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もう15歳
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あれから私は、悪魔と共に過ごす時間が多い事にただでさえ気をつかうというのに! 度々突っかかってくるゼノベルト皇子殿下をかわし、時々彼へ与えられるハリセン攻撃を眺めるという、面倒が増えた騒々しい毎日を勉学に励みつつ平和的に過ごしておりました。
が、しかし。
時は、新入生たちも学園生活に慣れてきた、初夏。
やってきました。
学園行事という名のゲームでも存在したイベントが!
イベントとはいえ学園行事ですから、もちろん毎年あるのでございます。
さて。
元は広大な密林であったというモノクロード国には、そこかしこにその名残である大きな森があります。そして王都の近くにある森には、なぜか定期的に魔物が湧きます。
原因はよくわかっていませんが、オニキスによると人口が多い場所に近いこの森へ、目印が付けてあるかもしれないとのこと。例の嫌がらせ愉快犯の精霊たちが効率的に、精霊が寄生している人間を狩るためなのではないかと。
なんてはた迷惑な精霊なんでしょう。
まあ、ゲームのシナリオ的に必要なのですから、仕組まれたものであるのは確かなのですけれども。
ゲームでは魔物たちを従えてやってきたトゥバーンに、「魔王だったんですから、何とかできないんですか?」と聞いたら、『なんだそれ?』と言われてしまいました。すっとぼけているわけではなく、本気でわからないと言った様子。
もしかしたら私、レオンハルト・ペンタクロム伯爵令息の髪色が変化するイベント「魔王襲来」を前倒ししたことにより、ダラヴナが魔王になるはずのフラグをブチ折ってしまったのかもしれません。
・・・まあ、いいか。実害はありませんし。
そんなわけで武術、魔法学、兵法の合同授業として「実践で学ぼう!」があるわけでございます。
10人までのパーティーを組み、先生同行の上で先生の介入なしに森を抜けられれば、好成績を約束されるというイベントです。まあ、危険を伴うかもしれない1泊2日の遠足のようなものですね。
そう。森の中で1泊する行事なのですよ。
ゲームでは攻略対象と2人きりで焚き火を前に夜警をする、ドキドキきゅんきゅんなイベントがあったわけでございます。
しかし攻略対象ノーサンキューな私としては、クラウドと2人。もしくは譲歩したとしても攻略対象の1人であり、弟でもあるルーカスを加えた3人でこなそう。そう思っていたのですが・・・。
「なんという、濃いメンバー・・・」
私のげんなりとした呟きに、それが聞こえたらしいクラウドが深く頷きます。
実は私、この度、ルーカスと共にヘンリー殿下の護衛に抜擢されまして。とは言っても、私たちは侯爵家の子女ですので正式なものではなく、単に「できるだけ一緒に行動するように!」という、父からの指示でございます。
私が近くにいるという事はつまり、ほぼ無敵なんではないかというクラウドも一緒なわけで。おそらく「ついでに守ってね!」という、クラウドの護衛力を期待したものだと考えられます。父は「カーラもルーカスも自分で身が守れるから、クラウドが護衛する必要はないだろう」と、思っている様なのですよね。
私も学園では無敗だったらしいフランツ王子殿下や、そこそこ強いらしいゼノベルト皇子殿下を苦も無く下せたあたりで、もしかして「自分は結構強いのではないか」と思い始めました。だというのに未だ私が中ボスであるクラウドに、ハニートラップを使用しないと勝てないなんて!
何故なのでしょうか? ゲームの私は神憑り的に強かったとか?
私は武術の授業で開始と共に配られたメンバー決定票を片手に、もう片方を腰に当てて片足へ体重を乗せ、姿勢を崩します。するとチャイナドレス風の黒い鍛錬着のスリットから、ニーハイソックスを履いた足が覗きました。それをチラ見するクラウド。
よし。今日の手合わせも勝ちに行きましょう。
おっと、思考がそれました。
つまり父の指示を受けてからというものヘンリー殿下、私、ルーカス、クラウドはセット。当たり前ですがヘンリー殿下の正式な護衛である、ツヴァイク様とレオンも一緒。ついでにヘンリー殿下の親友、アレクシス様も一緒。
これで7人。
さあ、メンバー表提出! という段階で、ツヴァイク様がダリア様に用紙を奪われまして。ダリア様とゼノベルト皇子殿下のお名前が書き加えられ、そのまま提出されてしまったのです。
土下座しながら泣いて詫びるツヴァイク様を責めることができず、皆、渋い顔をしながらも慰めましたよ。
普通は上級生も含めたメンバーにするのですが、唯一まともに社交界で人脈を築いているアレクシス様をしても、ことごとく断られてしまったという・・・。
これは悪名高い私のせいですね。ごめんなさい。
「カム! 俺と手合わせしろ!」
げんなりした表情のまま声がした方を向けば、ゼノベルト皇子殿下が刃を潰した細身の剣を片手に、こちらへ突き付けていました。ため息をつきつつ、割って入ろうとしたクラウドを目で制し、ついでに持っていたメンバー表を手渡してから、刃を潰した短剣を両手に構えます。
私はダリア様へ愛称呼びをするようお願いしましたが、ゼノベルト皇子殿下へはお願いしていないのですがね。
「魔女め、覚悟しろ! 今日こそ勝つ!」
先週もそんな事を言っていましたねぇ。たった1週間でどれほど変わったと言うのでしょうか。
ほんとは相手なんかしたくないのですが、そうしないといつまでも煩いので、とっとと叩きのめす事にします。
「参ります」
ゼノベルト皇子殿下はスピードタイプです。そして皇族だけあって太刀筋も美しい。
でもクラウドほどの速さはなく、実戦に乏しい太刀筋は読みやすいのです。
素早く繰り出された一撃目をギリギリで身を翻して避け、ゼノベルト皇子殿下の背後へ回り込みます。振り向き様に剣を横凪ぎにしてきたので、しゃがんで避けました。
そして細身の剣の柄に近い部分を、両手の剣でハサミのように挟んで封じます。そのまま立ち上がり、蹴りを放ちました。急所を狙う・・・と見せかけて、そこを庇ったためにがら空きになった胸を押し蹴り、ゼノベルト皇子殿下のバランスを崩します。
「お?!」
倒れまいと踏ん張ったゼノベルト皇子殿下の白い喉元へ、短剣を添わせました。
「私の勝ちでよろしいですか?」
「くそっ! 卑怯だぞ!」
短剣を突き付けている方の手首を、ゼノベルト皇子殿下が掴んできます。ここで不快であることを顔に出すと、それはそれで面倒なので表情を消しました。
「何がご不満なのですか?」
「普通、令嬢が足を使うか?! それにきゅ、急所を狙うなど!!」
そこでどもった挙句に頬を染めるなんて・・・横柄な態度に反して、うぶなのですかね。
私は無表情のまま、ゼノベルト皇子殿下を見上げます。
「武術の授業を選択している時点で、私は普通ではありません。それを鑑みたうえで、私に挑んでいただきますよう、お願いいたします。それに見せかけただけで、実際には蹴っていないのですから、問題ないと思います。そろそろ、放していただけませんか? ゼノベルト皇子殿下」
「ぐ・・・いいだろう。次は心してかかる」
悔しそうに顔を歪めながらも、意外にもあっさりと認められました。しかし私の手首は掴まれたままです。
「ゼノベルト皇子殿下。放していただけませんか?」
私のお願いに、ゼノベルト皇子殿下はリアルエルフ顔で厭らしく笑いました。
「ゼノと呼べば放してやる」
どうやら互いに愛称呼びすることで親しいアピールがしたいらしく、初日からこの調子で「ゼノ」と呼ばせようとしてくるのです。そして勝手に「カム」と呼ぶ。
私と親しくなってどうしたいのか分かりませんが、どうせ碌な理由ではありません。かかわらないのが一番です。
そういえば初めて一緒になった武術の授業でも「俺が勝ったら、ひとつ言う事を聞け!」とか言って挑んできた挙句に、私に負けて怒っていました。ちゃんと時間をかけて、いたぶるように、でも怪我をさせないよう丁寧に倒してあげたというのに、何が不満だったのでしょうか。
つくづく面倒な方です。
私の新たな癒し。ダリア様がいなければ、徹底的にかかわらないようにするのに。それでも絡んできそうではありますが。
あぁ。ダリア様。
スレンダーかつ長身で、細く垂れ目がちな蒼の瞳が魅力的で、前世で言う宝塚の男役のような麗しさ! そして同じ女性であることから、気遣いも完璧で、何より男どものような厭らしさがない! 理想の王子様のような振る舞いが、素敵すぎる!
ハリセンを片手にゼノベルト皇子殿下の背後へ、ゆっくりと近づいて来るのを視界の端にとらえながら、無表情を保ちつつ、頭の中でダリア様への賛辞を述べます。
ふむ。ダリア様の見惚れるようなハリセンさばきを拝見するのもいいですが、自分で反撃してみましょうかね。その前に警告しておくことにします。
「放してくださらないのなら、痛い目をみますよ?」
「ふん! いかにすばしっこい魔女でも、捕まえてしまえば・・・」
「警告は致しましたからね?」
私は両手に持っていた短剣を手放して、ゼノベルト皇子殿下の襟元を掴みます。そして体を反転しながら、背負い投げました。
「ぐえっ」
一本!!
リアルエルフの無様なうめき声を耳に、私は畳の上でガッツポーズをする自分を妄想しました。
が、しかし。
時は、新入生たちも学園生活に慣れてきた、初夏。
やってきました。
学園行事という名のゲームでも存在したイベントが!
イベントとはいえ学園行事ですから、もちろん毎年あるのでございます。
さて。
元は広大な密林であったというモノクロード国には、そこかしこにその名残である大きな森があります。そして王都の近くにある森には、なぜか定期的に魔物が湧きます。
原因はよくわかっていませんが、オニキスによると人口が多い場所に近いこの森へ、目印が付けてあるかもしれないとのこと。例の嫌がらせ愉快犯の精霊たちが効率的に、精霊が寄生している人間を狩るためなのではないかと。
なんてはた迷惑な精霊なんでしょう。
まあ、ゲームのシナリオ的に必要なのですから、仕組まれたものであるのは確かなのですけれども。
ゲームでは魔物たちを従えてやってきたトゥバーンに、「魔王だったんですから、何とかできないんですか?」と聞いたら、『なんだそれ?』と言われてしまいました。すっとぼけているわけではなく、本気でわからないと言った様子。
もしかしたら私、レオンハルト・ペンタクロム伯爵令息の髪色が変化するイベント「魔王襲来」を前倒ししたことにより、ダラヴナが魔王になるはずのフラグをブチ折ってしまったのかもしれません。
・・・まあ、いいか。実害はありませんし。
そんなわけで武術、魔法学、兵法の合同授業として「実践で学ぼう!」があるわけでございます。
10人までのパーティーを組み、先生同行の上で先生の介入なしに森を抜けられれば、好成績を約束されるというイベントです。まあ、危険を伴うかもしれない1泊2日の遠足のようなものですね。
そう。森の中で1泊する行事なのですよ。
ゲームでは攻略対象と2人きりで焚き火を前に夜警をする、ドキドキきゅんきゅんなイベントがあったわけでございます。
しかし攻略対象ノーサンキューな私としては、クラウドと2人。もしくは譲歩したとしても攻略対象の1人であり、弟でもあるルーカスを加えた3人でこなそう。そう思っていたのですが・・・。
「なんという、濃いメンバー・・・」
私のげんなりとした呟きに、それが聞こえたらしいクラウドが深く頷きます。
実は私、この度、ルーカスと共にヘンリー殿下の護衛に抜擢されまして。とは言っても、私たちは侯爵家の子女ですので正式なものではなく、単に「できるだけ一緒に行動するように!」という、父からの指示でございます。
私が近くにいるという事はつまり、ほぼ無敵なんではないかというクラウドも一緒なわけで。おそらく「ついでに守ってね!」という、クラウドの護衛力を期待したものだと考えられます。父は「カーラもルーカスも自分で身が守れるから、クラウドが護衛する必要はないだろう」と、思っている様なのですよね。
私も学園では無敗だったらしいフランツ王子殿下や、そこそこ強いらしいゼノベルト皇子殿下を苦も無く下せたあたりで、もしかして「自分は結構強いのではないか」と思い始めました。だというのに未だ私が中ボスであるクラウドに、ハニートラップを使用しないと勝てないなんて!
何故なのでしょうか? ゲームの私は神憑り的に強かったとか?
私は武術の授業で開始と共に配られたメンバー決定票を片手に、もう片方を腰に当てて片足へ体重を乗せ、姿勢を崩します。するとチャイナドレス風の黒い鍛錬着のスリットから、ニーハイソックスを履いた足が覗きました。それをチラ見するクラウド。
よし。今日の手合わせも勝ちに行きましょう。
おっと、思考がそれました。
つまり父の指示を受けてからというものヘンリー殿下、私、ルーカス、クラウドはセット。当たり前ですがヘンリー殿下の正式な護衛である、ツヴァイク様とレオンも一緒。ついでにヘンリー殿下の親友、アレクシス様も一緒。
これで7人。
さあ、メンバー表提出! という段階で、ツヴァイク様がダリア様に用紙を奪われまして。ダリア様とゼノベルト皇子殿下のお名前が書き加えられ、そのまま提出されてしまったのです。
土下座しながら泣いて詫びるツヴァイク様を責めることができず、皆、渋い顔をしながらも慰めましたよ。
普通は上級生も含めたメンバーにするのですが、唯一まともに社交界で人脈を築いているアレクシス様をしても、ことごとく断られてしまったという・・・。
これは悪名高い私のせいですね。ごめんなさい。
「カム! 俺と手合わせしろ!」
げんなりした表情のまま声がした方を向けば、ゼノベルト皇子殿下が刃を潰した細身の剣を片手に、こちらへ突き付けていました。ため息をつきつつ、割って入ろうとしたクラウドを目で制し、ついでに持っていたメンバー表を手渡してから、刃を潰した短剣を両手に構えます。
私はダリア様へ愛称呼びをするようお願いしましたが、ゼノベルト皇子殿下へはお願いしていないのですがね。
「魔女め、覚悟しろ! 今日こそ勝つ!」
先週もそんな事を言っていましたねぇ。たった1週間でどれほど変わったと言うのでしょうか。
ほんとは相手なんかしたくないのですが、そうしないといつまでも煩いので、とっとと叩きのめす事にします。
「参ります」
ゼノベルト皇子殿下はスピードタイプです。そして皇族だけあって太刀筋も美しい。
でもクラウドほどの速さはなく、実戦に乏しい太刀筋は読みやすいのです。
素早く繰り出された一撃目をギリギリで身を翻して避け、ゼノベルト皇子殿下の背後へ回り込みます。振り向き様に剣を横凪ぎにしてきたので、しゃがんで避けました。
そして細身の剣の柄に近い部分を、両手の剣でハサミのように挟んで封じます。そのまま立ち上がり、蹴りを放ちました。急所を狙う・・・と見せかけて、そこを庇ったためにがら空きになった胸を押し蹴り、ゼノベルト皇子殿下のバランスを崩します。
「お?!」
倒れまいと踏ん張ったゼノベルト皇子殿下の白い喉元へ、短剣を添わせました。
「私の勝ちでよろしいですか?」
「くそっ! 卑怯だぞ!」
短剣を突き付けている方の手首を、ゼノベルト皇子殿下が掴んできます。ここで不快であることを顔に出すと、それはそれで面倒なので表情を消しました。
「何がご不満なのですか?」
「普通、令嬢が足を使うか?! それにきゅ、急所を狙うなど!!」
そこでどもった挙句に頬を染めるなんて・・・横柄な態度に反して、うぶなのですかね。
私は無表情のまま、ゼノベルト皇子殿下を見上げます。
「武術の授業を選択している時点で、私は普通ではありません。それを鑑みたうえで、私に挑んでいただきますよう、お願いいたします。それに見せかけただけで、実際には蹴っていないのですから、問題ないと思います。そろそろ、放していただけませんか? ゼノベルト皇子殿下」
「ぐ・・・いいだろう。次は心してかかる」
悔しそうに顔を歪めながらも、意外にもあっさりと認められました。しかし私の手首は掴まれたままです。
「ゼノベルト皇子殿下。放していただけませんか?」
私のお願いに、ゼノベルト皇子殿下はリアルエルフ顔で厭らしく笑いました。
「ゼノと呼べば放してやる」
どうやら互いに愛称呼びすることで親しいアピールがしたいらしく、初日からこの調子で「ゼノ」と呼ばせようとしてくるのです。そして勝手に「カム」と呼ぶ。
私と親しくなってどうしたいのか分かりませんが、どうせ碌な理由ではありません。かかわらないのが一番です。
そういえば初めて一緒になった武術の授業でも「俺が勝ったら、ひとつ言う事を聞け!」とか言って挑んできた挙句に、私に負けて怒っていました。ちゃんと時間をかけて、いたぶるように、でも怪我をさせないよう丁寧に倒してあげたというのに、何が不満だったのでしょうか。
つくづく面倒な方です。
私の新たな癒し。ダリア様がいなければ、徹底的にかかわらないようにするのに。それでも絡んできそうではありますが。
あぁ。ダリア様。
スレンダーかつ長身で、細く垂れ目がちな蒼の瞳が魅力的で、前世で言う宝塚の男役のような麗しさ! そして同じ女性であることから、気遣いも完璧で、何より男どものような厭らしさがない! 理想の王子様のような振る舞いが、素敵すぎる!
ハリセンを片手にゼノベルト皇子殿下の背後へ、ゆっくりと近づいて来るのを視界の端にとらえながら、無表情を保ちつつ、頭の中でダリア様への賛辞を述べます。
ふむ。ダリア様の見惚れるようなハリセンさばきを拝見するのもいいですが、自分で反撃してみましょうかね。その前に警告しておくことにします。
「放してくださらないのなら、痛い目をみますよ?」
「ふん! いかにすばしっこい魔女でも、捕まえてしまえば・・・」
「警告は致しましたからね?」
私は両手に持っていた短剣を手放して、ゼノベルト皇子殿下の襟元を掴みます。そして体を反転しながら、背負い投げました。
「ぐえっ」
一本!!
リアルエルフの無様なうめき声を耳に、私は畳の上でガッツポーズをする自分を妄想しました。
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