上 下
30 / 49
第5章 ぼっちの俺がリア充みたいな夏休みを過ごしてるのは気のせいか?

第29話 それに将来は拓馬のところに永久就職するって決めてるから

しおりを挟む
 大阪旅行から帰った翌日、俺とアリスは少し遠出してデパートに来ていた。その目的は明日の花火大会に着ていく浴衣を探すためだ。
 正直俺は浴衣を着る事によってこだわりなんて全く無かったがアリスは違ったらしい。だから朝早くから叩き起こされるはめになっていた。今は呉服店に来て二人で浴衣を見ている。

「拓馬的には何色の浴衣が私に似合うと思う?」

「結構悩むところだけど個人的には青色かな」

 爽やかで涼しげな印象がある青色の浴衣は絶対アリスに似合いそうだ。そんな俺の言葉を聞いたアリスは青色の浴衣を持って試着室へと入っていった。それから少しして試着室から出てきたアリスは口を開く。

「どうかな?」

「やっぱりよく似合ってる」

 青色の浴衣は想像していた以上によくアリスに似合っていて、まるで何かのモデルようにしか見えない。

「ありがとう、じゃあこれにするよ」

「他の色は試着しなくていいのか?」

「うん、拓馬が似合うって言ってくれたんだから間違いはないと思うしね」

「アリスが満足してるならそれで良いけど」

 アリスは試着室の中へと再び入り、中で元の服に着替えて出てきた。

「じゃあ次は拓馬の着る浴衣を選ぼうか」

「いや、俺は別に買わなくて大丈夫だぞ」

「せっかくの花火大会なんだから拓馬も浴衣着ようよ」

「そう言われてもな、そもそも浴衣を買うお金なんか持ってきてないし」

 デパートにある呉服店のためそれなりに良い値段であり、今の手持ちでは到底買えそうにないのだ。

「あっ、拓馬の浴衣は私が買ってあげるからお金は大丈夫」

「いやいや、それは流石に申し訳ないから」

「それなら貸しって事にしといてあげる」

 アリスはどうしても俺に浴衣を着させたいらしい。結局そのまま押し切られて俺の浴衣も買う事になってしまった。

「この浴衣とかどう?」

「ちょっと派手すぎて俺には似合わないと思うんだよな」

「じゃあこっちは?」

「それは割とありだと思ってる」

 そんな感じのやり取りを何度か繰り返し、最終的にシンプルな黒い浴衣を選んだ。そして会計をする俺達だったが、二人分の浴衣の合計金額は五万円と表示されていた。
 五万円という金額は高校生にとってかなりの大金だ。だがアリスは顔色一つ変えずクレジットカードで支払ってしまった。

「……よくそんなにお金あるな」

「だいぶ稼いでるから正直お金には困ってないんだよ」

「アリスってバイトとか何もしてない気がするけど、一体どうやって稼いでるんだ?」

 気になった俺がそう質問するとアリスはとんでもない答えを返してくる。

「株の配当だよ、確か年間で四百万円くらい貰ってたと思う」

「よ、四百万円!? それだけ配当金を受け取ろうと思ったら元本がめちゃくちゃ必要だと思うけど一体どうやって準備したんだよ……?」

 俺は株についてそんなに詳しくないが、利回りが10%だったとしても元本が四千万円くらい必要なはずだ。するとアリスはそんな俺の疑問に答える。

「パズル&ダンジョンズを運営してる会社の株をゲームがサービス開始する前に百万円分くらい買ったら一年後に大流行して株価が百倍になったんだよね。だから利確してその一部で高配当型の株を買ったんだ」

 さらっとそんな事を話すアリスに俺は驚きを隠せなかった。てか、パズル&ダンジョンズが大ヒットするまでは全く知られてなかった会社によく百万円も投資する気になったな。
 未来でも知らない限りそんなタイミングよく買ったり売ったりできないと思うが、そんな事はあり得ないのでアリスは先見の明が凄まじくあったのだろう。

「アリスは将来就職しなくても個人投資家として生きていけるんじゃないか?」

「たまたま運良く勝てただけだからそれは難しいと思うな。それに将来は拓馬のところに永久就職するって決めてるから」

 ニヤニヤしながらそう口にするアリスは相変わらず平常運転なようだ。目的を達成したため呉服店を後にする俺達だったが、アリスはまだ他にも行きたいところがあるらしく手を引かれる。

「なあ、次はどこに行くんだ?」

「それは着いてからのお楽しみ」

 はぐらかされてしまったため嫌な予感を覚える俺だったが、残念ながらそれは見事に的中してしまう。

「いやいや、女性用の水着売り場じゃん」

「最近胸が大きくなってきたから新しいのを買おうと思って」

「俺は外で待ってるからゆっくり選んでくれ」

「えー、拓馬に選んでもらうつもりだからそれは困るな」

 アリスは平然とそんな事を言い放った。どうやら先程と同じく俺に選ばせるつもりのようだ。だがどう考えても浴衣を選ぶよりもハードルが圧倒的に高い。
 ただでさえ周りの客や店員からジロジロ見られて居心地が悪いというのに、そんな中で水着を選ばせる行為はもはや拷問レベルだ。

「拓馬的には赤と黒のビキニならどっちが私に似合うと思う?」

「どっちでも似合うと思うから早く決めてくれ」

 一刻も早くこの場を離れたい一心でそう答えた俺だったが、それが良くなかったらしい。

「むー、拓馬がちゃんと真面目に選んでくれるまでここを動かないから」

「……おいおい勘弁してくれよ」

 仕方なくめちゃくちゃ真面目に似合いそうなビキニを考え始める俺だったが、アリスが中々納得してくれなかったため結局一時間近く滞在するはめになってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

処理中です...