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大学4年生編

第68話 失敗と教訓

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 大学生最後のゴールデンウィークが目前に迫った今日、友隅ともすみ物産の一次面接からの帰り道で俺は激しい絶望感と後悔に襲われていた。

「……くそ、やらかした。友隅物産は絶対落ちただろうし、マジで辛すぎる」

 面接中に取り返しがつかないレベルの致命的なミスを犯してしまったため、今回の一次面接の不合格は残念ながら確実に免れないだろう。
 致命的なミスとは志望動機を聞かれた際に説得力を出す為に経営理念と絡めながら答えようとしたのだが、間違えて友隅物産では無い他社の経営理念と絡めて話してしまった事だ。
 当然面接官からはすぐに弊社の経営理念では無いとツッコミを入れられて、それによって激しく動揺した事でその後の面接はぐだぐだになってしまった。

「俺が面接官でも絶対落とすレベルで酷かったし、よりにもよって経営理念を間違えるとか最悪すぎるだろ」

 経営理念を間違えてしまうという事は企業に対して非常に失礼な行為であり、面接中に一番犯してはならないミスと言える。
 先日あった四菱商事の二次面接に合格して心に余裕が生まれ、有頂天になって油断してしまっていた事が今回のミスを引き起こした原因に違いない。

「せっかく難しかった筆記試験と書類選考を頑張ってなんとか突破してようやく一次面接まで進めてたのに……」

 今更嘆いても仕方ないと頭では十分に理解していながらも、ついそうつぶやいてしまった。

「……こんなところでぼやいてても仕方がないし、とにかく今は家に帰ろう」

 俺は悔しさを必死に押し殺しながら駅へと向かい始める。
 それから電車に乗って最寄駅まで戻ってきた俺はそのまま歩いて家に帰ると、スーツから私服に着替えて駐輪場へ向かう。
 今日の面接でやらかした失敗のストレスを少しでも解消するために今からバイクでドライブに行くつもりなのだ。
 頭にヘルメットを被りバイクに跨った俺はギアをニュートラルから1速に入れて発進すると、猛スピードで走り始める。
 特に目的地は思いつかなかったためしばらくの間適当に当てのないドライブを続けていると、道路に設置された案内標識を見て、今いる場所が以前紫帆や実乃里と行った海水浴場の近くという事に気付く。

「海を見たら心が落ち着きそうな気がするな。せっかくだし行ってみようか」

 海を見に行くと決めた俺はそのままバイクを走らせて海水浴場へと向かい始める。
 それから10分もかからないうちに到着したわけだが、海とは季節外れな4月の平日という事でほとんど人が居ない状態だった。
 俺は波の音をBGMとして聞きながら夕焼けで赤く染まった砂浜をひたすら歩き続ける。

「紫帆とは確か去年の6月くらいに来て、実乃里とは夏休みに来たんだっけ。ちょっと前の出来事な気がしてたけど、あれからもうだいぶ経つんだよな……」

 歩いているうちに色々と思い出してきた俺は静かにそうつぶやいた。
 次第に歩き疲れて足が痛くなってきた俺は砂浜にゆっくりと座り、それからただぼーっと海を眺める。
 しばらくしてだんだん心が落ち着き始めた俺は、今日の面接の振り返りを行う。

「最初に聞かれた自己PRに関しては全然問題なかったし、次の学生時代に頑張った事についても結構上手く話せてたはず。やっぱり問題は志望動機だよな、四井USJ銀行の経営理念を間違えて話したのが正直痛すぎたな……」

 四井USJ銀行の面接が明後日に控えているという事もあり並行して面接の練習をやっていたわけだが、恐らくはそれが良くなかったのかもしれない。

「今日みたいに別の企業の経営理念を間違えて言うみたいな事になるのは2度とごめんだし、面接練習とかは別々にやった方が絶対良いよな。それに面接のスケジュールも次からはもっと時期が重ならないように調整するべきだし、その辺はもっと考えないと……」

 そのまま砂浜に座った状態で俺は面接の反省や今後の対策などを色々と考え始める。
 今日の面接はほぼ間違いなく残念な結果に終わるだろうが、痛い目に合って教訓を得られた事を考えると決して無駄な経験では無かったと言えるのではないだろうか。
 そもそも最近選考で成果が出せるようになってきたのも、インターン選考での落選経験や外資系企業の面接で落とされ続けた失敗経験があるからこそに他ならないのだ。
 それに気付けたおかげで俺の中からはさっきまであったネガティブな気持ちが一気に消え去る。

「そうだ、人生に無駄な経験なんて1つも無いんだ。その時は無駄と思ったとしても後から生きてくる可能性だってあるんだから今日の失敗だって絶対無駄じゃないし、次に活かせばいいんだよ」

 そう結論が出て満足していた俺だったが、いつの間にか辺りが暗くなっている事に気付く。

「……って、もうこんな時間じゃん。いつの間にか暗くなってるしそろそろ帰ろう」

 砂浜からゆっくり立ち上がると、俺はバイクを停めた駐車場へ向かって歩き始める。
 すっかりと明るさと元気を取り戻した俺の足取りは、今日最初にここへ来た時よりも明らかに軽く感じた。
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