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そろそろ10歳

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 その次の日も、ドード君は目ざとく見つけて砂漠の境界までやってきたので、またチェリに自然な感じでマンゴー畑まで追い返してもらいました。その間に私はオニキスと手分けをして、黙々と土壌改良。
 そのまた次の日は先読みして、初めからチェリをマンゴー畑に派遣してドード君を足止めしてもらい、私とオニキスは黙々と土壌改良。チェリはほんと、優秀ですね!
 2馬力で黙々と作業したおかげか、そろそろ国境に近いところまで来たと思います。

「おやすみなさいませ。カーラ様」
「おやすみ。チェリ」

 今晩も寂しい一人寝です。
 砂漠の旅の途中、オアシスを作った夜からなので、もう10日近くになりますね。オニキスが何を考えているのかはわかりませんが、きっと私を思ってのことなのでしょう。
 そんなことを悶々と考えているうちに、眠っていたようです。

『カーラ様、申し訳ないっすけど、起きて欲しいっす』

 モリオンの声に目を覚ましました。部屋の中は真っ暗で、空気もしんとしているところから真夜中だと思われます。

「どうしました?」

 モリオンの体は闇に溶け込んで見えません。体を起こして、声のする方へ顔を向けました。それでもどこにいるのかわからなかったので、ぽんぽんと布団の上をたたくと、そこへ音も重みもなくモリオンが現れました。

『カーラ様。ちょっとだけ来て欲しいっす』

 申し訳なさそうに耳を寝かせているのが、かろうじてわかりました。帰国者たちに何かあったのでしょうか。

『主の様子がおかしいっす。カーラ様を起こしてまでお願いするなんて、失礼なのはわかってるっすけど、3日目ともなると心配で・・・』

 クラウドでしたか。
 彼は最近、何を思ったのか、普段も気安く接するのをやめて、優秀な従者として振る舞おうとしているようなのですよ。私としては何を今更なのですが、害はないので放置してました。
 ただ、フラストレーションが溜まらなければいいと思って、様子を見てはいました。しかし、よりによって私が離れた時に限界を迎えるとは。

「では、行きましょうか」

 すぐ戻るつもりで、夜着の上に1枚羽織り、クラウドの気配を探ります。
 オニキスの気配は探れたのですが、ひどく遠く曖昧で、遠話も通じるのか定かではなかったので、何も告げずに行くことにしました。彼の事ですから、私が移動すればわかるでしょう。

「クラウド」

 クラウドがいたのは、枯れた樹木がまばらに生えた荒野。そこに設営された夜営の端の、枯れ木にもたれて座っていました。
 ひどく疲れた顔のクラウドが、ノロノロと顔を上げました。

「・・・カーラ様?」

 いつもなら立ち上がって礼をする場面で、座ったままぼうっと私を見上げています。

「寝惚けてます?」
『カーラ様と別行動してから、主は眠れないみたいっす』

 あー。クラウドが私に依存しているのは、なんとなく気付いていましたが、ここまでとは思いませんでした。
 契約前のモリオンの影響か、他者に対して警戒心が強いクラウド。私に心を許すまでは、妹のチェリが依存の対象でした。
 それがいつの間にか、私になっていまして。クラウドと距離を取り損ねてしまったのは、私の失態です。

「彼を眠らせればいいのですね」
『はいっす』

 ふむ。どうしたものでしょうか。
 私に触れることが癒しになるらしい、クラウド。眠って欲しい、モリオン。私は・・・もふもふしたい。

 そうか! 私に足りないのは、もふもふ成分だったのですね!
 さすがに主を心配してオロオロしているモリオンに、それを求めるのは酷です。この際、クラウドでもいいか。
 一石三鳥ですし。

「クラウド、こちらへいらっしゃい」

 クラウドと同じ木にもたれ掛かり、足を投げ出して膝の上を示します。クラウドは相変わらずぼうっとしていましたが、素直に私の膝の上に頭を乗せました。
 束ねていたひもをほどいて、クラウドの砂っぽい髪を、指でそっとすいていきます。
 うん。悪くない。

「すごい・・・いい夢・・・」

 やはりクラウドは寝惚けているようです。にへーっとだらしなく笑うと、寝息をたて始めました。
 瞬殺?

『ありがとうございますっす。カーラ様』

 ほっとしつつ、辺りを気にするモリオン。
 そうですね。オニキスに見つかると、せっかく寝たクラウドを起こしてしまうでしょう。

「私の気配をオニキスがたどれなくしておきますから、大丈夫ですよ」
『ではカーラ様、ボクは辺りを警戒してくるっす』

 モリオンがてててっと走って行きました。
 それを見送り、夜空を見上げます。月のない夜空は目がいたくなるほどに、たくさんの星が見えました。クラウドの髪をすきながら、それを眺めていて・・・。いつの間に眠ってしまったのか。



 久しぶりに、悪夢を見ました。



 自分の嗚咽で目が覚めて。
 ふわふわと浮かれていた気持ちが、現実に引き戻されたような感覚がして。

 どうして忘れていたんだろう。
 私は誰かに好かれていい人間じゃない。



 だって、自分可愛さに、大切な人を見捨てられる人間なのだから。



『カーラ様?』

 警戒から戻ってきたらしいモリオンが、近付いて来ました。慌てて、服の裾で涙をぬぐいます。

「モリオン、そろそろ帰ります。枕になるようなものはありませんか?」

 3日ぶりの睡眠で、熟睡しているクラウドは、私の膝と荷物が入れ替わっても起きませんでした。よく眠っているのを確認して、私は自分の寝室へ転移します。
 上着を脱ぎ棄て、隠れるようにベッドにもぐりこみました。寒くもないのに、体が震えています。

「オ・・・」

 名前を呼んでしまいそうになり、顔を枕に押し付けました。
 嫌だ。ひとりは嫌。でも、また、私が間違えてしまったら?

「ひっ・・・うぐ・・」

 漏れそうになる嗚咽を、顔に押し付けたままの枕で噛み殺します。
 どうすればよかったの? 何が正解だったの?
 何度も、何度も、数えきれないほどに探した、答えのない答え。

 出会わなければ?
 打ち解けなければ?
 好きにならなければ?
 伝えていれば?
 諦めなければ?
 気づいていれば?

 わからない。どれもが正解で、どれもが間違っている気がする。
 考えて、考えて、考え抜いて、
 はたと我に返る。
 無駄なことだと、気付いてしまう。

 でも考えずにはいられない。
 堂々巡りだ。

 まえは、どうすればよかったの?

 また考え始めて、自嘲した。過去は変えられない。それは何度も出た答えではなかったか。

 では、いまはどうする? どうしたらいい?
 ひとりは嫌。でも、また、私が間違えてしまったら?
 また、いなくなる?



 そうか。

 いなくなってしまうのなら、
 初めから期待しなければいいんだ。



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