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第八章 VS嫉姫君主
第56話 チュートリアル:集結
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PM19時。
嫉姫君主、黄金君主、幻霊君主、ルーラーズ顕現のニュースが世界中を巡った。
騒動の渦中である池袋は閉鎖され、国連の処置で報道ヘリの接近を禁止してから一時間強の時間が流れた。
津波に飲み込まれた人や実際に肉眼でルーラーを確認した人、動画投稿者や著名人まで、テレビ報道やSNS等、今回発生した未曾有の危機で話題は埋め尽くされている。
情報化社会を世界が全うするように、豹変し暴れるウルアーラ、腕を突き出し力を行使するエルドラド、小さく映る萌の姿が拡散、様々な憶測が飛び回り、既に国連が統制できない程に情報が錯綜していた。
国連による池袋閉鎖。鼠一匹逃さない程の軍事警備。上空にヘリが複数台滞空し、夜の街をライトが明るく照らしている。
その警戒態勢を一際一身に受けている箇所があった。
青白く渦巻き不気味に鎮座するゲート、ダンジョン名「漣人魚の哀唱」。
そしてゲートの端に影を落とす存在が。
金色の装飾を施された黒を主体にした装甲。装甲越しでも分かる隆々と浮き出るメタリックデザインの筋肉に、猛禽類を想起させる足の爪。その頭髪は怒髪天が如く盛り上がり、風が吹けばゆらりと靡いていた。
忽然とゲートに消えたルーラーズは既に過去の者へ。今現在、世界中の注目を浴びているのはこのゲートと、何者も寄せ付けないとするこの――
『幻霊家臣 黄龍仙』
国連部隊が続々到着、配備。上位の攻略者サークルも集まる中、誰ひとりとして黄龍仙に近づく人間はいない。
否。正確には、黄龍仙を中心とした半径二十メートルほどの円に入れない入らない。
黄龍仙が抉った円。爪先を入れようものなら石像の様に動かない黄龍仙が、無機質の眼光を向けてくる。
既に誤って侵入し、睨まれた部隊員が失禁。退場している。
国連の部隊が黄龍仙と言葉による意思疎通が可能だと判断。声が聞こえる位置まで侵入し対話したが、国連が望む結果は得られていない。
偵察用ドローンも悉く破壊される事態。
対話し、一方的なキャッチボールをした部隊員が頭を抱えている中、苛立ちながら愚痴を溢す男がやってきた。
「――だから書類云々は後でって言ってるだろ! これだからお役所仕事の奴らは!!」
ヤマトサークル所属、西田 信彦。登場。
そそくさと早歩き。うっとおしいと顔に出している。後ろから後輩の三井が慌てて走ってきた。
「ちょノブさんマズイですって! 一応俺ら指示があるまで待機なんスよ!?」
「おい隊長さんよぉ! あんたが知ってる情報全部話せ」
「え、西田メンバー!? こ、困りますよ!」
三井の言葉を無視し張られたテントにずかずかと入る。騒然とするテント内。機密機械を操作していた隊員たちも何事かと驚く。そこに探していた隊長を見つけた西田は、肩を強く掴んで迫った。
「ノブさん!!」
「小耳にはさんだぞおい……。黄龍仙にビビるのは分かるが、ほとんど交渉できてねぇらしいな」
「そ、それは――」
「いや別にあんたを責めてる訳じゃないさ、俺もビビったし。上の指示を待ってる状況なんだろ?」
「……」
声を荒げた三井だったが、先ほどの怒涛の態度ではなく、西田の冷静な態度を見て難しい顔をした。
そして実際に対話した隊長は西田の問いに無言。それを回答と受け取った西田はさらに攻める。
「部隊長ならある程度の権限もってるだろ……! いつ指示が降りてくるか分からない今、その権限であいつと喋らせてくれ……!」
「ッ」
一切ブレない瞳。その強い意志が宿った瞳を見て、部隊長は思わず唾を飲み込んだ。
騒然とするこの場。忙しい外部の音が静かなこの場によく響いた。
どうするんだと、どうなるんだと隊員たちと三井は静観。西田と目が離せない隊長は目を強く瞑り、意を決したのか溜めた息を吐く様に言葉を紡ぎ出した。
「私の同行のもと許可する。ただし、上の指示が降りてくれば従ってもらうぞッ」
「ああ! それでいい!!」
善は急げとテントを後にする西田たち。ゲートに向かう道中、三井が西田を関心していた。
「ちゃんと部隊長に許可取るあたり、無っ鉄砲さが和らぎましたね」
「もうサークル長の説教はこりごりだからな。それよりミッチー、書類関係の雑務、今からやってきてくんね?」
「ええ!? 俺がやるんスか!? それ今じゃなくてもいいでしょ!」
心底めんどくさそうに声を荒げる三井。西田は片手ですまんと会釈。
「なんか書類云々が後に控えてるって思うと背中が痒くてなぁ。パパっと終わらせてくんね? 今度行きたがってた焼肉奢るからさぁ」
西田の説得、焼肉奢る。
その一言で三井は揺らいだ。西田は覚えていた、有名動画投稿者が開いた焼肉店の話を。庶民給料の三井からすればボーナスが出ても行かない値段帯。それを奢ると西田は豪語した。
見開く三井の目。
「じゃ全部やっときますね~! 気をつけて~!」
笑顔で待機場所に戻っていく三井。西田はほくそ笑んだ。
「……優しいんだな」
「戦闘向きじゃないからなあいつは」
これは西田の配慮だった。もし戦闘になると、三井の生存率は西田より低い。隊長もそれに気づき、口元を緩めた。
そして数分後にたどり着いた円。ゲートを阻む存在、黄龍仙を見た西田は興奮を抑えきれず身震いした。
「隊長さん。俺は入るが、あんたとお付きの部隊は残って見守ってくれ。何かあったら頼む」
「ああ。聞き出してくれ」
円の前に立つ西田。
「ふー」
纏っている軽装の鎧の具合を確認し、槍を出現させ握りこむ。
黄龍仙を見ると、泡沫事件時の戦闘風景が脳裏に浮かんだ。
余りにも強烈な印象。だが臆せず一歩、円に入った。
「――」
黄龍仙の首が動き西田を見た。
漂う緊張感。自分も受けた眼光を思い出し、隊長は汗をかいた。
一歩。一歩。
迷いない歩みで進む西田。隊長が対話した位置を通り過ぎ、さらに進んでいく。持っている槍を肩に担ぎ、西田は余裕を見せた。
そして――
「よお……また会ったな……!!」
黄龍仙を睨み笑う西田。
西田を静観する黄龍仙。
隊長や隊員、この件を知らない部隊員、滞空するヘリの隊員までも、大勢の息が詰まりそうになり、張り詰めた緊張感が冷や汗を流した。
西田と黄龍仙。その距離は鋼椀と槍が交われる距離だった。
「お前、何で門番の真似事してんだよ。……何故俺たちの邪魔をする……!」
西田の大き目な声は静まり返った場によく響き、隊長たちにも十分に聞こえる声量だ。
背中の汗が嫌に感じると西田は思った。その元凶がすぐに返答した。
「入れば屍になるだろう」
「ッ」
体の芯から震える重く威厳ある声。何度聞いても武者震いが伝う、と西田は思い、同じ声を聞いた隊長はトラウマと言わんばかりに後ずさる。
「そんなの入ってみなきゃわかんねーだろ」
「入れば屍になるだろう」
まるでオウム返し。
(隊長さんが言っていた通りだな)
一語一句全く同じ。早々に交渉を断念し指示を仰いだ隊長を西田は人選不足だと思っていたが、面と向かい合う黄龍仙の圧と言葉に臆するのは仕方ないと西田は内心自分を叱咤した。
「……わかった。こっからは腹割って話そう」
槍を地面に突き刺し腕を組んだ西田。
黄龍仙は不動。
完全に武器から手を離した西田に、誰もが驚き正気を疑った。
「俺はあの時、お前に助けられた。まわりはどう思うが知らんが、これは事実だ」
「……」
「そして今回も人類は助けられた。お前に。これも事実だ」
「……」
一切目を逸らさない西田。
「ルーラーズとそれに連なる奴は敵だと世間ではなっているが、俺はそんな単純じゃないと踏んでいる。いいか、お前の行動と報告にある君主《ルーラー》の行動が違うと言っているんだ! 現に今ここに立ってるしな!」
「……。……」
そう。西田の言葉はこの場にいるほとんどが思っていた事だった。国連政府が掲げる打倒ルーラーズ。だが、世論が既に疑い始めているのは確かだった。
「今のお前を……俺たちを助けたあんたに聞く! あんたは何がしたいんだ……!?」
ルーラーズとは何なのか、敵なのか味方なのか、何故泡沫事件の時に仲間内で争っていたのか。聞きたい事は山ほどある西田だったが、それが含まれた端的かつ曖昧な質問が出てきてしまった。
西田の真剣な眼差し。この質問から数秒沈黙した後、場の緊張が和らいだのを部隊員たちは感じた。そこはかとなく黄龍仙のツインアイが柔らかな表情を見せている。
「このゲートの先は光一つ無い深海。想像を絶する恐怖が待ち受けている。見す見す人類を入れる訳にはいかん」
「……深海だと?」
脳裏に過るSNSの投稿。その中に深海のワードがあったのを西田は記憶していた。
「呼吸すらできず、水圧で泳ぐこともできずお前たちは死ぬ。藻屑となるのは必須だろう」
「……」
西田は言葉を失った。言葉を鵜呑みにするとこの巨体な存在は、暫定的な敵だというのに人類を守っている。そしてゲートの先は入れば即アウトという危険なダンジョン。
西田は呆れて笑うしかできない。
そして黄龍仙の言葉を後押しするように後ろからある人物が出てきた。
「――放してくれ!! 行ってはダメなんだ!! あそこの中は深海!! 黄金君主がそう言っていた!!」
何事かと西田が振り向くと、三人の部隊員を引き剝がそうともがく男が、いや、メ蟹ックこと、チームファイブドラゴンのリーダー不動 優星が現れた。
何なんだあのふざけた髪型は。と、何よりも優先に特徴的すぎる部分を内心ツッコむ西田。
しかし正気を取り戻す。すかさず声をかけた。
「ゴールドルーラー……? おい、そこのあんた。今なんて言った……!」
「ッ! 西田メンバー!? ……俺は不動 優星。黄金君主エルドラドに協力を頼まれた者だ」
西田の声掛けで部隊員たちが優星を解放。西田に歩み寄りながらそう言った。しかし分けられた円の前に立ち止まり、西田の後ろの黄龍仙を見てたじろした。
「協力? どういう事だ……?」
「そのままの意味だ。ゴールドルーラーに助けられ、たまたま近くに居たから協力を頼まれた。そのゲートに入ってはいけない」
「すみません、詳しく聞いていいですか」
会話する西田と優星。部隊長が蟹に経緯を聞いた。
あらかた説明した優星。部隊長は上に報告しにテントへと戻り、西田は歩み寄り話を聞いた。
「なるほどな。……あいつの話を補足できる情報だ。すべて鵜吞みにするなら入っちゃダメだなこりゃ」
「ゴールドルーラーたちの行動を考えると、嘘はついていないはずだ」
互いに意見交換。情報を共有する。
「――なんだその恰好」
「ハロウィンだからな――」
後ろには黄龍仙が鎮座しているにもかかわらず、部隊長が戻るまで他愛のない話をする二人。肝が据わっていると周りの部隊員が思っていると、煩い音を立てヘリが数機頭上に滞空。そこから何人も紐伝えで降りてくる。
全身ブラックな特殊スーツ。自前の武器を引っ提げて展開した。
何事かと優星は身構えるが、西田は心底嫌そうな顔で鬱陶しそうに声を荒げた。
「またお前らか~! 国の犬が~!」
国連日本支部直属部隊、登場。
嫉姫君主、黄金君主、幻霊君主、ルーラーズ顕現のニュースが世界中を巡った。
騒動の渦中である池袋は閉鎖され、国連の処置で報道ヘリの接近を禁止してから一時間強の時間が流れた。
津波に飲み込まれた人や実際に肉眼でルーラーを確認した人、動画投稿者や著名人まで、テレビ報道やSNS等、今回発生した未曾有の危機で話題は埋め尽くされている。
情報化社会を世界が全うするように、豹変し暴れるウルアーラ、腕を突き出し力を行使するエルドラド、小さく映る萌の姿が拡散、様々な憶測が飛び回り、既に国連が統制できない程に情報が錯綜していた。
国連による池袋閉鎖。鼠一匹逃さない程の軍事警備。上空にヘリが複数台滞空し、夜の街をライトが明るく照らしている。
その警戒態勢を一際一身に受けている箇所があった。
青白く渦巻き不気味に鎮座するゲート、ダンジョン名「漣人魚の哀唱」。
そしてゲートの端に影を落とす存在が。
金色の装飾を施された黒を主体にした装甲。装甲越しでも分かる隆々と浮き出るメタリックデザインの筋肉に、猛禽類を想起させる足の爪。その頭髪は怒髪天が如く盛り上がり、風が吹けばゆらりと靡いていた。
忽然とゲートに消えたルーラーズは既に過去の者へ。今現在、世界中の注目を浴びているのはこのゲートと、何者も寄せ付けないとするこの――
『幻霊家臣 黄龍仙』
国連部隊が続々到着、配備。上位の攻略者サークルも集まる中、誰ひとりとして黄龍仙に近づく人間はいない。
否。正確には、黄龍仙を中心とした半径二十メートルほどの円に入れない入らない。
黄龍仙が抉った円。爪先を入れようものなら石像の様に動かない黄龍仙が、無機質の眼光を向けてくる。
既に誤って侵入し、睨まれた部隊員が失禁。退場している。
国連の部隊が黄龍仙と言葉による意思疎通が可能だと判断。声が聞こえる位置まで侵入し対話したが、国連が望む結果は得られていない。
偵察用ドローンも悉く破壊される事態。
対話し、一方的なキャッチボールをした部隊員が頭を抱えている中、苛立ちながら愚痴を溢す男がやってきた。
「――だから書類云々は後でって言ってるだろ! これだからお役所仕事の奴らは!!」
ヤマトサークル所属、西田 信彦。登場。
そそくさと早歩き。うっとおしいと顔に出している。後ろから後輩の三井が慌てて走ってきた。
「ちょノブさんマズイですって! 一応俺ら指示があるまで待機なんスよ!?」
「おい隊長さんよぉ! あんたが知ってる情報全部話せ」
「え、西田メンバー!? こ、困りますよ!」
三井の言葉を無視し張られたテントにずかずかと入る。騒然とするテント内。機密機械を操作していた隊員たちも何事かと驚く。そこに探していた隊長を見つけた西田は、肩を強く掴んで迫った。
「ノブさん!!」
「小耳にはさんだぞおい……。黄龍仙にビビるのは分かるが、ほとんど交渉できてねぇらしいな」
「そ、それは――」
「いや別にあんたを責めてる訳じゃないさ、俺もビビったし。上の指示を待ってる状況なんだろ?」
「……」
声を荒げた三井だったが、先ほどの怒涛の態度ではなく、西田の冷静な態度を見て難しい顔をした。
そして実際に対話した隊長は西田の問いに無言。それを回答と受け取った西田はさらに攻める。
「部隊長ならある程度の権限もってるだろ……! いつ指示が降りてくるか分からない今、その権限であいつと喋らせてくれ……!」
「ッ」
一切ブレない瞳。その強い意志が宿った瞳を見て、部隊長は思わず唾を飲み込んだ。
騒然とするこの場。忙しい外部の音が静かなこの場によく響いた。
どうするんだと、どうなるんだと隊員たちと三井は静観。西田と目が離せない隊長は目を強く瞑り、意を決したのか溜めた息を吐く様に言葉を紡ぎ出した。
「私の同行のもと許可する。ただし、上の指示が降りてくれば従ってもらうぞッ」
「ああ! それでいい!!」
善は急げとテントを後にする西田たち。ゲートに向かう道中、三井が西田を関心していた。
「ちゃんと部隊長に許可取るあたり、無っ鉄砲さが和らぎましたね」
「もうサークル長の説教はこりごりだからな。それよりミッチー、書類関係の雑務、今からやってきてくんね?」
「ええ!? 俺がやるんスか!? それ今じゃなくてもいいでしょ!」
心底めんどくさそうに声を荒げる三井。西田は片手ですまんと会釈。
「なんか書類云々が後に控えてるって思うと背中が痒くてなぁ。パパっと終わらせてくんね? 今度行きたがってた焼肉奢るからさぁ」
西田の説得、焼肉奢る。
その一言で三井は揺らいだ。西田は覚えていた、有名動画投稿者が開いた焼肉店の話を。庶民給料の三井からすればボーナスが出ても行かない値段帯。それを奢ると西田は豪語した。
見開く三井の目。
「じゃ全部やっときますね~! 気をつけて~!」
笑顔で待機場所に戻っていく三井。西田はほくそ笑んだ。
「……優しいんだな」
「戦闘向きじゃないからなあいつは」
これは西田の配慮だった。もし戦闘になると、三井の生存率は西田より低い。隊長もそれに気づき、口元を緩めた。
そして数分後にたどり着いた円。ゲートを阻む存在、黄龍仙を見た西田は興奮を抑えきれず身震いした。
「隊長さん。俺は入るが、あんたとお付きの部隊は残って見守ってくれ。何かあったら頼む」
「ああ。聞き出してくれ」
円の前に立つ西田。
「ふー」
纏っている軽装の鎧の具合を確認し、槍を出現させ握りこむ。
黄龍仙を見ると、泡沫事件時の戦闘風景が脳裏に浮かんだ。
余りにも強烈な印象。だが臆せず一歩、円に入った。
「――」
黄龍仙の首が動き西田を見た。
漂う緊張感。自分も受けた眼光を思い出し、隊長は汗をかいた。
一歩。一歩。
迷いない歩みで進む西田。隊長が対話した位置を通り過ぎ、さらに進んでいく。持っている槍を肩に担ぎ、西田は余裕を見せた。
そして――
「よお……また会ったな……!!」
黄龍仙を睨み笑う西田。
西田を静観する黄龍仙。
隊長や隊員、この件を知らない部隊員、滞空するヘリの隊員までも、大勢の息が詰まりそうになり、張り詰めた緊張感が冷や汗を流した。
西田と黄龍仙。その距離は鋼椀と槍が交われる距離だった。
「お前、何で門番の真似事してんだよ。……何故俺たちの邪魔をする……!」
西田の大き目な声は静まり返った場によく響き、隊長たちにも十分に聞こえる声量だ。
背中の汗が嫌に感じると西田は思った。その元凶がすぐに返答した。
「入れば屍になるだろう」
「ッ」
体の芯から震える重く威厳ある声。何度聞いても武者震いが伝う、と西田は思い、同じ声を聞いた隊長はトラウマと言わんばかりに後ずさる。
「そんなの入ってみなきゃわかんねーだろ」
「入れば屍になるだろう」
まるでオウム返し。
(隊長さんが言っていた通りだな)
一語一句全く同じ。早々に交渉を断念し指示を仰いだ隊長を西田は人選不足だと思っていたが、面と向かい合う黄龍仙の圧と言葉に臆するのは仕方ないと西田は内心自分を叱咤した。
「……わかった。こっからは腹割って話そう」
槍を地面に突き刺し腕を組んだ西田。
黄龍仙は不動。
完全に武器から手を離した西田に、誰もが驚き正気を疑った。
「俺はあの時、お前に助けられた。まわりはどう思うが知らんが、これは事実だ」
「……」
「そして今回も人類は助けられた。お前に。これも事実だ」
「……」
一切目を逸らさない西田。
「ルーラーズとそれに連なる奴は敵だと世間ではなっているが、俺はそんな単純じゃないと踏んでいる。いいか、お前の行動と報告にある君主《ルーラー》の行動が違うと言っているんだ! 現に今ここに立ってるしな!」
「……。……」
そう。西田の言葉はこの場にいるほとんどが思っていた事だった。国連政府が掲げる打倒ルーラーズ。だが、世論が既に疑い始めているのは確かだった。
「今のお前を……俺たちを助けたあんたに聞く! あんたは何がしたいんだ……!?」
ルーラーズとは何なのか、敵なのか味方なのか、何故泡沫事件の時に仲間内で争っていたのか。聞きたい事は山ほどある西田だったが、それが含まれた端的かつ曖昧な質問が出てきてしまった。
西田の真剣な眼差し。この質問から数秒沈黙した後、場の緊張が和らいだのを部隊員たちは感じた。そこはかとなく黄龍仙のツインアイが柔らかな表情を見せている。
「このゲートの先は光一つ無い深海。想像を絶する恐怖が待ち受けている。見す見す人類を入れる訳にはいかん」
「……深海だと?」
脳裏に過るSNSの投稿。その中に深海のワードがあったのを西田は記憶していた。
「呼吸すらできず、水圧で泳ぐこともできずお前たちは死ぬ。藻屑となるのは必須だろう」
「……」
西田は言葉を失った。言葉を鵜呑みにするとこの巨体な存在は、暫定的な敵だというのに人類を守っている。そしてゲートの先は入れば即アウトという危険なダンジョン。
西田は呆れて笑うしかできない。
そして黄龍仙の言葉を後押しするように後ろからある人物が出てきた。
「――放してくれ!! 行ってはダメなんだ!! あそこの中は深海!! 黄金君主がそう言っていた!!」
何事かと西田が振り向くと、三人の部隊員を引き剝がそうともがく男が、いや、メ蟹ックこと、チームファイブドラゴンのリーダー不動 優星が現れた。
何なんだあのふざけた髪型は。と、何よりも優先に特徴的すぎる部分を内心ツッコむ西田。
しかし正気を取り戻す。すかさず声をかけた。
「ゴールドルーラー……? おい、そこのあんた。今なんて言った……!」
「ッ! 西田メンバー!? ……俺は不動 優星。黄金君主エルドラドに協力を頼まれた者だ」
西田の声掛けで部隊員たちが優星を解放。西田に歩み寄りながらそう言った。しかし分けられた円の前に立ち止まり、西田の後ろの黄龍仙を見てたじろした。
「協力? どういう事だ……?」
「そのままの意味だ。ゴールドルーラーに助けられ、たまたま近くに居たから協力を頼まれた。そのゲートに入ってはいけない」
「すみません、詳しく聞いていいですか」
会話する西田と優星。部隊長が蟹に経緯を聞いた。
あらかた説明した優星。部隊長は上に報告しにテントへと戻り、西田は歩み寄り話を聞いた。
「なるほどな。……あいつの話を補足できる情報だ。すべて鵜吞みにするなら入っちゃダメだなこりゃ」
「ゴールドルーラーたちの行動を考えると、嘘はついていないはずだ」
互いに意見交換。情報を共有する。
「――なんだその恰好」
「ハロウィンだからな――」
後ろには黄龍仙が鎮座しているにもかかわらず、部隊長が戻るまで他愛のない話をする二人。肝が据わっていると周りの部隊員が思っていると、煩い音を立てヘリが数機頭上に滞空。そこから何人も紐伝えで降りてくる。
全身ブラックな特殊スーツ。自前の武器を引っ提げて展開した。
何事かと優星は身構えるが、西田は心底嫌そうな顔で鬱陶しそうに声を荒げた。
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ブラック企業に勤めてる服部慧は毎日仕事に明け暮れていた。残業続きで気づけば寝落ちして仕事に行く。そんな毎日を過ごしている。
慧の唯一の夢はこの社会から解放されるために"FIRE"することだった。
FIREとは、Financial Independence Retire Earlyの頭文字をとり、「経済的な自立を実現させて、仕事を早期に退職する生活スタイル」という意味を持っている。簡単に言えば、働かずにお金を手に入れて生活をすることを言う。
慧は好きなことして、ゆっくりとニート生活することを夢見ている。
普段通りに仕事を終えソファーで寝落ちしていると急に地震が起きた。地震速報もなく夢だったのかと思い再び眠るが、次の日、庭に大きな穴が空いていた。
どこか惹かれる穴に入ると、脳内からは無機質なデジタル音声が聞こえてきた。
【投資信託"全世界株式インデックス・ファンド"を所持しているため、一部パラメーターが上昇します】
庭の穴は異世界に繋がっており、投資額に応じてスキルを手に入れる世界だった。しかも、クエストをクリアしないと現実世界には戻れないようだ。
そして、クエストをクリアして戻ってきた慧の手に握られていたのはクエスト報酬と素材売却で手に入れた大金。
これは異世界で社畜会社員が命がけでクエストを達成し、金稼ぎをするそんな物語だ。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
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〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
異世界でハズレスキル【安全地帯】を得た俺が最強になるまで〜俺だけにしか出来ない体重操作でモテ期が来た件〜
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突然の異世界召喚。
クラス全体が異世界に召喚されたことにより、平凡な日常を失った山田三郎。召喚直後、いち早く立ち直った山田は、悟られることなく異常状態耐性を取得した。それにより、本来召喚者が備わっている体重操作の能力を封印されずに済んだ。しかし、他のクラスメイトたちは違った。召喚の混乱から立ち直るのに時間がかかり、その間に封印と精神侵略を受けた。いち早く立ち直れたか否かが運命を分け、山田だけが間に合った。
山田が得たのはハズレギフトの【安全地帯】。メイドを強姦しようとしたことにされ、冤罪により放逐される山田。本当の理由は無能と精神支配の失敗だった。その後、2人のクラスメイトと共に過酷な運命に立ち向かうことになる。クラスメイトのカナエとミカは、それぞれの心に深い傷を抱えながらも、生き残るためにこの新たな世界で強くなろうと誓う。
魔物が潜む危険な森の中で、山田たちは力を合わせて戦い抜くが、彼らを待ち受けるのは仲間と思っていたクラスメイトたちの裏切りだった。彼らはミカとカナエを捕らえ、自分たちの支配下に置こうと狙っていたのだ。
山田は2人を守るため、そして自分自身の信念を貫くために逃避行を決意する。カナエの魔法、ミカの空手とトンファー、そして山田の冷静な判断が試される中、彼らは次第にチームとしての強さを見つけ出していく。
しかし、過去の恐怖が彼らを追い詰め、さらに大きな脅威が迫る。この異世界で生き延びるためには、ただ力を振るうだけではなく、信じ合い、支え合う心が必要だった。果たして彼らは、この異世界で真の強さを手に入れることができるのか――。
友情、裏切り、そしてサバイバルを描いた、異世界ファンタジーの新たな物語が幕を開ける。
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