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大学3年生編前期
第25話 シスタークライシス
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授業とアルバイトが終わった夜、俺は夕食とお風呂を済ませた後、ベランダで実乃里と通話していた。
ここ1週間は引っ越しや紫帆の入学式の参加などでかなりバタバタしていて、ゆっくり通話するのは久々となる。
妹と同居するために引っ越すと1週間前にチャットアプリで伝えた時、驚いていた事は記憶に新しい。
「……それで妹さんとの生活はどう、慣れた?」
「2人で暮らすってのは少し落ち着かなかったけど、ようやく慣れてはきた。ただ未だに俺にべったりなのは少し心配だけど……」
ベッドの中に潜り込んでくるようなところまでは流石に話せないため、そこは適当に濁しておく。
「でもちょっと羨ましいかな。私は一人っ子で親戚にも歳が近い子はいなかったからさ、兄弟が欲しいって時々思うんだよね」
「俺は妹がいてくれて嬉しいって思ってるけど、その反面喧嘩とかも絶対起きるし、色々大変な事もあるけどな」
実際に俺と紫帆は昔から些細な事で兄妹喧嘩をしてきており、よく両親を困らせていた。
それからしばらく通話していると、部屋の中から紫帆が俺の方をじっと見つめてきている事に気付く。
一瞬何か俺に用でもあるのかと思うがベランダに出てくるような素振りはなく、ただただ無言で俺を見つめてきていたのだ。
「ごめん、なんか妹に呼ばれてるような気がするからそろそろ切るな」
「オッケー、また何かあったらいつでも電話かけてきてね」
実乃里との通話を終了させた俺は部屋の中へ入ると、紫帆がゆっくりと俺に話しかけてくる。
「お兄ちゃん、楽しそうに誰と通話してたの?」
やっぱり気になるよな……俺はそう思いつつも、紫帆にどう返答するべきかを激しく悩む。
その理由は単純で、紫帆には彼女ができた事をまだ伝えていないからだ。
ブラコン気味な紫帆に彼女ができた事を伝える勇気が中々出ず、結果的にこの瞬間まで先延ばしにしてしまっていた。
最初は適当に誤魔化す事も考えていたが、今後も隠し続けるのは難しいと判断した俺は、この機会に正直に答える事にする。
「実はさ、ちょっと前に彼女ができたんだよ。さっき通話してたのはその彼女」
「……えっ!?」
俺の言葉を聞いた紫帆はかなりの衝撃を感じたようで完全に固まってしまい、手に持っていたスマホを床に落とす。
「それってどこの誰よ。画面から出てこれない女の子じゃなくて、本当に実在する人なの!?」
紫帆は目に見えて取り乱し始め、俺の肩を掴むと次々と言葉を捲し立てる。
こんな反応が返ってくる事は予想済みだったので、しばらく落ち着くのを待ってから俺は話始める。
「紫帆と同じ平成大学に通ってる俺と同い年の人で、TOEICの予備校で知り合ったんだよ」
「……まさかお兄ちゃんに彼女ができるなんて」
かなり暗い表情となった紫帆はゆっくりとそう呟いた。
紫帆はよく彼女がいない俺をからかっていて、いつまで経っても彼女ができないなら最後は私がなってあげると口癖のように言っていたので、恐らくショックを受けたのだろう。
もし逆の立場で紫帆に彼氏ができた時、恐らく俺も同じような気持ちになるに違いない。
「……ごめん、今日はもう寝る」
紫帆は短くそう言い残すと足早に寝室へと入って行く。
少し寂しい気もするがこれを機会にそろそろ兄離れをして欲しい、俺はそんな事を思いながらその後ろ姿を静かに見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして次の日の朝、俺は目を覚ました瞬間、驚いてベッドから飛び起きる事となる。
昨日と同様、紫帆が俺のベッドへ潜り込んでいる事は一緒だが、なんと服や下着を一切着ていない全裸で俺に抱きついて寝ていたのだ。
俺は当然服を着たままだが、側から見たら完全に事後にしか見えず、こんな光景を親や実乃里から見られたら大変な事になるに違いない。
俺が飛び起きた時の衝撃で紫帆も目を覚まし、ゆっくりとベッドから起き上がる。
その際に布団が剥がれ、胸や下半身が丸見えとなり、俺は慌てて目を隠す。
「お兄ちゃん、おはよう。そんなに慌ててどうしたのよ」
「おい、お前なんで裸になってるんだよ。いいから今すぐに服を着ろ」
平然とそんな事を口にする紫帆に対して、俺はそう言い放つと急いで寝室から外に出た。
「いったい何のつもりなんだよ、あいつは……」
妹の全裸を意図せぬ形で見せつけられた俺は変な気持ちにさせられている。
最後に紫帆の全裸を見たのは小学生低学年の頃なので、10年以上は前なのだ。
いくら兄妹とは言え、はっきり言って成長したその体は目に毒であり、心臓にめちゃくちゃ悪い。
そんな事を思っていると寝室のドアが開き、服を着た紫帆が出てきた。
いたずらが成功したと言いたげな表情をしており、少し腹立たしい気分にさせられる。
「何のつもりか分からないけど、紫帆もいい歳なんだから裸になるのはやめろ……」
「ごめんごめん、寝てる間に脱いじゃったみたい」
絶対わざとだろと思いつつも、朝から疲れさせられた俺は何も言う気になれなかった。
朝から突然こんな事をやらかした理由については、俺に彼女ができた事がきっかけと考えているが、その動機については今のところ全く分からない。
とにかく紫帆の行動については今後も注意する必要があるだろう。
ここ1週間は引っ越しや紫帆の入学式の参加などでかなりバタバタしていて、ゆっくり通話するのは久々となる。
妹と同居するために引っ越すと1週間前にチャットアプリで伝えた時、驚いていた事は記憶に新しい。
「……それで妹さんとの生活はどう、慣れた?」
「2人で暮らすってのは少し落ち着かなかったけど、ようやく慣れてはきた。ただ未だに俺にべったりなのは少し心配だけど……」
ベッドの中に潜り込んでくるようなところまでは流石に話せないため、そこは適当に濁しておく。
「でもちょっと羨ましいかな。私は一人っ子で親戚にも歳が近い子はいなかったからさ、兄弟が欲しいって時々思うんだよね」
「俺は妹がいてくれて嬉しいって思ってるけど、その反面喧嘩とかも絶対起きるし、色々大変な事もあるけどな」
実際に俺と紫帆は昔から些細な事で兄妹喧嘩をしてきており、よく両親を困らせていた。
それからしばらく通話していると、部屋の中から紫帆が俺の方をじっと見つめてきている事に気付く。
一瞬何か俺に用でもあるのかと思うがベランダに出てくるような素振りはなく、ただただ無言で俺を見つめてきていたのだ。
「ごめん、なんか妹に呼ばれてるような気がするからそろそろ切るな」
「オッケー、また何かあったらいつでも電話かけてきてね」
実乃里との通話を終了させた俺は部屋の中へ入ると、紫帆がゆっくりと俺に話しかけてくる。
「お兄ちゃん、楽しそうに誰と通話してたの?」
やっぱり気になるよな……俺はそう思いつつも、紫帆にどう返答するべきかを激しく悩む。
その理由は単純で、紫帆には彼女ができた事をまだ伝えていないからだ。
ブラコン気味な紫帆に彼女ができた事を伝える勇気が中々出ず、結果的にこの瞬間まで先延ばしにしてしまっていた。
最初は適当に誤魔化す事も考えていたが、今後も隠し続けるのは難しいと判断した俺は、この機会に正直に答える事にする。
「実はさ、ちょっと前に彼女ができたんだよ。さっき通話してたのはその彼女」
「……えっ!?」
俺の言葉を聞いた紫帆はかなりの衝撃を感じたようで完全に固まってしまい、手に持っていたスマホを床に落とす。
「それってどこの誰よ。画面から出てこれない女の子じゃなくて、本当に実在する人なの!?」
紫帆は目に見えて取り乱し始め、俺の肩を掴むと次々と言葉を捲し立てる。
こんな反応が返ってくる事は予想済みだったので、しばらく落ち着くのを待ってから俺は話始める。
「紫帆と同じ平成大学に通ってる俺と同い年の人で、TOEICの予備校で知り合ったんだよ」
「……まさかお兄ちゃんに彼女ができるなんて」
かなり暗い表情となった紫帆はゆっくりとそう呟いた。
紫帆はよく彼女がいない俺をからかっていて、いつまで経っても彼女ができないなら最後は私がなってあげると口癖のように言っていたので、恐らくショックを受けたのだろう。
もし逆の立場で紫帆に彼氏ができた時、恐らく俺も同じような気持ちになるに違いない。
「……ごめん、今日はもう寝る」
紫帆は短くそう言い残すと足早に寝室へと入って行く。
少し寂しい気もするがこれを機会にそろそろ兄離れをして欲しい、俺はそんな事を思いながらその後ろ姿を静かに見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして次の日の朝、俺は目を覚ました瞬間、驚いてベッドから飛び起きる事となる。
昨日と同様、紫帆が俺のベッドへ潜り込んでいる事は一緒だが、なんと服や下着を一切着ていない全裸で俺に抱きついて寝ていたのだ。
俺は当然服を着たままだが、側から見たら完全に事後にしか見えず、こんな光景を親や実乃里から見られたら大変な事になるに違いない。
俺が飛び起きた時の衝撃で紫帆も目を覚まし、ゆっくりとベッドから起き上がる。
その際に布団が剥がれ、胸や下半身が丸見えとなり、俺は慌てて目を隠す。
「お兄ちゃん、おはよう。そんなに慌ててどうしたのよ」
「おい、お前なんで裸になってるんだよ。いいから今すぐに服を着ろ」
平然とそんな事を口にする紫帆に対して、俺はそう言い放つと急いで寝室から外に出た。
「いったい何のつもりなんだよ、あいつは……」
妹の全裸を意図せぬ形で見せつけられた俺は変な気持ちにさせられている。
最後に紫帆の全裸を見たのは小学生低学年の頃なので、10年以上は前なのだ。
いくら兄妹とは言え、はっきり言って成長したその体は目に毒であり、心臓にめちゃくちゃ悪い。
そんな事を思っていると寝室のドアが開き、服を着た紫帆が出てきた。
いたずらが成功したと言いたげな表情をしており、少し腹立たしい気分にさせられる。
「何のつもりか分からないけど、紫帆もいい歳なんだから裸になるのはやめろ……」
「ごめんごめん、寝てる間に脱いじゃったみたい」
絶対わざとだろと思いつつも、朝から疲れさせられた俺は何も言う気になれなかった。
朝から突然こんな事をやらかした理由については、俺に彼女ができた事がきっかけと考えているが、その動機については今のところ全く分からない。
とにかく紫帆の行動については今後も注意する必要があるだろう。
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