してみようぜ」
クローゼの顔が迫る。その時、倉庫の扉が重い音を立てて開かれた。
「わわっ!」と輝久とクローゼは慌てて同時に離れた。扉の付近に、懐中時計のような物を持った男が佇んでいる。
「ひははは。呑気に乳繰り合ってんなあ」
クローゼの赤面は、男の持っている剣が血に濡れていることに気付いた途端、引き締まった。
覇王サムルトーザは平然と言う。
「この町で生き残ってんのは、お前らだけだぜ。外、出てみろよ」
輝久は男が何を言っているのか理解できない。立ち去るサムルトーザの後を追うように、輝久とクローゼは倉庫の外に出た。
「こ、こんな……!」
愕然として輝久は呟く。扉の外は、まさに地獄絵図。ソブラの大通りは無数の死体で溢れかえっていた。心臓、頭部……老若男女、皆、急所に剣が突き刺さって絶命している。
楽しげに周囲を見渡すサムルトーザに、クローゼは震え声で問う。
「あ、兄貴は……!?」
「二度も言わすな。生き残ってんのはお前らだけだ、って言ったろ」
輝久は呼吸を荒くする。男の言葉が本当なら、ユアン、ネィムも殺されたということである。もちろん、ティアも。
「嘘吐くんじゃねえっ!! 兄貴が簡単にやられる筈がねえ!!」
叫ぶクローゼ。だが、サムルトーザは無視するかのように、輝久に視線を向けた。
「女神の殺害は完了した。お前は逃がしてやるよ」
にやりと笑う。輝久が動揺していると、クローゼも無理矢理のような笑顔を繕った。
「テル。行きな」
「クローゼ?」
「ネィムも女神も兄貴も、きっと無事だ! 先に行って確認してきてくれよ!」
今、輝久の心は恐怖で満たされていた。サムルトーザから発せられる邪悪なオーラは、奴が言っていることが真実であると輝久に告げている。そう。女神も仲間も、町の人も、全てサムルトーザに殺された……!
逃げ出したい。だが、ここで自分が逃げれば、間違いなくクローゼも殺される。
「イヤだ……逃げたくない……!」
魂の奥から振り絞るような輝久の言葉に、クローゼが驚いて目を見開く。サムルトーザは、憤怒の表情でこめかみを痙攣させた。
「逃げずに俺と戦うってのか。てめえみてえな虫ケラが!」
邪気がより一層、拡散されたように周囲に広がる。輝久は気持ちだけでもサムルトーザに負けじと、剣を抜いて前に進もうとするが、
「無理すんなって。下がってろ、テル」
クローゼが立ちはだかって、輝久を片手で押しのけた。クローゼの方が力が強く、輝久はよろめく。クローゼは振り返って微笑んだ。
「ガーディアンの使命だからよ! テルはアタシが守る!」
サムルトーザが「フン」と鼻を鳴らす。そして、闘技場の背後に沈みゆく夕日を顎でしゃくった。
「どの道、誰も生かすつもりはなかったが……女ァ。ガーディアンと言ったな。あの太陽が消えるまでお前が持ち堪えられたら、勇者だけは本当に見逃してやる」
輝久とクローゼは視線を赤い太陽に向ける。円形闘技場の上部――すり鉢状の観客席に半分隠れるようにして、太陽は沈みかけていた。サムルトーザが笑う。
「なぁに。厠に行って戻ってくるくれえの短い時間だ」
「上等だ、このクソ野郎!」
クローゼが大剣を抜いて構える。サムルトーザもまた、腕を背に伸ばす。そして背の鞘から一本の剣を引き抜いた。
それは奇妙な剣だった。刀身が、ぼんやりと霞んでいて視認できない。
対峙するクローゼとサムルトーザを見て、輝久の心の中は不吉な予感で満たされていた。ダメだ! 戦えば、きっとクローゼは殺される!
「クローゼ! 逃げてくれ!」
居ても立ってもいられずに叫ぶと、クローゼはニカッと笑う。
「大丈夫だ、テル」
「アイツは危険だ! このままじゃ、」
殺される――その言葉を言えば、現実になってしまいそうで逡巡する輝久。クローゼは全てを悟ったような諦観の表情を見せる。
「いいんだよ」
「いいって、何が!?」
「ガーディアンの使命だからってんじゃなくてさ。上手く言えねえけど、初めて見た時から気になってたんだ。一目惚れってやつかなあ。だからテルを守れて死ぬんならアタシ、嬉しいんだよ」
サムルトーザが「フン」と鼻を鳴らす。
「覚悟はできてるみてえだな。それじゃあ、味わってくれよ。波動の霊剣アポロバの威力を」
そしてサムルトーザは、刀身が霞む剣を後ろに引くようにして構えた。
「邪技の肆!『気先』!」
刹那、眼前の空間を演舞のようにして切り裂く。
空白の如き、一瞬の沈黙。やがて、ポトポトと何かが連続して地面に落ちる音がした。
「な……っ?」
クローゼが驚愕の言葉を発する。輝久はそんなクローゼを見て――絶句する。クローゼの左手の指が全て無くなっていた。
クローゼは呼吸を乱しながら、斬られた左手を見詰める。指一本一本の傷口の断面が見えているが、不思議なことに出血はない。クローゼが呻く。
「い、一体……いつ斬りやがった……?」
「ひははは」と嗤いながら、サムルトーザはまたも眼前の空間を切り裂いた。少し遅れて、今度はクローゼの左手の肘から先が、血液の噴出なく、切り飛ばされて落下する。ぜぇぜぇと呼吸を荒くしつつ、クローゼは周囲を窺った。
「ど、何処から、攻撃が来やがるんだ……?」
「ひひははは! てめえの理解をこえる不可視の斬撃! これ以上ない恐怖と屈辱だろ!」
サムルトーザを睨み付けるクローゼに輝久は懇願する。
「クローゼ! お願いだ! 逃げてくれ!」
左腕を無くしても、クローゼは輝久をかばうようにサムルトーザとの間に立ち塞がり、大剣を右手で盾のように構えた。
「テルこそ逃げてくれよ。あの野郎の言うことは全く信用できねえ。もしアタシが日没まで耐えても、きっとテルを襲う」
「クローゼが逃げないなら俺も逃げない!」
「バカ野郎!! 早く行けって言ってんだろ!!」
クローゼが輝久に初めて見せた、憤怒の表情と怒号。それでも輝久は引かずに声を振り絞る。
「イヤだ……! 仲間は絶対に見捨てない……!」
自分で言いながら、輝久は不思議に思う。クローゼにユアン、ネィムと会ってから、たいした日にちは経っていない。それでもまるで長い時を一緒に過ごした家族のように輝久は感じていた。
目に涙をいっぱいに溜めて、クローゼは言う。
「何で……逃げねえんだよ。ばか……」
その瞬間、クローゼは体勢を崩した。サムルトーザの見えない斬撃により、クローゼの右足首が切り飛ばされた。
「クローゼ!」
輝久は動けなくなったクローゼの前に駆けつけると、逆にかばうように両手を広げた。だが「ぐあっ」とクローゼが叫ぶ。振り返ると、グリップに右手の指が残ったままの大剣が地に落ちている。更に、右腕の肘から先も弾け飛ぶ。
「もう片方の足もいっとくか」
左足首も切り飛ばされ、クローゼは完全に行動不能となって地面に這いつくばった。
「やめろ……もう、やめてくれ……」
サムルトーザに対して、懇願するように輝久は言う。それでもサムルトーザは、霊剣アポロバを縦横無尽に振るった。まるで、立ち塞がる輝久の体を刃が透過するように、背後のクローゼが切り刻まれていく。
「おいおい。まだ太陽は沈んでねえぞ?」
サムルトーザが言った。もはや、背後からは、クローゼの声も呼吸も聞こえなかった。
恐ろしい予感が輝久の全身に纏わり付く。輝久はゆっくりと背後を振り返る。
「ああ……ああああああああ!!」
輝久は絶叫した。クローゼの首が胴体から離れて、地面を転がっていた。
「クローゼ! クローゼ!」
跪いて泣き叫ぶ輝久を、サムルトーザはつまらないものを見るような目で眺めていた。
「女一人、守れずに泣いてやがる。贄の勇者とは、よく言ったもんだ。てめえはゴミ以下の塵芥だな」
サムルトーザはクローゼの生首を、髪の毛を掴んで拾うと、輝久の目前で掲げて見せた。
「なぁ。お前ら、相思相愛だったんだろ? さっき、口付けしようとしてたもんなあ?」
サムルトーザはクローゼの頭部を、嗚咽の止まらない輝久の顔に押しつける。
「最後に口付けしてやれよ?」
そして、クローゼの頭部を鈍器のように輝久の顔面に叩き付けた。
「オラオラ! しっかり、口吸ってやれよ!」
ゴッ、ゴッと。骨と骨のぶつかる鈍い音が響く。サムルトーザはクローゼの頭部で輝久の顔面を殴打し続けた。
暴虐の覇王の凄まじい膂力で、クローゼの歯が飛び散り、鼻骨が折れ、両目が潰れる。無論、輝久の顔面もひしゃげて陥没したが、痛覚は既に麻痺していた。自分のことより、美しいクローゼの顔が壊されていく方が輝久は辛かった。
やがて、輝久の両目も潰れて何も見えなくなる。輝久の意識が薄れていく。
「クローゼ……俺も……すぐに行く……から……」
「ひはは! ひひひははははははははは!」
輝久のか細い声は、サムルトーザの嘲笑に掻き消された。
「あーーーっ! アタシ苦手だ、こういうの!」
小一時間ほど作業して、クローゼは作りかけの花飾りをほっぽり出し、大の字で寝っ転がった。輝久はおかしくなって笑う。
「俺も苦手だよ。やっぱ、ネィムに任せた方が良かったんじゃないかな?」
「ま、そりゃそうなんだけどよ」
薄暗くて物音が聞こえない倉庫の中、クローゼは四つん這いになって輝久に近付く。
「……テルと二人きりに、なりたかったんだよ」
「く、クローゼ?」
「なぁなぁ。せっかくだからさあ。もうちょっと楽しいことしねえ?」
にやりと笑うと、少し吐息を荒くしてクローゼは輝久の耳元で囁いた。
「口付けってしたことあるか?」
「い、いや、あの……!」
「してみようぜ」
クローゼの顔が迫る。その時、倉庫の扉が重い音を立てて開かれた。
「わわっ!」と輝久とクローゼは慌てて同時に離れた。扉の付近に、懐中時計のような物を持った男が佇んでいる。
「ひははは。呑気に乳繰り合ってんなあ」
クローゼの赤面は、男の持っている剣が血に濡れていることに気付いた途端、引き締まった。
覇王サムルトーザは平然と言う。
「この町で生き残ってんのは、お前らだけだぜ。外、出てみろよ」
輝久は男が何を言っているのか理解できない。立ち去るサムルトーザの後を追うように、輝久とクローゼは倉庫の外に出た。
「こ、こんな……!」
愕然として輝久は呟く。扉の外は、まさに地獄絵図。ソブラの大通りは無数の死体で溢れかえっていた。心臓、頭部……老若男女、皆、急所に剣が突き刺さって絶命している。
楽しげに周囲を見渡すサムルトーザに、クローゼは震え声で問う。
「あ、兄貴は……!?」
「二度も言わすな。生き残ってんのはお前らだけだ、って言ったろ」
輝久は呼吸を荒くする。男の言葉が本当なら、ユアン、ネィムも殺されたということである。もちろん、ティアも。
「嘘吐くんじゃねえっ!! 兄貴が簡単にやられる筈がねえ!!」
叫ぶクローゼ。だが、サムルトーザは無視するかのように、輝久に視線を向けた。
「女神の殺害は完了した。お前は逃がしてやるよ」
にやりと笑う。輝久が動揺していると、クローゼも無理矢理のような笑顔を繕った。
「テル。行きな」
「クローゼ?」
「ネィムも女神も兄貴も、きっと無事だ! 先に行って確認してきてくれよ!」
今、輝久の心は恐怖で満たされていた。サムルトーザから発せられる邪悪なオーラは、奴が言っていることが真実であると輝久に告げている。そう。女神も仲間も、町の人も、全てサムルトーザに殺された……!
逃げ出したい。だが、ここで自分が逃げれば、間違いなくクローゼも殺される。
「イヤだ……逃げたくない……!」
魂の奥から振り絞るような輝久の言葉に、クローゼが驚いて目を見開く。サムルトーザは、憤怒の表情でこめかみを痙攣させた。
「逃げずに俺と戦うってのか。てめえみてえな虫ケラが!」
邪気がより一層、拡散されたように周囲に広がる。輝久は気持ちだけでもサムルトーザに負けじと、剣を抜いて前に進もうとするが、
「無理すんなって。下がってろ、テル」
クローゼが立ちはだかって、輝久を片手で押しのけた。クローゼの方が力が強く、輝久はよろめく。クローゼは振り返って微笑んだ。
「ガーディアンの使命だからよ! テルはアタシが守る!」
サムルトーザが「フン」と鼻を鳴らす。そして、闘技場の背後に沈みゆく夕日を顎でしゃくった。
「どの道、誰も生かすつもりはなかったが……女ァ。ガーディアンと言ったな。あの太陽が消えるまでお前が持ち堪えられたら、勇者だけは本当に見逃してやる」
輝久とクローゼは視線を赤い太陽に向ける。円形闘技場の上部――すり鉢状の観客席に半分隠れるようにして、太陽は沈みかけていた。サムルトーザが笑う。
「なぁに。厠に行って戻ってくるくれえの短い時間だ」
「上等だ、このクソ野郎!」
クローゼが大剣を抜いて構える。サムルトーザもまた、腕を背に伸ばす。そして背の鞘から一本の剣を引き抜いた。
それは奇妙な剣だった。刀身が、ぼんやりと霞んでいて視認できない。
対峙するクローゼとサムルトーザを見て、輝久の心の中は不吉な予感で満たされていた。ダメだ! 戦えば、きっとクローゼは殺される!
「クローゼ! 逃げてくれ!」
居ても立ってもいられずに叫ぶと、クローゼはニカッと笑う。
「大丈夫だ、テル」
「アイツは危険だ! このままじゃ、」
殺される――その言葉を言えば、現実になってしまいそうで逡巡する輝久。クローゼは全てを悟ったような諦観の表情を見せる。
「いいんだよ」
「いいって、何が!?」
「ガーディアンの使命だからってんじゃなくてさ。上手く言えねえけど、初めて見た時から気になってたんだ。一目惚れってやつかなあ。だからテルを守れて死ぬんならアタシ、嬉しいんだよ」
サムルトーザが「フン」と鼻を鳴らす。
「覚悟はできてるみてえだな。それじゃあ、味わってくれよ。波動の霊剣アポロバの威力を」
そしてサムルトーザは、刀身が霞む剣を後ろに引くようにして構えた。
「邪技の肆!『気先』!」
刹那、眼前の空間を演舞のようにして切り裂く。
空白の如き、一瞬の沈黙。やがて、ポトポトと何かが連続して地面に落ちる音がした。
「な……っ?」
クローゼが驚愕の言葉を発する。輝久はそんなクローゼを見て――絶句する。クローゼの左手の指が全て無くなっていた。
クローゼは呼吸を乱しながら、斬られた左手を見詰める。指一本一本の傷口の断面が見えているが、不思議なことに出血はない。クローゼが呻く。
「い、一体……いつ斬りやがった……?」
「ひははは」と嗤いながら、サムルトーザはまたも眼前の空間を切り裂いた。少し遅れて、今度はクローゼの左手の肘から先が、血液の噴出なく、切り飛ばされて落下する。ぜぇぜぇと呼吸を荒くしつつ、クローゼは周囲を窺った。
「ど、何処から、攻撃が来やがるんだ……?」
「ひひははは! てめえの理解をこえる不可視の斬撃! これ以上ない恐怖と屈辱だろ!」
サムルトーザを睨み付けるクローゼに輝久は懇願する。
「クローゼ! お願いだ! 逃げてくれ!」
左腕を無くしても、クローゼは輝久をかばうようにサムルトーザとの間に立ち塞がり、大剣を右手で盾のように構えた。
「テルこそ逃げてくれよ。あの野郎の言うことは全く信用できねえ。もしアタシが日没まで耐えても、きっとテルを襲う」
「クローゼが逃げないなら俺も逃げない!」
「バカ野郎!! 早く行けって言ってんだろ!!」
クローゼが輝久に初めて見せた、憤怒の表情と怒号。それでも輝久は引かずに声を振り絞る。
「イヤだ……! 仲間は絶対に見捨てない……!」
自分で言いながら、輝久は不思議に思う。クローゼにユアン、ネィムと会ってから、たいした日にちは経っていない。それでもまるで長い時を一緒に過ごした家族のように輝久は感じていた。
目に涙をいっぱいに溜めて、クローゼは言う。
「何で……逃げねえんだよ。ばか……」
その瞬間、クローゼは体勢を崩した。サムルトーザの見えない斬撃により、クローゼの右足首が切り飛ばされた。
「クローゼ!」
輝久は動けなくなったクローゼの前に駆けつけると、逆にかばうように両手を広げた。だが「ぐあっ」とクローゼが叫ぶ。振り返ると、グリップに右手の指が残ったままの大剣が地に落ちている。更に、右腕の肘から先も弾け飛ぶ。
「もう片方の足もいっとくか」
左足首も切り飛ばされ、クローゼは完全に行動不能となって地面に這いつくばった。
「やめろ……もう、やめてくれ……」
サムルトーザに対して、懇願するように輝久は言う。それでもサムルトーザは、霊剣アポロバを縦横無尽に振るった。まるで、立ち塞がる輝久の体を刃が透過するように、背後のクローゼが切り刻まれていく。
「おいおい。まだ太陽は沈んでねえぞ?」
サムルトーザが言った。もはや、背後からは、クローゼの声も呼吸も聞こえなかった。
恐ろしい予感が輝久の全身に纏わり付く。輝久はゆっくりと背後を振り返る。
「ああ……ああああああああ!!」
輝久は絶叫した。クローゼの首が胴体から離れて、地面を転がっていた。
「クローゼ! クローゼ!」
跪いて泣き叫ぶ輝久を、サムルトーザはつまらないものを見るような目で眺めていた。
「女一人、守れずに泣いてやがる。贄の勇者とは、よく言ったもんだ。てめえはゴミ以下の塵芥だな」
サムルトーザはクローゼの生首を、髪の毛を掴んで拾うと、輝久の目前で掲げて見せた。
「なぁ。お前ら、相思相愛だったんだろ? さっき、口付けしようとしてたもんなあ?」
サムルトーザはクローゼの頭部を、嗚咽の止まらない輝久の顔に押しつける。
「最後に口付けしてやれよ?」
そして、クローゼの頭部を鈍器のように輝久の顔面に叩き付けた。
「オラオラ! しっかり、口吸ってやれよ!」
ゴッ、ゴッと。骨と骨のぶつかる鈍い音が響く。サムルトーザはクローゼの頭部で輝久の顔面を殴打し続けた。
暴虐の覇王の凄まじい膂力で、クローゼの歯が飛び散り、鼻骨が折れ、両目が潰れる。無論、輝久の顔面もひしゃげて陥没したが、痛覚は既に麻痺していた。自分のことより、美しいクローゼの顔が壊されていく方が輝久は辛かった。
やがて、輝久の両目も潰れて何も見えなくなる。輝久の意識が薄れていく。
「クローゼ……俺も……すぐに行く……から……」
「ひはは! ひひひははははははははは!」
輝久のか細い声は、サムルトーザの嘲笑に掻き消された。
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