上 下
25 / 215
第四章 嫉妬の抱擁

第25話 ???界

しおりを挟む
「幻霊が斃された」

 重圧な声が重力を帯びて発せられた。

「我々は幾度も己が意義を問うてきた。そして同胞が斃される度に今一度、その意義を見つめ直してきた」

 白一色。囲む円卓、床、椅子、空間までもが白色。だが、その純白な世界を凌辱する様に、十も満たない存在、君主が己が色を拵えて座っていた。

「我らの悲願は統一化……。混沌を成す世界を纏め上げ――」

「世界をあるべき姿に戻す、だろ? 聞き飽きたって。何回目だよ」

 重圧な声を赤い灼焔しゃくえんが妨げる。机に脚を乗せる存在に注目がいった。

「他の奴がやられる度に雁首揃えて集まるって……ッハ、暇か」

 両手を頭に持っていき支え、腰かけた椅子を体重移動で遊んでいる。明らかに無礼な振舞だが、灼焔はお構いなしと踏んでいる。

「弱いから斃されたんだ。それだけだ。お前らも本当は悲しむていで集まってるんだろ。もともと仲良しこよしな存在じゃないだろ俺たち」

 灼焔の言葉に誰も口を挟まない。肯定的な意見だと静観しているのか、それとも否定しているのか、どちらとも取れる静寂だ。

 だが、静寂を破る存在もいる。

「口が過ぎるぞ灼焔。貴様も君主の末席に並ぶのなら、相応の態度を取るべきだ」

「あぁん? 俺に文句でもあるのかよ、藍嵐あいらん

 青の存在が口をはさんだ。

「私は恥じている。灼焔、貴様の様な低俗な存在が同じ君主だと私は恥じている。ため息しか出ない」

「……喧嘩売ってんのか。俺はいつでもいいぜ? 青いの!!」

 立ち上がった灼焔から高密度のエネルギーが溢れ出し、空間を歪ませた。

「や、やめましょうよぉぉ……!」

「あらあら、血気盛んねぇ~」

 震える緑。動じない桃色。

 他にも君主は居るが、先ほどと同じく静観していた。

「貴様などはなから品性というものが無いと知っていた。過度な期待はしていない」

「……」

 見え透いた挑発に青筋を浮かばせる赤。怒りを含ませる視線を受け、青は冷静な鋭い目つきで返す。

 頭髪を炎に変えた赤。座っているが、テーブルの下で指先が濡れる青。

 一触即発。重苦しいこの場で、今まさに争いが行われようとしていた。

 しかし――

「よせ」

「ッグ!?」

「ッ!!」

 重圧な言葉と共に、赤が膝から崩れ落ちる。膝を付くが床が円形に割れ、そこだけが見えない現象が起き、赤の周辺は異質な空間となっている。

 そして異質さは赤だけではなく、座っている青にも襲っていた。

 白の椅子が床を砕き、青が必死に我慢している様に、ひじ掛けを手で砕いている。

「幻霊が斃された今、同胞殺しは許さん」

 白鎧びゃくがい姿の君主が口を開いた。

「これまで同胞殺しによる決闘を許してきたが、それは先代が決めた事柄。これからはそれらを禁ずる」

 赤と青の額から多量の汗が流れている。

「……同胞を失うのは、これ以上我慢ならん。……藍嵐、灼焔。よいな」

 声すら発せない状況の中、二人は首を小さく頷かせた。

 同時に解かれる異質。安堵の表情を浮かべ、二人は椅子を深く座り直した。

「っほ……」

「怪我しなくてよかったわぁ」

 君主達も各々の反応で安堵した。

 くわばらくわばらと首を振る君主もいる中、白鎧の君主が取り仕切る。

「宰相よ」

「っは」

 君主の背後から音もなく現れた。君主と同じ白鎧を着ているが、重厚でマッシブな君主とは違い、細身でスリムな体型だ。

 宰相が語り出す。

「幻霊殿が斃れたのは物質世界の辺境次元、地球でございます」

 続けよ。君主が下した。

「頂点に君臨する原生生物は純粋なヒューマン型です。そして先日、その物質世界は次元規模でダンジョン覚醒に至り、我らの観測対象になりました。ここまでは皆様もご存じのはずです」

 異論なし。君主たちは耳を傾けている。

「観測に挙手したのは幻霊殿ですが、結果はご存じの通りです」

「宰相、少し駆け足じゃないのか。各世界には各特徴がある。察するに幻霊は世界の特徴に足元を掬われたのだろう……。その世界の特徴はどうだ」

「特徴ですか……」

 腕を組んでいる藍嵐が質問した。

「生物はいたって平均な観測データが出ています。普通過ぎると言ったところでしょうか。しかし、ヒューマン型の特徴は反比例する様なデータが出ております」

 電子音が響くと、君主たちの眼前に映像が流れる。

「これをご覧に」

 略奪、接収、暴力、闘弁、凌辱、そして破壊。

「非常に攻撃性があり、争いを好むのが特徴です」

 キノコ雲が上がる。

「ひ、酷い……。同族をこんなにも……」

「これはまた……」

 口元を抑える君主もいる。

「おぞましいものです。ここまで同族に対して攻撃的とは、類を見ない程です」

「……見るに堪えんな。宰相、下がって良いぞ」

 頭を下げると、宰相は忽然と消えた。

「して、幻霊の胆力は皆も存じているだろう。だが、この攻撃的で覚醒したばかりの地球のヒューマン型に、幻霊が斃されたなど我は到底思えん。何か裏があるとみた」

 白鎧の言葉に、一目おく存在だと君主たちは頷いた。

「俺もそう思う。あのおっさんは寡黙だが、実力は確かだ」

「貴様よりは強いな」

「ッチ、黙ってろ青いの」

 白鎧は指を顎に当てもの思いに耽った。そして数秒後、顔を上げた。

「黄金、お前は幻霊と深い仲であり、それと近しい存在だ。……お前の意見を聞こう」

 この白一色の場で、一際異色を放つ存在が指名された。

 西洋のプレートアーマーがベースだが、刺々しくも柔らかな見た目。黄金の色を放ち、各所に宝石が散りばめられている。兜の奥の赤い二つの点が白鎧を見た。

「意見も何も、俺だって驚いている」

 渋い壮年の声が発せられた。

「白鎧以外で幻霊に勝てる奴がどれだけ居る? ん? 俺でも辛勝がやっとだろう」

「えーと、勝てるの?」

「私は争いは好まないから……」

 君主だちがざわめきだした。だが皆言葉を詰まらせるばかりで、ハッキリとした答えはでない。

「すまん。俺でも勝てるかどうか怪しい。忘れてくれ」

 黄金が見渡し、手をひらひらとさせて落ち着かせた。

「……はぁ。まぁ、白鎧は俺が何か知ってるんじゃないかって疑ってるんだろ?」

「疑ってはいない。知っているならお前は話す」

「信用あるねぇ~」

 そう言いながら手をかざすと、黄金の杯が出現。中の赤い液体を兜の口部から飲んだ。

「ンク。俺は幻霊の身に何が起こったのか知らん。だから提案する」

「……提案?」

「俺も地球を現地監査する」

 静まり返る円卓。

 声と態度には出さないが、疑心暗鬼に陥る。

「信用ないねぇ~」

 首を振る黄金。

「屍の俺でも、情の一つや二つはある。……生きてるとは言わないが、屍が信用無いなら、同胞を想う俺を、信頼してはくれねぇか」

 なんの淀みのない真剣味がある言葉だった。感情が見て取れない複数の視線が黄金を射る。赤い二つの目が白鎧を離さない。

「……いいだろう」

「……」

 白鎧の白い目が黄金を見た。

「だがこの場にいる君主を別に現地監査させる。事態が事態だけに黄金、お前を守るためでもある」

「助かるよ」

 黄金はもう一人観測者が着くと予想していた。だがら意見をせず、感謝を述べた。

「して、誰が黄金と赴きたい」

 白鎧が円卓の君主たちを見渡す。誰もが尻込みする中、一つ、挙手する手があった。

「……俺が病みそうだ」

 誰にも気づかれず、そっと呟いた。

(アンブレイカブルよ、こりゃ骨が折れるな)

 赤い目が小さく半目になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...