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第八章 VS嫉姫君主

第61話 チュートリアル:海底世界の姫

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「■■■■――」

 悲鳴をあげ墨を覆うウルアーラの第二形態。

「ふぅ」

 タコの怪物だった第一形態とは違い、第二形態は下半身が魚のまさに人魚だった。大きさもタコベースで大きく、人の形をしていた上半身はネット上で出てくるような海のバケモノそのもの。

 海中を縦横無尽に駆け回り俺とエルドラドを翻弄。素早い攻撃の猛攻だったが、物理攻撃が大半を占め幻霊の俺はさほど苦戦はしなかった印象だ。

 まぁ金色おじさんはボッコボコにされていたが……。そこは本調子じゃないからとしておこうか。

「まったく、世話が焼けるぜ」

「傷は大丈夫なのか」

 凹みや切り傷が目立つ黄金の鎧。猛攻を受けても血らしき液体は一切出ていなかったが、いや、血なんて噴出さないか……。だってハムナプトラだし。

「俺は頑丈だからなぁ。ほれこの通り」

 金色の輪っかを頭の先から足元へと降ろすとあら不思議。傷一つ無い新車の様にピカピカになった。まぁファントム・アイのおかげで見れるがここは光が入らない深海。なのに光沢があるって事はこの鎧、発光している……のか?

「LEDライトなんて付いてないぞ~」

「俺の心を読むなおっさん!」

 見せつけるようにさらに発光。なんかウザかったから少し怒鳴ってしまった。

「っま! おふざけはここまでにして第三形態変化してる今がチャンスだ」

「……説得か」

「説得と言うか呼びかけだな。今なら洗脳やらも弱まっているはずだ」

「ダメだったら」

「鉄拳制裁or男女平等パンチ!! 自慢の拳で殴るまでよぉ!」

 っじゃ! と言い残しこの場から猛スピードで駆けていくエルドラド。

『チュートリアル:ボスを倒そう』

 視界の端に出ているメッセージ。倒すのが目的だが、説得して洗脳紛いを解けばクリアになるのだろうか。いや、確かにチュートリアルは大事だが、戦わないに越したことは無い。
 今までは猛攻を反撃していたが、エルドラドの説得で解決するならそれでいい。

 接近するエルドラド。今黒い墨の中に入った。


「イカスミスパゲティはしばらく食べたくないな。……思った通り元のサイズに戻ってるな。おいお姫様! お目覚めの時間ですよー!」

 黒い墨。まったく中の様子が分からない。勝手なイメージだけど、魚類? だから薄い膜に覆われた卵になってるかもしれない。知らんけど。

「ったく、狂ってなきゃ見てくれは別嬪べっぴんなのが惜しい。髪も本来の色に戻ってるし……。肩でも揺さぶるか? おいウルアーラ!」

 ……夢中で気付かなかったが、コロッセオみたいなこの場所、進めど壁に到達しなかった。まるで先に見えるのは静止画の様だ。理屈は知らないけど、この場所は空間が特殊なのだろうか。まぁボス部屋だし。

「――――――お前」

「んん!?」

 黒い雲の様に漂っていた墨が急に払拭。すぐ目に入ったのが雷を纏った光り輝く三叉さんさの槍。海中に浮くそれを操っているのは人の形をしたナニカ。遠目で鮮明ではないが、ウルアーラの第三形態だと思われる。

「……?」

 エルドラドの様子がおかしい。

「おいおいおいおい!? 冗談きついぜセニョリータ!」

 なんか身振り手振り慌てふためいている。話し合ってるのか? それなら説得成功だが、一方的にエルドラドが騒いでるようにも見える。槍も構えられてるし。

「――うおっ!?」

 あ、刺された。

「――ぅそおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ――」

 肩に槍が刺さったエルドラドが物凄い勢いで俺の横を通り過ぎて行った。車が通りすぎた一発芸みたいな声。顔と体を動かしてエルドラドを目で追ったが、どんどん遠のいていく。

「……え」

 驚きすぎて目が点になる。先ずあの槍はマジでヤバい代物だと君主がてら分かる。アレは俺が持つ次元を裂く霧の剣――幻霊霧剣ファントム・フォグ・ソードと似て非なる物。それが深々と肩に刺さったエルドラドは一溜まりもないだろう。声は余裕っぽかったけど。

「ッ」

 そして振り返る俺。近寄る彼女を見た。

 目に付いたのは赤い髪。水流に揺蕩う様な綺麗な長髪だが芯がしっかりしているのか、ゆっくりと下に流れている。
 水色の薄いレースを衣に装い、その下に女性特有の胸が貝殻を携えている。
 身体は人間の形をしている。腕と脚の薄いレースから魚のヒレを模した綺麗な布が漂い、脚にはヒールが履かれている。

「……」

 耳の先端からヒレに変わる構造。端整な顔立ちにも驚くが、俺が大いに驚いたのは――

「綺麗だ……」

 自然にそう呟いてしまった自分に驚いた。

 仕方ない。これは仕方ない。あまりにも美人すぎる。彼女が美人じゃなかったら、地球上の美人の8割は美人の定義から外れてしまう。俺自身なにを言ってるのかわからん程に美人だ。

 顔を認識できる距離の彼女を見る。

海底世界アトランティカの姫 ウルアーラ』

 まさか別人じゃないかと思ったけど普通に本人だった。嫉妬に狂ったマジキチ貞子から物凄い変わり様だ。あれか、どんどんシャープに成っていくのはフ○ーザを意識してるのか?

「……」

「……ウルアーラ……さん?」

 何も言わない彼女にここに来て唐突のさん付け。美人を前にすると敬称してしまうのは俺だけじゃないと思う。ってかパッチリな瞳に光が宿っているから洗脳解けてると思う。

「あの、もういいッスよね。とりあえ――」

「――ッム!」

 加速する思考、スローになる。ファントム・アイで見える突如出現した空間の揺らぎ。否、空間ではなく水中の揺らぎ。その揺らぎは刃となって俺の顔を斬り込んできたが一歩下がって避けた。

「――」

 本能に従ってよかった。フードの口先が切れている。物理攻撃と一定以下のスキルは効かないはずだからレベルが高いんだと言う驚きに加え、一睨みした刃が襲ってきた攻撃と明確な敵意に驚いた。

「っや、やめてください! 俺は敵じゃない!!」

 続々と襲い来る水の刃を搔い潜り、必死に呼びかける俺。目を合わせ訴えても聞く耳持たないと言わんばかりに睨んでくる。

(いや美人が睨むと怖いわ)

 なんて思えてるから余裕があるがウルアーラさんの敵意は解せない。

(あれ、攻撃が止んだ? ――うお!?」

 思わず声に出てしまったウルアーラさんの爆発的な接近。握った水の刃を俺に振りかざし、とっさにオーラ剣を生成し肉薄。オーラの火花が散る。

「なんで!!」

「問答無用!!」

 散る破片。

 お互いに刃を掃い再び鍔迫り合う。

「あなたを助けに来たんです! エルドラドだって!」

「くどいわ! 助けてなんて頼んでない!」

 拮抗していた鍔迫り合いが俺の押し負ける形で崩れる。

 態勢が崩れた俺の横腹に鈍器で殴られる衝撃を覚えた。痛みと共にそれに目を向けると、水の刃ではなく水の槌。
 肥大化したそれが再度俺を捉え、打撃。海中を音を置く速度で飛ばされる。

「っぐ!?」

 態勢を立て直す。

(力で押し負けるのか……! とんでもねぇクソゴリラかよ!?)

 遠すぎて点に見えるウルアーラさんを睨んで悪態をついた。それに感づいたかは知らないけど空間に歪みが。水の刃がまた襲い来る。

「ッフ!」

 オーラ剣で刃を斬ると露と消えた。

 刹那に過るこの攻撃の強さ。高レベルなスキルに加え、本人に近かろうが遠かろうが距離なんて関係ないと言わんばかりの現象。
 ここが、目に見える海中すべてが攻撃範囲なんじゃないかと、頭の悪い俺はそう思った。

 俺が水の刃に反応できてるのは動体視力もアップしてる『至高の肉体』と『オーラ』、君主ルーラーの力があってのものだ。
 並の攻略者ならとっくに斬られてるだろう。

「チート乙ぅ!!」

 身体を逸らして避ける。そして爆ぜる海中をその場に残して突撃。いっきに距離を縮める。

「――」

 肉薄し空間が揺らぐ程の鍔迫り合い。俺のスピードが乗ったパワーを受けたウルアーラさんの剣。ウルアーラさんは微動だにしないが後方が爆発。パワーが後方に流された様だ。

 欠け続けるオーラ剣と水の刃。

 流れる髪。

 桃色の唇。

 俺を睨む屈託のない綺麗な瞳。

 それはもう、吸い込まれそうで――

「正気に戻ってるんでしょ! 争う意味ないじゃないですか!」

「意味があるかは私が決めるわ!」

「このわからずやああ!!」

 今度は俺が拮抗を崩して続けて攻撃。刃を盾にしたウルアーラさんが勢いよく受けた。

 手をかざす。

「ファントム・タッチ!」

 押し込まれるウルアーラさんに追撃。足元から黒い手が絡みつく様に出現、拘束を計る。

「ッキ!」

 一睨みするとタッチがバッサリと斬れる。水の刃が起こったようだ。
 だが出現が止まらない黒い手。俺は当然抵抗してくるとふみ、途切れなくタッチを絡ませる。

 めんどくさそうな顔をするウルアーラさん。

 脚、腰、胸部、首、身体のラインを這うように無数の黒い手が巻き付く。抵抗できない様に手足を余計に纏わせ、俺を睨んむ爛々とした眼が最後に覆われた。

「ファントム――」

 黒い大きな手が両脇に出現。

「アーム!!」

 動かない黒を更にアームで包み込んだ。

 攻撃的なら動けなくさせるのみ。それを実行したのも束の間、アームが内部から膨張。四散に炸裂し消滅し、中からウルアーラさんが何事も無く佇んでいた。

「この程度の束縛なんて無意味よ。君主として未熟ね」

「けっこう自信あったんスけどね……!」

 攻撃したくないから拘束しようとしたらこれだ。確かに未熟とは思うけどこうもハッキリ言われるとガラスのハートが痛い。俺ってば陰キャだから。

 そんな事を思っていると、ウルアーラさんの雰囲気が尖った。

「……お互いに小細工は止めるわよ」

 彼女はそう言って――

漣歌姫マーメイド嫋々フレキシブルたるブレード――」

 まるで、明度の高い剣をそのまま表した変哲の無い綺麗な剣。

 ――瞬間、霊体だというのに発汗する感覚に陥る。

 ――冗談では済ませない得物をその手に顕現させ、俺を睨む。

「――幻霊霧剣ファントム・フォグ・ソード

 物質、反物質、大気から次元まで、その刀身に斬れない物は無い無類の剣。

 それと同等の存在が対峙し、俺は無意識に顕現させ手に取った。
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