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やっと6歳
閑話 残滓の悔
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カーラの人形に「せくしぃろせん」なる分類の白い「なぁすふく」を着せ、「ぱんすと」を「がぁたぁべると」で吊っていると、後ろからいつもの声がした。
「っ!!」
『主、鼻血が出てるっすよ!』
気配を消して、私の背後から、クラウドが近づいてきているのは気づいていた。私は落ち着いて、恒例となったクラウドたちの反応を見て楽しむ。
モリオンがぎゃあぎゃあ騒ぎながら、クラウドの鼻に布を突っ込んだ。クラウドは黙って立っていれば「いけめん」の部類なのに、いろいろと残念な感じになったな。
しかし、こうなると分かっていて毎回見に来るとは、学習能力がないのか?
「懐かしい制服ですね。私の勤務先はピンク色でしたが」
恐る恐る、声のした方を向く。にっこりとほほ笑む、目の笑っていないカーラがそこにいた。転移してきたらしい。
「何をこそこそとやっているかと思えば・・・あぁ、今湯あみをしているのはチェリですよ」
言葉が出ない私から視線を外し、カーラは人形を覗き込む。
どうやらチェリの精霊の気配で、カーラの位置を予測していたのがばれたようだ。カーラの気配は私の主なので読みやすいが、意識的に隠されると察知するのが難しくなる。チェリの精霊はどんなに気配を隠そうとわかるので、そちらを目印にしていたのだ。
「他にはないのですか?」
観念して、全部提出する。テーブルにこんもりと盛られた人形の服の数々に、カーラがやや引いたのがわかった。
「・・・こんなに」
カーラが人形の服を次々につまんで広げる。そして露出度の高いものを魔法で燃やし始めた。
「あ・・・」
クラウドが思わずといった様に声を出した。あれはクラウドのお気に入り「ちゃいなふく」だな。
カーラはジト目でクラウドを見つめると、容赦なく燃やした。
ほぼ燃やされ、残り数着となったころに、カーラがふと手を止めてこちらを見た。
「そういえば・・・もうこの人形は必要ないのではないのですか?」
ついっとカーラから目をそらす。図星だったからだ。
実はもうカーラを灯台のようにしなくても、初めてのところだろうと方角と距離さえ把握していれば転移できる。練習と経験の成果だ。
「必要ないですよね?」
カーラが覗き込むように見つめてきた。目をそらしたまま、頷く。
その瞬間、人形が灰になった。残っていた服も。
『あぁ・・・』
カーラの視線が痛い。そのまま動けないでいると、カーラがはっとしたようにモリオンを見た。
「まさかとは思いますが・・・」
『まだやってないっす!』
モリオンが慌てて弁解した。いや、その言い方はまずい。
カーラが眉をひそめた。モリオンに擬態させて、人形のように着せ替えしていないか疑っているのだ。
彼女の探るような視線を受けて、クラウドが両手と首を左右に振って言った。
「考えはしましたが、実行はしていません」
墓穴を掘っている。クラウド、終わったな。
「実行したら・・・わかっていますね?」
聞いたことのない低い声で、カーラが言い放つ。そして返事を待たず、足早に寝室へ行ってしまった。後に残された者たちで視線を交わしあう。
わかっている。
深くため息をつくと、寝室へ転移した。
『カーラ』
カーラはクッションを抱え、ベッドの上でゴロゴロと悶えていた。私の呼びかけに、勢いよく顔を上げる。
「もう! 何を考えているの?!」
私に向かって、クッションを投げてきた。が、力が足りず、ベッドのすぐ近くに落ちる。
顔を上げたカーラの頬は上気し、息が荒く、紫紺の瞳がうるんでいる。また、あの感覚。魂がぎゅっと握られる感覚がして、背中がぞくぞくした。どうやら興奮してしまったらしい。背中の毛が逆立っているのがわかる。
『悪かった。どうすれば許してくれる?』
ベッドのすぐそこまで近づき、腰を下ろした。
部屋の中は薄暗いし、カーラからは私の背が見えないので、興奮しているのは気づかれていないだろう。あぁ。早くベッドに飛び乗って、カーラを舐めまわしたい。
「・・・恥ずかしかった」
顔を両手で覆って、カーラがぽつりとつぶやいた。
『うん?』
「恥ずかしかったんです。あの人形を作ったころは、ゲームの登場人物って感じで、自覚がなかったんです。でも、私なんだって気づいたらもう・・・」
再び、カーラがベッドに突っ伏して悶え始める。どうやら自分そっくりの人形が愛でられていたのが、恥ずかしかったらしい。
『悪かった』
「いいえ。怒っているわけではないのです。でも、しばらくあなたたちの顔は見たくありません」
冷水を浴びせられたような感じがして、背中の毛がもとに戻った。
カーラはベッドに突っ伏したまま、「恥ずかしすぎる」と悶え続けている。
カーラの側から離れたくないが、彼女の願いを無視して姿を見せれば機嫌を損ねてしまうだろう。
考えた末、必要なかったので普段しなかったが、面白そうだったので習得した技能を使うことにした。
『見えなければいいんだな?』
「・・・はい」
カーラがこちらを見ずに答える。それに少し傷つきながら、彼女の影に溶け込んだ。
ちなみにクラウドとモリオンは廊下に待機の刑。カーラに視線を合わせてもらえなくて、毎日クラウドは泣きそうになっていた。
モリオンはそんなクラウドを見て、おろおろと慰めていた。こいつだけがほぼ無傷だな。
カーラの機嫌が直るまで、1月を要した。
「っ!!」
『主、鼻血が出てるっすよ!』
気配を消して、私の背後から、クラウドが近づいてきているのは気づいていた。私は落ち着いて、恒例となったクラウドたちの反応を見て楽しむ。
モリオンがぎゃあぎゃあ騒ぎながら、クラウドの鼻に布を突っ込んだ。クラウドは黙って立っていれば「いけめん」の部類なのに、いろいろと残念な感じになったな。
しかし、こうなると分かっていて毎回見に来るとは、学習能力がないのか?
「懐かしい制服ですね。私の勤務先はピンク色でしたが」
恐る恐る、声のした方を向く。にっこりとほほ笑む、目の笑っていないカーラがそこにいた。転移してきたらしい。
「何をこそこそとやっているかと思えば・・・あぁ、今湯あみをしているのはチェリですよ」
言葉が出ない私から視線を外し、カーラは人形を覗き込む。
どうやらチェリの精霊の気配で、カーラの位置を予測していたのがばれたようだ。カーラの気配は私の主なので読みやすいが、意識的に隠されると察知するのが難しくなる。チェリの精霊はどんなに気配を隠そうとわかるので、そちらを目印にしていたのだ。
「他にはないのですか?」
観念して、全部提出する。テーブルにこんもりと盛られた人形の服の数々に、カーラがやや引いたのがわかった。
「・・・こんなに」
カーラが人形の服を次々につまんで広げる。そして露出度の高いものを魔法で燃やし始めた。
「あ・・・」
クラウドが思わずといった様に声を出した。あれはクラウドのお気に入り「ちゃいなふく」だな。
カーラはジト目でクラウドを見つめると、容赦なく燃やした。
ほぼ燃やされ、残り数着となったころに、カーラがふと手を止めてこちらを見た。
「そういえば・・・もうこの人形は必要ないのではないのですか?」
ついっとカーラから目をそらす。図星だったからだ。
実はもうカーラを灯台のようにしなくても、初めてのところだろうと方角と距離さえ把握していれば転移できる。練習と経験の成果だ。
「必要ないですよね?」
カーラが覗き込むように見つめてきた。目をそらしたまま、頷く。
その瞬間、人形が灰になった。残っていた服も。
『あぁ・・・』
カーラの視線が痛い。そのまま動けないでいると、カーラがはっとしたようにモリオンを見た。
「まさかとは思いますが・・・」
『まだやってないっす!』
モリオンが慌てて弁解した。いや、その言い方はまずい。
カーラが眉をひそめた。モリオンに擬態させて、人形のように着せ替えしていないか疑っているのだ。
彼女の探るような視線を受けて、クラウドが両手と首を左右に振って言った。
「考えはしましたが、実行はしていません」
墓穴を掘っている。クラウド、終わったな。
「実行したら・・・わかっていますね?」
聞いたことのない低い声で、カーラが言い放つ。そして返事を待たず、足早に寝室へ行ってしまった。後に残された者たちで視線を交わしあう。
わかっている。
深くため息をつくと、寝室へ転移した。
『カーラ』
カーラはクッションを抱え、ベッドの上でゴロゴロと悶えていた。私の呼びかけに、勢いよく顔を上げる。
「もう! 何を考えているの?!」
私に向かって、クッションを投げてきた。が、力が足りず、ベッドのすぐ近くに落ちる。
顔を上げたカーラの頬は上気し、息が荒く、紫紺の瞳がうるんでいる。また、あの感覚。魂がぎゅっと握られる感覚がして、背中がぞくぞくした。どうやら興奮してしまったらしい。背中の毛が逆立っているのがわかる。
『悪かった。どうすれば許してくれる?』
ベッドのすぐそこまで近づき、腰を下ろした。
部屋の中は薄暗いし、カーラからは私の背が見えないので、興奮しているのは気づかれていないだろう。あぁ。早くベッドに飛び乗って、カーラを舐めまわしたい。
「・・・恥ずかしかった」
顔を両手で覆って、カーラがぽつりとつぶやいた。
『うん?』
「恥ずかしかったんです。あの人形を作ったころは、ゲームの登場人物って感じで、自覚がなかったんです。でも、私なんだって気づいたらもう・・・」
再び、カーラがベッドに突っ伏して悶え始める。どうやら自分そっくりの人形が愛でられていたのが、恥ずかしかったらしい。
『悪かった』
「いいえ。怒っているわけではないのです。でも、しばらくあなたたちの顔は見たくありません」
冷水を浴びせられたような感じがして、背中の毛がもとに戻った。
カーラはベッドに突っ伏したまま、「恥ずかしすぎる」と悶え続けている。
カーラの側から離れたくないが、彼女の願いを無視して姿を見せれば機嫌を損ねてしまうだろう。
考えた末、必要なかったので普段しなかったが、面白そうだったので習得した技能を使うことにした。
『見えなければいいんだな?』
「・・・はい」
カーラがこちらを見ずに答える。それに少し傷つきながら、彼女の影に溶け込んだ。
ちなみにクラウドとモリオンは廊下に待機の刑。カーラに視線を合わせてもらえなくて、毎日クラウドは泣きそうになっていた。
モリオンはそんなクラウドを見て、おろおろと慰めていた。こいつだけがほぼ無傷だな。
カーラの機嫌が直るまで、1月を要した。
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