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もう15歳
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「ちょっ! 審判!! これ反則でしょ?!」
「先に投げナイフを使ったのは誰なんですか? 氷槍中の50」
砂が巻き上がり、氷の槍が乱れ飛ぶさまを眺めながら、私は傍らに座る大きな鳥の魔物をもふります。ぺたりと寝ている羽毛をその流れにそって撫でると、つるつると手が滑りました。
私が腰かけているのは、オアシスを囲むように配置した巨石です。その上に降り注ぐ太陽の光はきつく、じりじりと照り付けてきます。日が当たっている手の甲を自分の影に隠すように抱き込むと、鳥が翼を広げて日陰を作ってくれました。
「ありがとう」
ふおーっと膨らんだ鳥の胸元に手を突っ込んでワシワシしつつ、膝の上のオニキスの頭を撫でます。
ああ。幸せ。
審判役のクラウドが厳かに告げました。
「続行」
「えぇっ!! 魔法は無しでしょ?!」
深紅の髪を振り乱しながら、レオンが叫びました。砂が目に入ったのか、金の瞳が潤んでいます。
「始める前に言いませんでしたよね。水穿6」
逃げ惑うレオンを、涼しい顔をしたルーカスが指をさします。その先から、水が弾丸のように6回発射されました。彼の呪文というか、合言葉の後の数は、大きさや量を示しています。ルーカスの精霊はおおざっぱなのか、多くなってくると数に誤差があるようですけど。
「普通、その歳では使えないでしょ?!」
「僕が普通だと思うからいけないんですよ」
普通は学園で学ばなければ呪文を知らず、呪文を唱えられなければ魔法が使えませんからね。
騒ぎながらもレオンは愛用の大剣の間合いまで、ルーカスに近付いています。
ルーカスが拳を構えました。その手には、彼に強請られて私が作り、社交デビュー祝いに贈った籠手が装着されています。素材はミスリル製の糸。腕の動きを阻害しないよう、糸状にして編んだのです。
ついでに左右の手のひらを合わせると、異空間収納が出現して武器を取り出せる仕様になっております。掌から武器が出てくるっていう、あれですね。ルーカスは細身の剣と、短剣なら人並みに扱えるという事でしたので、ミスリル製のそれが何本か入っています。あとゲームでは適性があった弓矢も。そして武器を握って特定のリズムでその拳をもう片方でたたけば、収納することができます。
ゲームのルーカスは根暗のもやしっ子でしたので、弓と魔法による遠距離攻撃を得意にしていました。それが王都にいる間に、接近戦対策で体術を習ったらはまってしまったらしく、メキメキと上達したとのことです。
まあ、遺伝子的には私に近いのですから、運動神経が悪いわけではないのだと思います。きっと拳闘士的な適性もあったのでしょう。
さて、なぜレオンと弟のルーカスが砂漠のオアシス前で戦っているかなのですが・・・それはルーカスがレオンに手合わせを申し込んだからです。
学園入学まであと半年という今日の昼過ぎ、昼食後のくつろぎタイムに、オニキスからルーカスが来たと告げられました。そういえば父の手紙に「ルーカスがテトラディル領へ行く」と書いてあったなと思いながら、玄関で出迎えました。
そして馬車から降りてきたルーカスが、私にしなだれかかっているレオンを見た途端、にっこり笑って手合わせを申し込んだのです。寒気がするほど美しい笑顔でした。
そうそう。非常に残念ですが、私にはレオンを矯正しきれなかったのですよ。というか私が秘密を隠さなくなったあたりで面倒になって、苦言を呈するのをやめました。レオンが来てから1月しか持たなかったことになりますね。うふふ。
ちなみにこの5年、私は社交シーズンに入っても公式には王都へ行っていません。だってパーティーに招待されることもありませんでしたし。
ルーカスの社交デビュー時も不参加。父が迎えに来ましたけど、逃げ隠れしました。こっそり転移で王都のルーカスの部屋へお邪魔して、本人を直接説得しましたのでそちらは問題ありません。当日はお祝いを言い、籠手を手渡しただけです。
あ。学園入試の時だけ公式に王都へ行きました。そしてすぐに帰りましたよ。貴族の子女が通うのは義務ですから、私にとっては入試というより形だけのものですけど。
制服を仕立てるのに時間がかかりますし、学園側にも入学者の身分によって準備が必要ですから、入試は入学の10か月前に行われます。願書の提出は入学の一年前ですね。
「どうしました?」
ぼーっとルーカスが大剣を殴りつけて軌道を逸らすのを眺めていたら、鳥が私の足元へくちばしから何かを落としました。
掌より少し大きい位の蜥蜴ですね。大きな目で、黒っぽい紫のような不思議な色合いをした蜥蜴が、自分のギョロ目をベロリと舐めました。かわいい。
「ありがとう。でも私は蜥蜴を食べられません」
ふるふると頭を振る鳥。貢物ではないようです。
蜥蜴は私が手をのばすと、逃げずに掌へ乗ってきました。妙に人に慣れていますね。
「お友達ですか?」
少し間がありましたが、鳥がこくりと頷きました。と、いう事は精霊が入っていたりするのでしょうか。
オニキスへ視線を向けると、頭を起こしてじっと蜥蜴を見ていました。しかし何もせず、やがて興味を失ったようで、再び私の膝へ頭を乗せます。
精霊が入っているかもしれませんが、害はないようですね。
「撫でても大丈夫でしょうか?」
『敵意も毒もない』
では遠慮なく撫でることにします。嫌なら逃げられるよう、蜥蜴が乗っている手を下に置き、もう片方の手でそっと撫でます。ギョロ目を閉じた蜥蜴が、クックッと笑うように鳴きました。面白いですね。
そうして爬虫類特有のすべすべに癒されていると、レオンの悲鳴が響きました。
「ぎゃあぁぁぁ!!! 嘘! 欠けた! 刃が欠けたんですけど!!」
「そこまで。」
戦闘意欲を喪失したらしいレオンが、座り込んで大剣を撫でています。クラウドは二人の間に割って入りました。
ゲームでの根暗もやしはどこへやら。体格のいい派手な美少年に成長したルーカスが、勝者の笑みを浮かべて大岩の上の私を見上げました。
「姉上! 見ていましたか?!」
実はよそ見をしていましたが、黙ったまま微笑んで手を振ります。そしてすぐ、それは蜥蜴が乗っていた方の手だったと気付いて焦りました。しかし不思議な色の蜥蜴は逃げたのか、もう姿がありませんでした。
ルーカスがテトラディル領へ帰ってきてから半月ほど経ちました。そして毎日のように、ルーカスとレオンは手合わせをしています。
その度に砂漠のオアシスへ行くのですが、毎回、鳥が私に生き物を手渡してくるようになりました。小鳥だったり、ネズミだったり、蛇だったり、また蜥蜴だったり・・・2回目あたりで昆虫は苦手だと言っておきましたので、手に乗せられることがなくて幸いでした。
そして今日、両親がテトラディル領へ帰ってきました。父は時々屋敷に私の様子を見に来ていましたので、2か月ぶりでしょうか。母は5年ぶりになります。
「カーラ、制服の仮縫いが済んだ。着てみなさい」
「はい。お父様」
場所は私の部屋。チェリが制服を受け取って、私と共に寝室へ入ります。
姿見に映っているのはゲーム開始時の17歳より、やや幼さの残った15歳の私です。
毎日のように砂漠へ出向いているというのに、相変わらずシミひとつなく完璧に整った肌、やっぱりきつめの紫紺の瞳、腰まである艶やかな黒髪、毎日の鍛錬にも負けない白く華奢な手足、二つに割れた腹筋と細い腰、そして順調に育った胸!
鏡の中で下着姿の美少女以上、美女未満がニヤニヤしながらジャンプして、たゆんたゆんする自分の胸を楽しんでいます。
おっと。人を待たせているのでした。
学園へは侍女、侍従の同行が禁止されています。それぞれが連れてくると物凄い人数になる上に、全員の素性を調べるなんてことできませんからね。貴族の子女が多く通う場所ですから、警備は厳重である必要があります。
一応、素性がしっかりしていて、さらに試験に合格して、授業料等が払えれば誰でも入学できるという抜け道もあり、侍従に入試をさせたり、男爵家の子女を雇ったりする人もいます。入学定員がありますので、希望者が多いと入試で足切りされますから、それなりの教養が必要ですけど。
ちなみに衣食住に必要なことは学園側の職員が行いますので、自炊や、洗濯をする必要はありません。
そんなわけで学園では自立が推奨されているため、制服は自分で着なければなりません。
チェリに手渡されるまま、順に着ていくのですが、白いブラウスのボタンを閉めたあたりで眉間にしわが寄りました。すでにけしからん領域に達しつつある、私のお胸たち。ボタンを上まで止めたというのに、その谷間が見えております。なぜ女子のブラウスは、こうも前が開いているのでしょうか。胸を強調するドレスもありますから、谷間が見えるのはタブーではありません。しかし・・・貧乳はこの学園にはいないとでも言いたいのでしょうか。
そしてもっと眉間の皺を深くしたのが、グレーと黒、細いピンクのラインが入ったタータンチェックのふんわり膝上スカートです。
そう。膝上です。
実はこれには長く重い歴史があるのでございます。
ずっとずっと昔の王太子がひっじょーに枯れ枯れな方で、女性に全く興味を示しませんでした。その王太子の気を惹くため、当時学園に通っていたご令嬢たちがこぞってスカートの裾を短くしていったのです。
変化はスカートの裾が膝上に達し、とある令嬢が恥ずかしがって膝を隠すソックスを履いた時に起こりました。王太子がその令嬢に愛を囁き始めたのです!
・・・まあ、要約すると、脚フェチの王太子がいて、そのせいで膝上スカートとニーハイが制服として定着したということですね。この絶対領域を採用させるためだけに、そんな歴史をつくってしまうとは・・・絶対領域に対する制作者の執念を感じます。
ここまで驚きの連続でしたが、濃紺のジャケットは比較的まともでございます。
濃紺とグレーの組み合わせなんて、地味だと言うことなかれ。紺地に主人公の銀髪が映えるのですよ!
形は側面から膝下丈の後ろへ徐々に丈が長くなる、テイルコート風になっています。絶対領域を実現させつつ、側面と後ろの露出度を落とすという、製作者の欲望と理性がかいま見えますね。
しかし、けしからん体型のカーラがこれを着ると、卑猥な感じになるのですよ。胸の下にボタンがあるってなんでなんですか? 腰を絞るのはともかく、胸をさらに強調するだけではないですか。
ゲームのカーラは・・・ちゃんと着てた。戦闘シーンで胸が揺れる度に、製作者の美学を感じましたね。しかし二次元だからこそ許された美学も、三次元では凶器です。
チェリの視線に同情が混じっているのを感じます。さあ、女は度胸ですよ!
『クラウド、耐えろ』
寝室を出る直前に、オニキスが言いました。
・・・結果のみご報告いたしましょう。
クラウドは口と鼻を覆ってよろめきました。
ルーカスは絶句して、食べかけのクッキーを落としました。
母は気を失いました。
父は盛大に紅茶を吹きました。
この間、レオンは廊下待機でした。
「先に投げナイフを使ったのは誰なんですか? 氷槍中の50」
砂が巻き上がり、氷の槍が乱れ飛ぶさまを眺めながら、私は傍らに座る大きな鳥の魔物をもふります。ぺたりと寝ている羽毛をその流れにそって撫でると、つるつると手が滑りました。
私が腰かけているのは、オアシスを囲むように配置した巨石です。その上に降り注ぐ太陽の光はきつく、じりじりと照り付けてきます。日が当たっている手の甲を自分の影に隠すように抱き込むと、鳥が翼を広げて日陰を作ってくれました。
「ありがとう」
ふおーっと膨らんだ鳥の胸元に手を突っ込んでワシワシしつつ、膝の上のオニキスの頭を撫でます。
ああ。幸せ。
審判役のクラウドが厳かに告げました。
「続行」
「えぇっ!! 魔法は無しでしょ?!」
深紅の髪を振り乱しながら、レオンが叫びました。砂が目に入ったのか、金の瞳が潤んでいます。
「始める前に言いませんでしたよね。水穿6」
逃げ惑うレオンを、涼しい顔をしたルーカスが指をさします。その先から、水が弾丸のように6回発射されました。彼の呪文というか、合言葉の後の数は、大きさや量を示しています。ルーカスの精霊はおおざっぱなのか、多くなってくると数に誤差があるようですけど。
「普通、その歳では使えないでしょ?!」
「僕が普通だと思うからいけないんですよ」
普通は学園で学ばなければ呪文を知らず、呪文を唱えられなければ魔法が使えませんからね。
騒ぎながらもレオンは愛用の大剣の間合いまで、ルーカスに近付いています。
ルーカスが拳を構えました。その手には、彼に強請られて私が作り、社交デビュー祝いに贈った籠手が装着されています。素材はミスリル製の糸。腕の動きを阻害しないよう、糸状にして編んだのです。
ついでに左右の手のひらを合わせると、異空間収納が出現して武器を取り出せる仕様になっております。掌から武器が出てくるっていう、あれですね。ルーカスは細身の剣と、短剣なら人並みに扱えるという事でしたので、ミスリル製のそれが何本か入っています。あとゲームでは適性があった弓矢も。そして武器を握って特定のリズムでその拳をもう片方でたたけば、収納することができます。
ゲームのルーカスは根暗のもやしっ子でしたので、弓と魔法による遠距離攻撃を得意にしていました。それが王都にいる間に、接近戦対策で体術を習ったらはまってしまったらしく、メキメキと上達したとのことです。
まあ、遺伝子的には私に近いのですから、運動神経が悪いわけではないのだと思います。きっと拳闘士的な適性もあったのでしょう。
さて、なぜレオンと弟のルーカスが砂漠のオアシス前で戦っているかなのですが・・・それはルーカスがレオンに手合わせを申し込んだからです。
学園入学まであと半年という今日の昼過ぎ、昼食後のくつろぎタイムに、オニキスからルーカスが来たと告げられました。そういえば父の手紙に「ルーカスがテトラディル領へ行く」と書いてあったなと思いながら、玄関で出迎えました。
そして馬車から降りてきたルーカスが、私にしなだれかかっているレオンを見た途端、にっこり笑って手合わせを申し込んだのです。寒気がするほど美しい笑顔でした。
そうそう。非常に残念ですが、私にはレオンを矯正しきれなかったのですよ。というか私が秘密を隠さなくなったあたりで面倒になって、苦言を呈するのをやめました。レオンが来てから1月しか持たなかったことになりますね。うふふ。
ちなみにこの5年、私は社交シーズンに入っても公式には王都へ行っていません。だってパーティーに招待されることもありませんでしたし。
ルーカスの社交デビュー時も不参加。父が迎えに来ましたけど、逃げ隠れしました。こっそり転移で王都のルーカスの部屋へお邪魔して、本人を直接説得しましたのでそちらは問題ありません。当日はお祝いを言い、籠手を手渡しただけです。
あ。学園入試の時だけ公式に王都へ行きました。そしてすぐに帰りましたよ。貴族の子女が通うのは義務ですから、私にとっては入試というより形だけのものですけど。
制服を仕立てるのに時間がかかりますし、学園側にも入学者の身分によって準備が必要ですから、入試は入学の10か月前に行われます。願書の提出は入学の一年前ですね。
「どうしました?」
ぼーっとルーカスが大剣を殴りつけて軌道を逸らすのを眺めていたら、鳥が私の足元へくちばしから何かを落としました。
掌より少し大きい位の蜥蜴ですね。大きな目で、黒っぽい紫のような不思議な色合いをした蜥蜴が、自分のギョロ目をベロリと舐めました。かわいい。
「ありがとう。でも私は蜥蜴を食べられません」
ふるふると頭を振る鳥。貢物ではないようです。
蜥蜴は私が手をのばすと、逃げずに掌へ乗ってきました。妙に人に慣れていますね。
「お友達ですか?」
少し間がありましたが、鳥がこくりと頷きました。と、いう事は精霊が入っていたりするのでしょうか。
オニキスへ視線を向けると、頭を起こしてじっと蜥蜴を見ていました。しかし何もせず、やがて興味を失ったようで、再び私の膝へ頭を乗せます。
精霊が入っているかもしれませんが、害はないようですね。
「撫でても大丈夫でしょうか?」
『敵意も毒もない』
では遠慮なく撫でることにします。嫌なら逃げられるよう、蜥蜴が乗っている手を下に置き、もう片方の手でそっと撫でます。ギョロ目を閉じた蜥蜴が、クックッと笑うように鳴きました。面白いですね。
そうして爬虫類特有のすべすべに癒されていると、レオンの悲鳴が響きました。
「ぎゃあぁぁぁ!!! 嘘! 欠けた! 刃が欠けたんですけど!!」
「そこまで。」
戦闘意欲を喪失したらしいレオンが、座り込んで大剣を撫でています。クラウドは二人の間に割って入りました。
ゲームでの根暗もやしはどこへやら。体格のいい派手な美少年に成長したルーカスが、勝者の笑みを浮かべて大岩の上の私を見上げました。
「姉上! 見ていましたか?!」
実はよそ見をしていましたが、黙ったまま微笑んで手を振ります。そしてすぐ、それは蜥蜴が乗っていた方の手だったと気付いて焦りました。しかし不思議な色の蜥蜴は逃げたのか、もう姿がありませんでした。
ルーカスがテトラディル領へ帰ってきてから半月ほど経ちました。そして毎日のように、ルーカスとレオンは手合わせをしています。
その度に砂漠のオアシスへ行くのですが、毎回、鳥が私に生き物を手渡してくるようになりました。小鳥だったり、ネズミだったり、蛇だったり、また蜥蜴だったり・・・2回目あたりで昆虫は苦手だと言っておきましたので、手に乗せられることがなくて幸いでした。
そして今日、両親がテトラディル領へ帰ってきました。父は時々屋敷に私の様子を見に来ていましたので、2か月ぶりでしょうか。母は5年ぶりになります。
「カーラ、制服の仮縫いが済んだ。着てみなさい」
「はい。お父様」
場所は私の部屋。チェリが制服を受け取って、私と共に寝室へ入ります。
姿見に映っているのはゲーム開始時の17歳より、やや幼さの残った15歳の私です。
毎日のように砂漠へ出向いているというのに、相変わらずシミひとつなく完璧に整った肌、やっぱりきつめの紫紺の瞳、腰まである艶やかな黒髪、毎日の鍛錬にも負けない白く華奢な手足、二つに割れた腹筋と細い腰、そして順調に育った胸!
鏡の中で下着姿の美少女以上、美女未満がニヤニヤしながらジャンプして、たゆんたゆんする自分の胸を楽しんでいます。
おっと。人を待たせているのでした。
学園へは侍女、侍従の同行が禁止されています。それぞれが連れてくると物凄い人数になる上に、全員の素性を調べるなんてことできませんからね。貴族の子女が多く通う場所ですから、警備は厳重である必要があります。
一応、素性がしっかりしていて、さらに試験に合格して、授業料等が払えれば誰でも入学できるという抜け道もあり、侍従に入試をさせたり、男爵家の子女を雇ったりする人もいます。入学定員がありますので、希望者が多いと入試で足切りされますから、それなりの教養が必要ですけど。
ちなみに衣食住に必要なことは学園側の職員が行いますので、自炊や、洗濯をする必要はありません。
そんなわけで学園では自立が推奨されているため、制服は自分で着なければなりません。
チェリに手渡されるまま、順に着ていくのですが、白いブラウスのボタンを閉めたあたりで眉間にしわが寄りました。すでにけしからん領域に達しつつある、私のお胸たち。ボタンを上まで止めたというのに、その谷間が見えております。なぜ女子のブラウスは、こうも前が開いているのでしょうか。胸を強調するドレスもありますから、谷間が見えるのはタブーではありません。しかし・・・貧乳はこの学園にはいないとでも言いたいのでしょうか。
そしてもっと眉間の皺を深くしたのが、グレーと黒、細いピンクのラインが入ったタータンチェックのふんわり膝上スカートです。
そう。膝上です。
実はこれには長く重い歴史があるのでございます。
ずっとずっと昔の王太子がひっじょーに枯れ枯れな方で、女性に全く興味を示しませんでした。その王太子の気を惹くため、当時学園に通っていたご令嬢たちがこぞってスカートの裾を短くしていったのです。
変化はスカートの裾が膝上に達し、とある令嬢が恥ずかしがって膝を隠すソックスを履いた時に起こりました。王太子がその令嬢に愛を囁き始めたのです!
・・・まあ、要約すると、脚フェチの王太子がいて、そのせいで膝上スカートとニーハイが制服として定着したということですね。この絶対領域を採用させるためだけに、そんな歴史をつくってしまうとは・・・絶対領域に対する制作者の執念を感じます。
ここまで驚きの連続でしたが、濃紺のジャケットは比較的まともでございます。
濃紺とグレーの組み合わせなんて、地味だと言うことなかれ。紺地に主人公の銀髪が映えるのですよ!
形は側面から膝下丈の後ろへ徐々に丈が長くなる、テイルコート風になっています。絶対領域を実現させつつ、側面と後ろの露出度を落とすという、製作者の欲望と理性がかいま見えますね。
しかし、けしからん体型のカーラがこれを着ると、卑猥な感じになるのですよ。胸の下にボタンがあるってなんでなんですか? 腰を絞るのはともかく、胸をさらに強調するだけではないですか。
ゲームのカーラは・・・ちゃんと着てた。戦闘シーンで胸が揺れる度に、製作者の美学を感じましたね。しかし二次元だからこそ許された美学も、三次元では凶器です。
チェリの視線に同情が混じっているのを感じます。さあ、女は度胸ですよ!
『クラウド、耐えろ』
寝室を出る直前に、オニキスが言いました。
・・・結果のみご報告いたしましょう。
クラウドは口と鼻を覆ってよろめきました。
ルーカスは絶句して、食べかけのクッキーを落としました。
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