スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第89話 開会式

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「美味しい!」

「本当に、素晴らしい料理ですね」

「うむ、確かにこれは美味い……」

「何これ、最高じゃない!」

 前夜祭が行われているホールとは別の部屋にて、ダニエル様の息子娘であるラルスとミアとロキア君、そして客人のセルフィ様は円卓を囲んで四人での食事。
 ラルスは明日の出場選手のために前夜祭には不参加、娘のミアも酒の席に娘を出すのは躊躇われ、母であるエマンダの配慮にてこれまた不参加。
 そして次男であるロキア君は、まだ5歳の貴族のお披露目を行っていないので顔を出すこともできないこと。
 セルフィ様は言わずとも、ロキア君の参加しない前夜祭には全くと言って興味がないのか、こうして別室にて一緒に食事を楽しんでいた。

「ホッホッホッ。ボッチャま、そんなに慌てずとも、まだおかわりはちゃんとありますのでゆっくりとお食べください」

「うん! これ、すごく美味しいの。じ~やも食べてね!」

 ロキア君は口の周りにソースをつけたまま、ニコっと笑顔。それを見ては、ゼクスさんがフキンでロキア君の口を拭いながら満面の笑みに言葉を返した。

「ありがとうございます、ボッチャま。ボッチャまの優しさに、私の心はとても満たされております」

「いや、ゼクスさん、ロキア君の言葉に心は満たされても、胃は満たされませんからね。ゼクスさんもちゃんと後で食べてくださいよ」

 ゼクスさんも明日の大会には出場するため、前夜祭のホールでの給仕係としては不参加。
 その代わりと、ご子息である三人と客人のセルフィ様の給仕を行っていた。
 自分も出場選手となるので前夜祭が行われているホールには近づかないようにし、ゼクスさんのお手伝いである。
 流石に客人である自分に手伝いなどさせれないと言われたが、初めて出す料理の説明ができるものが居ないと駄目ということで、パープルさんの代わりに、この場にいることになった。
 自分は料理を出しただけで、後はゼクスさんや数人の側仕えの人がテキパキと済ませてしまった為、何かすると言う事もなかった。

 食後のデザートも済ませ、少し皆と会話を楽しむ。
 ざわざわと外が慌ただしくなっていることに気づくと、前夜祭が終わり、他貴族のお帰りの様だ。

「じゃ、自分も教会に帰りますね。皆さんまた明日」

 紅茶のカップを飲み干した後に席を立ち、これにてお暇することを伝え、ラルスとミアとロキア君は護衛と側仕えを連れ部屋から退出。何故かセルフィ様もロキア君の手を取っては一緒に部屋に戻っていったが、それを誰も突っ込まないのは日常なのだろうか……。
 一応客人のセルフィ様にも護衛や側仕えがいるのだろう。
 ラルスやミアには護衛が二人づつだが、セルフィ様には五人も付き従えている。あれは内心セルフィ様の暴走を止めるためにはあれぐらい人手がいるのではと少し苦笑気味に考えてしまった。

 部屋の中は一気に人の気配を消し、残った給仕の者は後片付けを始めていた


「ミツさん、お帰りは例のアレでお帰りでしょうか?」

「はい、その方が一瞬ですから」

「左様で。では旦那様と奥様方にお帰りすることをお伝えに……」

「いえいえ、いいですよ。なんか偉い人も来てるんですよね? 態々来て頂くまでのことじゃありませんよ。あっ、そうだ。パープルさんにお願いがあったんだ」

「おや。貴方がお願いでございますか?」

「はい」

 帰る前にと、厨房の方へと進む際、すでに後片付けが始まっているのか、空になった皿やコップが次々と厨房の洗い場へと運び込まれていた。
 数も多いので皿洗いが数人必要とする程、ディナーが終わっても大忙しのようだ。
 考えてみたら前夜祭が終わった後に、やっと側仕えや護衛の人達の食事が始まるのだから、未だに厨房は戦争のように慌ただしく動いている。
 それでも先程出したコース料理という訳でもないし、食事を出す相手は貴族も少なく、殆どが同じ立場の人なのだ。
 厨房で働く皆の気持ち的には、随分気楽なのだろう。

 厨房の中を覗くと、一息入れていたのか、パープルさんはコップを片手にスティーシーと何やら笑いながら話している姿が見えた。
 自分が来ていることに気づいたのか、直ぐにこちらへと駆け寄ってくる。
 そして、避ける間もなく、正面からガバッとパープルさんから抱きしめられた。

「ミツさん! ありがとう! 本当に今日は助かったよ!」

「は、はいっ。そ、それは良かったです」

「コホン。パープルさん、ミツさんは一応お客様ですぞ。彼がお困りですので、そう言った抱擁はお控え下さい」

「おっと。すまない。つい気持ちが舞い上がっててね」

「い、いえ。お気にせず……」

 姉御肌で慕われるパープルさんだが、それは性格だけではなく、容姿も悪くないので厨房の男性陣からは憧れの的でもある。
 そんな彼女の豊満な胸に埋もれると、周囲の男性陣からは嫉妬の視線が送られてくる。
 この状況、別に嫌じゃありませんけどね!

「実は、パープルさんにお話と言いますか、お願いがありまして」

 プハッと豊満な胸に埋もれた顔を引き、視線をパープルさんと合わせては先程の話を出す。


「んっ? お願い、なんだい? あんたの言うことなら、協力できることがあるなら喜んでやるよ」

「ははっ、それは助かります。実は、一着で結構ですので、こちらの料理人のコックコートを頂けませんか?」

「はっ? コックコート? また何で?」

「はい、実は……」

 自分がパープルさんに望んだこと。
 それは料理人であるパープルさんやガレン、スティーシーが厨房で着ているコックコートである。

 何故必要なのかと、理由を求めてくるゼクスさんとパープルさんに、今回武道大会にて出場登録する際、自分のジョブが料理人として登録したことを伝えた。
 一応判別晶で証明し、登録する際も多数の目撃者もいたので、登録後数日で別のジョブと言うのは変な話になってくる。
 理由を説明するとゼクスさんは、ホッホッホッと笑い、パープルさんは一着なら譲ることを承諾してくれた。
 ちなみに個人的にはお古で良いと言ったのだが、基本衣服は買い取りが当たり前の世界、そのままの着潰すか継ぎ接ぎとして使うので、屋敷にはお古は在庫として無いそうだ。
 サイズや背丈はスティーシーと自分は近かったのか、屋敷に予備として置いてあった一着を頂くことに。
 代金を払うことを伝えると、これはパープルさんからのお礼と言うことで無料にて頂けることに。
 それでは申し訳ないので、後日ハンバーグのソースであるジャポネソースやデミグラスソースを教えると伝えると、腰掛けのサロンまでおまけとしてつけてくれた。

 パープルさんは本日の料理を出したことに対して、お客様からお言葉があるということで、その場を後に。
 自分もゼクスさんに挨拶を済ませ、ゲートを教会の部屋へとつなげて帰ることにした。


 部屋に戻り、早速貰ったコックコートに袖を通しサロンをつける。これだけでも十分料理人っぽく見える。
 満足し、部屋着に着替えた後に1階へと降りると、エベラとネーザンとマーサとバンがお茶を飲みながら談笑していた。
 ネーザン達の教会での宿泊はやはり問題もなく、むしろ今までプルンがネーザン達にお世話になったことを伝えてなかったことに、プルンは少々エベラからお説教を食らったようだ。

 自分もその話す中へと入り、明日の大会の話をお茶菓子を食べながらと、皆とゆっくりとした時間を過ごすことにした。
 暫くすると、お風呂に行っていたのか、湯上がり姿の子ども達を連れ、カッカを抱っこしたサリーとプルンとアイシャが部屋へと帰ってきた。
 どうやら臨時的に作られ、集団で入れるお風呂に行ってきたそうだ。
 勿論男と女で別々だが、男の子のモントもヤンもまだ7歳と5歳。姉であるプルン達と共に女風呂に入っていたそうだ。えっと、思ったのだが、女風呂に入れる男の子は10歳までなら許されるそうだ。
 へーっと思いながら10歳までかと口にすると、プルンとアイシャが共に目を細め、アイシャからはエッチと言われ、プルンからはミツはスケベニャなどと辛辣なお言葉を口にしてきた。
 慌てる自分の姿を見ては、アハハと笑いが周囲からこぼれる。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴

 大会の当日。

 大会開始時刻の三の鐘がなる前と、先に教会を後にする自分に手を振り、見送りをしてくれる面々。

「じゃ、行ってきます!」

「ミツ、頑張るニャよ!」

「私、直ぐに応援に行くから!」

 プルンとアイシャの二人の応援の声に続いて、子供たちやギーラ達からも言葉をもらい、自分は大会の方へと走り出す。
 大会前にて、まだ辺りは人混みという程ではないが、チラホラと出店の品の準備とお店の人がバタバタと準備に動き回っている。
 
 大会の受付へと進み、係の人に話しかけると、昨日渡されたままの赤い木札を提示。
 名前を確認後、昨日とは別の通路に進み、中の待合ホールらしき場所へと案内された。

 そこには既に数名の人がおり、中に入るとチラチラと視線が送られる。
 暫くの待ち時間をホールにある適当なところに座り待っていると、ヘキドナさんが厳しい目つきでホールに入ってくる姿が見えた。
 続いて鎧に身を固めた人や、バニーガール姿の兎人族の女性、黒いローブに全身を隠した人が入ってくる。
 そして、ホールに入るなり、自分を見つけた瞬間にギロリと視線を向ける人物も。勿論その視線を送るのは、昨日一悶着起こしたライオンっぽい獣人族の人物だ。

「グルルッ……」

(おー。めっちゃ睨まれてる)

「おや、随分と嫌われたもんじゃないか」

「おはようございます、ヘキドナさん。まあ、昨日はちょっと自分も口が酷かったのかもしれません」

「それにしては、向こうさん程にあんたは気にしてなさそうにも見えるけど?」

「ええ。昨日係員の人から注意を受けましたからね。下手に関わると今度こそ出場する前に失格になりかねませんから。昨日の様子だと、外では手を出してきそうにもありませんから、相手は闘技場の上で決着をつけるきでしょう」

 そう言葉を伝えると、ヘキドナはバーバリを一瞥したのち、入り口から入ってくる人物に眉を寄せ、睨みつけるような目つきに変わった。
 誰が来たのかと入り口の方を見ると、そこには肩で息を切らした鬼族のライムの姿があった。
 思い出したが、彼女はマネを倒した人物、仲間内の姉であるヘキドナもその戦いは見ていただろう。
 あまりライムと関わりたくないのかもしれない。

「ふー。間に合ったっちゃ!」

 カーーン! カーーン! カーーン! 
 
 ライムがホールに入ると同時に数回の鐘の音が鳴り響く。その後、入り口の扉が閉められ、係員がホールに居る出場選手の数を数えだした。
  
「13、14、15、16っと。皆様、お集まりですね。これより、武道大会の開会式を行います。開会式後は抽選を行います。それでは、本日の勝負ルールのご説明に移らせて頂きます。まず、試合自体はトーナメント形式になります。また、予選とは異なり、ルールが大きく変わりますので、棄権する方はルール説明後、もう一度参加するかを聞きますので、その後にご自身にてご判断ください」

「そのルールはなんだっちゃ?」

「はい。まず一つ、戦闘方法はバーリトゥードとなります」

 バーリトゥード。
 それは武器の制限をかけず、例えどの様な戦いをしようと、それはありである。相手の武器を奪い、それを使い攻撃するなり、卑劣な方法を使おうと勝てば良いルール。
 だが、余りにも非人道的な戦いや無様な戦いは、数百の観戦者の目がある前で行えば、今後自身が生きづらい生活となるのでその辺は自己責任である。


「そして二つ、相手が降参後の殺害は反則としてその方は失格となりますが、降参前の相手の死亡は失格にはなりません」

 予選では力の差もある者同士が戦うため、制限として相手への殺害は禁止とルールに課せられていた。
 それは極端な話し、選手自身の力のブレーキとなっている。
 その枷となったルールが、今日の試合では外される。
 全力の攻撃に耐えることもできずに、相手が死んでしまっても、それは降参宣言を告げなかった者の責任となるのだ。
 
「そして最後三つ目、いかなる理由があろうと、審判、ご観覧客である観客への危険行為。また、貴族様への如何なる攻撃、これを犯したものは失格となります。更には、貴族様へと攻撃を仕掛けた場合、その者は直ぐに囚われ、国の法の元に裁かれますことをお伝えいたします」

 係員の言葉に、一瞬その場の出場選手からざわりと言葉が漏れる。

「それと、勿論場外もありますが、それは10カウント制が適応されます」

「10カウント? なら、審判の人が10のカウントを取る前に、闘技場に戻ればセーフですか?」

「はい。その後直ぐにまた場外になれば、一からカウントを取り始めます」

「ねえねえ。バーリトゥードってさ、何でもありってことだよね?」

「はい。予選では制限としてルールにはつけておりませんでしたが、本日は適用ルールとなります。それともう一度ご忠告いたしますが、ご自身のためにも、降参宣言は早めにお願いします。同じ闘技場に上がる審判の判断が遅れ、その為に死んでしまわれても、どうか恨まぬようにお願いいたします」

「あのー。ちなみに、この武道大会での死亡者っているんですか?」

「はい。先程も申し上げましたとおり、降参宣言を渋られた選手が亡くなったケースもございます」

「はぁ~。随分と物騒なルールに変わりましたね……」

「それでは、改めて。このまま大会にご出場希望の方は、このまま闘技場の方へとお進みください。そして、開会式参加の時点で参加希望者と判断されます!」

 係員の二人が両開きの扉を開く。
 扉を開いた瞬間、通路の先から既に多くの人の声が聞こえてくる。
 それと同時に、入ってきた扉もガチャリと扉が開かれた。
 進むのか。
 戻るのか。
 恐らくそれを意味しているのだろう。

「今更誰が帰りますかっての!」

「おうさ!」

「フンッ! ここで戻る道を選ぶ者は腰抜けでしかないわ!」

「やるピョン! やるピョンよ!」

「要するに判断を間違えるなってことだっちゃ!」

 係員の言葉に誰も辞退するものはその場にはおらず、多くの歓声が聞こえる闘技場の方へと、一人、一人と次々と出場選手が歩き出した。
 勿論自分も進むのは闘技場の方である。

「皆様に剣族の眷属となる、神々のご加護があらんことをここに願います!」

 最後にホールに残った係員全ての人が片膝をつき、腕を右胸の横においては一同に祈りを捧げるのが見えた。


 多くの観客、多くの滝の様に鳴り響く人々の声。
 その中から実況とする拡散機の様な魔導具を片手に声を出す実況者。
 その瞬間、観客席1階席と2階席の間に埋め込まれた多くの魔石がポワッと光りだし、実況者の姿を映し出した。


「皆様! 大変長らくお待たせいたしました。只今より、フロールス家主催、武道大会を開始します!」

 突然鳴り響く活発的な女性の声。
 その声にざわざわとした声が更に増えてくる。

「さー! 今回もやってまいりました! この日この時を待ちわびて! 多くの人、人、人。ご覧ください、この場に集まり集まったこの観戦者の人々の数! わたくしも勿論! 多くの人が見たい物! それは強き戦士! 剣術に優れた人族は勿論、魔法に優れたエルフ族や魔族、格闘に優れた獣人族、素早い身のこなしを見せる蜥蜴族! 更に更に、希少族と言われた骨族など、様々な選手がここに! 正にこのライアングルの街に建造された武道大会の闘技場の上に集まりました!」

 実況者の声に反応するかのように、更にヒートアップする観戦者。

「実況は私、ロコンが務めさせて頂きます。それでは、選手入場の前に、皆様にはご紹介いたしますこの方々! 先ず、正面に大きく集まった魔石画面をご覧ください!」

 実況者のロコンを映し出していた魔石画面がパッと映し出す画面を変え、黄色と赤の垂れ幕を豪華に飾った観覧席を映し出した。

「西の方! 獣人国、ローガディア国より代表として観戦に来ていただきました! ローガディア国の姫君! エメアップリア・カイ・ローガディア様です! 小さき容姿と侮るなかれ! その幼気な身体に傷一つでも付けよう物なら、ローガディア国全兵を持って、千の爪、万の牙がその者を駆逐するでしょう!」

 観戦者となる人々が、魔石画面に映し出された一人の少女に注目が集まる。
 その瞬間、観戦席に座る獣人が咆哮と思える雄叫びの声を上げた!
 更にヒートアップする武道大会。

「我はエメアップリア! 本日は父である王の代わりとここに来られたこと、そしてその様な大義を受けたことに喜びに満ちておるの! 獣人族の諸君! 我らの牙の鋭さを持って、必ずや勝利を! ガオオオ!」

 白の髪、ショートボブの髪型、エメラルドグリーンの瞳をした少女が、ガバッと自身の小さい手を前に突き出しては、獣人族の勝利を願って、可愛らしくも雄叫びの声を上げた。

「「「うぉおおおおお!!! 姫っ! 姫っ! 姫っ!」」」

 突然の姫コール。
 歳も行かぬ可愛らしい少女にむかって、必死に声を上げる獣人の男性陣の目は熱烈なアイドルファンのようだ。
 続けてまたパッと魔石画面が変わり、今度は緑と紫に染められた垂れ幕を映しだした。

「続きまして! 東の方! エルフの国から代表として、今回も来ていただきました! カルテット国よりお越しの、セルフィ・リィリィー・カルテット様です! 本来の歳も※※※歳と言うのに変わらぬ美しさ! 魔法だけではなく、弓矢の腕前は国の上位者でもございます!」

「ヤッホー! みんなー! 今回も一緒に応援しようね~! それとは別に。実況者、お前は後で殴る!」

「「「キャー! セルフィ様ー!!」」」

 美しい容姿に多くのファンがいるのか、セルフィ様のお姿を魔石画面に映し出されると、主に女性陣から黄色い歓声があがってきた。
 セルフィ様の中指が実況者に向けられる前に映像は変わり、次に映し出されたのは緑と黒に染められた垂れ幕だった。
 

「ゴホンッ……。えー。続きまして! 南の方! 魔族の国からお越しいただきましたお方! 何と! 何と! 魔王様! はっ、お越しに来られなかった様ですが……。今回代理人といたしまして、魔王様のご婦人とご子息様が来ていただきました! それではご紹介いたします! 魔族の国、エンダー国よりお越しの! レイリィ・エンダー様、ジョイス・エンダー様にございます!」

「……」

「母上、手ぐらい振ってください……」

「……振る意味などない」

 紫のメッシュが入った黒い髪、赤い瞳、少し青みがかった肌、更に魔族の特徴である小さな角。
 風格が魔石画面ごしでも伝わってきたのだろう。
 初めて魔族を見たものはゴクリと無意識に唾を飲み込んでいた。
 婦人であるレイリィ様は直ぐに椅子に座り、ジョイスだけが画面に映し出されている。

 そして、最後に画面が変わり、白と青の垂れ幕が魔石画面には映されたが、それは今までとは違い、観戦席は雛壇の様に多くの人々の姿が映し出されている。
 恐らく、下の段から下級貴族の男爵、准男爵、次に子爵と、正に雛人形状態に貴族が座っている。
 その周囲に座るのはこの大会の関係者だろうか、商人ギルドのギルド長を始め、冒険者ギルドのネーザンやエンリエッタの姿も見受けられる。

「そしてご紹介いたします! 北の方! まずはこのライアングルの街周囲を治める領主様! ダニエル・フロールス様です! 婦人であるパメラ婦人とエマンダ婦人の二人の美しき花を付き従えては、独身男性への自慢なのか!? しかし、そんなお二人を妻に持つ貴方に男は憧れているのも真実!」

 ダニエル様は席から立ち上がり、軽く手を上げると、観客席からは歓声の声がまた飛ばされてくる。
 客席からは領主様と呼びかけるこえが多数聞こえ、ダニエル様の信頼の厚さを感じさせる程だ。
 それはダニエル様が貴族でありながらも、庶民と正面から向き合い話し合い、意見を聞き入れては信頼を得ている、珍しい貴族だからこそだろう。

「次にご紹介いたしますはこのお方! セレナーデ王国、王宮神殿に使える巫女姫様! ルリ様にございます! その姫を守る騎士はこの人物! リッヒント辺境伯。マトラスト・アビーレ・リッヒント様であります!」
 
 魔石画面が雛壇を映す映像を上にむけると、そこには三つの席が映し出されていた。

 画面左側から出てきたのは純白のローブに身を包み、三人の側仕えであるシスターをつれては姿を見せたのは、王宮神殿の巫女姫、ルリ様が映し出された。
 巫女として、初めてこの様な催しに顔を出すルリ様。
 お顔を初めて見る者は、可愛らしい等、幼いなと口を揃えて彼女を見ているが、一部の者には彼女の魔力が神々しいと感じていただろう。
 続いて右側、マトラスト様が上位貴族が羽織る大きなマントを翻しながら、一人の護衛を連れて姿を見せた。
 マトラスト様は毎回のこと大会には来訪する人だけに、それほど珍しいという感想は観客席からは出てこない。
 それは辺境伯と言う高い身分が、庶民にはピンと来ないからだろう。
 庶民にとっては貴族は貴族、階級等知るものは多くはないのだから。

 そして、その二人の姿が観客席からも見えるようにと1歩前に。
 二人から挟まれる様に奥から姿を見せる一人の人物。

「さて、今季もセレナーデ王国よりお越しいただきました、セレナーデ王国第三王子。カイン・アルト・セレナーデ様でございます!」

 大きな拍手、大きな歓声。
 それを受けながらカイン殿下が姿を見せた。

「諸君! 今回もこの地にて武道大会が開催されることに感謝する!」

 カイン殿下の響く声に拍手や歓声の声はピタリと止まり、殿下の声に観客全てが耳を向けた。

「まず、他国の代表者には来賓に応えていただけたことに感謝を伝えたい。皆も知っておるだろうが、このライアングルの街はセレナーデ王国から最南の地に近い街である。同じくローガディア国、カルテット国、そしてエンダー国から挟まれる土地でもある。四国と言う大きな国に囲まれ、なおこの街こそが我々の繋りの街でもある! 人族、獣族、エルフ族、魔族。勿論他にも多種多様の互い違うもの同士が手を取るためには、一つのことを共にこなす事と言うのが先代の各国の王の残された言葉である! その結果! 何年、何十年とこの四国での戦争は一切起こっておらん! 人族が魔物に襲われる時は他国からは救援が来た! 獣族が災害に被害を受けた時は他国が救援へと向った! この素晴らしき仲を我の子孫の世代に変わろうと、永久に続けて欲しく、深く、深く願っておる!」
 
 カイン殿下の言葉に、観戦席からは多くの拍手と歓声のこえに溢れる。

「この大会はただ互いの戦士を傷つける事が目的ではない。自身の国の力を見せることに、強き力を持つ国を知ること、全てを曝け出すこと。それが互いの警戒、不安、自尊心を確認すること、他国に、消えぬ絆を深めるこに、永久に繋げるのが目的である!!」

 更に増える観客席からの歓喜の声。
 その中には目に涙する者の姿もいた。

「さあ! 始めよう! 選ばれし18名の選手よ! 我々にその姿を見せよ!」

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