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大学4年生編

第83話 離れ離れ

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 卒論の執筆作業などに追われているうちに12月を迎え、気付けば大学生最後の冬休みに突入していた。
 現在俺達は大掃除をしつつお互いに帰省に向けた準備をしている。

「俺達も来年からは社会人だし、とうとうこれが最後の冬休みか……」

「社会人になったら学生時代ほど長い休みなんて無いからちょっと残念だよね」

「会社によってはお盆休みが無かったり、正月休みが大晦日と三が日しか無かったりするらしいからな」

 いとこの竜也も社会人になったら学生時代ほど休みが無いから覚悟しろよと言っていた事を思い出した俺は、ついそうつぶやいた。

「数ヶ月後には私達も社会人なんだよね、想像できないな」

「確かにそうだな、俺も自分が働いてる姿とかまだ全然イメージできない」

「だよね、来年の今頃とか私何してるんだろ……」

 内定式の時に入社後のスケジュールや研修についてを色々と聞いたが、それだけでは全くイメージが湧かなかったのだ。

「まあ今はまだ学生なわけだし、残り少なくなった学生生活を楽しまないとね」

「だな、最後まで楽しまないと損だ」

 後3ヶ月ほどしか残っていない学生生活だが、逆に考えればまだ3ヶ月もあるので精一杯楽しみたい。

「……ところで春樹君は何時くらいの電車で静岡の実家へ帰る予定なの?」

「正確な時間はまだ決めてないけど、東京駅で紫帆と合流する予定だから夕方くらいはここを出ようと思ってるよ。まあ、新幹線を使えば2時間ちょっとくらいで浜松まで帰れるからもう少し遅くても大丈夫だけど」

 大晦日である明日は家族と実家で過ごす予定なので今日の夜に帰る予定となっている。
 ちなみに紫帆とは帰る時に合流する予定になっていて、一緒に浜松に帰るつもりだ。

「そっか、なら私も帰る時間は春樹君に時間を合わせようかな。ここから成田にある実家までは快速に乗ればそんなに時間かからないから」

「オッケー、そうしよう。とりあえず今は大掃除を終わらせて気持ちよく帰れるようにしようか」

「そうだね、一緒に頑張ろう」

 それから俺達は昼食を挟みつつ、2人で協力して部屋の大掃除をしていく。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「やっと一通り綺麗になったな、動きすぎてちょっと疲れた」

「部屋の中がピカピカになってすっきりしたよ、やっぱり綺麗になったら気持ちがいいな」

 ようやく大掃除が終わった俺達2人はダイニングテーブルでコーヒーを飲みながら一息ついていた。
 大掃除を始める時間が少しだけ遅かったせいか夕方が近付いてきており、窓の外は夕焼けで赤くなり始めている。

「……もうそろそろ夕方になるし、私達しばらく離れ離れになっちゃうね」

「確かにそうだけど、しばらく離れ離れって言い方はちょっと大袈裟じゃない?」

 俺はそう言いつつも6月から同居をしてきて、毎日ずっと一緒にいたためしばらく別れる事の寂しさをほんの少しだけ感じていた。

「この半年間はずっと2人でいたから別れるのはちょっと寂しいよ」

 どうやら実乃里も俺と全く同じような事を考えていたらしい。

「別に永遠の別れになるわけじゃないんだから、心配しなくても1週間くらいすればまた会えるよ。それに寂しくなったらいつでも電話してこいよ」

「……うん、分かった。寂しくなったらすぐ春樹君に電話するね」

 そう会話をした後、俺達は帰省の荷物に忘れ物が無いかをもう一度だけ確認して家を出る。
 そして2人で仲良く並んで駅のある方向に向かって歩いていく。

「この道、この間のクリスマスデートの時も一緒に歩いたよね」

「ああ、駅前のイルミネーションを2人で見に行ったんだよな」

 今年のクリスマスは去年とは違いインターンなどの予定も無かったため、無事にデートができていたのだ。
 デートは2年前のクリスマスデートと同じくショッピングをしてある程度時間を潰してからイルミネーションを見るという流れだった。

「来年のクリスマスは2人でデートできるかな?」

「うーん、曜日にもよるけど仕事の日ならキツいかもしれないな。でもそれなら別の日にデートしよう」

 そんな会話をしているうちに駅へと到着した俺達はチケットを購入し、改札へと入る。

「私は千葉方面だから3番線ホームに行くよ」

「俺は一旦東京駅に行って紫帆と合流してから新幹線に乗り換えるから4番線ホームか」

「じゃあここでお別れみたいだね」

 ここからは行き先が全然違うため、俺達はついにお別れをしなければならないようだ。
 俺は実乃里の肩をそっと優しく抱き寄せると、軽くお別れのハグをする。

「じゃあな、実乃里。良いお年を」

「良いお年を、春樹君。来年もよろしくね」

 ハグを終えた俺達は別れの挨拶をした後、それぞれ行き先のホームに向かってゆっくりと歩き始めた。

「さて、紫帆にもうちょっとで東京駅に着くって送っとかないと」

 俺はポケットからスマホを取り出すとチャットアプリを使って紫帆にメッセージを送る。
 そしてポケットの中に再度スマホをしまうと、ちょうど来た電車に乗って東京駅へと向かい始めるのだった。
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