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第五章 泡沫の葛藤

第28話 チュートリアル:BBQ

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「いただきまーす」

 と、陣取ったマットに座り、パラソルの下で手を合わせた。

 大き目な使い捨ての皿に大盛りの焼きそばが。各々の皿にオムレツが乗っており、美味しそうないい匂いが漂って食欲をそそる。

「うンま!」

「だろ」

 大吾のリアクションに月野が反応した。

 確かに焼きそばとこのオムレツは美味い。店番を任される程の納得の腕前だ。月野に料理の腕があったとは知らなかった。

「えっとぉ、私、花田 蕾です。大吾くんとお付き合いしてます!」

「クラスメイトの月野 進太郎です。タメっぽいし、敬語じゃなくてもいいだろ?」

「うん!」

 月野はコミュ力高いな。花田さんみたいな弩級の美少女にものともしないなんて……。俺だったらどもり散らして過呼吸になるわ。

「梶に彼女が居たなんてな」

「おい月野、蕾に変な気持つなよ」

「俺、好きな人いるからそれは無い」

「え! 月野好きな人居るの!? どんな人クラスメイト!?」

 怪訝な顔の大吾が月野の言葉に一変し驚愕。瀬那にいたっては興味津々と女子パワー全開で問い詰めている。大吾の隣の花田さんも目をキラキラさせている。

「そんなに聞きたいのか。別に面白くもないと思うぞ」

「はよはよはよ!」

 月野がぐるっとみんなを見てから、最後に俺を見た。期待する視線を浴びている月野だが、俺だけはどっちでもいいのニュアンスな視線を送り、ため息をつき、休憩終わりまで話す、と言って口を開いた。

「その人は俺が小学生の時から世話になってる人。ご近所さんだったし、歳も五つ上で俺からすれば大人びて見えた」

「ふ~ん年上なんだぁ」

「月野はお姉さん好き……。って事は、今相手は成人済みって訳か」

 小学生の頃からの付き合い、ご近所さん、そして年上で大人びている。

 つまりは年上幼馴染のお姉さんって事か! 

「まぁ姉御肌って性格だな」

 性格まで言うかこいつ! 俺は今、圧倒的ギャルゲーな設定を聞かされている。俺がプレイしてきたギャルゲーでは、年上の幼馴染キャラはゆるふわ系のおっとりキャラだった。でも月野の場合は姉御肌ときたもんだから現実は面白い。

「で? その人とはどんな感じなんだ?」

「正直、姉弟みたいに育ったから接し方は今も変わらない。……いや、俺は男らしさを魅せてアタックしてるが、向こうがなんとも思っていないふしがある。難しいものだ」

「キャー! アタックだって瀬那!」

「月野頑張ってるじゃん! ガチ恋?」

「ガチ」

「「キャー!!」」

 女子二人の黄色い声があがる。色恋沙汰は女子にとっては大好物。

「柔道始めたのも、正直その人の気を引くため、男らしさを磨くためと今白状しよう」

「お前凄いな。しかも柔道の才能もあったと」

「見る眼変わるわ。月野って堅物なイメージだったけど、マジで男らしいよ」

「ああ、ありがとう」

 素直な感想を月野に言った。太いのは眉毛だけじゃなく、その人への想いも太いようだ。

「……ん?」

 笑顔の月野を見ていると、ふと、月野の想い人と思われる人物が一人だけ思い当たる。

 それはさっき月野と交代で店番している店主だ。俺たちが月野と友達とわかるや否や、すぐさま休憩を言い渡し、今に至る。

 バンダナを巻いた姿だったが、今思えば若いお姉さんだし、姉御肌っぽいふしもある。これは確定なのでは?

「ふーん」

 店の方向へ目を向けていると、俺の視線に釣られて瀬那もそっちに向いた。そして頭に電球が灯る様にひらめく。

「ん!? もしかしてさっきのお姉さんが!?」

「……バレたか」

「その人の気を引くためにバイトしてるってか」

 静かにうなずく月野。俺は自分の恋にこんなに必死な野郎は見た事がない。大柄な体型に似合う強かな恋だ。素直に応援したくなる。ジェラシーが大半だがマジで応援してる。

「っと、時間か。もう行くよ」

「バイト頑張れよ」

「恋の方もね!」

 大吾と瀬那がエールを送る。サムズアップを俺たちに向けて去って行った。

 なんか月野の知られざる秘密をしってしまった。

「よし。焼きそば平らげてもっかい海に入ろうか!」

「うん!」

 食べ終わるとカップルが手を繋いで海へと走って行く。大吾の腕にはビーチボールがあった。

 海でボールとはまたド定番だなと思っていると、食べ終えた瀬那が立ち上がった。

「食後の運動食後の運動! ほら、萌も来て」

「え、いいよ俺は」

「ダーメ。せっかく海に来たんだし、海で遊ばなきゃ」

 マジで遠慮願いたいところだが、大吾と花田さんの楽しそうな光景、瀬那の笑顔が陰キャな俺を後押しする。

 みんなの貴重品は俺の次元ポケットにあらかじめ回収しているし、盗難されても問題ない。まぁ盗る物はマットくらいか。

「はぁ、負けたよ」

 ため息交じりに向けられた瀬那の手を握って起き上がる。手を引かれて大吾たちのもとへと歩いた。

 暑い夏日が肌を焦がす。日焼け止めを塗っているから日焼けは大丈夫だろう。

 くるぶしまで濡らす海の水は、思いのほか冷たくなく心地いい。

 花田さんからボールのパスを貰い、優しく瀬那に放り投げる。

 ボールを落とさない様にするのは思いのほか面白かった。

「オラア!」

 急に水しぶきが幾度も俺を襲った。

 聞き慣れた声で、事の正体は大吾と察し俺は反撃。同じく水しぶきを大吾に浴びさせる。

「フン! フン!」

「ちょ!? お前の水痛いんだが!? ちょ!?」

 リア充死すべし。

「それー!」

「キャー!」

 いつの間にか水のかけあいになっていた。白のシャツが水を吸い肌にピッタリと着く。水を吸った服が気持ち悪いのは知っていたが、なかなかに嫌な感触だ。

「花房くんの筋肉凄いねぇ~」

「あいかわらず仕上がりすぎて引くレベル」

「ッ!」

 花田さんに見られてたじろぐ。陽キャの筋肉は魅せつける筋肉だろうが、俺の筋肉は魅せる筋肉じゃない。戦うための筋肉。見せたくないし見られたくない。だって恥ずいだろ。

「……」

 物言わぬ瀬那の視線で耐え兼ね、次元ポケットから新たなTシャツを取り出して着替える。濡れたシャツはそのまま次元ポケットにしまった。

「もう海から出るのか」

「少し休憩だよ」

 海からあがってマットの上で居座る。ジュースの買い出しやなんやらと、そこからの俺はみんなのサポートに徹した。

 そして日が暮れていき、場所は宿泊施設の屋上へ。

「「「かんぱーい!!!」」」

 三人の音頭でグラスが打ち付けられ、俺もワンテンポ遅れて乾杯する。

「この肉大将軍が家来のために焼いてやるから、どんどん食えよ~!」

「っよ! 大吾大将軍!」

「おいしー♪」

 夕食は屋上で設けあられたオシャンティーなテントの下でバーベキューだ。

 陽キャ御用達のグランピングとはいかないが、ハンモックもソファーもあってなかなかにイイ感じだ。瀬那もインスタに上げている。

 大吾の言葉を借りると、お肉無限地獄という名の食べ放題のジュース飲み放題なので気兼ねなく食せる。

 別に舌が肥えてる訳じゃないが、食べ放題にしては美味しいお肉だ。

「変わるよ大吾。焼いてばっかであんまり食ってないだろ」

「言ったろ俺は将軍だって。焼いた良い肉はひめに渡って、その次に俺。そして普通に焼いた肉は家臣の君たちへと流れてる」

 確かにちょこちょこと大吾が食べているのは見ていたが、選別していたとは……。

「まぁカー○ィかってくらい食ってる奴が俺の箸を止まらせてはいるんだが」

 呆れた視線の先にはバクバクと食べ続ける瀬那の姿があった。花田さんも嬉しがって肉を供給するから止まらない。

「今日食ってばっかじゃん……」

「ッム!」

 カー○ィに睨めつけられる俺。

「肉、貰ってくるわ」

「海鮮も貰ってきてくれ」

 はいよ、と言ってテントを抜け出して食材を取りに行った。

 引き続きBBQを楽しんみ、夜もふけていき、大浴場で今日の疲れを癒した。部屋にシャワーが設けられているが、やっぱり風呂に浸かるのは最高だ。

「ふぁぁ眠む……」

「もう眠たいのか?」

 同じ浴衣姿の大吾が問いかけてきた。風呂上りの冷たい牛乳を飲んだのに、覚めるより眠たさが勝った。

「もう十一時だし、俺寝るわ」

「健康的な睡眠時間だな。蕾と瀬那はしばらく出てこないだろうし、俺から言っとくわ」

「よろしく~」

「一応借りた部屋の電子キーは四人共通だから、そのまま寝ていいぞー」

「おやすみ~」

 そう言ってその場を後にし、借りた部屋に戻った。

 スマホで留守番しているリャンリャンに連絡。特に問題なそうな日常を送っていると返信が来た。

「……一応掛け布団は二つあるか」

 布団に包まってダブルベッドの端で横になり、俺は慣れない疲れからかすぐに寝付いた。



「ウルアーラ、この日本に来て一週間だが、感想は?」

 明りのない暗い暗い空間で、金の椅子に背もたれる男が黄金の杯で酒をあおる。

 質問された髪の長い女性、ウルアーラはその言葉を無視。執拗に指の爪を噛んでいる。

「俺はイイ所だと思うぜ? 紛争は無いし娯楽も溢れてる。平和そのものだ。数々の世界の例にもれず、普通は大混乱するはずが、覚醒したばかりの世界なのに普通に受け入れている。……適応力が段違いなのかねぇ」

 いつの間にか握っている風船の糸を離すと、ヘリウムガスにより空へと飛んでいく。

 赤い液体を飲む男を他所に、ウルアーラは血走った眼球を男に向ける。

「気に入らないのよ……。この世界は気に入らない」

 爪を深く噛む。

「気に入らない? またどうして? こんなにも愛が溢れた――」

 瞬間、黄金の杯が弾け飛ぶ。中身の液体が黒い空間にこぼれた。

「私は前から黄金……エル、あなたの事嫌いなの。わざとでしょ今言ったの」

「おいおい」

 噛む爪が無くなり指を噛み、青い血がを流しながらエルと呼ばれた男に近づいた。

「愛が、愛が何だってのよ! う゛う゛ああああああ!!」

 髪の毛を毟り取ってウルアーラは発狂する。

「どいつもこいつも愛しやがってえええ!! 発情期かクソ共があああああ!! 憎たらしい! 憎たらしい!!」

 エルの服の襟を掴んで訴える。唾と青い血を口から飛ばしながらエルに叫び、解放そると頭を押さえて狂乱する。

「あの、めっちゃ顔に唾飛んでる……」

「あ゛あ゛あ゛あああああ!!」

「これだから病んでる女は嫌だったんだよ」

 黄金の布で顔を拭き、発狂しながら何処かへと歩いていくウルアーラに向けて言った。

 足元に水が被ったと同時に、ウルアーラは静かに呼んだ。

「フランダー」

 水がボコボコと泡立つと、そこから跪く何かが現れ、すくりと立った。

「ウルアーラ! 久しぶりだね!」

「フランダー、そろそろ仲間を増やさないといけないのよね」

「うん! いっぱい溜ってるよ!」

「私のかわいいお友達、フランダー。私の言いたい事、分かるわよね?」

「うん! 任せてよ!」

 不吉な微笑みと無邪気な笑顔。対照的な笑顔が暗いこの場を支配した。
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