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第十章 対抗戦 予選

第94話 チュートリアル:流行らせコラ!

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 暗く薄暗い廊下。天井灯が点滅する音だけが小さく鳴り、ほか一切の音がしない。

 そんな暗闇の中、不意に、目の錯覚を疑う程の二つの光が見える。

 光の形と位置的に眼だと分るが、問題はそこではない。

 上下逆さまで、まるで人が這った位置に眼があるからだ。

 その光が揺れながら、段々と近づいて来る。

 窓から射す薄い光に照らされたのは、右腕、そして左腕。移動する度に双方の手の平が垣間見える。
 そして鋼鉄の仮面。逆向きで現れる不気味なソレは、徐々に姿を現し、人が裏返る四つ足で現れた。

 ついにこのバケモノが、君を襲う!!

「んな訳ねーだろおええええ!?」

 このブリッジ状態で移動するのはかれこれ十数分だ。このお化け屋敷でブリッジしながら襲ってくるバケモンがいたら小便撒き散らしてビビるだろうと思い、今し方。

 結果、ビビり散らかした野郎二人と女生徒一人を退場させた。

「うわあああああ!!」

「来るな来るなあああ!!」

「嫌あああああああ!!」

 今でも鮮明に思い出せる恐怖の絶叫と断末魔。これがまた楽しい楽しい。仕掛け人って客を驚かせて快感を覚え、金までもらってるんだから気持ちよすぎだろ。

「ああ~~たまらねえぜ!」

 これが三人で盛り合った糞土方の気持ちかぁ。東京の学園都市で会える奴なら最高や。
 わしは183*183*17や。ビビり散らかして小便漏らしたいやつ、至急、メールくれや。

「おっと、変態おやぢの魂がついつい乗り移ってしまった……」

 もっとも、糞土方の生存は疑問視されるが……。

「ふぅ」

 脚の力だけでブリッジから立ち上がる。長時間ブリッジに加え、ブリッジしながら走るのは中々いい筋肉の負担だ。正直日課のトレーニングに取り入れようと思ったけど、外でそれすると普通に通報されそうだから止めておこう。

「……ん?」

 そんな事を思っていると、窓の外に人の気配。しめしめと手を擦り80年代のアニメみたいな感じで近くの出口を通って外に移動。

 角から様子を伺うと、三人いた。と言うか、二人が一人を囲っている。これは……。

 聞き耳を立ててみよう。

「――って事だ戸島ぁ! 退場してもらうぜ!」

「♰何!?♰」

「そこ抑えろ!!」

 戸島もといダーク=ノワールが屈強な男子二人に取り押さえられる。

「♰何すんだおま……! 放せコラ!♰」

「〆るぞオラア!」

「♰クラスは違えど仲間じゃないのか!! や~めろお前ら!!♰」

「抵抗しても無駄だぁあ!!」

 どういう事か知らないけど、結託していたクラスが裏切り行為を選択したようだ。

 それにしてもだ。痛い服装で誤魔化してるがけどダーク=ノワールが華奢だからスキルで攻撃せず、二人でがんじがらめのもみくちゃ体術で拘束するとか……。
 裏切った二人はラグビー部かってくらい屈強な体してるのに、人一人抑えられないなんて……。戸島が意外と力があるからか?

「♰あ゛あもう! お前らに! 貴様ら二人なんかに負けるわけねえだろ貴様らあ! 流行らせコラ! 放せ! 放せえええ!!♰」

 ガチのマジで必死に抵抗しキャラを戻したダーク=ノワールだが、元仲間だからか身体能力だけで振り切ろうとしている。裏切られてるのに優しいなぁと俺が思ったその時!

「ッ!!」

 向こうの茂みから男子生徒が一人現れ、組んず解れつ絡み合う塊の中に飛び込んだ。

「なんだお前」(素)

 もう一人の刺客にさすがのダーク=ノワールも素を口にしたようだ。

「おとなしくしろ!!」

「コラドケ!!」

 必死のパッチで抵抗しなんとか抗えたダーク=ノワールだが、まさかの追加参戦でどうしようもなくなり、痛い服を脱がされそうになっている。

 裏切られた戸島は可哀そうだけど、この三人は何がしたいのかもう分からない。

 しかし、転機は訪れた。

「三人に勝てるわけないだろ!!」

 その言葉がトリガーになった様に、戸島の体から可視化した力が噴出した。

 そして――

「♰馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!!♰」(天下無双)

 膨れ上がった魔力の塊が膨張し同時に破裂。屈強な三人を吹き飛ばし、彼は服装を整えた。

「あっぶねえ!? 危うく脱がされて乱暴されるところだった……!」

「っく! 一筋縄ではいかないか!!」

 キャラがブレブレ過ぎて見ていて面白いけど、裏切り者の三人はダメージを抱えながらも立ち上がり、各々の得物をチラつかせてダーク=ノワールに迫る。

「♰ン゛ン! 残念だが貴様らの凶刃は我には届かん!!♰」

「何オウ!! やっちまえ!!」

 男子三人が一斉に襲いかかった!

「♰フン! 魔法発動マジックエフェクト! アルテミット・スレイ!!♰」

 背後に展開された三つの薄紫の魔法陣から、矢の形をした光が出現。矢先が戸惑う男子を捉えると、勢いよく発射され接触。

「「「ぐああああああ」」」

 光を撒き散らしながら吹き飛ばされコンクリートの壁に激突。バリアが割れ、三人は言葉を発する事無く退場した。

「わーお……」

 一切躊躇ない攻撃だ。敵なら容赦はしない性格らしいな、戸島くんは。

「♰フン、他愛無い。我に挑むには十年早かったようだな……♰」

 手の包帯を整えながらバーチャルファイターのア○ラみたいなセリフ言ってるよあいつ……。しかもいちいち整え方が中二病ぽくてなんか昔の俺を思い出すんだが? 普通に痛い思い出だ。

「♰こう回る、こう回って――」

「……」

 なんかカッコいい決めポーズを試してるっぽいな。もちろん痛いんだけど、試してると分る俺も十分に痛いのは、実に痛い事だろう。ダジャレじゃないぞ?

「♰こうか、それとも――ん?♰」

 あ、覗いてるのバレた。とりあえず姿を現わそう。

「……イユアっセキヤっサ(見つかってしまった)」

「!? その言葉は……! リソオテマミダチネセミっサデンミンマ(人の気配が消えていった原因は)」

 ダーク=ノワールが半歩近づいて来た。

「トヤネア……(おまえか……)」

「トエガ……(俺だ……)」

 まさかのアルベド語習得済みで草しか生えない。しかも俺並に話せそうだ。めっちゃ痛いのは変わりないが……。

「♰……どこから見ていたかは知らないが、見苦しい物を見せてしまったようだ♰」

「いやアルベド語で話さんのかい!?」

 俺も思わずアルベド語を忘れてツッコんでしまった。まぁまだ考えながら言わないといけないし、普通に話そうかな。

「♰花房 萌。貴様は我らの怨敵にして最大の壁。ならば、この我が貴様を屠り、勝利の凱旋を飾ろうではないか!!♰」

 そう言ったダーク=ノワール。背後に次々と魔法陣が展開され、今か今かと発動を待っている。

「ッ!」

 魔法使いと魔術師の違いや、魔法陣と魔術陣の違いは今は置いておくけど(実は教えられたことしか知らない)、一度の展開で十個以上の魔法陣は億を稼いでる攻略者しか聞いたことない。

 つまり、少なくとも視界いっぱい十個以上展開しているダーク=ノワールは、それ以上のポテンシャルを秘めているに他ならない。

「♰覚悟はいいか、ジャック・オー!!♰」

 どうやらふざけながら倒せる相手じゃないらしい。
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