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ついに16歳

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 怒りの咆哮を上げている銀色アマゾネス美女、話の流れからして「月華」の後ろから、宿主であるアリエスクラート卿が声を張り上げます。

「そこを退くんだ! 俺はただ―――」
『いでよ! しもべども!』

 完全に宿主を無視した「月華」の求めに、どこからともなく複数の使徒が私たちの前方から側面にかけてを囲うようにして現れました。20人はいるであろう銀髪は、月明かりの下でも存在感が抜群です。
 その中に紛れるようにいらっしゃる銀髪ではなく、赤や黄、緑、茶、青髪の人々は、光教会の信徒さんでしょうか。狂信者という名の。

「姉上の無念を―――」
『こいつらやっつけて、ここにいるらしい国王と貴族たちをついでに感染させるよ! それから―――』
「叔父上! まだそんな―――」
『おいでませ、藍海松茶あいみるちゃ様! 出番ですの~!』
「ゲッカ! 話が違―――」
『あぁ! お前、行方不明の「禁食きんじき」の1匹だね?! そいつらまとめて―――』
「正々堂々が信条の叔父上らし―――」
『ぷぷ~! 残念~「月華」。藍海松茶様はもうお前たちの言う事なんか聞かないよ~』
『できそこないの混ざりものどもがぁ! 消し去って―――』
「おい、ゲッカ!」

 まだ戦闘に至ってはおりませんが、舌戦が非常に混戦しております。私の腰元で参戦しているフレイの言う事は聞き取れますが、その他の方々の言葉がとびとびにしかわかりません。

『対真白戦で重要なのは数なの~。さあ! 皆さま!』

 唖然と見守っていた私の腰元からフレイが頭上へ飛び上がったかと思ったら、サムズアップした右手を挙げて大きく背をそらしました。

『出てこいや!』

 ちょっ! おま、待てよ?!
 誰?! 誰が教えたの?! これ絶対、グレイジャーランド帝国に転生者か転移者がいるでしょう?!
 あ。でも日本人転移者だと黒髪が目立つだろうから、やっぱり転生者説が有力ですね!
 ぽかーんと見上げているヘンリー殿下は当然の反応として、満足げなフランツ王子殿下の様子からすると、きっとフランツ王子殿下に関わりある方だと思われます。

 そうだ。
 グレイジャーランド帝国へ行こう。

 フランツ王子殿下と関わることができるほど高位な御方が、転生者なのですよ? もしかしたら転生者クオリティの物がたくさん存在したりするかもしれません。だからこれが終わったら、この目で確かめるため、絶対に行ってやるのです!!

 そんな決意を固めた私の前、私たちをかばうような位置へ降り立った、カラスのようでカラスではないような色の鳥が、グワーっと大きく鳴いたと思ったら見る間に巨大化しました。
 それに押されるようにして、私たちは後退します。じりじりと講堂の方へ追いやられながら周囲へ視線を巡らせていたレオンが、使徒たちの動向へ意識を向けたまま言いました。

「講堂内の人々の避難は完了。この辺りは封鎖したから、好きに暴れてもいいよ」

 途端に私の足元へオニキスが姿を現します。愛用の大剣をペンダントから取り出したレオンの傍らにもトゥバーンが、不安げに身をこわばらせているレイチェル様の背後にメディオディアが現れました。剣を構えたクラウドの影からは、モリオンが頭だけ出しています。
 ヘンリー殿下は契約を秘匿したままで行く気のようですね。殿下の精霊であるカーリーを呼び出すことなく、前を見据えたまま、たまに自分の幼少期に瓜二つらしいフレイを見上げては、苦い顔をしていました。

 不思議な色のカラスは象ほどの大きさになると、うすぼんやりと姿を滲ませました。それに低く唸ったオニキスが、私へさらに下がるよう促します。

『トゥバーンはこれに「領域」を習ったのか』

 独り言のような問いに、トゥバーンが髭を揺らめかせました。カラスもどきを見つめる龍の背は、どことなく寂しそうです。

『藍海松茶も元「禁食」だ。「黒」ではないから補助してやってくれ』
『わかった』

 ほうほう。オニキスのような「黒」ではないために、カラスのようでいて、なんとなくしっくりこない色なのですね。
 勝手に納得していた私の頭上から、フレイがカラスもどきの方へと移動しました。いつの間に戦闘が開始されたのか、そこかしこから魔物に襲われている使徒たちの罵声やら悲鳴やら剣撃の音やらが響いています。

『そこ! 固まりすぎ! 中央の補助をして! 萌葱もえぎ! 巻き込まれるよ!』

 檄を飛ばすフレイの下で、カラスもどきがくわっと口を開けました。そこから飛ばされそうなほどの暴風が発せられ・・・見る間に踏ん張っていた人々が真っ白になりましたから、どうやらブリザードを吐いたようです。
 使徒たちはすぐに氷を消し、剣やら槍やらで攻撃してきました。やはり使徒は物理攻撃が基本のようですね。魔法を使うたびに体が削られるのですから、当然と言えば当然ですが。
 それなら参戦すべきだろうと異空間収納から薙刀を出して構えかけ、ドレスの裾が邪魔なことに気が付きました。いつものように「なんちゃらパワー以下略」してもいいのですが、それができるとレイチェル様に知られた場合、後々面倒なことになる予感がするのですよね。

 渋い顔をしつつ薙刀を構えると、私の横まで下がってきていたフランツ王子殿下に薙刀の柄を掴まれました。驚いてそちらを見上げたら、フランツ王子殿下はゆっくりと首を横に振られます。

「えっと・・・?」
『カーラ様。接近戦は禁止だよ~』

 反応に困っていたら、フレイがこの場にそぐわないゆったりとした口調で言いました。どうやら薙刀の使用は却下されたようでございます。
 素直に薙刀を影へ収納し、しかし手ぶらだと落ち着かないので苦無くないを取り出して握りました。
 私の選択に満足したのか、こちらをふり返ったフレイが可愛らしく微笑みます。

『あたしたちみたいに契約してるとね、宿主殺されたら一発退場なの。だから数減らしは契約してない和色あえいろ集団にお任せあれ!』
『「深淵」みたいに、だ・い・じ・な名前を消されたくないしな』
『・・・・・・・・・オニキスだ』

 私の足元でオニキスがふんすと息を吐きました。やや垂れた耳と力なく下がった尾に、不本意感が現れています。
 砂漠でクラウドとモリオンに名乗り直した時も、ものすっごく嫌そうに眉間に皺を寄せていましたしね。名前を消されたことは、オニキスにとってはかなりの屈辱だったのでしょう。
 居心地悪そうにあらぬ方向へ視線を向けているオニキスを凝視するのは酷なので、私は完全にアウェーな感じの戦闘へと目を向けます。

 目の前で繰り広げられる人対魔物の戦いは、普段であれば人側で戦っているだけに複雑な気分にさせられます。
 ただ、その普段であれば味方であるはずの人側が、今は逆に私たちを殲滅せんと向かってきているわけですから、魔物たちに襲われている様を見て同情する気にはなりません。命のやり取りを観戦するのも、いい気分ではありませんけれども。

『とりあえず「月華」だけになるまで、下がってて~。おいそこ! 虫は駄目っつったろ?!』

 天使の顔が急に憤怒に染まったかと思ったら、フレイが指さした先にいた軽自動車サイズのダンゴ虫が燃え上がりました。非常に愛らしい外見に似合わず、この天使も味方でさえ容赦しない方針のようです。ダンゴ虫の中の精霊が、元の世界へ強制送還されてしまいましたよ。
 それを見て、手を出す気が殺がれたのは私だけではなかったらしく、クラウドとレオンが構えを解きました。ピリピリとした緊張感は伝わってきますから、警戒まで解いたわけではないようですが。

 灰になりつつあるダンゴムシから目をそらしたら、その先には電柱を連想させる太さ、かつ長さの蛇の魔物がいました。色は茶のようで緑が混ざっているかのような感じなので、あれですね。前世でも実際に目にした事はありませんが、昭和初期の木製電柱がきっとあんな感じなのではないでしょうか。
 なんとなく割と私の近くで、カラスもどきを守るように真白たちを威嚇している蛇を見続けます。他に目を向けると、グロテスクな光景が目に入るので、それを避ける目的もありますよ。

「っ?!」

 ふいにこちらへ振り向いた蛇と目が合ったとたん、金縛りにあったかのように動けなくなりました。銀に輝く瞳から目をそらす事さえできません。
 異常を伝えようにも呼吸もままならなくて、それによる息苦しさより焦燥で頭の中がいっぱいになります。
   
『カーラ!』

 ようやく私の異常に気づいてくれたオニキスの呼びかけを最後に、私の意識がプツリと途切れました。




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