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大学4年生編
第74話 Tutte bugie
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「ようやく会えたわね、春樹」
「お前、なんで教室の前にいるんだよ……」
ゼミが終わって家に帰ろうとしていた俺だったが、なんと教室の前で望月が待ち構えていたのだ。
そのうちゼミの教室がバレるかもしれないとは思っていたが、いざ目の前に現れると最悪の気分にさせられていた。
「チャットアプリをブロックした事と電話を着信拒否した事に関しては許してあげるから、私と復縁しなさい」
「悪いが断る。あんな事があったのにお前とやり直せるわけないだろ」
「なに、まだこっ酷く振った事を怒ってるわけ? だからあれは秋本から脅されて仕方なくやった事だってメッセージで説明したじゃない」
そうバレバレの嘘を吐く望月に呆れ返っていると、周りの視線が徐々に集まってきている事に気付く。
「とにかく俺はもうお前と復縁する気はないからな」
周りの目が気になり始めた俺はそう吐き捨てて歩き始めるが、教室のあった建物を出たところで後ろから追いかけてきた望月から腕を掴まれてしまう。
「ねえ、私の一体どこに不満があるわけ? 春樹がやって欲しい事があるならなんでもやってあげるんだから」
望月は俺の左手に胸を押し当てながら猫なで声で話しかけてくるが、はっきり言って気持ち悪かった。
多分実乃里に同じような事をされたら割と嬉しい場面かもしれないが、望月に関してはもう生理的に無理なのだ。
俺は無言で振り払うと、望月はかなりイライラした口調で話しかけてくる。
「待ちなさいよ、あんたみたいなモテなさそうな男が私みたいな美人とまた付き合えるんだから普通は泣いて喜ぶ場面でしょ」
「じゃあ質問だけど、俺のどこが良くて復縁したいわけ? だいぶ前会った時は男として何の価値もないとか身長も低いし顔もイマイチだとか、話も面白くないゴミとかって言われた気がするけど」
「そんなの平均年収1700万円ある四菱商事の合格者だからに決まってるでしょ。それだけで十分復縁したい理由になると思うけど」
なるほど、予想はしていたがやはり俺の内面ではなくステータスにしか興味がないらしい。
「実乃里とは大違い……っ!?」
あまりに酷すぎる理由を聞いてついそう小声でつぶやいてしまいすぐにハッとする俺だったが、気付いた時にはもう手遅れだった。
「えっ、実乃里って誰よ?」
「……妹だよ」
少しの間黙り込んだ後そうごまかすため咄嗟に思いついた嘘をつく。
「嘘ね、確か剣道をやってる妹がいるって話は前聞いた事あるけど実乃里って名前じゃなかったはずよ」
一瞬で嘘を見破られてしまい、つい妹の事を話してしまった昔の自分殴りたい気持ちになる俺だったが、望月はそのままの勢いでたたみかけてくる。
「まさかとは思うけど、ひょっとして彼女かしら?」
「ち、違う」
「……ふーん、彼女なんだ」
俺の激しく動揺した態度を見た望月は実乃里が彼女であると確信してしまったらしい。
流石にもう言い逃れは出来ないと悟った俺は素直に認める事にした。
「そうだよ、実乃里は俺の彼女だよ。だからお前と復縁するのは無理なんだよ」
「じゃあ今すぐここで電話して別れなさい、他に好きな人が出来たって言って」
彼女がいると認めれば諦めてくれるのでは無いかと淡い期待を抱いた俺だったが、望月はそんな事を言い放ったのだ。
「いやいや、そんなの無理に決まってるだろ」
「じゃあ春樹に胸を触られたってここで騒いでもいいけど? ちなみに示談に応じるつもりな一切ないから前科持ちになるわね。ちなみにさっきの写真も撮ってるから」
「くっ……」
痴漢事件でも女性の証言だけが一方的に信じられてしまうため、今の状況は非常に最悪と言っても過言では無い。
しかもいつの間にか俺の手に自分の胸を押し当てていた時の写真を無音カメラアプリで撮っていたようで、腕時計を付けた左腕がしっかりと写ってしまっている。
万が一前科持ちになってしまえば宮永先輩のように四菱商事からの内々定を取り消されかねないのだ。
この場を切り抜けるためにとある作戦を思いついた俺は電話をかける事を決める。
「……分かったよ、今から電話をかけるからそれだけは辞めてくれ」
「観念したようね、じゃあすぐに電話しなさい。 あっ、勿論スピーカーモードで話しなさいよね」
スピーカーモードで話せという望月の言葉を聞いて作戦が一瞬で駄目になってしまった事に気付き、つい舌打ちをしたい気分になる。
俺が考えていた作戦は117に電話して実乃里に電話するふりをする事だったのだ。
流石に万事休止かと俺が思っていた時、とあるアプリから通知が来た事に気付き新しい作戦を思いついた。
この作戦は実際に実乃里に電話をする必要があり、彼女を激しく傷付けてしまう可能性があるためできればやりたくないが、他に方法は無い。
俺は電話帳アプリから実乃里の電話番号を見つけると電話をかけ始める。
「もしもし、春樹君どうしたの?」
「……ごめん、俺と別れて欲しい」
「えっ、どうしたの急に!?」
突然の俺からの別れ話に実乃里は混乱したようで電話の向こうで慌てふためいていて動揺している様子が伝わってきた。
望月の指示通りに他に好きな人ができたと嘘の理由を説明をしていくと、実乃里は考え直して欲しい別れたく無いと懇願してくるが余計なことが言えない俺は全部嘘だと言いたくなるのを必死に我慢しながら電話を続ける。
隣でニヤニヤしながら見ている望月に激しい殺意を覚える俺だったが、こいつにだけは絶対に負けるつもりは無い。
そして電話を切る直前、涙声で引き留めてくる実乃里に対して静かに”Tutte bugie”と短く伝えると、彼女は驚いたような反応をした後黙り込んだ。
どうやら実乃里は泣いていながらも俺の意図を正確に理解してくれたようで一言”分かった”とだけつぶやくと向こうから電話を切ってきた。
「よくやったわ。これで彼女とも別れたんだから私と付き合えるわね。それよりも最後のトゥッテなんとかって何?」
「……あれは時々出る口癖だよ、それよりもこれで満足しただろ。俺は疲れたから家に帰らせてもらう」
「いいわ、今日はもう許してあげる。続きはまた今度話しましょ、じゃあね春樹!」
望月はそう言い残すと上機嫌な様子でどこへ歩き去る。
「……ばーか、本当に別れるわけないだろ」
その場に1人残された俺は望月が見えなくなったのを確認するとそうつぶやいた。
“Tutte bugie”とはイタリア語で”全て嘘”という意味で、さっきの通知とは最近勉強を始めたイタリア語の勉強アプリからのものであり、実乃里がイタリア語を理解できたのは授業の第二言語として履修しているからだ。
「実乃里に望月からストーカーされてるって事前に話しとけば良かったな……」
事前に相談さえしていればイタリア語を話すという回りくどい方法を取ったり、悲しませたりせずに済んだかもしれないのにと激しく後悔する。
実乃里は俺の彼女であり、全面的に信じてくれているのだから初めから迷惑がかかるなど思わず素直に相談するべきだったのだ。
「実乃里から数発くらいビンタされるのを覚悟しないといけないな……」
俺は実乃里にどうやって謝罪しようかとひたすら考えながら家へと帰り始めた。
「お前、なんで教室の前にいるんだよ……」
ゼミが終わって家に帰ろうとしていた俺だったが、なんと教室の前で望月が待ち構えていたのだ。
そのうちゼミの教室がバレるかもしれないとは思っていたが、いざ目の前に現れると最悪の気分にさせられていた。
「チャットアプリをブロックした事と電話を着信拒否した事に関しては許してあげるから、私と復縁しなさい」
「悪いが断る。あんな事があったのにお前とやり直せるわけないだろ」
「なに、まだこっ酷く振った事を怒ってるわけ? だからあれは秋本から脅されて仕方なくやった事だってメッセージで説明したじゃない」
そうバレバレの嘘を吐く望月に呆れ返っていると、周りの視線が徐々に集まってきている事に気付く。
「とにかく俺はもうお前と復縁する気はないからな」
周りの目が気になり始めた俺はそう吐き捨てて歩き始めるが、教室のあった建物を出たところで後ろから追いかけてきた望月から腕を掴まれてしまう。
「ねえ、私の一体どこに不満があるわけ? 春樹がやって欲しい事があるならなんでもやってあげるんだから」
望月は俺の左手に胸を押し当てながら猫なで声で話しかけてくるが、はっきり言って気持ち悪かった。
多分実乃里に同じような事をされたら割と嬉しい場面かもしれないが、望月に関してはもう生理的に無理なのだ。
俺は無言で振り払うと、望月はかなりイライラした口調で話しかけてくる。
「待ちなさいよ、あんたみたいなモテなさそうな男が私みたいな美人とまた付き合えるんだから普通は泣いて喜ぶ場面でしょ」
「じゃあ質問だけど、俺のどこが良くて復縁したいわけ? だいぶ前会った時は男として何の価値もないとか身長も低いし顔もイマイチだとか、話も面白くないゴミとかって言われた気がするけど」
「そんなの平均年収1700万円ある四菱商事の合格者だからに決まってるでしょ。それだけで十分復縁したい理由になると思うけど」
なるほど、予想はしていたがやはり俺の内面ではなくステータスにしか興味がないらしい。
「実乃里とは大違い……っ!?」
あまりに酷すぎる理由を聞いてついそう小声でつぶやいてしまいすぐにハッとする俺だったが、気付いた時にはもう手遅れだった。
「えっ、実乃里って誰よ?」
「……妹だよ」
少しの間黙り込んだ後そうごまかすため咄嗟に思いついた嘘をつく。
「嘘ね、確か剣道をやってる妹がいるって話は前聞いた事あるけど実乃里って名前じゃなかったはずよ」
一瞬で嘘を見破られてしまい、つい妹の事を話してしまった昔の自分殴りたい気持ちになる俺だったが、望月はそのままの勢いでたたみかけてくる。
「まさかとは思うけど、ひょっとして彼女かしら?」
「ち、違う」
「……ふーん、彼女なんだ」
俺の激しく動揺した態度を見た望月は実乃里が彼女であると確信してしまったらしい。
流石にもう言い逃れは出来ないと悟った俺は素直に認める事にした。
「そうだよ、実乃里は俺の彼女だよ。だからお前と復縁するのは無理なんだよ」
「じゃあ今すぐここで電話して別れなさい、他に好きな人が出来たって言って」
彼女がいると認めれば諦めてくれるのでは無いかと淡い期待を抱いた俺だったが、望月はそんな事を言い放ったのだ。
「いやいや、そんなの無理に決まってるだろ」
「じゃあ春樹に胸を触られたってここで騒いでもいいけど? ちなみに示談に応じるつもりな一切ないから前科持ちになるわね。ちなみにさっきの写真も撮ってるから」
「くっ……」
痴漢事件でも女性の証言だけが一方的に信じられてしまうため、今の状況は非常に最悪と言っても過言では無い。
しかもいつの間にか俺の手に自分の胸を押し当てていた時の写真を無音カメラアプリで撮っていたようで、腕時計を付けた左腕がしっかりと写ってしまっている。
万が一前科持ちになってしまえば宮永先輩のように四菱商事からの内々定を取り消されかねないのだ。
この場を切り抜けるためにとある作戦を思いついた俺は電話をかける事を決める。
「……分かったよ、今から電話をかけるからそれだけは辞めてくれ」
「観念したようね、じゃあすぐに電話しなさい。 あっ、勿論スピーカーモードで話しなさいよね」
スピーカーモードで話せという望月の言葉を聞いて作戦が一瞬で駄目になってしまった事に気付き、つい舌打ちをしたい気分になる。
俺が考えていた作戦は117に電話して実乃里に電話するふりをする事だったのだ。
流石に万事休止かと俺が思っていた時、とあるアプリから通知が来た事に気付き新しい作戦を思いついた。
この作戦は実際に実乃里に電話をする必要があり、彼女を激しく傷付けてしまう可能性があるためできればやりたくないが、他に方法は無い。
俺は電話帳アプリから実乃里の電話番号を見つけると電話をかけ始める。
「もしもし、春樹君どうしたの?」
「……ごめん、俺と別れて欲しい」
「えっ、どうしたの急に!?」
突然の俺からの別れ話に実乃里は混乱したようで電話の向こうで慌てふためいていて動揺している様子が伝わってきた。
望月の指示通りに他に好きな人ができたと嘘の理由を説明をしていくと、実乃里は考え直して欲しい別れたく無いと懇願してくるが余計なことが言えない俺は全部嘘だと言いたくなるのを必死に我慢しながら電話を続ける。
隣でニヤニヤしながら見ている望月に激しい殺意を覚える俺だったが、こいつにだけは絶対に負けるつもりは無い。
そして電話を切る直前、涙声で引き留めてくる実乃里に対して静かに”Tutte bugie”と短く伝えると、彼女は驚いたような反応をした後黙り込んだ。
どうやら実乃里は泣いていながらも俺の意図を正確に理解してくれたようで一言”分かった”とだけつぶやくと向こうから電話を切ってきた。
「よくやったわ。これで彼女とも別れたんだから私と付き合えるわね。それよりも最後のトゥッテなんとかって何?」
「……あれは時々出る口癖だよ、それよりもこれで満足しただろ。俺は疲れたから家に帰らせてもらう」
「いいわ、今日はもう許してあげる。続きはまた今度話しましょ、じゃあね春樹!」
望月はそう言い残すと上機嫌な様子でどこへ歩き去る。
「……ばーか、本当に別れるわけないだろ」
その場に1人残された俺は望月が見えなくなったのを確認するとそうつぶやいた。
“Tutte bugie”とはイタリア語で”全て嘘”という意味で、さっきの通知とは最近勉強を始めたイタリア語の勉強アプリからのものであり、実乃里がイタリア語を理解できたのは授業の第二言語として履修しているからだ。
「実乃里に望月からストーカーされてるって事前に話しとけば良かったな……」
事前に相談さえしていればイタリア語を話すという回りくどい方法を取ったり、悲しませたりせずに済んだかもしれないのにと激しく後悔する。
実乃里は俺の彼女であり、全面的に信じてくれているのだから初めから迷惑がかかるなど思わず素直に相談するべきだったのだ。
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