スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第37話 これは覗きではない、事故です!

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 ガヤガヤと聞こえてくる人の声。

「んっ、何だ? うわっ! 凄い人の数……」

 自分が一通り食料を配り終わり、一度プルン達の居る場所へと戻ってくると、先程よりも炊き出しの料理を求める人の数が増えていた。

 それはまるで人気店の行列の様だ。

「おうミツ、戻ったか。あのよ……思ってた予想以上に人が増えて来てな、もう鍋が空になりそうなんだよ」

 カンカンと鍋を叩き、中の料理がもうすぐ無くなりそうな事を伝えてくるリック。

 鍋を覗くと2つの大鍋の中にある豚汁はとても今料理を求めて並んでいる人々全員には回らない程の量しか残ってなかった。

(まだ貰ってない人も居るだろうし、これはもう一度作るしかないか)

「坊や達、遅くなってすまないね」

 そこへ、一度アハメド達に食事を持っていったアバが戻ってきた。

「あっ、アバさん、アハメドさん達は大丈夫ですか?」

「ああ、美味しそうな匂いに反応したんだろうね、直ぐに起きて満足そうに食べてたよ。まあ、食べ終わったらまた寝ちまったけどね」

「そうですか、良かったです」

「本当にありがとうね。それはそうと、また作るのかい?」

「はい、予想以上に人が来まして、今から追加で作ろうかと」

 アバに今から追加の料理を作ることを伝え、自分はアイテムボックスから食材を次々と先程よりも多くテーブルの上へと取り出した。

 出された食材の量を見て食事を待つ冒険者の皆は自分達にまだ飯が回ってくる事に喜ぶ人や、その取り出した食材の量に驚きで口を開けて呆然としていた。

「そうかいそうかい、ならまた手伝わせておくれ」

「はい、助かります。よろしくお願いしますね」

 流石に2回目となると皆は何をどうすれば良いのか解っている。先程よりも調理スピードが早かった。
 また、待っている人達も野菜の皮むきを手伝ってくれるという、思わぬヘルプが来たので初回よりも早く作ることができた。

 そして完成した料理に皆は歓声を上げ、止まっていた行列がまた動きだした

「はいどうぞ。次の人、何人分ですか?」

「5人分お願い。怪我人は1人だけど本当に頂いても良いの?」

「はい。では4人がこっちで、怪我した人がこの皿を食べさせて下さい」

「ありがとう!」

 やっと落ち着いてきたのか行列も短くなり、今並んでいるのは遅れてセーフエリアにたどり着いた冒険者や、ニ杯目を求めて並ぶ人達だ。

 そして、その二杯目を求めて二人の女性冒険者がやってきた。

「次の人どうぞ」

「どうも」

「シシシッ。ミツ、おかわりくれだシ!」

 やってきたのはエクレアとシューの二人だった。

 シューは空になった皿を無邪気な笑顔を振りまきながら両手で差し出してくる。

「エクレアさんにシューさん。はい、三杯ですね」

「いや、四杯お願いするだシ」

「あっ、リーダーさん起きられたんですか?」

 自分に渡された皿は確かに四枚、皿には汁1滴残らず綺麗に食べてくれていた。自分が作った物を綺麗に食べてくれた事に嬉しかったのか思わず皿の中に入れる豚汁は大盛りになっている。

「うん。でさー、落ち着いたらで良いから、お礼言いたいからリーダーが来てくれって。本当は礼を言うこっちが来るべきなんだけど、まだ動かない方が良いってマネが言いうからさ」

「そうですか、解りました。ではこのまま行きますよ」

「悪いね、助かるよ」

「ミツ、これ美味かったシ。アネサンも寝起きなのに全部食べれたシ」

「それは良かったです。あっ、自分が運びますよ」

 一度手渡そうとした大盛りに盛った皿を次々とアイテムボックスにしまって準備をする。

「おお! ミツはボックス持ちだシ!」

「へ~、中々良いの持ってるね」

「はい、これのおかげで皆にご飯を配れますからね」

「ミツは偉いシ、なでてやるから頭下げるシ」

「は、はい……」

「よしよし」

 自分より歳が上だが身長は150センチ以下のシュー。
 そんなシューが自分の頭を撫でるという、少し恥ずかしい格好をとる。
 それを見ている周りの人々からクスクスと笑いが出ていた。

「シュー、リーダーが待ってるから早く行くよ」

「ミツ、ちゃんと付いてくるシ」

 まるで弟分を呼ぶかの様に自分を呼ぶシュー。

「皆ごめん、また後よろしくね」

「はい、解りました」

「おう、多分これで終わりだからゆっくりしてきな」

「「……」」

「あれ? 二人ともどうしたの?」

「別に、さっさと行けば。綺麗なお姉さんが待ってるわよ」
「そうニャ、ウチ達はここで頑張ってるニャ。ミツは綺麗なお姉さんについていくニャ」

「ああ……」

 リッコ達の言う綺麗なお姉さんとは勿論シューでは無くエクレアの方を指していた。

 顔はミツが綺麗に傷を全て治したので歳相当の肌ツヤであり、顔立ちもこの世界の人が好む少し鼻の高い綺麗系に入る。

 更には、エクレアの今の格好はかなりの大胆さがあった。鎖帷子の様にすこしセクシーさを感じる装備。
 また胸を隠す防具はベルトが壊れている様で、今は谷間をそのまま晒している。
 格好だけで言えばそんな格好でモンスターとの戦闘はありえないが、今はセーフエリア。
 自身を見るのは仲間の女冒険者だけと、少しだけラフな格好にもなってしまっていた。

 シューはまだ顔立ちも体も全てが子供に見える女性。装備もミツに似た革軽装備、胸も張っていないので、一般的に見てシューの印象と言うのなら、シューは可愛い妹としか思わないだろう。

「お前ら、解りやすいな」

「ほんとうですね」

「はっはっはっ」

 皿に盛り付けをし、冒険者に豚汁を渡しながらもリッケとリックは二人の態度を流す様に作業を続けている。

 だが、アバはその二人を見て突然高笑いをし始めた

「お嬢さん方、いい女は男の夜遊びを許してこそ女の器が磨かれる物だよ。逆に女に誘いを受けない男なんて魅力を感じちゃいけない、奪い合いも女の勝負だよ」

「婆さん! それ聖職者が言うセリフじゃねーよ」

「何言ってるんだい、聖職者の前に私は女だよ」

「ワォ」

 突然のアバの発言、周りの冒険者を含めて皆苦笑いである。

「えーと、二人とも直ぐに戻るから、後よろしくね」

「うん」

(奪い合いも)

「ニャ」

(女の勝負)

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴

「リーダー、連れて来たよ」

「アネサン、おかわりも貰って来たシ!」

「おぉ、何度も足を運んでもらって悪いね」

「いえ、お気にせずに」

 エクレアとシューに連れられ、もう一度マネとヘキドナの待つスペースに来た。

 そこには出来るだけ身体の無理のない体勢で壁にもたれかかった状態のヘキドナが此方を伺っていた。

「ふむ……。私の記憶違いじゃなかったか。本当に坊やだったね」

「リーダーさん、お身体は大丈夫ですか?」

「おっと。あぁ、坊やのお陰で痛みも無くなった。礼を言うよ」

 ヘキドナが軽く頭を下げると、それに続いて横に座っていたマネが深々と頭を下げてきた。

 マネは自分の事の様に嬉しいのだろう。
 信頼している人のために下げてくる頭には言葉では伝わらない程に気持ちがこもっている。

「食欲もあるみたいで良かったです」

「はははっ。起きたら驚いたよ。マネが美味そうな物持って待ってたんだからね。口の傷も無くなってたからありがたくご馳走になったよ」

「いえ、まだありますからどうぞ」

 そう言って自分はアイテムボックスから先程入れた四人分の皿を目の前に差し出す。

「ほぅ、ボックス持ちかい……。坊や、良い物持ってるじゃないか」

「そうだよね、リーダーもそう思うよね」

「アタイらのパーティにも一人でもいたらね~。戦闘も楽になるんだけど」

「シシシッ、ミツが女だったら即勧誘だシ。男だったのが残念だったシ」

「ははっ、それは残念でしたね」

 一人一人皿を渡していくとまだお腹が空いていたのか、四人は直ぐに食べ始めた。

「うん、美味い」

「やっぱウミャーシ!」

「おい、シュー、唾飛ばすなよ!」

「静かに食べなよ、もう……。うん、美味しい」

 お腹いっぱいになり満足になったのか、ヘキドナはまた壁に背を預けてゆっくりとし始めた。
 傷は治ってお腹は満たされても血は無く、疲れはまだ残っているから仕方ない。

「皆さんは明日転移の扉で帰られるんですか?」

「あぁ、荷物も殆ど猿に盗まれちまったからね。今回は引き上げる事にするよ」

 空になった皿とスプーンを片付け、ヘキドナ達の明日の予定をなんとなく聞いてみた。

 やはり荷物の殆どをバルモンキーに奪われたのが痛手だったのか、続行は諦めて明日動き出す転移の扉で帰る事を決めていたヘキドナだった。

「姉さん! 次こそは必ず!」

「あぁ」

「アネサン……」

「リーダー……」

 通常アイアンランク冒険者であるヘキドナ達のパーティがバルモンキーに遅れを取ることは無い。

 しかし多勢に無勢、例え倒せる敵とは言え、ヘキドナも仲間を気にしながらの戦闘では苦戦してしまったのだろう。

 ヘキドナ達の表情はとても暗く悔しそうな表情でもあった。

「えっと……何か目的とかですか?」

「目的……そうだね。いや、ちょっとした捜し物をね。それより坊やは明日どうするんだい」

「はい、自分達はこのまま洞窟に残ろうと思います」

 場の雰囲気を変えるためかヘキドナが話題を変えてくれた。こう言った時は下手に理由は聞かずに、直ぐに別の話題に変えた方が人付き合いも良くなる事は前の世界での仕事場で経験済みだ。

「そうかい、無理するんじゃないよ。危険と感じたら直ぐに引く事。これは恥なんかじゃないよ、生きる為の策だよ」

「そうだぜミツ、生きてれば失敗する事もある。でも、成功に変えれるチャンスは必ず来るんだからね。アタイ達は今日は失敗でも次は成功させるよ!」

「今度あの猿見つけたら何百倍でアネサンの傷を返してやるシ!」

「シューが攻撃する前に私が殲滅してあげるわよ」

 そう言って短剣を鞘に入ったまま突き出すシュー。その横で同じく鞘に入ったままの剣を突き出すエクレア。アレは自分か持つ武器に誓いを立てる様な儀式なのか? 二人の目はおふざけでは無い真面目な表情でやっていた。

「エクレア、ズルいシ!」

「ミツ、今日は助かったよ。アンタに何かあったらアタイ達が出来る事なら手を貸すからね」

「はい、ありがとうございます」

「ご飯うまかったシ!」

「傷、治してくれてありがとうね」

「はい、本当、綺麗な顔に残らなくて良かったですね」

「き、綺麗なだシ!」

 ミツの言った綺麗な顔とは勿論シューだけの事ではない。いや、別にシューが綺麗ではないと言うことではないが、小柄で可愛いシューを綺麗と言うのは違う物なのだから。だが、ここで喜んでいるシューにツッコミを言えるはずも無い。

「おい、シュー、アンタの事じゃねっての」

「うるさいシ!」

「ははっ。では、自分はこれで失礼します」

「あぁ……」

 ヘキドナのパーティーの居る場所から離れ自分達の場所へと戻る序、料理を配った皿の回収をして周る。

 ふと周りを見ると、食事も終わり傷も癒えた事で皆は精神的にも余裕ができ始めたのだろう。
 セーフエリアに来たときのピリピリとした空気はもう無く、各自で焚き火をたいて暖をとるパーティもチラホラと増えてきた。

 自分が戻った頃には炊き出しも終わっていた様で、今は皆で片付けている所の最中だった。

「じゃ、私は二人のところに戻るよ。今日はありがとうね」

「はい、お手伝いありがとうございました」

 自分が頭を下げると、感謝するのは此方の方と何も言わずに両手を握って祈りを捧げるアバ。
 そんな姿を見て他の冒険者も次々とお礼の言葉を残して自身の仲間の所へと戻って行った。

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴

 炊き出しを終えて、料理をしていた場所からまた少し奥へと進んだ先へと場所を移していた。

 理由は2つある。

 1つ目は皆の汗を流すため、つまりはシャワーのために、人目のつかない奥へと移動したのだ。

「ふ~、まさか洞窟で身体が洗えるなんて思っても見なかったわ」

「う~、リッコ、早く変わるニャ~」

「何言ってんのよ、まだ桶2つ分しか流してないわよ。あと3つ頑張って頂戴」

「う~、後でちゃんとウチの分もやってくれニャ!」

「はいはい、解ってるわよ」

 女の子二人のそんな会話を少し離れた場所で聞く二人。

「……なぁ」

「どうしたんです?」

「何で俺達の風呂が後なんだ?」

「リックのせいじゃないですか……。しょうがないですよ」

「ちょっとリック! しっかりと見張りなさいよ!」

「へいへい、見張ってなくても、そんな身体誰も覗きにもこねーよ」

「何ですって!」

「プルン、追加のお湯置いとくね」

 自分が考えた即席のシャワー。

 先ず適度に登れる小さな岩山を探し、それを隣とし〈アースウォール〉で箱状の文字で表すと(コ)の様な型のシャワールームの壁を作り出した。

 更にその周りに3m程に離した場所に先に作ったシャワールームを囲む様に周りから見えない様に壁を作り、それっぽいシャワールームを作り出したのだ。

 イメージすれば〈アースウォール〉の一部を簡単に壊す事はできる、(コ)型を更に四方に囲めば先ず覗く事もできないだろう。

 女性の二人からは喜ばれたが、リックはそこまでする必要ないと言ったものだから順番が後回しにさせられてしまったのだ。

「フッ! ニャ~、疲れたニャ。ミツ、少し火の番と変わってニャ」

「上がったり下がったりの繰り返しだもんね。解った、鍋には次の水入れてるから沸いたら教えてね」

 シャワーと言っても電動でお湯を吸い上げる機械も無ければ流石にここまで作って布で身体を吹くだけではない。お湯の入った桶を少し坂となった場所へと運ぶのだから多少の労働だろう。

 さて、シャワーをどうやって作ったか。それは今まで使ってきた空のペットボトルを再利用したのだ。

 先ず岩山の高い場所からシャワーとの間に木材を架け橋に使い、その上に、下部分を切り取ったペットボトルをいくつもつなぎ合わせたのだ。
 これだけではお湯を流したときに不安定なので〈糸出し〉スキルを利用し、材料とペットボトルを固定、お湯も流れる間に温度も適温となり、シャワー室の上から雨の様に降り注ぐと言う方法。
 勿論使用済みのお湯はリッコの下に敷き詰めた〈サンドウォール〉で吸収されて行くと言う、他の人には迷惑のかからない方法をとった。

 シャワー中は上からは見えないとは言えやはり不安はある。

 なのでリッコの分のお湯はプルンが流し、また、プルンの分はリッコが流す事となった。

 その間自分は大鍋でお湯を作り、リックとリッケの二人は少し離れて見張りをやっている

「解ったニャ、後は頼んだニャ~」

「はいはい」

「ミツ、離れるからって覗いちゃ駄目ニャ」

「はぁ~。この岩壁の向こう、どうやって覗けと?」

「それもそうニャ」

「プルン、お湯来てないわよ~」

「おっと」

「少し待つニャ!」

「早くね~」

 少し話をしていたため、お湯をそそぐ手が止まってしまっていたプルン。
 お湯が止まれば声をかけてくるのは当たり前であり、リッコがお湯を求めて声を促してきた。

「じゃ、後よろしくニャ」

「さて……あっ、そうだ」

 じゃ、っと後を任せたプルンはお湯の番へと行ってしまった。
 後を引き継いだ自分は一度アイテムボックスにお湯の入った桶を入れ、お湯を流す岩山へと登った。

 足場も悪いので桶を下に置くことはできないので、アイテムボックスから鍋の一部を取り出し、ゆっくりと傾けお湯を流し始めた。

 ザーっと流れていくお湯、この方法ならリッコも文句はないだろう。

(最初っから自分が流す担当になれば良かった……)

(んっ? 随分とお湯が流れてくる量が増えたわね。流し方変えたのかしら?)

「プルン、もういいわよ~」

(ふ~、やっと終わりか)

「ねぇ、プルン。悪いんだけど、拭く物その変に置いてない? 濡れないようにと置いてたんだけど」

「ん? 布~布っと」

 そう言って周りを探すと、確かに杖にかけられた布がかけられていた。

(あっ、どうやって渡そう……。)

「はい、プルン。頂戴」

 身体は出さず、お湯を滴らせた腕を差し伸ばしてくるリッコ。

「ちょっとプルン、意地悪してないで早く頂戴よ。シャワー浴びた後って寒いのよ!」

 これ以上近づいたら見えちゃいけない物が見えてしまう。
 自分は精一杯布を持った腕を伸ばし、リッコの腕まで伸ばした。

「もう! 風邪引いたら……どう……する……の……」

 バッと自分の前に出てきたリッコ。
 勿論布はシャワー室の外の杖にかけていたので、リッコは身体を隠すものは全く無い。

 彼女の身体は生まれたままの姿、きめ細やかな素肌の色が洞窟の薄暗い光が照らしていた。
 ポタポタと落ちる滴る水滴、お互い声も出せず動きが止まってしまっている。

「ごめん……あの……はい、風邪引かないようにね」

「うっ!」

 リッコはバッと自分の持つ拭き取り用の布を奪い取ると、直ぐに岩陰に隠れる。

 そして、時間もおかずその直ぐだった。
 即席シャワー室から爆炎と共に連続で火球が飛び出してきたのだ。

 ドン! ドン! ドーン!

「えっ! 何だ? どうしたリッコ!」

「来んな莫迦!」

「うわっ!」

「リッコ、やめて下さい!」

「うっさい! 燃やしてやる!」

「ちょ! マジで殺す気かよ!」

「バカバカバカ!」

 布を身体に巻いた状態のまま〈ファイヤーボール〉の火球を連続で放って来るリッコ。
 顔は怒ってるが泣きっ面にもなってるので相当怒ってるのだろう。

「ごめん! リッコ! 声出さなかった自分も悪かったよ!」

「なんだ? ミツがお前の尻でも見たか?」

「ッ!!」

(いや、お尻も含めて全身かな……)

 リックの言葉に自分は顔を赤らめながらリッコのその時の姿を思い出していた。
 その顔を見たリッコは全身を真っ赤にし、先程まで出していた火球とは違い明らかに手加減無しでの連続投球だ。

「くっ……くたばれ!」

 降り注ぐ火球の雨を自分とリックの二人は必死に避ける事しかできなかった

「わっと! あっ、リック伏せて!」

「ぐはっ!」

 身軽な軽装備の自分は避ける事はできていても、ソコソコの重装備をしているリックがそんな連続で避けれるわけもなく、見事にリックの横腹に命中し小爆発を起こした。

「リッコどうしたニャ! 止めるニャ!」

「ふぅー! ふぅー!」

 爆音に驚いたプルン、直ぐにリッコを羽交い締めにし、リッコを止めてくれた。

「リッコ、取り敢えず服を着てください、話は後です」

「リッコ、こっちニャ」

「痛ってて、洞窟でまさか妹の魔法を食らうなんて思っても無かったぞ!」

「ヒール……。ごめんリック。自分がリッコに布を声出さずに渡そうとしたから、リッコがこっちに来ちゃって……」

「あ~、なるほど解りました。リッコがミツ君をプルンさんと勘違いしてたんですね」

「全くとばっちりもいいところだぜ。後よ、この状態で俺達は体洗えるのか?」

「ちょっと目立ち過ぎましたね」

 セーフエリアから少し離れていた場所からの爆音、モンスターが現れたのではないかと慌て複数の冒険者が武器を構えて此方にやってきていた。

「すみません、大丈夫ですから、お騒がせしました」

 頭を下げ爆音は仲間内の揉め事と解ると、駆け寄ってきた冒険者は苦笑いを浮かべながらその場を後にしてくれた。

 そして、プルンがリッコをシャワールームに戻して暫くたち、なんとか中でプルンが落ち着かせてくれたのか、出てきたリッコの表情は先程とは違い、顔は真っ赤に恥ずかしそうに俯いている。

「あっ」

「やっと出てきたか」

「……」

「……」

 お互い正面に立ち声が出ない。

(うっ……空気が重い)

「ほら、ミツ」

 プルンが両目を瞑ると言う下手なウインクを自分にしてくる。まぁ、そんな事は別として、こんな時は男の方から謝ったほうが後々響く事もないので謝る事にしていた。

「あっ、うん、そうだね。リッコ、ごめんね、嫌な思いさせちゃって」

「……ううん、私こそごめん……プルンと勘違いしたのは私だし」

「いや、先に声かけとけば良かったね」

「ウチも離れる事言っとけば良かったニャ。リッコ、悪かったニャ」

「いいのよ、ハプニングだと思いましょう」

「そうですよ、誰も悪くない偶然の事故ですよ」

 場の空気が良くなるも、一人納得してない人物もいた。

「おい、こら待て! 俺に向かって撃った魔法に関しては謝らねえのか」

「……あ~、ごめんごめん、反省してる」

「おまっ!」

「はいはい、遅くなっちゃいますからね、順番的に次のプルンさんにシャワー浴びてもらいましょう」

 パンパンと手を叩き兄妹喧嘩をアッサリと止めるリッケ、流石に手なれたものだ。

「そうニャ、ウチも早く汗流したいニャ」

「お湯はもう用意してるから直ぐ入れるよ」

「その後は俺達だからな!」

「はいはい、解ったから見張りに戻りなさいよ」

 リッケに背中を押され、見張りの場所へと戻っていく二人をヒラヒラと手を振るリッコ。

 もう先程の事も気にする程に気にしてはいないようだ。

「リッコ、そう言えばまだ髪乾いてないよね」

「まぁ……そんな余裕無かったからね」

「うっ、いやお返しって訳じゃ無いんだけどさ。髪乾かすの手伝うよ」

「えっ?」

「まずそこに座って」

 程よい岩場にリッコを座らせ、自分は後ろに周りスキルを発動させた。

(風球)

「ミツ、何するの?」

「少し触るよ」

「えっ?」

 ヒュ~

「キャッ!」

「どう、リッコ強すぎない?」

 自分のやっているのは〈風球〉をドライヤー代わりに使う事。
 以前からこのスキルを発動する度に周りに風が起きているので使えないかと考えていた。

「えぇ、涼しくて丁度いいわよ」

「良かった、濡れたままだと風邪引くからね」

「うん、ありがとう……」

「いえいえ」

「ミツ、ウチも後でやって欲しいニャ!」

 それを横でジッと見ていたプルン。
 彼女も女の子、やはり気になるのだろうか。

「はいはい、取り敢えず入ってきなよ」

「解ったニャ! ……ん? 誰がお湯を流すニャ?」

「「あっ」」

「プルン、ごめんね、後少しで乾きそうだから、もうちょっと待ってて」

「いいニャいいニャ、見てて面白いから終わるまで待つニャ」

「ありがとう。ちょっとミツ、後ろだけじゃなくてちゃんと前もね」

「はいはい」

「よろしい、ふふっ」

 リッコの髪を乾かした後は二人にお詫びも兼ねて自分がお湯を流す事にした。

 リッコが私が覗かないように見張っといてあげる、とか言っていたが、そんな事もなく火の番をずっとしていた

 因みにプルンの髪を乾かす時だが。

「ニ゙ャ~~~ニ゙ャ~~~~ニ゙ャ~~~~~」

(いやプルンさん、ドライヤーのつもりで使ってたのに、扇風機みたいに声を当てないでね)

∴∵∴∵∴∵∴∵∴

「じゃ、おやすみ~」

「おやすみニャ」

 〈アースウォール〉を四方向に囲んだその中でリッコとプルンは横になって眠りにつき、残った三人はそれを背に焚き火を前に就寝と見張りを行う事になった。

 自分達がセーフエリアから離れた理由。

 そのもう一つは寝込みを襲われない為だ。

 アバの助言であるが、他のパーティーが近くにいる所で寝たりすると、他の冒険者がいるという安心感に負けて寝ている間に荷物を盗まれたりする冒険者もたまにいるそうだ。

 自分がアイテムボックス所持者の為、寝ている間にミツを誘拐してアイテムボックスの中身を脅迫し強奪していく人が出てくるかもしれないと忠告をしてくれていたのだ。

 結果、自分の提案であえてセーフエリアから離れる事を考えたのだ。

 自分の為に他の冒険者に迷惑をかけるのも申し訳ないと思う優しさなのか、それとも只の好奇心なのか……。

「へっ、何で俺達が外でリッコ達だけが壁の中何だよ」

「見張りも兼ねてますからですよ」

「このパーティー、男女の格差が酷いと思わねぇか?」

「まぁまぁ。明日の朝はまた何か美味しい物作るからさ、機嫌直しなよ」

「フンッ! ミツ、見張りをした俺達は大盛りだからな!」

「はいはい、じゃ~二人とも自分も先に寝かせてもらうね」

「はい、後で起こしますのでゆっくりと休んで下さい」

「ちゃんと俺とリッケが見張るぜ。安心しときな」

「うん、おやすみ」

 パチパチと焚き火の音だけが響くセーフエリア。他の冒険者も寝静まったのか、話し声が少しずつ減ってきている。

 勿論自分達の様に見張りをしている冒険者も焚き火の前で起きてはいた。

(洞窟でキャンプするとはね……モンスターが出ないのが不思議だ。人の気配に怯えてるのかな? いやそれは無いだろう……)

 まぶた越しの焚き火の灯りも気にならなくなり、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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