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大学4年生編

第75話 状況説明と反撃

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「……それで、私に言う事は何かない?」

「今回の望月の事を黙ってて本当にごめんなさい」

 俺は正座していた状態から立ち上がると改めて深々と頭を下げた。
 望月と別れた後、謝罪と状況の説明に来た俺だったが、そこには怒りと悲しみの表情を浮かべた実乃里が待ち構えていたのだ。
 一通り状況を説明した後、ストーカー行為を隠していた件で散々怒られて泣かれ、その間俺はずっと正座をさせられていた。
 電話の嘘の別れ話の件に関しては状況的に仕方なかったと許されたが、望月の件を秘密にしていた件に関しては実乃里にとって許し難い事だったらしい。
 話さなかった理由に関して俺は言い訳を一切する事無く素直に話し、実乃里からは私をもっと信じて頼って欲しかったとしばらくの間怒られて泣かれてしまった。

「もう頭を上げて、春樹君が真剣に謝ってる姿を見て、気持ちは痛いほど理解できたから今回だけは大目に見てあげる。そのかわり今度からは絶対隠し事は無しだよ」

「……本当にごめん、もう2度としないから。それでこれからどうしようか?」

 暴走する望月に対してどう対処すればいいかで頭を悩ませていた俺はそう話を切り出す。

「話を聞いている感じだと、どんな卑怯な手段を使ってくるか分からない人だと思うからとりあえずもう合わない方がいいのは間違いないよね」

「それは俺も思ってた。ゼミの教室はバレてるけど教授に事情を説明すれば多分しばらく休めるし、家とかに関してはまだバレてないからもう接触しないようにするよ」

 大学4年生前期のゼミは就職活動に専念しろという事で基本的には自由参加となっているため、休んでも問題は無いはずだ。
 それに望月は実乃里との嘘の別れ話の電話に満足したのか、家の場所などについては特に聞かれなかったためまだ知られていない。

「ただ胸を触っている写真を撮られたのが痛すぎるんだよな……あっ、さっきも言ったけど向こうが勝手に触らせてきただけで俺の意思では無いから」

「そんなの言われなくても分かってるよ。それよりさ、以前紫帆ちゃんが電車の中で望月さんが痴漢の冤罪をでっち上げようとしていた場面を見たって言ってたよね、ならさ前科があるわけだし簡単に信用はされないんじゃない?」

 教室の前で望月と会った時は完全に動揺していてそこまで頭が回らなかったが、確かに望月は駅で痴漢冤罪をでっち上げようとして紫帆に阻止されて失敗した前科があった。
 ならば警察も把握をしているはずだし、望月が騒いだとしても簡単に信用されないはずだ。

「後は大学の学生部のカウンセラーにストーカーの被害を受けてるって相談してみるのはどうかな? うちの大学でもストーカー行為を働いていた人がいて、実際そこから警察まで話が行って停学とその期間中は学内立ち入り禁止処分になってたよ」

 なるほど、直接警察にストーカーの相談に行くよりも大学を経由した方が色々と融通を聞かせてくれて便利かもしれない。
 周りに相談するのは正直情けないし自分1人で解決するべきだとここに来るまでは思っていた俺だったが、実乃里から怒られた事によって周りに頼るべきだと考えを改めていた。

「そうだな、チャットアプリとかのストーカーの物的証拠も色々とあるわけだし、明日相談してみるよ」

 ゼミが5限目だった事もあり、今日はもう時間も遅いためカウンセラーに相談するなら明日だ。
 そんな事を考えていると、突然ポケットに入れていた俺のスマホが鳴り始めた。
 画面に表示されていた番号は全く見知らぬものだったが、俺は意を決して電話に出る。

「はい、綾川です」

「春樹、さっきぶりね。元気かしら?」

 なんと電話の相手は着信拒否をしているはずの望月からだった。
 恐らく他人の携帯電話などを借りて俺にわざわざ電話を掛けて来たのではないだろうか。

「一体何のようだよ?」

「そんなのさっきの話の続きに決まってるじゃない。さっきは用事があったから最後まで話せなかったけど、今ならゆっくり話せるわね」

 どうやら先程さっさとどこかへ行ってしまったのは用事があったからのようだが、ならわざわざ俺を待ち伏せするなよと文句を言いたくなる。

「それで復縁の話しだけど勿論OKよね?あんたも彼女とも別れたんだからこれで問題ないはずよ」

「……じゃあはっきり言うけど、お前みたいな奴と復縁するのなんか絶対御免だ。それに彼女とも別れてないから、残念だったな」

「なによそれ、ふざけんな。じゃあ私の胸をあんたが触ってる写真を警察に持って行ってもいいわけ?」

 望月は苛立ったような声でそう捲し立ててくるが、そばに実乃里がいてくれるおかげで俺は全く動じない。

「お前が電車の中で冤罪をでっち上げようとして失敗した事を俺は知ってるよ。果たしてそんな前科があるような人間の言う事を信用なんてしてもらえるかな?」

「っ、それは……」

 そう言った瞬間、望月は都合が悪くなったのか一瞬黙り込んだ。
 恐らく前回失敗した時に駅員や警察から厳重注意でもされたのだろう。

「後、お前が送ってきたメッセージとかは全部嫌がらせの証拠として大学に提出してやるから覚悟しとけよ」

 そう言い残すとまだ何か喚いている望月を無視して、俺は一方的に電話を切る。
 当然今の電話番号も二度とかかって来ないようにすぐに着信拒否設定に忘れずに入れておく。

「春樹君、今の電話って……」

「ああ、望月からの電話だったよ」

 電話中心配そうな表情を浮かべて俺の横顔を見ていた実乃里に対してそう説明した。

「そっか、また何かあったらすぐに相談してよね」

「ああ、勿論そうするよ」

 望月に対して明確な拒絶と宣戦布告とも呼べるような態度を取った訳だが全く後悔はしていない。
 俺は望月冴子という女なんかに絶対負けたりはしない、心の中ではっきりとそう誓った。
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