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大学3年生編前期

第26話 自業自得の自滅

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 彼女がいる事を告白し、紫帆が暴走してから数日が経過したのだが、あれからは特に大きなリアクションは起こしていなかった。
 俺の大切な妹が痴女になってしまったのでは無いかと本気で心配する羽目になってしまったが、恐らくは一時的な気の迷いだったのだろう。
 紫帆からの過剰なスキンシップを除けば、どこにでもいる仲の良い兄妹と言えるはずだ。
 だが以前と比べて、紫帆はほんの少し元気を無くしたように感じていた。
 恐らくは俺に彼女ができた事が落ち込んでいる原因であり、下手に慰めると逆効果になりそうな気がしている。
 そのため俺はしばらくそっと見守る方向性でいくつもりだ。
 そんな事を思いながら、俺は持ち物を確認しリュックを背負うと、バイクにまたがり大学へと向かい始めた。
 今日の授業は3限からのため、紫帆を見送った後は家でゆっくりしていたのだが、昼食がまだな俺はどのタイミングで食べるかを走りながら考え始める。

「……昼飯は空きコマに学食で食べようかな、多分3限目が終わってからなら人が少ないはずだし」

 今の時間帯は学外のレストランも大学の学食もかなり混雑している事が予想されるため、どうしようか色々と考えた末、空きコマである4限目の時間帯に食べる事を決めた。
 大学の駐輪場についた俺は3限目の授業であるTOEIC最上級の教室へと向かう。
 今日が第1回目の授業であるTOEIC最上級だが、この科目は点数が600点以上ないと履修すらできない厳しい条件があり、900点以上を目指すカリキュラムとなっている事から、授業のレベルもかなり高いらしい。
 そんな一部の優秀な人間しか受講できない科目を履修している事は、学内ではかなりのステータスであり、俺は選ばれし人間になったと言っても過言ではない。
 教室に到着すると周りはTOEICへのモチベーションが高そうな人間ばかりであり、学内の成績優秀者に選ばれているような顔もちらほら見える。
 そして授業が始まると、俺は周りのレベルの高さに圧倒された。
 必修科目で全員が強制的に受けさせられている英語の授業とは違い、西洋大学の中でも英語力がトップクラスの人材ばかりが自主的に集まっている授業であるため、そのレベルは想像の遥か上を行っていたのだ。
 だが、俺も挫けずに今までの勉強や春休みの短期留学で身に付けた英語力を駆使して授業に食らいつく。
 そして気付けば授業はあっという間に終わりの時間を迎えた。
 授業を終えての感想は、やはり努力のできる優秀な人間に囲まれる事は刺激になって素晴らしいというものだ。
 はっきり言って、望月や秋本のような低レベルな人間達と過ごすよりも何百倍も有意義な時間の使い方だったとすら強く感じている。
 このレベルの高い集団の中で頑張ればTOEICの点数は確実にアップする、俺はそんな予感を強く覚えていた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 それから学食に到着すると予想通りガラガラであり、かなりの空席が存在している。
 適当な席に荷物を置くと、俺は券売機でとんかつ定食の食券を購入し、おぼんに乗せて店員へ渡す。
 しばらくその場で待っていると学食の外にいる嫌な集団が俺の目に飛び込んできた。
 その嫌な集団とは、俺の元サークルのメンバー達の事だ。
 この学食は部室から近い位置にあるため、彼らがいても何の不思議もない。
 見たことのない顔もちらほら混ざっていることから、恐らく新入生もいるのだろう。
 無用なトラブルを避けたいと思った俺は見つからないようにこの場を一旦離れようとするが、その努力も虚しくすぐに見つかってしまった。
 集団の先頭に立っている小太りの男、加藤は俺の顔を見るなり、苛立ったような顔でこちらへ向かってくる。
 加藤は俺の目の前までやってくると、俺の胸ぐらを掴むと、加藤は凄い勢いで怒鳴り始めたのだ。

「おい、綾川。お前のせいで宮永さんが内定取り消しになって就職留年する羽目になったじゃねえかよ、どうしてくれんだよ」

 なるほど、宮永先輩はやはり就職活動が上手くいかなかったらしい。
 就職留年してもどうせ結果は変わらないのだから、時間の無駄ではないだろうか。
 目の前で怒り狂う加藤を前に、俺が冷静に考えていると、その様子が気に入らなかったのか、加藤はさらにヒートアップしてしまう。

「今すぐ宮永さんに土下座しろよ、お前みたいなストーカー野郎のせいで人生が無茶苦茶になったんだぞ」

 怒りが収まらない様子の加藤は、あろうことか俺がおぼんの上に乗せていた水入りのコップを手に取り、思いっきりこちらへ投げつけてきた。
 服が濡れるのが嫌だった俺はギリギリでかわす事に成功するが、コップは隣に立っていた背の高い中年男性の顔に直撃してしまう。
 あれ、俺の隣にいる人って確かうちの大学の部活やサークルみたいな公認団体を管理してる学生部の部長だったような……
 俺がそんな事を考えていると、男性はハンカチで顔を拭きながら、ゆっくりと口を開く。

「君、どこの誰だ。今すぐ名前と学部、学籍番号を答えなさい」

 男性の顔からは怒りが滲み出ており、かなり怒っているようだ。

「やばい、逃げろ」

 さっきまで興奮していた加藤は一瞬で顔が真っ青となり一目散に逃げていく。
 その様子を見て当然怒り狂う男性だったが、俺は加藤の名前や学部などの個人情報を知っていたため、全て洗いざらい提供してやった。
 すると後日、俺が情報提供をしたおかげで混声合唱サークルが1ヶ月の活動停止処分となったと、大学の電子掲示板に貼り出される事となる。
 具体的な理由としては、サークルの副代表が学生部長に暴行を働いたからだそうだ。

「おいおい、あいつ副代表だったのかよ。大丈夫かあのサークル……」

 その掲示板を見た俺は呆れ顔でそう呟いた。
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