上 下
40 / 215
第六章 法術のススメ

第40話 チュートリアル:熱き決闘者たち

しおりを挟む
「ふぅ……」

 息を吐く。バトルルームの入り口にSF映画でよくあるレーザー型の扉がある。抵抗なくそこを通る拍子に俺の体全体ピッタリに透明なバリアが張り巡らされた。

 これはダメージバリア。このバリアの耐久値が無くなると割れ、負けとなる。ちなみに原理は知らない。詳しい人に聞いた方がいいだろう。

 進むと鼻が効いた。独特の匂い。薬品ぽいし人の汗も混じってるようだ。正直あまり良い匂いではないが、その分バトルした人たちの血が通ってるように思えた。

 透明なバトルルームの中から見る景色はなかなかにヤバい。まわりに観客がいるしカメラもいくつも起動している。もしかしたら俺の闘いが動画サイトに載るかもしれない。

「……あちゃ~」

 ただでさえテレビに映って勇次郎呼ばわり。あ、勇次郎はネットか。今なお観客に注目されているし、マジで引きこもりたかった。モンハンの童貞拗らせマガニャンを周回してる方が百倍マシだ。

 さて、バトル場だが、円型に広がった百メートル。床も専用のマットが敷かれており滑りにくそうだ。

 そして俺の相手が入場してきた。

 互いに認識し合うとアナウンスが鳴る。

《READY……》

 レディの音声でオーラ剣を出し腰を低くして構える。向こうの腕が光ると、肩まで覆ったガントレットアームが装着された。アレが武器らしい。

 しゃべり声が聞こえなくなり誰かの息を飲む音が俺には聞こえた。

 二秒も満たない開始の間。そして――

《FIGHT!!》

 お互いに駆けだした。

 俺は自信に満ち溢れた相手の顔を見て、少し事の経緯を思い出してみる。



「俺の名前は不動ふどう 優星ゆうせい。チームファイブドラゴンと言うサークルのリーダーだ」

「え、あ、花房 萌です」

 思わずどもってしまった。ぐいぐい来ると思ったら意外と紳士的だ。髪の毛は逆立っているけど、聞き取りやすい声で好印象だ。

「すまない。君みたいな有名人と出会ってしまったからには、考えるより先に行動してしまった」

「あはは……。俺は有名になんて成りたくなかったですけど」

「巷では勇次郎と言われているのに、君自身はソレとかけ離れた性格の様だな」

 ハハハと目を補足して笑う顔は悪い人の形相じゃない。俺の目に狂いが無ければ不動さんは良い人だ。

「おい、ファイブドラゴンの不動が勇次郎に声かけてるぞ」

「本当だ」

 小声でも聞こえてきた。俺が気づいた素振りを見せると、不動さんは困った様に眉を曲げて、向こうで話そう、と言ってきた。

 俺は静かに後をついて行った。

 俺はめっちゃ嫌で断りたかったけど、周りの視線が俺に射貫く。逃げるんじゃないだろなと射貫く。まぁ俺の被害妄想かもしれなが。

「最上位のヤマトサークルや銀獅子サークルの様な上位のサークルとは言わないが、俺たちファイブドラゴンは中堅を自負している」

 隅の方に移動すると不動さんがそう言った。

「聞いたことないって顔してるな」

 すんません。

「いいんだよ、事実だし。……チームでの連携は正直他のサークルには引きをとらない思っている。今は個人の力を伸ばしている期間なんだ」

「だから俺とバトルしたいと」

「話が早くて助かる」

 笑顔になる不動さん。たぶんだけど、イイ感じの対戦相手を探していて見つからず、ちょうど俺が現れたからしめたもんだと。

 俺も笑顔になる。次のアクションは握手を求める程だ。

「嫌です!」

「そうか、それはありがた……えええええ!?」

 口を大きく開いた驚き顔は当然だろう。あのいい雰囲気でまさか断ってくるなんて思いもしなかっただろう。

「な、なぜ……!?」

「俺ってほら、陰キャゲーマーなんで目立ちたくないんですよ今は勇次郎なんて言われてますけどアレは不可抗力で仕方ないと諦めてるんですだからもうこれ以上有名になりたくないんですすみませんね!」

 どうだこの最高に陰キャじみた早口。もはや何言ってるか分からんだろう。

「そ、そうか。どうやら説得は意味をなさないようだ」

「すみません」

「呼び止めてすまなかった。今度あったら近況でも話そう」

 そう言って微笑んでくる。諦めてくれてよかった。これで先に不動さんが離れていくと、変な噂は流れないと思う。

「あ! 優星ゆうせいー!」

 手を軽く上げて会釈。俺も頭を下げようとした時、不意にこちらに向けて声が聞こえた。

 何だと下げかけた頭を上げて声の方に目を向けると、赤いぴっちりライダースを着こなすクール系美人がマシュマロを揺らして走ってくるではないか。

「アキラじゃないか。今日は来ないはずじゃ」

「優星に逢いたかったから。ここなら顔出してると思って」

「スマホに連ら……マナーモードだった」

「だから来たの」

 アキラと呼ばれた女性は優星さんの両手を握ると愛おしそうに親指で摩り、顔もどこかほんのり赤い。
 これはいわゆるアレか。リア充というやつか……。

「ああ、紹介しよう。サークルメンバーのアキラだ」

「! アキラです」

「どうも、花房です」

 アキラさんは俺の顔を見て驚いた表情をした。どうやらアキラさんも俺を知ってるんだろう。俺が知らない俺を知ってる人が多すぎる……。これだから有名人は嫌だ。

 しかもアキラさん、優星さんを見る眼は恋する女子全開なのに対し、俺を見る眼は虚無すぎて怖いんだが。

「これからどうするの?」

「もう帰ろうかなとな。ホイールをいじりたい」

「じゃあ私も行こうかな……」

 俺に背を向けてイチャイチャとイチャつく二人。大人の二人はこれから決闘デュエル(意味深)をするに違いない。
 俺はその姿がどうしようもなく、どうしようもなく。

「気が変わりました不動さん!」

「ん?」

「俺とバトルしませんか」

 ムカつくんだよなぁ俺ってば。


 ぶつかり合うお互いの得物。拳と剣。オーラ剣が細かな破片を撒き散らしながら拳を斬りはらい、刺々しいメリケンサックが何もかも砕く意思があるように打ち込まれる。

「ッ」

「おおお!」

 激しい武器のぶつけ合い。ギャラリーは目を摩って見間違うほどの微弱な空間の揺れを見て慄くが、等本人たちはまだ序章。小手調べだと言わんばかりのせめぎ合い。

 だが気合いが無いわけではない。

「あいつら……」

「笑ってやがる」

 楽しむ。バトルを楽しむ。本来は笑って挑むものではなく緊張感が張ったバトルのはずが、萌と優星は自然と笑みがこぼれた。

「ッハ!」

「!」

 大きく斬り掛かるモーション。その隙を見逃さず、優星は萌の腹部に拳を打ちバリアにダメージを負わせた。

 双方とも距離をとって息を整える。

(学生より場数を踏んで自信はあったが、どうやら花房くんは一味も二味も違う……!)

 感心する優星。このバトルルームを利用するのは無論学生もいる。自然と切磋琢磨する学生たちを見る事になるが、やはりまだを拭えない。その感想は他のギャラリーも同意見だ。

 中には光るセンスがある学生もいるが、この学生、通称勇次郎は明らかに強者。

「ファイブドラゴンの奴は息が上がってるな。猛烈な打ち込みをしたから当然か」

「バカ。勇次郎を見てみろ」

「……おいおい。息が上がるどころか汗一つかいてないぞ!」

 ギャラクシーがざわつく。戦慄して冷や汗をかく者、口元を抑えて驚愕する者、メガネを整えてデータをとる者。様々な様子を見せるが、注目の的である勇次郎がオーラ剣を引っ込めた。

「中堅だって謙遜しちゃって優星さん。スピードとパワーは西田さんと引けを取らないじゃないですかぁ」

「そうか? 君は西田メンバーの戦闘を間近でみた存在。どうやらお眼鏡にかなったようだな」

 優星は腰を低くする。首に巻かれた白の長いスカーフをなびかせ臨戦態勢。

「そんな強い優星の胸をお借りしますね」

 萌は立ちながら軽いストレッチをし、脚に力を入れた。

「じゃあ二幕と行きましょうかッ!」

 駆ける勇次郎。蹴られたマットがくぼみ、聞いたことの無い音を立てた。

(早い――)

 考えるより先に反射で拳を避けた。聞こえてきた拳が風を切る音。尋常じゃないパワーとスピードを兼ね備えてると本能で分かってしまう。

「ック!?」

 メリケンサックでマットを打ち、その衝撃で距離を広げる優星。

「どうやら俺の、俺たちの絆が試されるバトルになるらしい……!」

 優星は久々の強者に当たり、拳を強く握りこんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

処理中です...