スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第34話 上位ジョブの力が半端ない

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 目の前にいるはバルモンキーの群れ。

 時間を置くたびに洞窟通路先からワラワラと更に増えてくる猿達。

「これは流石に数が多すぎませんか……」

「恐らくだけど、他の冒険者はバルモンキーとの戦闘を避けてたんだろうね」

「まぁ、倒し難い相手なうえに荷物を盗られたりしますから、できるならそりゃ戦闘は回避しますよ」

「それにしても多すぎでしょ! いったい何匹いるのよ」

「えーっと、16匹だね」

「見りゃ解るわよ!」

「いや、リッコが何匹って聞いたから答えただけなのに」

「そりゃご丁寧にどうも!」

「まさに猿の群れだね。取り敢えず投擲されたら厄介だしできるだけ早めに片付けようか」

「えぇ、行くわよ! ファイヤーウォール! ニードル!」

 リッコの〈ファイヤーウォール〉の火壁で四方からの攻撃を防ぎ、できるだけバルモンキーの足止めのために〈ニードル〉を発生させる。

 動きを止められたバルモンキー、直ぐに逃げ出そうとするがリックのショートランスの一刺しがそれを止めた。

 先程まで威嚇の声を上げていたバルモンキー、リックの攻撃で悲鳴にも似た声をだすと、数匹のバルモンキーが岩壁によじ登り始めた。
 そして、手に持つ石を振りかぶり投擲を始めようとしている。

 その攻撃をすかさず阻止するために矢を放つ。
 投擲を仕掛けようとしたバルモンキーの腕に命中。
 矢の刺さったバルモンキーはそのまま落下すると、頭から落ちそのまま即死し、また岩肌に引っかかり落下死を逃れたバルモンキーも居たが、すかさずプルンの攻撃でトドメを刺されていた。

「おりゃ! 次!」

「リック! 横から二匹きます」

「おう!」

「プルン! 後方1匹、上のを落とすから先に攻撃を!」

「解ったニャ! ハッ!」

「二度も同じ手は効かないわよ! サンドウォール! ファイヤーボール!」

 いきなりの乱戦状態にも関わらず、皆は敵を次々とバルモンキーを確実に倒していっている。

(これで終わり! スティール)

《経験により〈投擲LvMax〉〈強奪LvMax〉〈電光石火LvMax〉となりました【クレリック】のジョブレベルがMAXとなりました、またリック達のジョブレベルも同様にMAXとなりました》

 ユイシスのスキルとジョブレベルMAXの報告を聞いて、戦いながらも思わず頬を緩めニヤついてしまった。
 誰もその表情を見ていなかったのが幸いだったのかもしれない。
 乱戦中に笑っている者がいたならそれは正気を失った只の怖い人だろう。

(やった、このバルモンキー戦が効果を出した!)

《ジョブを変更なさいますか?》

(勿論YES! ウィザードプリーズ!)

 以前ユイシスから教えられていた転職できるジョブの1つ【ウィザード】を選んだ。

《【ウィザード】をジョブに登録されました。【魔力術】を獲得しました。ボーナスとして以下のスキルから6つお選びください、既に習得済みのスキルは非表示となります》

※ファイヤーボール
※ファイヤーウォール
※アースウォール
※アイスジャベリン
※アイスノヴァ
※アイスウォール
※ウォーターボール
※ウォーターカッター
※ニードル
※分割思考
※魔法威力増加

 表示されたスキルの一覧を見てリッコとミーシャのスキルが似ている事に気づいた。

(あれ? もしかしたらリッコのウィッチは特殊ジョブなの?)

《はい、女性限定ジョブの1つ【ウィッチ】です、通常の【ウィザード】よりも魔力を高く持つ者が転職が可能となります。ですがスキルは粗同じです。スキルはどれを選択されますか?》

(この分割思考ってなに?)

《〈分割思考〉は魔法とスキルを複数同時に発動する事ができるようになります》

(同時にか……いいね。それと魔法威力増加ってのはこれもスキルも対象?)

《〈魔法威力増加〉はMPを使用する物だけが対象となります、よって使用スキルにもよりますが、スキルのMPを使用しない〈即毒〉や〈土石落とし〉は対象外となります》

(なるほどね……。よし決めた)

 少し考え表示されたスキルの一覧から6つを選び出した。

(ユイシス、ファイヤーウォール、アースウォール、アイスウォール、ウォーターボール、分割思考、魔力威力増加を選ぶよ!)

《選択により〈ファイヤーウォール〉〈アースウォール〉〈アイスウォール〉〈ウォーターボール〉〈分割思考〉〈魔力威力増加〉を習得しました》

ファイヤーウォール

・種別:アクティブ

炎の壁を起こす事ができる、レベルが上がると敵に与えるダメージが増す。

アースウォール

・種別:アクティブ

土の壁を起こす事ができる、レベルが上がると強度が増す。

アイスウォール

・種別:アクティブ

氷の壁を起こす事ができる、レベルが上がると強度が増す。

ウォーターボール

・種別:アクティブ

球体の水を起こす事ができる。

分割思考

・種別:アクティブ

魔法とスキルを同時発動ができるようになる。

魔法威力増加

・種別:バッシブ

魔法の威力を増加させる事ができる。

 【ウィザード】に転職したと言うのに攻撃スキルを殆ど習得しなかった。

 これが普通の人なら今後の戦闘を考えたら使い方の難しい魔術師としか思われないだろう。
 だが、普通の人とは違い自分は攻撃手段は多彩に持ち合わせている。

 その為やや防御特化なスキルを選んでも全く問題にはならなかった。

 戦闘も進みバルモンキーも最初は数で押していたものの、あっという間に半数の仲間が殺されて猿にも危機感を感じたのだろう。
 一匹のバルモンキーが突然高らかに鳴きだした。
 その声は威嚇とも悲鳴とも違う鳴き声だった。

 ウキャーウキャーウホホホホ! ウキャーウキャーウホホホホ!

「何だ! 猿が何やる気だ!」

《注意、無数のモンスターが近づいて来てます》

(さっきのは仲間を呼んだのか!)

「皆! 猿の群れがこっちに来てる! 気をつけて!」

「何! ミツ、本当かよ!」

「間違いない、数はまだわからないけどこっちに近づいてきてる」

「な、何だか嫌な声も近づいてきてるわね……」

「叫び声でしょうか?」

 先程バルモンキーが来た方向とは違う通路、数人の冒険者が顔を真っ青にしながら慌てた様に自分達が戦っているフロアに逃げ込んで来た。

「お前ら逃げろ! 猿共の群れがこっちに来てるぞ!」

「うわ! ここにもバルモンキーの群れが! 皆逃げろ!」

「ひぃー、こんなとこであんな群れに出くわすなんて災難だぜ!」

「早く! 早く逃げて! あなた達も逃げなさい!」

 バタバタと自分達が来た道に逃げていく冒険者達。
 中には筋肉ゴリマッチョの様な見た目は凄腕冒険者にも見える人も居た。それでも、そんな人すら逃げ出す程の数が攻めて来ているのだろう。

「お、おい。ミツ、俺達も一旦引こうぜ!」

「いや、引くのは無理かな……」

「何で! あっ! 何でいるんだよ」

 リックの撤退を自分は引き止める。
 その先には自分達を先行として使っていたリティーナ一行がいた。

「何事ダス!」

「マムンさん! どうやらバルモンキーの群れがコッチに向かって来てるようです!」

 撤退を引き止めた理由、それは今モンスターが迫ってきてるのを認識している状態で自分達が逃げる為に、リティーナ達の方へ行くとモンスターを擦り付けたとそれは後々面倒な事になると考えたからだ。

 先程のやり取りでリックが少々不敬を取った事を考えるとこれ以上は洞窟内ではリティーナ達と関わるような事は避けた方が良いと判断した。

「何ダスと! お前らお嬢様をを守るダス! 俺を守るダス!」

「えっ、引かないんですか!」

「何言ってるダス! 高いかね払ってるダスからお前らは命がけでお嬢と俺を守るダス!」

「……くっ」

 使われる側の宿命なのか、金で雇われた以上はやらなければいけないのか、逃げる冒険者を見ながらも逃げてくる方向からのモンスターに武器を構える雇われた冒険者達。

「お嬢は下がって下さい」

「何を言うのですかゲイツ! 私も騎士のはしくれ、ここにお守りされに来ただけではありませんよ!」

 自身の剣を鞘から引き抜き、リティーナに後退を指示するゲイツ。だが、リティーナはその言葉に反抗するかのように自身も武器を構え言葉と逆に前えとたった。

「……」

 しかし、ゲイツの言葉もそれは遅く、バルモンキーの脅威は目の前までと来ていた。

 数十体ものバルモンキーが集団となり、ゾクゾクと洞窟の奥からとやってきた。
 それはフロアの一面が猿に埋め尽くす程にだ。

 ウキャーウキャー! ウキャキャッキャッ

「来たか! 皆、陣形を崩すな!」

 津波の様に押し寄せるバルモンキーの群れ。

 ゲイツや他の冒険者はこのような戦いの経験は勿論ある。
 だが、ただの従者として着いてきたマムンはその光景を見た瞬間に恐怖し腰を抜かしてしまった。
 戦闘能力が無い従者にとって脅威度が低いモンスターであっても油断はできない。
 簡単に自身を殺す事のできる相手なのだから。
 更には他の冒険者も逃げ出す程の目の前のモンスターの集団。

「ひっ! ひぃー!! おじょ、おじょうぅ、お嬢様ぁ! ここは冒険者に任せるダスゥ! おい、お前らぁ! 俺がお嬢様を安全な中間の所まで連れて行くまで時間稼ぎするダスゥ!」

「ふざけるなよおっさん! だからさっき撤退って言ったんだよ! 今更逃げる案出してんじゃねーよ!」

「おいおい勘弁してくれよ! いくら金貰ってるとは言えこんな集団に勝てるわけ無いだろ!」

 冒険者は使い捨ての道具と、自身は逃げる事しか頭にないマムン。そんな男に協力など誰もする訳もない。

 

「ゲイツさん、ここは撤退しやしょう。お嬢を守るなら引く事が正しいだろ!」

「あぁ……」

(少年よ……。なぜお前は逃げようとしない……)

 他の冒険者が逃げ終わると、通路を敷き詰める程のバルモンキーが大きく口を開き此方を威嚇をしている。

 どうやら仲間を呼んだバルモンキーが自分達が敵だと伝えたのだろう。

 バルモンキーの群れは他の冒険者を追うこともなく、自分達のパーティーの前で足を止めたのが何よりもの証だ。

 キーキー! シャッシャッ!

 シャー! キャーシャー!

 無数に威嚇の声を上げるバルモンキー。

 リック達皆はその数に少し押されたか後ろに後退り、恐怖と焦りに汗を出していた。

 だが、そんなバルモンキーの群れを恐怖感もなく見つめる自分はやはりこの世界の人よりも少し感覚が疎いのかも知れない。

(はー、なんともすごい光景だなー。子供の頃に遠足で行った動物園の猿山みたいだ。いや、あの時はまだ愛想もあって良く可愛げがあったような)

「ねぇ、ねぇ! ミツ! 本当に逃げなくて良いの!?」

「あっ、うん、あの人達が居るんじゃ逃げる事も難しかったし。それに数は多いけどあの数じゃ得意の俊敏性もいかせないだろうからね。その前に倒せば大丈夫だよ」

 見たところ猿は数に任せて攻めてくる作戦だろうか。
 しかし、バルモンキーにとって、若干場所が悪かった。
 それは全てのバルモンキーが無理矢理にフロアへと入ってきたために、猿達はまるで満員電車のようなすし詰め状態になっていた。その為今いるバルモンキーが全て一斉に攻撃に動けるかといったら答えは否だろう。

「……そう。でっ、どうするの? 私の火壁であの数を足止めは流石に厳しいわよ」

「火は使わないよ。あの数だと数で押されちゃうし」

「じゃ、どうするニャ?」

 リッコの〈ファイヤーウォール〉の火壁はモンスターの足止めには最適な魔法だ。しかし、それは2階層にいたデスラビットの様に動きの早いモンスターや単体と少数に限ってである。

 今相手をするバルモンキーの様に、壁をよじ登れる敵には少々使いどこが難しい、それは簡単な理由〈ファイヤーウォール〉の火壁を飛び越えてしまうからだ。

「ふっ、ふっ、ふっ」

「お、おいミツ?」

「どうしました?」

 皆の慌てる姿を見て、自分は思わず不敵に笑い出してしまった。

「ちょっと! 笑って済む状況じゃないんだからね!」

「大丈夫、こうするんだよ!」

(アイスウォール×8!)

 自分は掌をバルモンキーに向け〈アイスウォール〉の氷壁を使用した。
 突然自分が魔法を使用した事に皆は流石に声を上げて驚いていた。

「なっ!」

「えっ!」

「うそっ!」

「ニャ!」

 〈アイスウォール〉〈分割思考〉を共に使いながら魔法を発動させ、集団で襲ってきたすし詰め状態のバルモンキーを八角系状態に囲むように巡らせた。

 このやり方は以前、川原でスヤン魚をローゼのパーティーの1人、魔法使いのミーシャの真似事である。
 そして自分もその方法を使い、バルモンキーの集団の殆どを隙間なく氷の壁に閉じ込める事に成功したのだ。

 勿論バルモンキーもその中から逃げ出そうとするが、ゴツゴツとした岩肌とは違い、冷たく滑る氷壁に上手く登れる訳もなく、氷壁を登る事のできないバルモンキーは完全に籠の鳥状態になってしまっていた。

 グキャーグキャー! ウキャキャキャ!

 アギャー! アギャー! アギャギャギャギ!

 突如として現れた氷壁に驚き鳴き叫ぶバルモンキー。

「皆! 全部は流石に無理だったけど、後数匹行けるね!」

「お、おう! あの中の数と比べだら外の分なんて屁でもねぇぜ! 皆行くぞ!」

「もう! とうとう魔法までミツに役取られた! 私の出番無くなるじゃない!」

「リッコ、それを言ったら僕は……」

「二人とも気にしてもしょうがないニャ、その鬱憤は猿に向けるニャ」

「ははは……取り敢えず氷壁は隙間なく張ってるから簡単には壊れないと思うよ」

「ところでよ、この中の猿どうやって倒すんだ?」

 リックが指を指して質問してくるのは氷壁に囲まれながらも此方を威嚇してくるバルモンキーの集団。
 中には突然現れた氷の壁に怯え驚いてる猿もいる。

「大丈夫、それもちゃんと方法はあるから、ただ……」

「ニャ? とうしたニャ?」

「いや、一方的に倒す方法だから、見たくない人は見ない方がいいよ……」

「フン! 俺達は冒険者だぜ! そんな事は気にしねえよ」

「そうよ、あんたの非常識さえも受け入れてる時点で解りなさいよ!」

「そうですよ」

「ありがとう……」

 これから行うあまり見せたくないと言う倒し方。
 それは〈忍術〉〈風球〉を氷壁の上から放り込む方法。
 一方的に逃げ場のない場所に頭上から地面もえぐる程の風の爆弾と言えるほどの物が落ちてくる。
 何も出来ずにバルモンキーの体はバラバラになるだろう。

「フッフッフッ、リッコは受け入れてるニャ~、何を受け入れてるニャ~」

「なっ! 言葉の例えよ!」

「いいニャいいニャ、ウチも同じニャ」

「ふ~ん、一緒ね~」

「ニャニャ!」

「二人ともおしゃべりは後にして下さい!」

「お前らの分俺達が倒しちまうぞ。その時は分け前減らすからな」

「待つニャ! ウチも戦うニャ!」

「別におしゃべりしてた訳じゃないわよ!」

 先ずは閉じ込められなかった分の殲滅戦開始だ。

 直ぐに〈連射〉を使い、バルモンキーの足や腕を狙い、壁に逃げられないように矢を射抜く。その後、接近戦でのリックとプルンがダメージを更に与え、リッケとリッコのトドメの流れだ。 

 既に皆はジョブレベルはMaxと言うことはユイシスから聞いてはいるが、モンスターを倒すと言う戦闘経験のコンビネーションを高める為にも必要な為に今は皆での協力戦闘となった。

 その戦いを近くの冒険者も勿論、リティーナのパーティーが見ていた。

「何なのあの子共は……」

「おい! 俺達よりも見た目年下の子供が戦ってるんだぞ。援護しなくていいのかよ!?」

「莫迦! 猿共をあそこまで追い詰めた状態で今行ったら、俺達が獲物の横取りしたみたいになっちまうだろ」

「そっ、そうだよな.……」

 恐怖から一転、状況が変わった事を確認し少しづつ戻ってきた他の冒険者達。
 それぞれが自分達の戦いを観戦状態で遠くから眺めていた。

 中には子供がバルモンキーの群れと戦ってると聞いて戻って来てくれた冒険者、救援のため必死の思いで戻ってきた者もいるがそれは無駄足で終わってしまっていた。

 そんな戦いを見ているリティーナのパーティー、先程まで自分達が小馬鹿にしていた少年パーティーがここまでの戦果を見せるとは思ってもおらず、唖然とした表情しか浮かべる事しかできなかった。

「あっ、あいつら新人冒険者じゃねぇのかよ……」

「いや、あのパーティーはまだブロンズランクになりたての新米冒険者なのは間違いない。ただ、それを感じさせないサポート役がいるんだ」

「ゲイツさん、それって誰ですか! そのサポートをしてる奴って!」

 雇われ冒険者の一人がゲイツに質問すると、ゲイツはそのまま後ろで指の爪を噛み、険しい表情を浮かべているリティーナに言葉を流した。

「お嬢は解りますか」

「……あの少年ね」

「えっ! あの一番小さいガキがですか! 後から弓を撃ってるだけじゃないですか!」

「そう……貴方にはそう見えてるのね……。貴女も同じ弓を扱うわよね。あの少年と同じ様に弓が引けるかしら」

 リティーナが質問したのはリック達と別れた後に雇った女性冒険者メインのグループ。
 ゲイツが冒険者の力量をそこそこと判断し、奴隷が運ぶ荷物の護衛として雇い入れていた

「私達には無理です……。あんな動き回る的を、しかも動きを止める急所だけを射抜く事なんて」

「そう、周りのメンバーが次々と標的を倒してるのは、あの子の弓のサポートがあってこそよ」

「なっ! そんな腕前をあのガキが……」

「とんでもねぇ奴だな……」

「あの女魔法もあんな氷壁作り出す力を持ってるとはね」

 リティーナ達の勘違いがあるのなら〈アイスウォール〉の氷壁の発動者がリッコだと勘違いしているところだけだろう。普通誰が見ても、弓で攻撃している者が魔法を使ったなどと思う訳がない。

「ファイヤーボール!」

「よし! 周りの敵は片付いたな」

「ウニャ……。血で手がベトベトニャ~」

「プルンさんは直接攻撃しますからね」

「で、これどうするの? 壁一枚取り除いてそこから少しづつ倒していく?」

「それだと一気に溢れて危険じゃねーか?」

「いや、壁はこのままで行くよ。皆少し離れてて」

(風球)

 そう皆に言葉を飛ばし、掌の上に〈風球〉を作り出した。

《経験により〈忍術Lv2〉となりました。忍術の属性が一つ開放されます、次に習得する属性を選んで下さい》

※火

※水

※土

(あっ、もうこれもレベルアップか)

 何度も使っている気はしたが、MPの節約も考えてそんな頻繁には使用していなかった〈忍術〉のレベルが上がった。

(そうだな、今は決め手に欲しいものは無いから火にしとくよ)

《火属性が選択されました〈鬼火〉〈火柱〉が使用できます。また、風との合体スキル〈炎嵐〉が使用可能となりました》

(へー、合体スキルなんて物もあるんだ。ユイシス、他にも水と土が残ってるけど、これも合体するスキルになるの?)

《はい、属性の組み合わせの分発生します。ただ注意点があります、単体の〈忍術〉はMPは20使用しますが、合体スキルの場合MPを40使用します》

(MPが2回分いるんだね、レベルも上がった事でMPも回復したことだし使ってみようかな)

 そう思い、掌に出した〈風球〉をゆっくりと小さくして消す事にした。
 それを見たリック達はどうしたのかと目を瞬く。

「えっ? どうしたミツ、なんで消した?」

「うん、試したい別のスキルがあるからもう少し離れてね」

「お、おう……。あんま無茶すんなよ」

「なに何、いつでもいいわよ!」

「リッコ、もう驚くのを止めて楽しんでますね……」

「ニャはは、リッケもそうした方が気も楽になるニャ」

「は~、僕はリッコとは違いますから気が小さいです、どうしても驚きが先に来ちゃいますよ」

「リッケ、それは私が図太いとでも言いたいの!」

「いくよ!」

(炎嵐)

 そんな二人の言いあいもスルーして、自分は新しく手に入れた〈炎嵐〉を発動させた。

 すると掌が少し熱くなると思ったがそれは無く、突然〈アイスウォール〉の氷壁に閉じ込められたバルモンキーの中心に、爆音と共に火柱が立ち上った。
 それだけでも無数のバルモンキーは焼かれたが、突如として現れた火柱はそれだけでは終わらなかった。

 立ち上った一本の火柱、それがゆっくりと動き出し、まるで中で風が起きているのだろうか、炎はゆっくりと回転を始めたと思いきや、一気にスピードを上げ、高速の渦を描き出し始めた。
 まさに炎嵐、炎の竜巻が〈アイスウォール〉で作り出した壁を一気に溶かす程の火力と回転を出しながら、閉じ込められたバルモンキーを次々と焼き払って殲滅していく。

「おいおいおい! 何だあれ!」

「リック、危ないですよ!」

「ニャー!」

「何! 火の竜巻なの!」

 バルモンキーの悲鳴も一瞬のうちに消していく〈炎嵐〉の威力〈アイスウォール〉の上から溶け始と思いきや、氷壁全てに亀裂が入り、バキッ! っと何か破れる音が洞窟に響いた。

 そして次の瞬間! 氷が崩れだし、固まりの氷となった物が次々とバルモンキーの頭上へと落ちはじめてきた。

「わお……」

「「「「……」」」」

 〈炎嵐〉が消えプスプスと生き物が焼ける匂いと焦げ臭い匂いが周囲を包み始めた。

 バルモンキーの残骸を見ると肉は崩れ落ち、煤となり丸焦げになった物しかそこには残ってなかった。
 牙も骨も高熱で焼かれ触れば簡単に崩れる程だ。

 これでは素材として取れる部分は何も残ってはいない。

「あーあ、これじゃ素材は取れないね」

「ふー……。あれだ、取り敢えず俺達はこの後もミツに驚かされるのは解ったわ」

「そうですね……。それにしても凄い威力ですね……」

「バルモンキーが全滅ニャ……」

「もう、色々と呆れて言葉が出ないわ……」

「ははは……。ごめん」

 自分の行動にリック達はもう諦め半分驚き半分の気持ちだが、自分の力を初見する者はそれ以上の驚きだ。いや、まず魔法を放ったのはリッコだと他の冒険者は思っているので皆の視線は全てリッコに集まっていた。

「何ですの……何ですの! あれは何ですの!」

「お嬢、落ちついて下さい!」

「ゲイツ! 貴方もご覧になったでしょ!」

「あわわわ……何ダス……化物ダス!」

「お嬢、取り敢えず危機は去りました。このうちに下に行きましょう」

「そうですよリティーナ様!」

「くっ……」

 ゲイツの言葉で自分が皆の前でどれだけ取り乱していたのか。リティーナはひと呼吸入れると現状を整理し、落ち着きを取り戻し指示を出した。

「ふ~、そうね。解ったわ……。気になるけど洞窟の光も弱くなってきたし、急いで下に行きましょう」

「さっ、マムン殿も急ぎますよ」

「うむむ、解ってるダス! お前ら荷物を忘れずに行くダスよ!」

 リティーナ一行はチラチラと視線を送りながらも、足を止めることもなく先へと歩みを進めはじめる。
 その中の殆どの人が見るのは先程の〈炎嵐〉の炎の竜巻を出したと勘違いされたリッコに向けてであった。

「何も言ってこないみたいだね……」

「あぁ、獲物を横取りしたとか、何か色々と言ってくると思ったんだけどな」

「洞窟の光が弱まってきましたね。恐らく下のセーフエリアに急いだんでしょう」

「本当だわ……。何だかあたりが薄暗く感じるわ」

「もう直ぐ外も夜ニャ。急ぐニャよ」

「次のフロア曲がれば下りれるよ。さあ、自分らも行こう」

「おう!」

 氷壁の中にいたバルモンキーの素材は駄目でも、先に倒した数十体分のバルモンキーの素材は使える。自分はそれをアイテムボックスに収納後、皆と下の階層へと下がる事にした。
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