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大学2年生編

第6話 劇的イメージチェンジ

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 俺の元サークルメンバーから嫌がらせを受けてショックを受けた朝比奈さんはしばらくの間少し落ち込んだ様子だったが、今日久々に予備校で会って驚かされる。

「えっ、朝比奈さん……?」

「やっほー、綾川君」

 なんと朝比奈さんは今までのパッとしなかった地味で暗い印象のあった髪型から可愛らしい三つ編みになっていて、メイクもばっちりであり、更に服装も今までよりお洒落で、突如劇的なイメージチェンジをしていたのだ。
 周りの予備校生達も朝比奈さんに一体何が起きたんだと驚いている。
 朝比奈さんは元々顔のパーツなどはかなり整っている方だが、髪型や服装などが非常に大きなマイナス要因となってしまう事で地味な外見となっており、俺は少し勿体ないと前々から思っていた。
 だが、目の前に立つ朝比奈さんはそれらのマイナス要因が消えた事でその外見はかなり垢抜けている。
 俺的にポイントがめちゃくちゃ高いと思うのは眼鏡を付けたままである事だ。
 この手のイメチェンの場合、眼鏡からコンタクトレンズに変えるパターンが圧倒的に多いのだが、朝比奈さんの場合は相変わらず眼鏡のままだった。
 俺は昔から極度の眼鏡フェチであり、アニメなどに登場するキャラクターでも、メインヒロインを差し置いて眼鏡をかけたサブヒロインや脇役を好きになる事が多かった事を思い出す。
 現実世界でも小学校や中学校、高校で好きになった女の子は一人の例外もなく、みんな眼鏡をかけていた。
 生まれつきなのか、後天的に何かきっかけがあってそうなったのか、今の俺には全く分からないがそれくらい眼鏡を掛けた女の子が大好きなのだ。
 実際に俺の元カノである望月も眼鏡をかけており、割と俺の好みだった事が付き合いたいと思ったきっかけだった。
 まあ、今では秋本の影響を受けたらしく、眼鏡を辞めてコンタクトにした挙句、髪を金髪にしピアスを大量に開けるなどかなり派手な外見となっていて、既に俺の好みでは無くなっていたが。

「突然どうしたの? めちゃくちゃ変わってるんだけど……」

「ほら前一緒に映画を見に行った時にさ、地味な根暗女だって馬鹿にされたでしょ? 実はあれが結構私の中で辛かったのと同時に悔しく感じちゃってさ。今回思い切ってイメチェンしてみたんだ」

 なるほど、以前の映画館での一件に対して色々と思う事があった結果、今回のイメチェンに至ったようだ。
 
「それでさ……どう似合ってる?」

 こちらの様子をうかがうように見つめてきた朝比奈さんは、恐る恐る俺にそう問いかけた。
 その問いに対して俺は自分の思った正直な感想を朝比奈さんに述べる。

「勿論、めちゃくちゃ良く似合ってるよ」

「良かった、もし似合ってないとかって言われたらショックで今日の授業を自主休講して家に帰っちゃうところだったよ」

 俺の言葉に朝比奈さんが安堵の表情を浮かべている様子を見ると、かなり心配だったのだろう。

「垢抜けて前よりもだいぶ印象が変わったし、はっきり言ってかなり綺麗になったと思うな」

 そう追加で感想を伝えると、”綺麗になった”という部分に反応した朝比奈さんは少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「え、えっと、その……ありがとう」

 俺の不意打ちとも言える褒め言葉は効果抜群だったようで、久々にぎこちない喋り方となっていた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 授業が終わった後、俺と朝比奈さんが一緒に歩いていると、周りの男性から多数の視線が向けられている事に気づく。
 その視線は隣を歩いている朝比奈さんに全て向けられており、イメチェンの効果恐るべしと感じさせられる。

「朝からずっとこんな感じだったんだよね。外でも大学でも男の人からずっと見られてたし、友達からも質問攻めに遭うしで大変だったんだから」

 その視線に朝比奈さんは気づいているようで、少し困ったような顔をしてそう呟いた。
 恐らく今まで男性からの視線がここまで集中した事が無く、そのギャップに戸惑っているのだろうと推測する。

「でも友達が質問したくなる気持ちは分かるよ、本当にめちゃくちゃ変わってるし」

実乃里みのりにも遂に男ができたんじゃ無いかって友達から散々騒がれたし、否定しても全然信じて貰えなかったから、中々困らされたよ」

 女性が髪型などを変える時は恋愛などが関係してくる傾向にあるため、何かあったと勘違いされても仕方がないのではと俺は感じていた。

「私に彼氏なんかできるわけないのにね」

 そう自虐的な発言をする朝比奈さんだったが、今の外見であれば彼氏を作るぐらい容易い事だろう。
 もし今の朝比奈さんから告白されれば、断る男は既に彼女持ちなどの理由でも無い限りはあまり多く無いはずだ。

「別にそんな事は無いと思うけどな」

 俺はそうフォローを入れるがどうやら外見と自己評価がまだ釣り合っていないようで、どこか懐疑的な様子に見える。

「本当かな? でもお世辞でもそう言ってくれたのは嬉しいよ、ありがとう」

 朝比奈さんは綺麗な笑顔で、俺にそうお礼を述べていた。
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