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大学2年生編

第7話 人生初のイベント

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 バイトが終わった土曜日の夕方、俺は朝比奈さんのショッピングに付き合い、その帰りに2人でファミリーレストランへ寄って食事をしていた。

「今日は遅い時間まで付き合ってくれてありがとう」

「この前本屋で一緒に行くって約束してたし、俺も楽しめたからお礼なんていらないよ」

 そう、今回のショッピングは以前映画を見に行った日に、朝比奈さんが集合時間よりも早く来すぎていた理由を聞いて笑ってしまった事に対する埋め合わせだったのだ。
 外見はめちゃくちゃ綺麗になった朝比奈さんだったが中身に関しては全く変わっていなかったため、その付き合いなどは今までと一切変わることなく、今日のショッピングも特に緊張する事なく普通に楽しめていた。
 望月とデートした時、俺は常に緊張していてあまり楽しめなかった記憶があるので、はっきり言ってそれとは大違いだ。

「それでなんだけど、明日って予定が空いてたりするかな?」

「明日は何も無いから一応空いてるけど、何かあるの?」

 特に予定が無かった事を思い出した俺は、そう朝比奈さんに聞き返した。

「……もし良かったら私の家で一緒にTOEICの勉強しない?」

 朝比奈さんは恐る恐るではあるが、俺にそう提案してきたのだ。
 その言葉を聞いた瞬間、俺の体には強力な電撃が走る。
 なんと人生の中で初めて、女の子の家に行くイベントが発生しそうになっているのだ。
 俺の人生、20年の中で一度も起こった事が無かったイベント発生のフラグが立った事で、内心その場で飛び跳ねて喜びたいような気分になっていた。
 小学校や中学校、高校ではそんな機会が訪れる事は全く無く、望月と付き合っていた時期も家に行く事は一切無かったため、今回が正真正銘の初めてだ。
 気持ちが悪いって?仕方ないないだろ俺はモテない童貞なんだから。
 そんなツッコミを内心で行いつつ、顔がニヤケそうになるのをなんとか抑え、俺はなるべく普段通りの平静を装って口を開く。

「も、勿論だよ。時間はどうする?」

 思いっきり噛んでしまった事実を鑑みると、どうやら俺は全くと言っていいほど平静を保てていないらしい。
 今の姿を見られてドン引きされていないかを心配する俺だったが、朝比奈さんはオッケーが出た事を喜んでいる様子で、挙動不審になっていた事を全く気にしていないらしかった。
 朝比奈さんはかなり勇気を出して今回の提案をしたように見えたので、断られる事を恐れていたのだろう。

「ありがとう、時間はお昼過ぎくらいからでどうかな?」

「それで大丈夫、じゃあ明日はよろしく」

「こちらこそよろしくね。明日の昼過ぎに来てね、約束だよ」

 こうして俺は人生で初めて女の子の家にあがる事が決定した。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ファミレスで解散して帰宅した後、あっという間に一夜が明け、今俺は勉強道具や筆記用具などをリュックサックに詰めて、行く準備をしている。
 昨夜は興奮してあまりよく眠れなかったため、若干寝不足なのは言うまでもないだろう。
 だが不思議と体は怠くなく、今の俺は元気いっぱいなのだ。

「よし、準備完了。そろそろ行こうか」

 準備が終わった俺はジャケットを羽織りリュックサックを背負うとフルフェイスヘルメットを被る。
 車は持っていない俺だがバイクは持っているため、普段の通学や移動手段はバイク移動がメインだ。
 部屋の外に出て駐輪場まで移動した俺は、一番端っこに停まっていた白いバイクにまたがる。
 俺の愛車は翼がエンブレムのメーカーから発売されているマニュアル車の原付二種で、バイト代を貯めて買ったばかりだった。
 朝比奈さんの家は、映画館での一件で落ち込む彼女を送って行った時に場所を覚えたため、問題なく行けるだろう。
 キーを差し込みエンジンを始動させると、俺は一直線で朝比奈さんの家を目指して進み始める。
 日曜日のため道は混雑がしているが、バイクは横からすり抜ける事ができるため、遅刻する事は無さそうだ。
 しばらく道を走り続けて無事に朝比奈さんの住む1LDKのマンションにたどり着いた俺は、適当なスペースにバイクを停めて部屋へと向かい、インターホンを押す。
 少しの間待っていると、エプロンを身に付けた朝比奈さんが出てきた。
 新鮮な朝比奈さんの姿に見惚れてしまいつつも、その格好的に恐らく料理中だったのでは無いかと推測する。

「綾川君、いらっしゃい。さあ、上がって上がって」

 促されるまま玄関に入ると、辺りにはカルボナーラのいい匂いが漂っており、俺の予想は的中したらしい。

「お昼ごはんってもう済ませてる?もしまだなら一緒に食べようよ、作りすぎちゃったしさ」

「軽くしか食べてないし、せっかくだから食べさせてもらうよ」

「オッケー、今から盛り付けするからテーブルに座って待ってて」

 テーブルに着いて待っている間、部屋の中を見渡してみると中は綺麗に整頓されていて、真面目な朝比奈さんらしい部屋だった。
 俺の想像していた女の子の部屋とは少し違っていたが、童貞の妄想と現実が異なっている事などはよくある話しのため、ショックなどは特に感じていない。
 それからしばらくするとめちゃくちゃ美味しそうな見た目をしたカルボナーラが運ばれてきた。

「お待たせ、男の子がどのくらい食べるのいまいち分からなかったから適当な量をつけたけど大丈夫かな……?」

「ちょうどいい量だよ、これくらいで大丈夫」

 少し心配そうな表情をしていた朝比奈さんを安心させるために、俺はそう答えた。

「良かった、じゃあ食べよっか」

「そうだね、いただきます」

 早速食べ始める俺だが、美味しそうな見た目通り味も非常に美味しいため、食がどんどん進む。

「めちゃくちゃ美味しい、朝比奈さんって料理も上手いんだな!」

「気に入ってくれたみたいで安心したよ。昔からよく家族のご飯を作ってたから、味には割と自信があるんだ」

 美味しいという言葉に反応した朝比奈さんは嬉しそうな表情でそう答えた。

「朝比奈さんって結婚したらいいお嫁さんになれそうだよね」

 俺がボソッとそう呟くと、朝比奈さんには全て聞こえていたらしく、顔が一瞬で真っ赤に染まる。

「あ、綾川君、急に何を言うのよ!?」

 恥ずかしそうな、若干嬉しそうな表情をした朝比奈さんは、少し早口でそう声をあげたのだった。
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