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まだ幼児

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さて、乙女ゲーム「バル恋」の悪役令嬢カーラ・テトラディルに転生したわけですが、まだ1歳半の幼女でございます。当然、どの攻略対象とも面識はありません。
 昨日はあれから少しして医者が来て、診察を受けましたが、異常なしとのことでした。丸一日眠っていたそうで、消化によさそうなパン粥を食べて早々に眠りにつきました。まだ幼児ですので寝るのも仕事です。

『何をしているのだ?』

 紙に覚えていることを書き出しているのです。この世界の言葉はまだ書けないので、日本語ですが。でも誰も読めないでしょうから、幼児の落書きと見逃してもらえるでしょう。

 まずはゲーム主人公レイチェル。
 平民として育ったが、実は大公の庶子という設定。でないと貴族相手に恋愛なんて無理。視界にさえ入らない可能性大。母は公爵家の元ランドリーメイドで闘病中です。
 精霊の加護なしで生まれるという稀な存在ですが、髪色は本来の遺伝の色である茶やブロンドだったりするので、外見でそうとはわかりません。
 で、ここで現れるのが光の精霊です。他の精霊の気配を嫌う後天的な精霊で、加護を受けると銀髪になります。銀髪で光の精霊の加護もちとわかりますので、通常は光教会へ保護という名の隔離をされます。
 レア度でいけば闇のほうがレア。
 学園の入学年齢である15歳のとき、病で死にかけた母を助けたいという思いが光の精霊を呼びます。精霊の力を暴走させて広範囲の治癒を行ったせいで光教会に存在がばれますが、権力でねじ伏せ大公家へ。強い力を持った光の精霊で、死んでさえいなければ病気も欠損も治せる治癒系チートです。


 次に攻略対象たち。
 ヘンリー・モノクロード殿下。このモノクロード国第三王子で、私の初恋の相手らしい。まだ会ったこともありませんけど。風と土の精霊由来の金茶の髪と、碧眼の美少年です。
 このルートだと悪役令嬢カーラは、婚約者がいるにも関わらず犯罪すれすれというか、ほぼ犯罪をしまくり、最後は投獄されます。

 アレクシス・トリステン公爵令息は悪役令嬢カーラの婚約者です。ツンデレ系イケメンで、精霊の力が弱いのがコンプレックス。ツンがデレるたびにキュンキュンしたわ。
 このルートだと、あの手この手で妨害をし、大勢の前で婚約破棄された挙句に国外追放になります。

 レオンハルト・ペンタクロム伯爵令息はフェロモン系、遊び人。のふりして実は愛に飢えている純粋な人。親は精霊の加護が強い子供の扱いに困っていて、放任主義。親近感を感じるわ。
 このルートだとカーラは関係ない・・・はずが、似た境遇からレオンハルトを気に掛けるカーラの行動に取り巻きたちが暴走し、巻き込まれ、国外追放になります。

 ルーカス・テトラディル侯爵令息はカーラの弟。ゲームでは寡黙キャラ。母が出産後に死亡したのを、自分のせいだと気に病んでいます。
 このルートのカーラは母の死を弟のせいにし、主人公ともども弟をさんざんいじめ倒します。
 主人公が攻略に失敗すると、病んだ実の弟にカーラが刺殺されます。攻略に成功すると主人公に癒された弟に国外追放されます。
 プレイした時は驚きました。だからR指定ついてたんだねって納得もしましたけど。非リアの私は、ちょいエロい展開があるからR指定だと思って期待してました。

 書き出して思いましたが、カーラ大活躍ですね。全ルートで破滅フラグありですよ!

 あと隠しキャラ、オルカ。みんな死んじゃえ的な破滅系魔王キャラらしいです。掲示板で知りました。まだクリアしていないので、詳しくはわかりません。いざプレイしようと帰宅する途中で死んでしまいましたからね。逆ハーするとプレイできるらしいです。

 そんなことより、問題は弟です! まだ生まれていませんが、回避にはやはり母が死なないことが第一でしょう。

『カーラの母は死ぬのか』

 そうなんですよ。このままでは出産後に亡くなってしまうのです。今は確か妊娠6か月くらいのはずです。もう安定期に入っていい頃なのですが、いつも臥せっています。
 さあ、前世の知識フル活用ですよ!
 出産後になくなるということは、出血多量だったのでしょうか。ん? 出産後・・・後なら、感染症とかもありですね。単に体力が落ちていることもありうる。体が弱いとかですとお手上げですかね。

『体が弱いと子を産むときに死ぬのか』

 前世でも出産は命がけと言われていました。ただ医療が発達した国だったので、生存率は高かったですが。この世界は前世ほど医療は発達していないようです。なんせ治癒魔法がありますからね。

 しかし今、光教会はこの町から避難してしまっているのです。
 テトラディル侯爵領はモノクロード国と南接するガンガーラ国との境にあるのですが、ややキナ臭い状況にあります。ガンガーラ国は国土の半分を砂漠が占める国で、ここ2年ほど干ばつが続いています。そのため飢えたガンガーラ国民が難民として、テトラディル侯爵領に流れ込んできているのです。
 そして戦争の噂もあります。
 聖職者たるもの困った人々を救うべきだと思うのですが、わがテトラディル侯爵領の光教会は早々に避難してしまいました。ですから治癒魔法は頼れません。身重の母に長旅をさせるわけにもいきません。

『体が弱いとはどういう状態なのだ?』

 難しい質問ですね。心疾患のような先天的な疾患もありますし、栄養失調や、貧血、体力の低下などといった状態でしょうか。

『それは状態異常ということか?』

 また難しいことを。何を正常ととらえるかどうかの定義によりますね。

『術者の主観でかまわない。それはカーラにとって異常なのか?』

 そうですね。健康ではないのですから、異常でしょうね。

『ならば我が力をつかって、状態異常を解除すればよい』

 ん? どういうことですか?

『闇の精霊は状態異常を付与することができる』

 はい。知っています。ゲームではカーラが魅了の魔法をつかって取り巻きを作ったり、毒の魔法をつかって主人公に危害を加えたりしてましたからね。えげつない感じで。

『逆に解除することもできる。契約前では言語による指示が難しかっただろうが、契約後の今なら簡単だ。術者であるカーラが、解除したい状態異常を具体的に想像するだけでいい』

 ええと・・・その理屈だと傷とか、病気とか、欠損とか治せて、さらに死者蘇生もできるとか?

『可能であろうな』

 はああああああああああああああああっっっっ?! なんですと?! なんですかそのチート! 光の精霊のお株を奪っちゃうどころか、神の領域なんじゃないですか?!

『あとからしか来ん、腰抜けどもなんぞと比べるでない』

 オニキスがふんすと鼻息荒く吐き捨てます。

『ただ死者蘇生ともなれば、かなりの生体知識と相手の情報が必要になる。理屈では可能だが、現実的には無理であろうな。似て非なる者になる可能性が高い』

 あぁ・・・手が震えてきました。前世では平凡どころか、非リアだった私には過ぎた能力です。

『心配せずともカーラが言わねば、誰にもわからぬ。そもそも精霊と契約できる事を知るものは、いないであろう。精霊の声が聞こえるもの自体が希少であるし、姿が見えるものなど聞いたことがない。呪文を唱えれば魔法は使えるのだから契約の必要性もないしな』

 そうでございますか。確かに精霊と契約できるとは、ゲーム中でも明かされませんでした。でもカーラには、精霊の声が聞こえていたと思います。だから始終不機嫌な顔をしていたのでしょう。
 主人公は・・・あぁ。時々、神のお告げがありました。あれは精霊の声だったんですね。

 そういえば、ゲームのカーラからだいぶかけ離れてしまいましたね。光以外の魔法を使えるのはゲームと同じですが、無詠唱ではありませんでしたし、もちろん契約もしていませんでした。まあ、ゲームと一緒では破滅が待っているのですから、そうでなくていいのですが。

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