スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第119話 サプライズ

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 各国の代表者がミツを自国へと取り込む話場があった前日に少し話は戻る。
 ベンザ伯爵を断罪を決意したダニエル様の話が終わった後。
 自分は通路で待つマネとシューから声をかけられていた。
 内容としては試合の結果を労う為の酒の誘いであった。
 自分はラルス達を救出に向かった際、戻れば試合は既に棄権扱いになっていたので、後の試合はない。
 話も聞きたいのか、それともただ単にマネ達が飲みたいのか。
 プルンやリック達、ローゼ達も含め、避難誘導を行った皆での飲み会が急遽決まっていた。
 行くのは構わないが、それを考えると、広場で人々を誘導してくれたバン達にも声をかけなければいけないだろう。それに、アイシャやギーラ達にも無事に終わった事を伝えたい。
 それをマネ達へと告げると、彼女達は人が増えることに抵抗もないのか、寧ろ歓迎する返事をくれた。
 じゃ~、早速行こうと進みだした時、自分はハッと思い出した。
 今この武道大会の会場周りは、自身が起こした水竜の水の影響で泥土が流れてしまっている。
 自分は直ぐにダニエル様達がまだ居る部屋へと踵を返し、部屋への入室をお願いした。
 先程退室した自分が戻ってきたことに目を丸くするダニエル夫妻。
 会場外に流れた泥土の話をすると、案の定泥土で馬車の車輪が動かせないことが判明した。
 他国の代表者の人々が泊まる宿泊場の方角には泥土は流れておらず、幸いにもそれに関してお怒りの言葉は無かったようだ。
 だが、屋敷が離れた場所にあるフロールス家には移動手段である馬車が必要。
 お詫びと言う訳ではないが、ダニエル様とエマンダ様とラルス、そしてフロールス家の護衛兵の人々は馬車と共に屋敷へとゲートを使用して送ることを提案としてだした。
 馬車にこびりついた泥土は屋敷で落として貰えば明日またすぐに使えるし、何よりも夫妻の二人は直ぐにでも無事なミアとロキア君に会いたいだろう。
 ダニエル様はまだやる事があるが、やはり娘と息子の無事を見ておきたいと自分の提案をのんでくれた。

 通路にいる皆へ、後で合流する旨を伝え先に行ってもらう。 

 部屋へと戻り、ダニエル様達と屋敷へと帰れば、そこはもう見慣れた談話室。
 そこには椅子に座っていたパメラ様、セルフィ様、そしてロキア君とミアの姿があった。
 ダニエル様が先にゲートを通り抜け、続けてエマンダ様、ラルス、そして自分とゼクスさんが部屋へとはいる。
 ミアは父と母の姿を見た瞬間、直ぐに椅子から立ち上がり、使用人の目も気にせずに、父であるダニエル様へと駆け寄り抱きつく。

「お父様! お母様!」

「ミア、よくぞ無事で。良かった!」

「本当に。怪我はありませんか!? 随分と無茶をしたのでしょう。話を聞いた時、母はどの様な気持ちであったか」

 張り詰めていた気持ちが溢れだす様に、ミアは続けて母のエマンダ様の胸の中で泣き崩れてしまう。娘との再開に喜びにエマンダ様の目にも大粒の涙が流れていた。
 ロキア君も母のパメラ様に会えたことに先に心落ち着かせていたのか、ゼクスさんへと駆け寄り、にへらと可愛らしい笑顔を振りまいてくれていた。
 そして、自身も姉のミアの様に父に甘えたくなったのか、ダニエル様の足元にロキア君が駆け寄る。

「父上」

「ロキア。お前も無事で私は嬉しいぞ!」

「うわっ!」

 いつもなら自身の頭を撫でるか、そっと寄り添う程度の父とのスキンシップしか経験がないロキア君。
 彼は突然自身の両脇に父の手が周り、掲げるように抱っこされた事に声を出しては驚きに目を丸くした。 
 驚いたのはロキア君だけではない。
 セルフィ様も目を見開き、側仕え、護衛兵、そして泣き崩れていたミアまでもダニエル様の右腕へと視線を向けた。
 
「ダニエル様! そ、その腕……」

 驚きのあまり、セルフィ様は嗜みを忘れあんぐりと口を開いている。いや、この人は会った当初から嗜みを何処かに置いてきたのではないかと思う性格だったな。
 セルフィ様の言葉に、ダニエル様は笑みを浮かべ、右手は義手出ない事を見せるように掌を動かしてみせる。

「腕ですか? これは贈り物として頂いた私の新しい腕にございますよ」

「贈り物って……まさか!?」

 ダニエル様は自身の腕に集まる視線に応える様に、周囲に見えるように腕を上げる。
 その後に視線が自分の方へと見ていれば、感の良い彼女はまさかと思いながらも気づいたようだ。

「あなた……。その腕は辺境伯様のお力ゆえにございます。皆さん、お聞きなさい……。主人の腕が治ったのは、表向きにはマトラスト辺境伯様の善意で頂きました回復薬の効果で、この通り新しき腕を授かりました……。よいですね。」

 パメラ様の表向きと言う言葉を挟んだ事に、ダニエル様の腕へと視線が集まるが、その中には言葉の違和感に感づいた者もいたであろう。
 数人のメイドや兵の人が自分へと視線を向けている。
 自分へと向けられた視線には、ニコリと笑顔だけを返しておく。
 ダニエル様の腕が治った事は、マトラスト様から頂いた回復薬で治った事にすると言う話の内容は、前もってエマンダ様に聞かされていたので別にその言葉に反応はしない。
 理由としては体の何処かを欠損した者は大小含めると、この世界に数千人と居るそうだ。
 腕を治療して元に戻ったなど、その様な話がフロールス家から出たりすると、フロールス家に誰が治したなどと屋敷の人の迷惑も考えずに人々が押しかけてくるかもしれない。
 善意と感謝でダニエル様の腕を治したと言うのに、後々フロールス家に迷惑をかける訳にはいけないと思い、マトラスト様の提案を受け入れることにした。
 ただ、セルフィ様は訝しげな視線をパメラ様に向けた後、自分を見ていたので彼女にはバレバレな詭弁であったことに気づいているのかもしれない。

 ダニエル様は抱っこしていたロキア君をゆっくりと床に下ろし、動揺と感激に震えた自身の家族や、仕えている者達を見る。

「皆が私の腕の回復にそこまで喜んでくれたことに感謝する。だが、私の腕がマトラスト辺境伯様の御慈悲で治った事はまだ伏せなければならない。本来ならば武道大会終了後に公表する事であるゆえ、外部に私の腕の事を漏らさぬよう注意してほしい」

 ダニエル様の言葉が終わると、何処からともなく「ご主人様、おめでとうございます」「ご回復、おめでとうございます」等の言葉が聞こえてきた。自分は屋敷に仕えている周囲の人達の笑みを見て、慕われているダニエル様へと、良かったと心から思っていた。

 それでは自分は約束もあるので、失礼しようとゼクスさんへと一言残そうとしたその時。

 セルフィ様の声が部屋に広まる。

「そうだわ! ダニエル様、私お願いがあるの!」

「な、何でしょうか、セルフィ様……」

 ずいっと迫るように声をかけられたことに思わず、一歩引くようにたじろぐダニエル様。
 そんなことはお構いなしと、彼女は話を続ける。

「あのねあのね! さっき部屋で見つけたんだけど、あの人形を私に譲ってくれないかしら!」

「に、人形ですか……。えっ! あれと申しますと、倅達の人形をですか!? いや、その……。セルフィ様にお譲りしたいのは山々なのですが……。あれは私が創り上げたしなではなくてですね……」

 突然交渉の話を持ち出したセルフィ様に、なんの事だと少し考えるダニエル様。
 だが、彼女がここまで興奮する品があったと考えると、直ぐにそれに思い当たる品が脳内を過ぎったのか、ダニエル様は貴族的な遠回りな断り方を口にする。

「そうなの!? なら、あの人形を造った職人を紹介して下さい! もう、ダニエル様ったら人が悪いんだから! あんな神が創り上げたと思えるような、ロキ坊にそっくりな人形。今迄教えてくれなかったなんてズルいですよ~」

「いえ、決して黙っていた訳ではなくてですね……」

 話を進める程に、白くきめ細かな肌である彼女の頬が上気していくのが周囲の人々にも解るだろう。
 身分差もあるセルフィ様から教えてくれと言われて、断ることもできないダニエル様は、チラチラと自分の方へと視線を向けてきた。
 そんな視線を受け、少しクスリと笑いながら近づき、何か熱く語っているセルフィ様へと話しかける。

「あの~」

「んっ? あら、如何したの少年君?」

「お話中失礼いたします。セルフィ様、その人形と言うのはダニエル様のご子息三人のお姿に似た人形の事ですよね?」

「そうなのよ少年君! あれを見た時、本当に私びっくりしちゃったわ。暖炉の上に視線をやれば、ロキ坊とミアちゃんとラルスの三人にそっくりな人形があったのよ! 少年君は見たことある? まだ見た事がないなら、広めの部屋にある暖炉の上にあるから見てらっしゃい。きっとあなたも驚くわよ。あの細かい細工、流れるような曲線美、光沢のある艶。そしてなによりも、あの顔の表現力!」

「そこまで褒めて頂けるとは。少し気恥ずかしいですね……」

 セルフィ様の言っている人形は、以前カイン殿下達との対談時に力を見せる為に即席で創り上げた人形のことであった。
 即席とは言え、イメージで作られた物をそんな熱く褒められると、自分は頬を掻きたくなるむず痒さが込み上げてきてしまう。
 あそこまで美しく仕上がったのは創造神であるシャロット様の加護の効果なのだが、それをここで言うこともあるまい。
 セルフィ様は自分の言葉にハッと気づいたように言葉を止め、自分とダニエル様を交互に見る。

「えっ? ……ま、まさか」

「ふふふっ。セルフィ、貴女が会いたがっていた職人なら目の前にいらっしゃいますよ。それに貴女がそう言った事を言い出すだろうと思っていました」

「パメラ様?」

 パメラ様はクスクスと笑いながら一人のメイドさんへと言葉を告げると、彼女は部屋をでると、何かを手に持って直ぐに部屋へと戻ってきた。

「奥様。お持ちいたしました」

 メイドの女性からパメラ様は布を被せた小荷物を一つ受け取ると、セルフィ様をテーブルのある方へと呼び、彼女を席へと座らせる。

「ええ、ありがとう。セルフィ、こちらにいらっしゃい」

「……」

「これはミツさんから貴女への贈り物ですよ。あの人形を求める程ならば、きっとこれも気に入ってくれると思います」

 パメラ様はファサっと上に被せていた布をめくり、周囲に中の物がお披露目となる。
 そこには先程のセルフィ様が絶賛していた人形とは別の物。
 同じ角材から創り出した人形であるが、モデルはロキア君とセルフィ様の二人である。
 二人掛けのソファに二人が座り、ロキア君へと本を読み聞かせるセルフィ様。
 
「「「!!!」」」

「わ~。僕とセルフィさんだ!」

「~~~」

「何と素晴らしい……」

「凄い……。生きてるみたい」

「この人形のロキアの笑み。そしてセルフィ殿の喜びの表現……。今にも動き出しそうではないか……」

 ロキア君は自身の人形が目の前にある事に喜びと声を上げ、周囲の人々も食い入る様に人形を見ては好意的な感想を述べてくれた。
 そんな中、セルフィ様は驚きに手を口に当て、正に言葉も出ない驚きに動きを止めてしまっていた。しだいと彼女の手がゆっくりと人形へと触れ、彼女がそれを手に持つと、パッと表情は明るく変わっていく。
 そして、自身の私兵の三人が立つ方へと視線を向け、彼女は口を開く。

「グラツィーオ、リゾルート、直ぐに祭壇を用意して頂戴!」

「えっ!? セルフィ様?」
 
 セルフィ様の私兵であるグラツィーオとリゾルート。二人へと突然祭壇を用意しろと言う言葉に目を丸くしていると、そこへもう一人の私兵であるアマービレが呆れた感じに声を返してきた。
 
「セルフィ様、喜びは解りますが感謝の祈りを捧げる祭壇は直ぐに用意できるものではありませんよ」

「何言ってるのアマちゃん! 無いなら作ればいいのよ!」

「セルフィ様、落ち着いてくださいませ……。客人としてフロールス家様の屋敷に宿泊をさせてもらっている私達には、その地に祭壇を造る力はありません。それにあの様な大きな物、すぐに出来ようもございません」

 アマービレの話を聞く限りではどうやらエルフには喜びが長点に達した時、祭壇を建てては喜びの感謝を伝える習慣があるようだ。そんな習慣がエルフにあるのかと思っていると、セルフィ様の言う祭壇とは、なんと、家1軒分の大きさもあることがアマービレの説明で解ってきた。
 そりゃ客人できてる自身達が他国の他領に勝手にそんな物も作れる訳がない。
 また暴走しそうなセルフィ様をなだめるアマービレと共に、先にお礼を言うべきでは無いですかとグラツィーオからため息まじりに注意を受けるセルフィ様。
 その言葉にハッとした様に、セルフィ様は感謝と笑顔で贈り物として造った人形を受け取ってくれた。
 今回の人形は自分一人で造った物ではなく、エマンダ様のアドバイスで人形の形などを共に制作している。
 昔流行ったGIジョーフィギュアの様に、これは関節部分を動かし、好きなポーズを取らせることができる品である。
 なので今はただソファに座っているだけの二人だが、二人を立たせ、手を繋ぐポーズや、馬を別で造り、二人を乗せれば乗馬の格好もできたりもする。
 人形の関節を曲げるなどの発想は無かったエマンダ様は驚きに「これは数多くの職人が居たとしても、同じ物を造らせる事は不可能です。貴方様だからこそできる品でございますね」と、少しだけ苦笑混じりに話しながら制作に取り掛かっていた。
 思い返せば確かに自分が小さい頃に遊んでいた宇宙ヒーローの人形ですら、動かす事ができるのは首と肩と足くらいではないかと思いだしていた。
 
 目の前にある人形が様々なポーズを取れることに更に興奮する周囲の人々。
 そこにラルスが自分へと興奮気味に声をかけてきた。

「ミツ。無理を承知で頼みたい。俺にも一つ造ってはいただけないか」

 その言葉に母であるエマンダ様は「突然そのような言葉は失礼ですよラルス」と、止の言葉を出す。だが、この世界に写真など無いので、一人で学園生活を送っているラルスが家族をお思い、最愛とする弟妹の姿をもした人形が欲しくなる気持ちも解る。
 母の言葉に貴族的な依頼方法ではないと窘められ、ラルスは眉尻を下げすまないと謝ってきた。 
 そんな彼を見て嫌ですとも言えないし、別に創ることは手間でもないので、自分はラルスの頼みを聞くことにした。
 
「エマンダ様、大丈夫ですよ。材料はありますから直ぐにでも造っちゃいますね」

「……息子のわがままを聞きいれていただき、感謝いたします。ラルス、これは貴方がミツさんへ依頼した品です。金銭を払うなり、自身で必ずお返しをしなさい。よいですね?」

「え、別にお金とか……」

「承知しております母上! ミツ、部屋に少し行ってくる。少し待て」
 
 その言葉を残し、ラルスはバタバタと慌ただしく部屋を出ていってしまった。
 自分は元々金銭などを要求する気も無かったが、エマンダ様は言えば何でも貰えると言う考えの育て方は好まないのだろう。
 エマンダ様の言葉は、ラルス自身が伯爵家を引き継ぐ息子だからこそ、こう言った小さな商談の場を経験させたいと思う親心かもしれない。

「まぁ……。先に造って待ってますかね」

 部屋を出ていったラルスが戻ってくるまでに、何を造るのかを折角なので、周りの意見を貰いながら造ってみる。
 ロキア君は少年らしく格好いい兄様を造ってと言ったが、貰う本人の人形などそれ程喜ばれないだろう。
 ならば、家族の人形ならどうだと今度はダニエル様が提案を出す。
 だが、それだと人形の量も増え、学園に持ち帰るのは大変だろう。
 皆であれはどうだ、ならばこれでと、様々な意見がその場を飛び交う。
 そして、創り上げたのは弟妹であるミアとロキア君二人の人形であった。
 人形はミアが膝を地面につけ、身長の低いロキア君の後ろから肩に手を乗せたまま見上げるポーズを取らせ、ロキアくんは両手を広げて元気いっぱいに太陽の様な笑顔を見せている。
 これだけだと味気ないと思い、二人の周囲を花畑の様に花の模造品を咲かせ、土台も花びらの様に立体に盛り上げでいる。
 男性に送るよりも、これは女性に送ったほうが遥かに喜ばれる品であるが、花の中央にいる二人は学園生活を頑張るラルスへと元気を与えてくれるだろうと思う。

 ラルスへと贈る品を前に完成に喜びに話していると、ラルスが戻ってきたのだろう。
 また、バタバタと足音が近づく音がする。
 
「はぁ、はぁ、はぁ。待たせたなミツ!」

 息を切らしたラルスが戻ってきた。
 彼の手には、布に巻かれた荷物を大事そうに抱えている。

「いえ、こちらも今できたところですから大丈夫ですよ。どうぞ、ラルス様。こんな感じで良いですか? ご家族のご意見を取り入れたら結構派手かもしれませんけど」

 自分が差し出した人形を見て、ラルスは驚きと目を見開く。
 手荷物を近くにいるゼクスさんへと渡し、わなわなと震える手で人形を受け取る。
 口を開けたまま人形を見たのち、ラルスの表情がみるみると笑みへと変わっていく。

「……うむ! 気に入った! ありがたくこれを頂くとする。では、お前にはこれを代金として受け取って欲しい。学園の授業の一環で回復薬造りの際、俺が森で見つけた魔力の素材だ。品が良いために授業で使うのが勿体無くてな、教員の許可を得て土産物として持参したワンダーエッグと言う品だ。魔法の調合に使っても良し、そのまま食すのも良しだぞ」

 ゼクスさんが抱えた荷物へとラルスが振り向き、巻かれていた布を解けば、中から出てきたのはダチョウの卵程の大きさはある、見た目は卵であった。
 ワンダーエッグと名の通り、初めて見る者は驚きであろう。
 これは市場には出回ることのない品だけに、かなりの貴重な品である。

「うわ~。随分と大きな卵ですね。このような高価な品、本当に貰ってもよろしいんですか?」

「構わん! 寧ろ、こっちがそれ一つで交渉してもよいのか不安になる品を貰っておるのだ。お前さえ良ければこれで構わぬであろうか……?」

「あはは。そうですか? なら、これと交換と言うことで交渉成立ですね」

「うむ! 感謝するぞ、ミツ」

 ラルスにガシッと手を握られ、交換と言う形で交渉が終わった。

「ラルス、それを学園に持っていくのは構いませんが、他者にそれを譲る事などしない事をここで誓いなさい。それは見る者が見れば多額の金銭を払ってでも手にしたいと思う物ですからね。貴方が目先の金を求め、家族の心を売る様な者ではないと母は信じております」

「母上。無論です! 俺は金などで家族を売る様な下等な心得は持ち合わせておりません。これは今この時、俺の宝として手放すことはいたしません」

「ならば結構……。その信念、貴方の目を曇らせて失ってはいけませんよ」

 事実、ラルスが差し出してきたワンダーエッグは金に変えれば、金貨5枚程の価値がある物であるが、エマンダ様の言うとおり、ミツが造り出した人形は金貨5枚で済む物ではない。
 その価値が見ただけでも解るエマンダ様は、これはミツとラルスの友好を深める為の商談と言う事で金銭などでは得ることのできない品を息子のラルスへと与えたのだ。
 だからこそ、口を酸っぱくしてそれを手放してはいけないと言う意味を話の中に入れているのだが、当の本人はただ単に弟妹に似た人形を手放すなど微塵も思っていなかったので、母の意図を深く読めてはいなかった。
 
 ニコニコと笑みを浮かべ、互いに貰い受けた人形を見せ合うセルフィ様とラルス。
 要件も終わりと話を切り上げる際、ダニエル様は真剣な表情をつくり、真っ直ぐにこちらを見据えてきた。

「ミツ君……」

「はい? 何でしょう」

「この度は数々のご助力、誠に感謝する……」

「ダニエル様!?」

 突然頭を下げ、いつもとは違う雰囲気をだしながら感謝の言葉を述べるダニエル様。
 それに続ける様に、二人の婦人もそれに続け、感謝の言葉を口にする。

「本当に、ありがとうございます。貴方様が居なければ、この場の全ての者が悲壮な運命を辿っていたと思うと、今、家族の笑みがこうして見れる事に心より感謝を申し上げます」

「主人に新しい光を授け、息子たちの未来だけではなく、多くの民へと救いの手を差し伸ばして頂けた事。我々フロールス家は貴方様に心より感謝と、これからも良き関係を持てる事を願っております」

 たった数日で、フロールス家には様々な災難が襲いかかっていた。
 王族の来賓時、前夜祭と行われる食卓に料理が並べられないトラブル。
 息子の試合前と子息三人の虜囚事件。
 フロールス家が主催とする武道大会中に、モンスターと変わり果てた姿になってしまったステイルの暴走。
 どれ一つでも、誤った結果を出してしまえばフロールス家自体が崩壊していく未来しか見えなかったであろう。
 だが、これも運命なのか一人の少年が居てくれたこそ、フロールス家の未来は保たれたのかもしれない。
 そして、その少年の奇跡にて、領主ダニエル・フロールスの右腕は治った。
 家族が守られただけではなく、失ってしまった大切な物を与えてくれた少年とは、フロールス家は貴族としてでは無く、友として、深い友好を結ぶことができていた。

 領主夫妻が頭を下げれば、息子達のラルス、ミアも感謝と礼を尽くし、それに続くように執事のゼクスさん、私兵であるトスランも含めその場の全ての人々が感謝と頭を下げていた。
 だが、フロールス家に全く被害がないと言えばそんな事はない。
 ラルス達が虜囚された際、二名の護衛が賊に襲われ亡くなっている。
 大会係員数名も、ステイルを取り押さえる際にその命を失っている。
 全ての人を守る事はできなかったが、目の前で頭を下げる人達の感謝の気持ちは十分伝わって来たのだ。

 そして最後に、ロキア君が周囲の大人達の真似事をするように、小さくペコリと頭を下げた後ニコリと笑みをくれた。
 そんな愛らしい姿を見て、近くに居たエルフが震えるように悶ているが……まぁ、今はあえてスルーしておく。
 ダニエル様は明日、大会に関して緊急会議がある事をセルフィ様へと告げると、彼女は面倒くさいと言いながらも、共にゲートを潜り抜ける。
 二人を大会中に使用する宿泊場へと移動を済ませ、自分はアイシャのいると思われるプルンの教会へと戻ることにした。
 
「おおっ。ミツ坊、戻ってきたね」

 出迎えてくれたのはアイシャの祖母のギーラと、プルンの弟のヤンとモントであった。
 部屋を見渡すがそこにアイシャの姿は無く、叔父のバンと母のマーサの姿も無かった。

「はい、先程まで領主様と話してまして、今戻りました。ところでギーラさん、アイシャ達は何処に居ますか?」

「おやっ? おかしいね。今日の事を労う場が作られてると言って、ここの娘さんと一緒にバン達と一緒に夕方には出ていったよ」

「なるほど。プルンが連れてってくれたのか」

 避難誘導を手伝ったのはバンだけではなく、マーサとアイシャも広場の人々に声をかけてくれていたようで、それを聞いたプルンは「なら、皆も来るニャ」とアイシャを連れて行ったそうだ。
 自分がギーラから話を聞いていると、近くに居たヤンとモントが近づいてきた。だが、二人の表情は機嫌が悪いのか、少しふくれっ面をしている。

「なー、兄ちゃんも行くんだろ!? 俺達も連れてってくれよ。プルン姉、俺達は留守番してろって酷えんだよ!」

「ねーちゃん酷い! 僕も美味しい物食べたい!」

「ふふっ。そっか。ならお留守番してくれてた子にはお菓子をあげようと思ったけど、ヤン君とモント君はいらないかな?」

「「!? 食べる!」」

 即答の返事に自分とギーラが笑い合う。
 アイテムボックスからたい焼きなどの和菓子を取り出し、この場にいないエベラ達の分を渡しておく。食べ物を貰った二人は流石プルンの弟と思える程に上機嫌になり、ありがとうと言葉を残して嬉しそうにそれを持って台所へと行ってしまった。

「ははっ……かっ拐われたな。では、自分もアイシャが居る所へ行ってきます。ギーラさんも共に行きますか?」

「いや。あたしはお酒が飲めないし、少し疲れてるからね。気持ちだけ受け取っておくよ」

「そうですか。では、行ってきますね」

「ああ。行っておいで。お前さんが居なければ始まらないからね」

「どうでしょう。お酒が入れば、関係なく盛り上がってると思いますよ」
 
 自分は教会を後にし〈マップ〉を使用して〈マーキング〉スキルを使用しているプルンの居る所へと走り出した。
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