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第十二章 有りし世界

第128話 チュートリアル:バスロマン

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「おじゃましまーす」

 後ろの瀬那が行儀よく言って続く。

『チュートリアル:帰宅』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:速+』

 ガチャリと玄関のドアを開け、玄関先の常夜灯を付ける。オレンジ色の常夜灯はこの寒い季節だと視覚で温めてくれる。

 厚手の靴下の感触を感じながら廊下をスタスタと歩く。リビングへのドアを開け、そのままスイッチで明りを付けた。

 そしてこれまたスタスタと歩きエアコンの暖房を入れる。

 振り向くとコートラックにコートを掛けている瀬那。俺も続いて着ている厚手のコートをラックに掛け、プレゼントで貰ったマフラーを丁寧に丁寧に畳んで小さく置く様に掛けた。

「よいしょっと」

 すぐに脱げた俺は、最後にニット帽をラックのてっぺんに掛けた瀬那を見た。

 正確にはタートルネックで更に凶暴性を露わにした瀬那の胸を見た。

(着てる方がエロい説……)

 SNS等でたまに見るニットを着ている女性。例え物が小ぶりでもニットを着るとあら不思議、俺好みの性癖が爆誕。

 それが目の前ではち切れんばかりに大ぶりな物があるではいか。

「ガン見しすぎなんですけどー」

「ッ!? ごめんスッゲー興奮してる!」

「っふっふっふー! 萌がニット好きなのはリサーチ済みだからねー。私の作戦勝ち!」

「お瀬那さまのニット姿を拝めて私は嬉しい限りです。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

「拝むな拝むな!」

 俺のボケをツッコんでくてた瀬那。それからは無音が寂しいのでテレビをつけクリスマスの特番をセレクト。お菓子とジュースを持ってきて食卓のテーブルとは違うガラス張りのテーブルに置いた。

 ガラス張りのテーブルの側には三人掛け用のソファがあり、普段はそこでゲームをしている。

 何も言う事も無く、俺と瀬那はくっついてソファに座り、ポテチを頬張りながらテレビを見る。

 ガハハとテレビのスピーカーから笑い声が聞こえる。

「……ジュース注ごうか?」

「んー」

 ジュースを注いだり。

「はいあーん」

「あーん」

 ポテチを食べさせられたり。

「……」

「……」

 テレビを見ながらコテンと肩に瀬那の頭が寄りかかったり。

 クリスマスの日にいつもと何気ない光景。

 果たしてそれはいいのか。

 このままテレビを見ているだけでいいのか。

 エアコンの上下する風向板の音が聞こえてきそうな静寂。

 その時だった。

「――師匠はいつ帰ってくるの?」

「……今日はリャンリャン帰ってこないんだってさ。何でもあいつが参加してる謎の会で夜通しクリスマスパーティするんだと」

「ふーん」

 瀬那のこの発言に――

(これはもしや、いやでも、ワンチャン、落ち着け、おっぱい、落ち着け、うそやろ、クンカクンカ、落ち着け、ちゅーしたい、落ち着け――)

 童貞よろしく様々な勘ぐりを脳内で爆発。

 しかし、余りにも素っ気ない瀬那の返事。

 俺は自惚れた自分を恥じた。

「……。……じゃあ今日お泊りするねー」

 いやこれワンチャンあるわ。

「……俺の寝巻だけどいいよな」

「うん……」

 なに寝巻の事心配してんだよ俺ェ!? もうちょっと気の利いた事あるだろ普通!!

 もっとこう…あるだろう!! で有名なイーヴィルテ○ガも流石に否定を述べる程の童貞力!!

 そうやって身の内で葛藤しながらいろいろと行動していると、気づけば時間が夜の九時。

「お風呂沸いたけど、先に入る?」

「え、萌が先に入ってよ。しばらくツヤコたちとメッセージ送り合うし」

「おかのした」

 場所は移って俺ん家の風呂。

(うおおおおおおおおおおお!!)

 ふわふわな泡が俺を包み頭を洗う。そして局部にも泡がモコモコと大量に付いている。そう、頭以上に入念に洗う! それは当然として、今宵は違うのだ。

『チュートリアル:彼女とお風呂に入ろう♪』

(無理無理無理無理無理無理――)

 一人で入っているこの時点ですでに破綻ッ! DI○もビックリな無理連打ッ! 

 しかもなに音符マーク付けて上機嫌なんだよチュートリアル!! そう言うところがムカつくんだよ!!

「ック! 息子が既に苗木くんか……! こんなんじゃダンガンにロンパできないぞ!!」

 クソ! ぐふふと笑うモ○クマの声が脳内再生余裕だ!

 そう思いながらも洗い終わり、入浴。

「……ふぅ」

 賢者タイムとは違うけど、この長く浸かれる温度が最高だぜ……。

 そう思った時だった。

 ――ガチャ

「!?」

 不意に脱衣所の扉が開いた音。

「!?!?」

 アクリル製のぼかしドアである風呂場のドアに、瀬那のシルエットが出現。

「!?!?!?」

 ぼかしドア越しで肌着を脱いでいく様はまさにAV。脱ぐ様、ぼかした大きな胸が露わになると想像で補完されていく。

 そして俺に向けて正面を向いた瀬那。蠱惑なシルエット……。

「――もえ」

「はい!」

 声が裏返る。

「……クリスマスの思い出。作って……いいよね……」

「――うん」

 ガチャリと折りたたむ様に開く風呂のドア。

 俺の目に映るのは、顔を赤くし片方の手で胸を、もう片方の手で下を隠した瀬那だった。
 くびれがあるウエスト。程よい肉付き。そして押し上げられた胸。

「か――」

 言葉が引っ掛かり、

「かわいい……」やっとの思いで声が出た。

「ありがと」

 瀬那はそう言ってペタペタと入ってきた。

 閉まるドア。

「うぅぅ……」

 もじもじと落ち着かない瀬那。俺はあまりの光景に硬直、焼きつけまいと目が離せない。

「うー! 恥ずかしいから後ろ向いてて!」

「はい!」

 さすがの瀬那も恥ずかしさのあまり風呂場で声を荒げた。

 驚きつつも言う通り後ろを向く俺。

 わしゃわしゃと体を洗う泡の音が俺の童貞力がイケナイ妄想を搔き立てる。

「――」

 不意に、シャワーの音が止まる。

「……一緒に入っていい?」

 瀬那の言葉を聞き、背中を見せていた俺はゆっくりと振り向いた。

「うん――」

 もう隠す必要なは無いと手を伸ばす瀬那。

 伸ばされた手をバランスを崩さない様に恋人繋ぎで受け、ゆっくりと足先から入浴。

 広いとは言えない浴槽。

 したがい。

 絡まる脚。

 重なる胸。

 俺と抱き着く様な姿勢になる。

 破裂寸前の心臓の音は彼女に聞こえるだろうか。

 彼女の潤んだ眼は何を訴えているのだろうか。

「ハジメ――」

「セナ――」

「――ン――ンン」

 欲している。互いを。

 でも、まだ。

 口づけだけで――

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:魅+』
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