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Day 8 【激しい雨が】

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「それよりも、続々と黒い塊が帝国側の先端に集まって来てない?」
「そうだな、衛星だとこれで解像度精一杯だから勇者とかわかんねーな?」

 透がそう話していると、エルフの一人が、口を開いた。

「我々のワイバーン隊を偵察に行かせましょうか?」

 それについて女王は、

「我々は中立なのです、あまり人を出す訳にはいかないでしょう」
「うむ、そうでござるなー、エルフに被害が出るとそれこそ新たな火種になってしまうでござるな」

 アリエルは母の言葉にそう補足して話すから

「じゃあさあ、うちらで行こうよ、透の飛行機あるじゃん、あれで上から偵察しましょうよ!」
「輸送艇な、それしか確認する方法ないよな、一回行ってみるか。ござるさんと、くっころさんは待っててくれよ、ユイはどうする?」
「私も行きますです。トールさんの行くとこなら何処までもついて行けとおとさんに言われてるです」
「ユイちゃんかーい~わ」
「それ俺のセリフ! んじゃ俺ら三人とアリス、ナインで行ってくるわ。くっころさんは国王様に状況報告と向こうの様子を聞いてもらえるとありがてえ」
「わかった、後ほどトールに報告しよう」

 そして、透達は会議場を後にし、広場へと戻り輸送艇に乗り込む。

「よっしゃ、んじゃ行ってみます?」
「そうね、誰か知ってる人だと大変よね」
「んだな、よし離陸する!」

 輸送艇が光り輝きナノエンジンが動き出す。ギューンという音とともに上昇を始める。

「いい眺めなのです」

〈そうでありんすな〉

「そういえばさ、ナイン! 魔法を防御できる何かってあるよな?」

〈防御魔法はあるでありんす、マジックシールドでありんす〉

「この輸送艇、逃げるの遅いから、防御できないとやばいぜ」

「えーそうなの? 危ないじゃない!」
「これは、亜空間移動用の飛行機だから通常飛行は苦手なの」

『そうですね、世界000は亜空間移動が可能になったので飛行機で飛んでいく必要が無くなったのです』

「まあ、危なくなったら亜空間に逃げるから大丈夫だよ」
「そういう事なら行きましょ、早くしないと止められなくなるわ」
「よし、亜空間ドライブ起動!」

『起動します。座標セット完了、亜空間現出!』

 空間がひび割れ中心が広がっていくと共に飛行艇がその穴に消えていく。

 数秒後、西大森林中央の上空にヒビが入り拡がった亀裂から飛行艇が現れる。

『亜空間転移完了、亜空間消失します』

 アリスの声で皆、我に返る。

「ホントあっという間に着いちゃうわね。ワープよねこれって」
「星間移動は詳しい座標とかなりのナノマシンズがないと無理だけどな」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 リオン側の砦付近で、自走ロケット砲を設置している人たちの中に首相がいた。国のトップ自ら最前線で指揮をとっていたのだ。
 その首相は森の上空が光ったのを確認すると、持っていた双眼鏡で、そのあたりを観察する。

「あれは、亜空間? 302か? なぜ?」

 リオン資本主義連合国首相マクシミリアン・レッドヘッド赤毛・ピクゼンは、そう呟いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 一方、大森林上空の透達は飛行艇でクルーエル帝国の様子を偵察する。

「これってバレるんじゃない?」

 桜がそう聞くと、透は、

「亜空間から出た時に一応光学迷彩を起動したぞ、多分大丈夫だ」

 そう言って飛行艇下部カメラを起動する。コックピットのモニターに帝国の砦が映し出される。

「あれだな、魔導鎧ってやつだな、この前の盗賊と一緒だ」

「なのです」
「確かに黒いわ、あでもあそこ! 赤いのがいるわよ!」
「ん? あ、たしかに赤いな、赤いやつがいるな」
「いわゆる専用ね、彗星ね」
「ちょいちょいガン○厶ネタ入れるな! ガノタなのかね?」
「何それ?」

 桜のツッコミを無視し、透はカメラの倍率を調整する。

「ヘルムで顔見えねーな、なんか変な首飾りしてっけどなんだろな?」
「あれは! 隷属の首輪なのです! 呪いにかけられて従わされてるのです!」

 ユイはそう叫んだ。何人もの仲間が捕らえられた忌々しい首輪を間違えることはなかった。

「そっかー、と言う事はあれが勇者かもしれないな、ナイン! あの首輪って外す事できないか?」

〈外す事はできるでありんすが、あれは魔法ではなく呪いでありんす、つけた者が外さないとすぐに死んでしまうでありんす〉

「まじかー! ただ外すだけじゃだめかよー、どうすっペ」
「一回連れてきちゃえばいいんじゃない?」

〈つけた者から一定の距離を離れても死ぬでありんす〉

「そうなの? じゃあ無理ね、困ったわねこれだけ人がいたら誰がつけたのかわからないわ」
「んだなー、ていうかどんどん集まってるぞおい、アリス今どのくらい人がいるんだ?」

『はいマスター、現状、一万五千人くらいですが、この列を見ると約半数ほどだと思われます』

「て言うと、三万人も集まるのか! とんでもない大惨事になるな」
「鎧の人の他に黒いローブの人もいるです! 魔法使いさんですです」
「ホントだわ! 三分の一くらいがそうみたいね」
「真面目にどうするべか、ぬー」

 透たちが悩んでいると唐突にそれは始まった。隊列を組んで並んでいた黒いローブの集団が一斉に

「フレイムランス!」

 数千人の魔道士から放たれる数万の炎の槍が今、大森林へと放たれたのだ。

「まじかー! ヤベ、ナイン! あれ相殺してくれ!」

〈だめでありんす、一斉に魔素を使われたでありんす、このあたりの魔力が弱くなりすぎでありんす〉

「えええ! アリスちゃん何とかならないの?」

『ナインちゃん、あの森の上の酸素をできるだけ消滅させられますか?』

〈わかったでありんす、やれるだけ酸素を魔素に変換して見るでありんす〉

 すぐにナインは目を瞑る。すると体が輝きだし飛行艇周辺の空気が変わりだす。次に飛行艇が揺れ始める

「おっと! アリス重力調整踏ん張れ!」

 そう森林上空の酸素が急に少なくなったため重力に影響が出たのだ、飛行艇は浮力ではなく重力を制御して浮いていて、重力バランスが変わると落ちることもあるのだ。
 がしかし、すべての酸素を無くすことは出来ず何割かは消滅したが炎の槍は森林へと突き刺さっていき轟々と音と風を伴い燃焼していった。

「クソ! 始まっちまいやがった! ユイ! くっころさんに連絡してくれ、始まっちまったって」
「アリスちゃん、この火消す方法ってないの?」

『桜ちゃん、魔素が少ない今ならナノマシンズが干渉せず使えるかもしれません、やってみます』

 アリスは集中しようと目を瞑った時、透が叫ぶ。

「だめだ! クルーエルの第二波が来る! 一旦、ぬお! リオンからも攻撃が来る! アリス緊急退避! 亜空間に潜れ!」

『はいマスター、亜空間ドライブ起動、亜空間潜行開始』

 飛行艇が現れた亀裂に吸い込まれる。時を同じく、フレームランスの雨が降る。そしてリオンの魔導砲による閃光が降り注ぐ。
 ものすごい轟音と共に爆発が起こった。爆風で炎は消し飛んだが余波でクルーエル帝国の魔道士たちも吹き飛んでいく。そして鎧兵たちが前に出て盾となる隊形を取り始める。そこにリオンの第二波が来る。
 戦争は始まってしまった。もう止める術は残されていないのだろうか? 透たちはこの戦争を止められるのか? そしてアーカンディアの未来は……。








「いやそんな終わり方、らしくないから」


「そうね、透の言うとおりだわ」

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