15 / 147
やっと6歳
1
しおりを挟む
なんやかんやでエンディアに店を持ってから3年経ち、私は6歳になりました。
店は嫌がらせかと思うくらい中心部からも、商業地区からも遠い場所でしたが、タダだったので文句は言いません。
でも光教会からも遠かったので、そこはよかったです。相変わらず光教会はテトラディル領から避難したままでしたが、時々様子を見に来ていたようなのです。
これからも目をつけられないよう、目立たないようにしなくては。
「カーライルさんの薬は効くねぇ。指の関節の痛みが嘘のように消えたよ」
この方は近所のおばあさんです。刺繍を生業としている方で、職業病なのか関節軟骨の治癒力向上を付与したポーションをあげても、3ヶ月くらいでまた発症してしまうのです。
「残念ながら、完治はしないですからね。痛くなってきたらまたどうぞ」
おばあさんから、代金をいただきました。
ポーションは解毒、治癒力向上など、何種類か作り置きして、それぞれ1000M、500M等、設定してあります。あ、Mはこの国の貨幣単位で、パン一つがだいたい300Mですね。
先ほどのおばあさんのように、診察のうえに処方した場合は状態によらず、初診は一律3000Mと設定してあります。彼女は再診なので500Mです。
もっとぼったくろうかと思ったのですが、庶民にも手が出る価格にしてみました。初診が高いのは、気安くカーライルを頼らないように。忙しく対応に追われるのは、前世の経験だけで十分です。
ちなみに隣国ガンガーラの貨幣単位はG。なぜかツボにはまって、笑いをこらえたのは内緒です。
診察は午前のみで、午後は調薬のために既成ポーション販売のみとしています。店の奥で調薬しているふりをして、私は転移で抜け出していますので店には居ませんけど。勿論、店の外にいる監視に、ちゃんと断ってから出かけることもありますよ。
午後はクラウドかチェリに認識阻害をかけて、売り子としてお留守番をしてもらっています。
ちなみに現在、兄妹は正式にテトラディル家に雇われています。父とカーライルの初対面から3日後、父がふらりとテトラディル領都の屋敷に帰ってきたのです。その時、セバス族兄妹に2、3質問をしてじっと見つめると、あっさり採用してしまいました。メンタリストめ、何を見た。
『そろそろ診療終了か』
一日の平均患者数は15人ほどです。最近は他の町からも人が来るようになりました。忙しくもなく、暇すぎるわけでもなく、ちょうどいい具合です。今のところ全てが順調です。・・・あの人以外は。
「終わりか? ならばカーライル殿、昼食を一緒にどうだ?」
監視の一環なのでしょうけど、なぜかテトラディル侯爵である父が時々、こうして様子を見に来るのです。勘弁してほしい。
「では店を留守にする準備をしてまいりますので、少しお待ちください」
店の表に診療終了の札をかけてから、店の奥にある調薬部屋へ入ります。
もちろん調薬なんてしませんが、それっぽい道具は揃えました。主に調理に使っていますけど。私は料理って、化学実験の類だと思うのですよ。
「クラウド、こちらに来れますか? チェリに昼食はいらないと伝えてください」
オニキスとモリオンがなにかしたようで、私にはモリオンが、クラウドにはオニキスが常時見えるようになりました。チェリの精霊とは相変わらず仲が悪いようで、彼女には見えません。
そしてオニキスとモリオンを通して、遠話ができるようになりました。
「今、参ります」
練習の成果か、モリオンは行ったことのある場所ならばどこへでも転移できるようになりました。私は見える範囲と、一度抱きしめて気配を覚えたものの3メートル以内なら転移できます。
クラウドは私のやり方を参考にしたようで、彼が転移してくるとこうなります。
『主。気配ではなく、感触を追うからそうなるっす』
今、私はクラウドの腕の中にいます。どさくさに紛れて、頭のにおいを嗅ぐのはやめなさい。
3年前に感じていたクラウドの妄信的な危うさは、徐々に方向性を変えてきたように感じます。これはこれで居心地が悪いので、やはり手放すことを考えるべきかもしれません。
『いい加減にしないと、カーラ様に捨てられるっすよ!』
私の邪な感情を読み取ったらしいモリオンが、慌てて言います。クラウドが名残惜しそうに、私から離れました。
こら。仕える対象にしていい態度じゃないですよ。
『カーラの父を待たせるのは、よくないのではないか?』
オニキスがクラウドを睨んでいます。確かに言う通りなので、クラウドに闇魔法で認識阻害をかけ、留守番を命じて調薬室をでました。
店は嫌がらせかと思うくらい中心部からも、商業地区からも遠い場所でしたが、タダだったので文句は言いません。
でも光教会からも遠かったので、そこはよかったです。相変わらず光教会はテトラディル領から避難したままでしたが、時々様子を見に来ていたようなのです。
これからも目をつけられないよう、目立たないようにしなくては。
「カーライルさんの薬は効くねぇ。指の関節の痛みが嘘のように消えたよ」
この方は近所のおばあさんです。刺繍を生業としている方で、職業病なのか関節軟骨の治癒力向上を付与したポーションをあげても、3ヶ月くらいでまた発症してしまうのです。
「残念ながら、完治はしないですからね。痛くなってきたらまたどうぞ」
おばあさんから、代金をいただきました。
ポーションは解毒、治癒力向上など、何種類か作り置きして、それぞれ1000M、500M等、設定してあります。あ、Mはこの国の貨幣単位で、パン一つがだいたい300Mですね。
先ほどのおばあさんのように、診察のうえに処方した場合は状態によらず、初診は一律3000Mと設定してあります。彼女は再診なので500Mです。
もっとぼったくろうかと思ったのですが、庶民にも手が出る価格にしてみました。初診が高いのは、気安くカーライルを頼らないように。忙しく対応に追われるのは、前世の経験だけで十分です。
ちなみに隣国ガンガーラの貨幣単位はG。なぜかツボにはまって、笑いをこらえたのは内緒です。
診察は午前のみで、午後は調薬のために既成ポーション販売のみとしています。店の奥で調薬しているふりをして、私は転移で抜け出していますので店には居ませんけど。勿論、店の外にいる監視に、ちゃんと断ってから出かけることもありますよ。
午後はクラウドかチェリに認識阻害をかけて、売り子としてお留守番をしてもらっています。
ちなみに現在、兄妹は正式にテトラディル家に雇われています。父とカーライルの初対面から3日後、父がふらりとテトラディル領都の屋敷に帰ってきたのです。その時、セバス族兄妹に2、3質問をしてじっと見つめると、あっさり採用してしまいました。メンタリストめ、何を見た。
『そろそろ診療終了か』
一日の平均患者数は15人ほどです。最近は他の町からも人が来るようになりました。忙しくもなく、暇すぎるわけでもなく、ちょうどいい具合です。今のところ全てが順調です。・・・あの人以外は。
「終わりか? ならばカーライル殿、昼食を一緒にどうだ?」
監視の一環なのでしょうけど、なぜかテトラディル侯爵である父が時々、こうして様子を見に来るのです。勘弁してほしい。
「では店を留守にする準備をしてまいりますので、少しお待ちください」
店の表に診療終了の札をかけてから、店の奥にある調薬部屋へ入ります。
もちろん調薬なんてしませんが、それっぽい道具は揃えました。主に調理に使っていますけど。私は料理って、化学実験の類だと思うのですよ。
「クラウド、こちらに来れますか? チェリに昼食はいらないと伝えてください」
オニキスとモリオンがなにかしたようで、私にはモリオンが、クラウドにはオニキスが常時見えるようになりました。チェリの精霊とは相変わらず仲が悪いようで、彼女には見えません。
そしてオニキスとモリオンを通して、遠話ができるようになりました。
「今、参ります」
練習の成果か、モリオンは行ったことのある場所ならばどこへでも転移できるようになりました。私は見える範囲と、一度抱きしめて気配を覚えたものの3メートル以内なら転移できます。
クラウドは私のやり方を参考にしたようで、彼が転移してくるとこうなります。
『主。気配ではなく、感触を追うからそうなるっす』
今、私はクラウドの腕の中にいます。どさくさに紛れて、頭のにおいを嗅ぐのはやめなさい。
3年前に感じていたクラウドの妄信的な危うさは、徐々に方向性を変えてきたように感じます。これはこれで居心地が悪いので、やはり手放すことを考えるべきかもしれません。
『いい加減にしないと、カーラ様に捨てられるっすよ!』
私の邪な感情を読み取ったらしいモリオンが、慌てて言います。クラウドが名残惜しそうに、私から離れました。
こら。仕える対象にしていい態度じゃないですよ。
『カーラの父を待たせるのは、よくないのではないか?』
オニキスがクラウドを睨んでいます。確かに言う通りなので、クラウドに闇魔法で認識阻害をかけ、留守番を命じて調薬室をでました。
1
お気に入りに追加
2,786
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
サブキャラな私は、神竜王陛下を幸せにしたい。
神城葵
恋愛
気づいたら、やり込んだ乙女ゲームのサブキャラに転生していました。
体調不良を治そうとしてくれた神様の手違いだそうです。迷惑です。
でも、スチル一枚サブキャラのまま終わりたくないので、最萌えだった神竜王を攻略させていただきます。
※ヒロインは親友に溺愛されます。GLではないですが、お嫌いな方はご注意下さい。
※完結しました。ありがとうございました!
※改題しましたが、改稿はしていません。誤字は気づいたら直します。
表紙イラストはのの様に依頼しました。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?
ぽんぽこ狸
恋愛
仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。
彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。
その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。
混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!
原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!
ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。
異世界転生して悪役令嬢になったけど、元人格がワガママ過ぎて破滅回避できません!
柴野
恋愛
事故死し、妹が好んでいたweb小説の世界に転生してしまった主人公の愛。
転生先は悪役令嬢アイリーン・ライセット。妹から聞いた情報では、悪役令嬢には破滅が待っていて、それを回避するべく奔走するのがお決まりらしいのだが……。
「何よあんた、わたくしの体に勝手に入ってきて! これはわたくしの体よ、さっさと出ていきなさい!」
「破滅? そんなの知らないわ。わたくしこそが王妃になるに相応しい者なのよ!」
「完璧な淑女になるだなんて御免被るわ。わたくしはわたくしのやりたいようにするんだから!」
転生先の元人格である本当のアイリーンが邪魔してきて、破滅回避がままならないのだった。
同じ体に共存することになった愛とアイリーンの物語。
※第十九回書き出し祭りに参加した話を連載化したものです。
※小説家になろう、カクヨムで重複投稿しています。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!
美月一乃
恋愛
前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ!
でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら
偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!
瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。
「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」
と思いながら
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる