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第三章 仙人は笑う

第18話 チュートリアル:最高傑作

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 最初に感じたのは少し冷たい風。あの埃っぽく機械だらけの場所から出た。空を見ると雲が何食わぬ顔で動いている。

 導く様に視覚化した風のエフェクトを追うと、それはあった。

 最初に頭に浮かんだのは石。石造だ。だが俺が一歩、また一歩と歩み進めると、石の欠片がぽろぽろと落ちていく。

 一歩進む。

 石像の腕部が爆ぜる。

 息を飲んで一歩進む。

 石像の脚部が爆ぜる。

 オーラを纏って一歩進む。

 石像だった腕が動き、胸部の石を掴む様に砕く。

 睨みつけて一歩進む。

 もう片方の腕が石から解放されると、全身を力む様に奮い立たせた。

 細かな先端の石まで落ち尽くす。

「これが……リャンの最高傑作……!」

 黒を主体に黄金が装飾されている。

 四神のブラッシュアップに乗っ取った機構。全長は三メートル強。腕脚共に大きく盛り上がっており、各所に装甲が付いている。装甲を纏った胸部も相まって、ものすごくマッシブに見える。

 手の大きさは俺の顔なんて容易く握りつぶせる程に大きく、足先は猛禽類に似た形状。かぎ爪は無いが、アレをまともに貰えばひとたまりもない。

「ふー」

 直感的に分かる。あの機仙、四神を比べるまでもなく、強い……!

 そう思いながら俺が立ち止まると、機仙に動きがあった。

「!!」

 駆動音を鳴らしながら腕と脚を動かした。円を描く様に、身を引き、指を一つ一つ折り曲げて握り拳を作る。

 まるでカンフー映画さながらな型。その型の終わりなのか、攻撃態勢で動きが止まり、顔面のツインアイが俺に向けて光を放った。

『チュートリアル:ボスを倒そう』

『人型殲滅起動仙機 黄龍仙こうりゅうせん

「!!」

 黄龍仙から目に見える程の力場がほとばしる。俺が纏っているオーラに似ているが、全くも別物。

 そして俺が動くより先に、奴が動いた。

「噴!!」

 地面を大きく抉る程の蹴り。爆発的な力をそのままに、瞬きする間も無く俺の前に迫った。

「はや――」

 下に殴り潰す揮う拳。寸での所で避けると、大きな拳が俺が居た場所を砕く。

 貫通する拳。息をつく暇もなく地面から引き抜かれ、次の一撃、と、もう片方の拳を揮ってきた。

「ック!」

 横にずれて避けた。

 だが黄龍仙が上手だった。

「破!!」

「ッッ」

 予想済みだったらしく、俺の移動先に攻撃を"置き"、予想だにしない不意な後ろ回し蹴りを俺は受け、文字通り吹き飛ばされた。

「っクソ、やっぱ強え!」

 脚でブレーキをかけ、手を着いて立て直した。

 オーラ剣を出して構える。

「っふ、っふ」

 息を整える。オーラを纏っていなかったら確実にミンチだった。あの脚超痛い……。それに発する声? 音声がエコーかかってて何かカッコいいし。

「ふー、っしゃ! 次は俺のターンだ!」

 姿勢を低くして駆ける。オーラ剣を強く握りしめ、構える黄龍仙へと攻撃を仕掛けた。

「ッフ!」

 上段から斜めに斬る。

 腕部の装甲でガードされる。拮抗する攻撃と防御。方やオーラの破片を散らし、方や火花を散らす。

 いなされた態勢からオーラの出力を上げ、再び攻撃に転ずる。

「二撃目!」

 横一線。これも腕で防がれるが、いなされる事無く斬りはらった。

「!!」

 できた隙を見逃さない黄龍仙。拳が迫るが、体を捻ってオーラ剣を盾にした。

「っぐあ!?」

 鋼鉄の拳がオーラ剣を押しつけて俺を容赦なく吹き飛ばす。

 今まで感じた事のない鈍重な痛み。散々斬られ、潰され、捻られ殺されたが、痛みだけは慣れたものじゃない。

「っく! っぺ!」

 背中から倒れたが、腕と体のバネで跳び、着地した。ついでに血が滲んだ唾も飛ばす。

 オーラで強化した身でもこのダメージ。四神と比べるのもおこがましい。それほどに黄龍仙は強い。きっとまだまだ力を出し切っていない。戦いはまだまだ序章。

 だったら話は早い。力を出す前に仕留める作戦だ。

「ハァアアアア!!」

 身に宿るありったけのオーラ。それを剣に乗せ、奴を叩く!

「行くぞ!」

 色濃く凝縮されたオーラ剣。振動音を響かせるそれを、俺は強く強く握った。

 駆ける。

 風のエフェクトが俺を後押しする様に働きかけ、文字通り後押しした。

 別に俺は主人公ってガラじゃない。陰キャだし、顔も中の下だろう。それこそイケメンな大吾だったり、まとめ役の月野、ヤマトサークルの西田メンバーがまだ主人公だろう。

 俺はモブだ。よくてサブキャラ。

 そんな俺でも、主役がもってそうな必殺技がある。

 そうこれが。

「ハイパァアアアア」

 俺の技。

「オーラ斬りだあああああ!!!」

 四神を屠ってきたこの一刀。強靭なオーラの刃が、構える黄龍仙に牙を向く。

「!!」

 オーラ剣の振動が装甲を紙切れ同然に切り裂き、黄龍仙のマッシブな体を真っ二つ細かな機械の破片が無情にも舞う。

 ハズだった。

「――」

 オーラ剣が微動だにしない。揺れる瞳を刃に沿って追うと、顔面寸前でオーラの刃が鋼鉄の手に握られていた。

「噴!!」

 握り潰される。細かな破片が俺の頬を伝い、黄龍仙のツインアイが光った。

「――?」

 動揺を隠し切れない俺に黄龍仙は容赦なく攻撃を仕掛けた。

機仙弧月脚きせんこげつきゃく!!」

 片脚で俺を空へと蹴り飛ばし、

双牙そうが!!」

 小さく跳躍してもう片方の脚で同じ技を俺にくらわせた。

 何が起こったのか分からない。重い痛みを感じながら落下する。何事かと思考する前に瞳に映ったのは、地に足付けた黄龍仙が可視化した力を溜め腕を振るわせていた。

 本能が囁く。防御しろと。

「ッ!!」

 オーラを全力で纏った。

「噴!!」

「ッ!!」

 拳で地面に叩き伏せられ、地面を割ってゴムボールの様にバウンドする。

「機仙――」

 震え力む拳。両腕を腰に構えた。

連弾拳れんだんけん!!」

 一発、二発、三発四発。次の瞬間には目で追えない程の拳の連打。

「破々々々々々々!!」

 腕の付け根がいくつも枝分かれしている。そう錯覚するほどに猛烈な連打が襲い掛かり、力宿る鋼鉄の拳は無数に見えた。俺はただ腕を盾にして防御するので精一杯。

「破々!!!」

 右ストレート。猛威を振るう拳を受け、景色が前へ前へ流れる。

 痛い。痛い痛い! ガードした腕が折れたかと思う程に痛みが俺を襲った。

「ッカハ!?」

 激突した衝撃で壁が大きく瓦解。原型は残っているが、その事を気にする余裕すら無い。いや、初めから余裕なんて無かった。俺が心のどこかで舐めくさっていただけだ。

 頭から血が流れ、口から血を吐き、ジャージは細切れ、体中に打撲を無数に受けた。

「ッハ、ッハ、ッハァ」

 舐めていた結果がこれだ。もう、もうオーラ剣は効かない。

「ックソ……」

 何がハイパーオーラ斬りだ。いい加減サン○イズに怒られるぞ……。いや、怒られた方がマシだ。悠々と歩いて来る黄龍仙の方がやっかいでヤバい。

 全力のオーラ剣が効かないなら、俺がとれる戦い方は、

「ハァ、ハァ、ッへ! 拳で語り合おうぜぇえええ!!」

 オーラを轟々と引き出し、周辺の空間を蜃気楼のように歪ませる。

「覚悟しろ黄龍仙! 今から俺は――」

 地を蹴って跳躍。

「サイヤ人なんだよぉおおおおお!!」

 空中で自身をを鼓舞しながら、腕を引いく。

「!!」

 俺と目が合う黄龍仙。上空からの攻撃に、黄龍仙は構えた。

「オリャアアアアア!!」

 渾身の一撃が地面を大きく陥没させ、砕いた。それは奴が受け流さず避けた証拠。すぐさま大きな脚で反撃されるが、本気でオーラを纏った腕でガード。

「!?」

 防がれると思っていなかっただろう驚愕が、黄龍仙に見て取れた。

「うおおおおお!!」

 一瞬のスキを見逃さない。吼えた気合いのままに肉薄。渾身の二撃目が腹部に深く刺さる。

「!?!?」

 後ろによろめいた。鋼鉄の装甲と思っていたが、独特な感触で柔らかく、それでいて非常に硬い。破壊する気でいたのに少し装甲が凹んだだけだ。

「まだだ!」

 小さくジャンプして顔面に一撃。

 火花を散らして頬が歪む。

「ッフ」

 着地して体を捻り、腹部へ回し蹴り。

 横くの字に少し曲がり、装甲の形を潰す。

「もう――」

 ジャンプして脚を大きく上げ――

「一撃ぃいいいい!!」

 踵落としを頭部へくらわせた。

 鉄が曲がる嫌な音が響き、黄龍仙は態勢を崩した状態で一瞬止まった。

 やったか……?

 俺のその予想は、

「噴!!」

「ッグ!?」

 黄龍仙の放った一撃で裏切られる。

 吹き飛ばされたが、連打より威力が低くダメージは少ない。

 何を受けたのか見てみると、見慣れない態勢で背中を見せていた。アレはゲーマーやオタクなら見聞きした事があるだろう。

鉄山靠てつざんんこうかよ……」

 構え直し、俺をツインアイで睨む黄龍仙。

 この戦い、どうやら長引きそうだ。
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