上 下
21 / 147
やっと6歳

6

しおりを挟む
 国王陛下のお言葉が終わると、居心地の悪いパーティーが始まりました。
 張りつめた空気の中、順に王太子へお祝いを述べていきます。相変わらずの痛いような視線の中、攻略対象の姿を探しました。間違っても接触しないように、です。
 じっと王太子の前に並ぶ人々を見ていたら、父が解説してくれました。

 まず初めに挨拶したのが、レイモンド・グランツ・ジスティリア大公閣下。ゲーム主人公レイチェルの父ですね。まだ独身のはずですが、立場的に出席しているのでしょうか。

『違うな。カーラを見に来たのだ』

 相変わらず不機嫌そうにオニキスが言いました。
 なるほど。大公家は初代モノクロード王と共に、この国を立ち上げた立役者ですからね。「王家の剣」と称される立場から、私を品定めしに来たのでしょう。

 次にトリステン公爵と、その御令息であるアレクシス。攻略対象ですね。彼は私と同じ6歳ですが、すでにツンの気配を醸し出しています。そして彼の姉上が王太子の婚約者で、王太子の側に並んで祝辞を受けています。
 あと2家、公爵の位を賜っていますが、どちらも御令嬢で8歳、10歳と年齢的にも関係なさそうなので省略。さらに上に御令息もいますが、そちらはもう婚約者がいますし大丈夫でしょう。

 侯爵の位を賜っているのはテトラディル、テンペスト、ティーバム、テクスノズ、テスラの「テ」で始まる5家です。いや、覚えやすいですけど。
 大公家、公爵家が王都守護なら、侯爵家は国境守護です。
 北の守りテスラ、北西の守りテクスノズ、西の守りテンペスト、南の守りテトラディル、東の守りティーバム。ぐるりとモノクロード国を囲んでいます。
 テクスノズ侯爵、テンペスト侯爵のところには、今回の対象年齢の子供がいないので、省略。大公同様、見物に来たようです。
 テスラ侯爵のところには私と同じ年の6歳になる御令嬢と、8歳になる御令息がいます。あれ?ゲームで同級生にカーラ以外の侯爵令嬢いたかな。
 ティーバム侯爵のところには10歳の御令息が一人。省略で。

「カーラ、行くよ」
「はい、お父様」

 侯爵の中では一番若いですし、力関係的に父は侯爵家では最後に挨拶をします。

「ヒースクリフ殿下、おめでとうございます」
「ありがとう、テトラディル侯爵。そちらの可愛らしいご令嬢を紹介いただいてもよろしいか?」

 白々しい。棒読みですよ、殿下。

「こちらは私の娘でございます」
「おめでとうございます、殿下。お初にお目にかかります。カーラ・テトラディルと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」

 1月の準備中に徹底的に矯正された、淑女の礼をとります。我ながら完璧! 誰もほめてくれないので、自画自賛しておきます。

「あぁ。ありがとう」

 殿下、声が震えておりますよ。そんなに怯えなくても、とって食べたりしません。
 ちらりと王太子殿下の後ろにいた、攻略対象の第三王子ヘンリー殿下を盗み見ます。王太子殿下ほど引きつってはいませんが、緊張した面持ちでこちらを見ていました。まだ6歳だからか中性的な美少年ですが、ここで一目ぼれしたわけでもないと思います。この後、好きになるような出来事があるのでしょうか。
 後ろが控えてますし、特に話すべきこともないので、もう一度礼をとって下がります。

『畏怖、興味、期待。予想通りだな』

 オニキスがつまらなそうに言いました。
 まあね。会場のほとんどの人が抱いている感情でしょう。

『そうだ。つまらん』

 私もつまらないので帰りたいです。私が視線を向けた周辺の人々が、不自然に目をそらしますので、目のやり場にも困ます。モーゼかという勢いで、歩くと人が避けていきますし。父を見上げると、視線に気づいて小さくため息をつきました。

「伯爵家あたりの挨拶がすむまで、我慢してくれ。その後なら帰るのは許されないが、庭園で散歩するくらいなら許されるだろう」
「わかりました」

 では攻略対象ウォッチングを続けましょう。

 伯爵の爵位を賜っているのは7家。
 攻略対象のレオンハルト・ペンタクロムはすぐわかりました。深紅の髪が目立ちますからね。私より一つ年下の少年です。
 まだ5歳とはいえ、なんだか落ち着きのない子ですね。きょろきょろと目線が動いています。大人びた、遊び人風だったはずなのですが。これから彼に何かが起こるのでしょうか?

『あれは・・・』

 オニキスが言いよどみます。なんですか?

『おそらくだが・・・』

 いいですよ。間違っていてもいいですから、教えてください。

『こうも稀な存在がそろうとは、考えづらいのだが・・・あの者は精霊の声が聞こえている』

 えぇ?! 思わずオニキスに視線を向けそうになって、慌ててレオンハルト伯爵令息に視線を戻しました。二度見したみたいになってしまいました。
 あー、びっくりした。というか、今も驚きすぎて手が震えています。

「カーラ、大丈夫かい? 花摘みに行くフリをして、庭園へ行ってもいいよ。私は一緒に行けないが」

 震える私を心配して、父がそっと耳打ちしました。

「申し訳ありません、お父様。そうさせていただきます」

 これ幸いと、会場を後にします。カモフラージュの為にちゃんとトイレへ行ってから、庭園で人気のない場所を探しましょう。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

サブキャラな私は、神竜王陛下を幸せにしたい。

神城葵
恋愛
気づいたら、やり込んだ乙女ゲームのサブキャラに転生していました。 体調不良を治そうとしてくれた神様の手違いだそうです。迷惑です。 でも、スチル一枚サブキャラのまま終わりたくないので、最萌えだった神竜王を攻略させていただきます。 ※ヒロインは親友に溺愛されます。GLではないですが、お嫌いな方はご注意下さい。 ※完結しました。ありがとうございました! ※改題しましたが、改稿はしていません。誤字は気づいたら直します。 表紙イラストはのの様に依頼しました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

異世界転生して悪役令嬢になったけど、元人格がワガママ過ぎて破滅回避できません!

柴野
恋愛
 事故死し、妹が好んでいたweb小説の世界に転生してしまった主人公の愛。  転生先は悪役令嬢アイリーン・ライセット。妹から聞いた情報では、悪役令嬢には破滅が待っていて、それを回避するべく奔走するのがお決まりらしいのだが……。 「何よあんた、わたくしの体に勝手に入ってきて! これはわたくしの体よ、さっさと出ていきなさい!」 「破滅? そんなの知らないわ。わたくしこそが王妃になるに相応しい者なのよ!」 「完璧な淑女になるだなんて御免被るわ。わたくしはわたくしのやりたいようにするんだから!」  転生先の元人格である本当のアイリーンが邪魔してきて、破滅回避がままならないのだった。  同じ体に共存することになった愛とアイリーンの物語。 ※第十九回書き出し祭りに参加した話を連載化したものです。 ※小説家になろう、カクヨムで重複投稿しています。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

処理中です...