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大学3年生編前期
第28話 紫帆からの可愛いお願い
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3年生になってから約1ヶ月が経過し、今はちょうどゴールデンウィークが終わったところだ。
久々の長い休みが終わり今日から授業のため、俺は朝から憂鬱な気分にさせられていた。
相変わらず俺のベッドに潜り込んで寝ている紫帆の体を揺さぶって起こすと、2人で朝食の準備して食べ始める。
「実家だとママが朝ごはんの準備をしてくれてたから楽だったけど、こっちに帰ってきたら全部自分達やらないといけないから大変だよ……」
眠たそうな表情でコーヒーを飲みながら紫帆はそんな事を口にした。
ゴールデンウィーク中、俺と紫帆は実家に帰っており掃除や洗濯、食事の準備などは母が全てやっていたので、そのありがたみを実感しているらしい。
「その気持ちは分かる、俺も1年生の今くらいの時期は同じように思ってたからな。でも2人暮らしな分、分担できるから1人で住むよりは断然楽だと思うよ」
実際俺は、1人で住んでいた時よりも、紫帆と2人で暮らし始めてからの方が色々楽になったと感じていた。
「お兄ちゃんと一緒に住んで本当に良かったよ。私1人だと手を抜いたり後回しにしたりしそうだから、今頃大変な事になってた気がする……」
「紫帆は昔からめんどくさがり屋だったからな。俺が卒業するまでにある程度矯正しといた方がいいぞ、卒業したら一人暮らしになるんだから」
俺は今3年生であり、後2年で大学を卒業してしまうので、そこから紫帆は1人で住む事になるのだ。
「そっか、お兄ちゃんが卒業したら1人になるのか。私1人で4年も生活できるかな……?」
紫帆は先の未来を想像したのか、少し寂しそうな表情でこちらを見つめてくる。
「暮らすだけならどうにでもなるよ。まあ手を抜きすぎたら生活の質はほぼ間違いなく下がるだろうけど」
「……じゃあさ、私が卒業するまで留年するってのはどう?」
紫帆は少し考えた後、ニヤニヤとした表情でとんでもない発言を俺にしてきた。
「いやいや、留年するのは駄目だろ。俺の人生が狂っちまうよ」
万が一、特に大きな理由なく留年なんかした日には、就職活動のマイナス要因になりかねないので、それだけは絶対に嫌だ。
特に俺が志望している業界の1つである銀行や証券会社などの金融業界は、お金を扱う関係上真面目な人物が好まれるため、留年は大きなマイナス要因になりかねない。
外資系や総合商社は長期留学などの理由で留年している人間も割と多いらしいが、やはり意味のない留年は就活の際に大打撃になるだろう。
俺が真面目にそんな事を考えていると、紫帆はおちゃらけたような口調で話し始める。
「もし就職に失敗しても私がお兄ちゃんを一生養ってあげるから心配しないで、将来は薬剤師になる予定だからお金も多分大丈夫だし」
「就活に失敗した末路が妹のヒモになるって、想像しただけでも相当悲惨だし嫌すぎるんだけど……そもそも紫帆はせっかく頑張って薬学部に入ったのにそれでいいのか」
「勿論」
紫帆の元気な返答を聞いた俺はだんだんと頭が痛くなってきた。
難関大学の1つである平成大学の薬学部に入るような学力があっても、どうやら紫帆の頭の中は相当残念なようだ。
はっきり言って才能の無駄遣いと言わざるを得ないだろう。
俺が本気で哀れみの視線を送っていると、それに気付いた紫帆は弁明を始める。
「やだなぁ、今のは冗談。妹の可愛い嘘って奴だよ」
「割とマジのトーンに聞こえたのは気のせいって事でいいんだよな?気のせいじゃないならお前の将来がかなり心配なんだけど……」
「そんなドン引きしたような顔しないでよ、常識人の私がそんな事を本気で言うわけないでしょ」
人の布団の中へ勝手に潜り込んでくるような奴のどこが常識人なんだと言いたくなるが、もはやツッコミを入れる事すら面倒になったので何も言わなかった。
そんな会話をしているうちに俺達2人は朝食を食べ終わり、それぞれが朝のルーティンをこなしていると紫帆が突然口を開く。
「そう言えばお兄ちゃんって大学院に行く予定はないの?」
「今のところ大学院に進学する事は一切考えてないんだよな。正直あんまり行く意味が無いと思ってるし」
「えっ、成績優秀者なんだから、大学院に行くのは選択肢として全然ありだと思うけど……」
俺の言葉を聞いた紫帆は意外そうな顔で、そう反応を返してきた。
「紫帆みたいな理系の学生ならともかく、ぶっちゃけ文系で経済学部の俺が大学院まで行くメリットはほとんど無いんだよ。別に大学院で学んだ事を企業で活かす機会なんてほとんど無いはずだしさ」
経済学者のような専門家にでもなるなら別だが、普通の企業に就職するなら大学院に行って2年遅く社会に出るメリットがあるとはあまり思えない。
「そうなんだ、もしお兄ちゃんが大学院に行くなら後4年は一緒に住めると思ったんだけどな」
鏡の前でメイクをしていた紫帆はつまらなそうな顔でそう答えた。
「真面目な話かと思ったら結局それかよ、どれだけ俺と一緒に住みたいんだよ」
ようやく別の話になったと思ったのに、またこの話に戻るのか……
それが俺の正直な気持ちであり、朝から紫帆のせいで疲れてしまったので、1限の授業をサボってベッドに戻って寝たい気分にさせられるのだった。
久々の長い休みが終わり今日から授業のため、俺は朝から憂鬱な気分にさせられていた。
相変わらず俺のベッドに潜り込んで寝ている紫帆の体を揺さぶって起こすと、2人で朝食の準備して食べ始める。
「実家だとママが朝ごはんの準備をしてくれてたから楽だったけど、こっちに帰ってきたら全部自分達やらないといけないから大変だよ……」
眠たそうな表情でコーヒーを飲みながら紫帆はそんな事を口にした。
ゴールデンウィーク中、俺と紫帆は実家に帰っており掃除や洗濯、食事の準備などは母が全てやっていたので、そのありがたみを実感しているらしい。
「その気持ちは分かる、俺も1年生の今くらいの時期は同じように思ってたからな。でも2人暮らしな分、分担できるから1人で住むよりは断然楽だと思うよ」
実際俺は、1人で住んでいた時よりも、紫帆と2人で暮らし始めてからの方が色々楽になったと感じていた。
「お兄ちゃんと一緒に住んで本当に良かったよ。私1人だと手を抜いたり後回しにしたりしそうだから、今頃大変な事になってた気がする……」
「紫帆は昔からめんどくさがり屋だったからな。俺が卒業するまでにある程度矯正しといた方がいいぞ、卒業したら一人暮らしになるんだから」
俺は今3年生であり、後2年で大学を卒業してしまうので、そこから紫帆は1人で住む事になるのだ。
「そっか、お兄ちゃんが卒業したら1人になるのか。私1人で4年も生活できるかな……?」
紫帆は先の未来を想像したのか、少し寂しそうな表情でこちらを見つめてくる。
「暮らすだけならどうにでもなるよ。まあ手を抜きすぎたら生活の質はほぼ間違いなく下がるだろうけど」
「……じゃあさ、私が卒業するまで留年するってのはどう?」
紫帆は少し考えた後、ニヤニヤとした表情でとんでもない発言を俺にしてきた。
「いやいや、留年するのは駄目だろ。俺の人生が狂っちまうよ」
万が一、特に大きな理由なく留年なんかした日には、就職活動のマイナス要因になりかねないので、それだけは絶対に嫌だ。
特に俺が志望している業界の1つである銀行や証券会社などの金融業界は、お金を扱う関係上真面目な人物が好まれるため、留年は大きなマイナス要因になりかねない。
外資系や総合商社は長期留学などの理由で留年している人間も割と多いらしいが、やはり意味のない留年は就活の際に大打撃になるだろう。
俺が真面目にそんな事を考えていると、紫帆はおちゃらけたような口調で話し始める。
「もし就職に失敗しても私がお兄ちゃんを一生養ってあげるから心配しないで、将来は薬剤師になる予定だからお金も多分大丈夫だし」
「就活に失敗した末路が妹のヒモになるって、想像しただけでも相当悲惨だし嫌すぎるんだけど……そもそも紫帆はせっかく頑張って薬学部に入ったのにそれでいいのか」
「勿論」
紫帆の元気な返答を聞いた俺はだんだんと頭が痛くなってきた。
難関大学の1つである平成大学の薬学部に入るような学力があっても、どうやら紫帆の頭の中は相当残念なようだ。
はっきり言って才能の無駄遣いと言わざるを得ないだろう。
俺が本気で哀れみの視線を送っていると、それに気付いた紫帆は弁明を始める。
「やだなぁ、今のは冗談。妹の可愛い嘘って奴だよ」
「割とマジのトーンに聞こえたのは気のせいって事でいいんだよな?気のせいじゃないならお前の将来がかなり心配なんだけど……」
「そんなドン引きしたような顔しないでよ、常識人の私がそんな事を本気で言うわけないでしょ」
人の布団の中へ勝手に潜り込んでくるような奴のどこが常識人なんだと言いたくなるが、もはやツッコミを入れる事すら面倒になったので何も言わなかった。
そんな会話をしているうちに俺達2人は朝食を食べ終わり、それぞれが朝のルーティンをこなしていると紫帆が突然口を開く。
「そう言えばお兄ちゃんって大学院に行く予定はないの?」
「今のところ大学院に進学する事は一切考えてないんだよな。正直あんまり行く意味が無いと思ってるし」
「えっ、成績優秀者なんだから、大学院に行くのは選択肢として全然ありだと思うけど……」
俺の言葉を聞いた紫帆は意外そうな顔で、そう反応を返してきた。
「紫帆みたいな理系の学生ならともかく、ぶっちゃけ文系で経済学部の俺が大学院まで行くメリットはほとんど無いんだよ。別に大学院で学んだ事を企業で活かす機会なんてほとんど無いはずだしさ」
経済学者のような専門家にでもなるなら別だが、普通の企業に就職するなら大学院に行って2年遅く社会に出るメリットがあるとはあまり思えない。
「そうなんだ、もしお兄ちゃんが大学院に行くなら後4年は一緒に住めると思ったんだけどな」
鏡の前でメイクをしていた紫帆はつまらなそうな顔でそう答えた。
「真面目な話かと思ったら結局それかよ、どれだけ俺と一緒に住みたいんだよ」
ようやく別の話になったと思ったのに、またこの話に戻るのか……
それが俺の正直な気持ちであり、朝から紫帆のせいで疲れてしまったので、1限の授業をサボってベッドに戻って寝たい気分にさせられるのだった。
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