上 下
28 / 147
やっと6歳

閑話   残滓の夢

しおりを挟む
 いつからか、カーラが悪夢にうなされるようになった。
 カーラを慕うものが、増えてきたあたりからのように思う。

 眠りについて暫くすると、息を荒げ、苦しそうに呻く。そして声を殺して泣きながら、目を覚ますのだ。

 心配してどうしたのか問うても、ただの悪夢だと力なく笑うだけで、内容は教えてくれない。
 そう言うならばと、一月ほど様子をみていたが、悪夢の頻度は増すばかりだった。

 いくら問い詰めてもカーラは頑なに夢の内容を言わないので、勝手に覗き見ることにした。呪いの類いかと、心配したのもある。

 カーラの悪夢は、毎回同じ異世界での出来事だった。


 幸せそうなの男女。
 見送る前世のカーラ。
 異世界の文字が書かれた掌大の薄っぺらい四角いもの。
 目まぐるしく切り替わる様々な異世界の風景。
 黒い服の人の群れ。


 夢はそこで唐突に終わる。カーラが泣きながら目を覚ますのだ。
 意味のわからない、そして全く音のない夢だった。

 おそらくカーラの前世の記憶が見せているのだろう。

 悩んだ末、私の力を行使して、悪夢を食べる事にした。
 しかしただ悪夢を消すのも面白くないので、私のもうそ・・・夢にすり替えることにした。



 澄みわたる青空、一面の花畑、むせかえるような甘ったるい匂い。そして、その中に佇むカーラ。

「愛しているよ、カーラ」

 そう言って、後ろから抱きしめる。人の姿で。
 カーラは頬を染めてうつむいた。その頭に口づける。腕の中のカーラは恥ずかしそうに身を捩るものの、逃げはしない。
 口づけを繰り返しながら、カーラの耳元まで下りていく。そしてその耳朶を口に含むようにして、ほんのり赤い耳をぺろりと舐め上げた。

「んっ!」

 カーラがすとんと地面に座り込んでしまった。その背を包むように、後ろからカーラの腰に腕を回す。そうして引き寄せ、私の膝の上に横向きに座らせた。
 恥ずかしそうに両手で顔を覆うカーラの耳元に、唇を寄せる。

「愛しているよ」

 もう一度、愛を囁くと、カーラがその背に回していた私の腕にしがみついた。

「本当に? ずっと? 変わらず?」
「永遠に、変わらぬ。我がお前に偽りを言うと思うのか?」

 カーラの頭が小さく横に振られる。そしてしがみついていた私の腕に口づけをくれた。
 まるで私の愛に答えてくれたような気がして、魂がぎゅっと握られるような、あの感覚がした。たまらず、私はカーラを抱きしめる腕に力を入れてしまう。

「オニキス、痛い」
「む・・・すまない」

 腕の力を緩めれば、カーラが潤んだ紫紺の瞳で私を見上げ、私の胸に縋りついた。再び、抱きしめる。

「好きよ、オニキス。・・・その・・・ごめんね」

 まだカーラの気持ちはそこまでなのだろう。私の妄想とはいえ、カーラの意識に入り込んでいるだけなので、彼女の反応は本物だ。

「カーラの気持ちは、我が少しずつ育てればいい。気に病む必要はない」

 そう言って額に口づける。カーラはよくわからないという顔をして、私を見上げた。
 愛おしさから浮かんだ笑みをそのままに、彼女の目元に口づける。次に頬、耳元、首筋と順に口づけて・・・



 と、ここまでにしてこう。


 どうせ起きれば夢の内容など覚えていないので、もっと好き勝手してもいいのだが、自重しておく。現実との区別がつかなくなると困る。私が。

 さて明日はどんな夢にしようか。カーラの記憶からよさそうなのを見繕っておこう。
 あぁ、ついでにカーラの好みの顔を探ろう。今後の参考に。

 思わぬ楽しみができて、心が弾む。

 さあ、カーラが悪夢を忘れるまで、続けようか。

 
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

サブキャラな私は、神竜王陛下を幸せにしたい。

神城葵
恋愛
気づいたら、やり込んだ乙女ゲームのサブキャラに転生していました。 体調不良を治そうとしてくれた神様の手違いだそうです。迷惑です。 でも、スチル一枚サブキャラのまま終わりたくないので、最萌えだった神竜王を攻略させていただきます。 ※ヒロインは親友に溺愛されます。GLではないですが、お嫌いな方はご注意下さい。 ※完結しました。ありがとうございました! ※改題しましたが、改稿はしていません。誤字は気づいたら直します。 表紙イラストはのの様に依頼しました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

異世界転生して悪役令嬢になったけど、元人格がワガママ過ぎて破滅回避できません!

柴野
恋愛
 事故死し、妹が好んでいたweb小説の世界に転生してしまった主人公の愛。  転生先は悪役令嬢アイリーン・ライセット。妹から聞いた情報では、悪役令嬢には破滅が待っていて、それを回避するべく奔走するのがお決まりらしいのだが……。 「何よあんた、わたくしの体に勝手に入ってきて! これはわたくしの体よ、さっさと出ていきなさい!」 「破滅? そんなの知らないわ。わたくしこそが王妃になるに相応しい者なのよ!」 「完璧な淑女になるだなんて御免被るわ。わたくしはわたくしのやりたいようにするんだから!」  転生先の元人格である本当のアイリーンが邪魔してきて、破滅回避がままならないのだった。  同じ体に共存することになった愛とアイリーンの物語。 ※第十九回書き出し祭りに参加した話を連載化したものです。 ※小説家になろう、カクヨムで重複投稿しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!

美月一乃
恋愛
 前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ! でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら  偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!  瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。    「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」  と思いながら

処理中です...