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*後日談*ご令嬢達の優雅なお茶会
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本編全五話で終了予定でしたが、意外にも沢山閲覧していただけたので、後日談を書くことにしました。
お楽しみいただけましたら幸いです(*^^*)
*********************
季節は春から夏へと移り変わり、陽射しも徐々に強くなり始めたある午後の一時。
公爵邸の中庭にあるガゼボからは、楽しそうに話す女性達の声が聞こえていた。
「ブリジット様とヘイリー殿下のご婚約式も、ついに来月になりましたわね。」
「ええ、ヘイリー殿下も来週末には王宮の方にお戻りになりますし、これから忙しくなりますわ。」
色とりどりの茶菓子を摘みながら優雅に紅茶を飲むのは、一年と少し前に第一王子に婚約破棄をされ新たに第二王子の婚約者となった公爵令嬢のアレクシアと、それに伴い第一王子の婚約者に選出された侯爵令嬢のブリジットだ。
学園ではクラスが違うことからあまり接点のなかった二人だったが、あの騒動以降はたまにこうしてお茶会をする仲になっていた。
卒業パーティでのアレクシアとヘイリーの婚約破棄騒動の後、王宮で国王や宰相達からこってり搾られたヘイリーは、アレクシアやデューク、今は王妃となった側妃イーディスの口添えもあり、王子として一から鍛え直されることを条件に臣籍降下は免れることとなった。
「新たな婚約者には、第二王子の婚約者と引けを取らないくらいにしっかりとした女性を!
(適当に当てがったらコイツまた何かやらかすぞ!)」
との臣下達の声を受けて、アレクシアが推薦したのがブリジットだった。
ブリジットの実家である侯爵家は前王妃派で、数年前までは第一王子派として一線にいた家だ。
昨今のヘイリーの愚行に最近では表立って支持はしていなかったが、元々の第一王子派としての土台があるし、侯爵は側妃イーディスとの仲も良好なため、ブリジットへの婚約はすんなりと決めることとなった。
「ヘイリー殿下はお元気かしらね?」
「最初の頃にいただいたお手紙には随分と弱音が書かれていましたが、今はかなり頑張っておられるようよ。」
「そう。それは良かったわ。」
ブリジットはあまり表情が表に出ないタイプだが、ヘイリーの話をする時には少し目元が緩むことから、二人の関係はなかなか上手くいっているのだなと、アレクシアも安心した。
さてその件のヘイリーはというと、アレクシアの家に突撃してきて喚き散らした後にアレクシア達からヘイリーの母である今は亡き王妃マルグリットの想いを聞き、それなりに改心することができていた。
まだ横柄な態度を取ることもあるし我儘を言って困らせたりすることもあるが、第二王子デュークの母、側妃イーディスを侮辱したことはデュークにきちんと詫びていたし、アレクシアに対しても後日謝罪の手紙が来ていた。
アレクシアやデュークの話を聞いて彼なりに思うところがあったらしく、マルグリット亡き後も彼女のための側妃であろうとしたイーディスを認め、王妃に立后することを進言したのもヘイリーだった。
元々いつイーディスが王妃になっても良いように密かに準備を進めていた国王は、これ幸いと立后式を行ったのが半年前のことだ。
そして今ヘイリーは、王妃イーディスやその息子のデュークと共に王家の避暑地にいる。
そんなところで何をしているのかと言うと、避暑地にある大きな湖の無人島で、王子としての鍛え直しという名の扱きを受けている最中だ。
これはデュークも昔経験したことがあるらしく、イーディスがヘイリーを無人島に連れて行くと言い出した時に、苦虫を噛み潰したような顔をしていたことから、相当な鍛錬が待っているのだなということは容易に想像できた。
「しかしイーディス様も凄いことなさるわね。」
「でもまぁ王子を鍛え直すという意味では、ある意味良い方法だと思うわ。」
淡々と言ってのけるブリジットに、アレクシアは苦笑いした。
それなりに良好な関係ではあるが、ブリジットはヘイリーを甘やかす気は一切ない。
避暑地にある無人島は、無人島というだけあって何もない。
一応管理用の小屋があってそこに寝泊まりはできるらしいが、王宮のようにガスや下水道は整備されていないので、そこで暮らすとなるとかなり厳しいものになる。
アレクシア達の住む国は先進国で、庶民ですらガスや下水道は整備されていることから、ヘイリー達はそれ以下の暮らしになる。
元々騎士団の野営訓練をそのままデュークの教育のためにイーディスが応用したのだが、これまで王子として王宮で蝶よ花よと育てられてきたヘイリーにはかなり酷な生活だ。
まあ今回はイーディスだけでなく弟であるデュークも付き添っているので、幾分かマシではあるだろうが。
「ところで聞きましたわよ?
あなたキャスリーンさんのご実家をご支援なさったんですって?」
「あら、お耳が早いわね。」
キャスリーンは婚約破棄騒動で、子爵令嬢のルイーズが偽証人として仕立て上げたあの男爵令嬢だ。
実際は家同士の取引をネタに脅されて無理矢理証言するように強要されたのだが、それでも公爵令嬢に冤罪を掛けたことには間違いないので、キャスリーンはあの後修道院に行くことになった。
ちなみにルイーズの実家である子爵家は事の重大さから取り潰しに、ルイーズ共々僻地で強制労働に従事することになった。
「ご自分を罠に嵌めた相手の実家を、よくもまあ救おうなどとお思いになりましたわね?
いくらルイーズさんに脅されたからとはいえ、偽証は偽証でしょうに。
少し甘過ぎるんじゃなくて?」
ブリジットの言葉にアレクシアは苦笑いした。
確かにキャスリーンはアレクシアを嵌めるために偽証したのだが、実家との取引を盾に脅されては断りようがなかったと思う。
聞けば彼女の実家は母親が寝たきりで、父親の領地は一昨年の旱魃の煽りで経営が上手く行っておらず、その為キャスリーンの下の妹達は王立学園に入学することも叶わず、他の貴族の屋敷で下働きとして家計を助けていた。
そんな状況でルイーズの申し出を断ればどうなるか。
ただでさえギリギリの状態だった男爵家はあっという間に潰れてしまうし、薬も買えなくなった寝たきりの母親に残されるのは死だけだ。
「だって事情を聞いてしまったら、捨ておけなかったのよ。
経営の悪化が散々とかならともかく旱魃のせいだし、母親の命が懸かっていたら断れなかったのもわかるもの。」
「優しいのはあなたの美徳でしょうけど、優し過ぎる人間はいつか足元を掬われるわよ。
ただでさえあなたはこれから王太子妃として、権謀術数渦巻く王宮で狸共とやり合っていかなければならないのに。」
「ふふふ、それは大丈夫よ。
わたくしだって馬鹿ではないのだから、情けをかける相手くらい見極めているわ。
それに……なにかあったらあなたが私を助けてくれるでしょ?」
意味深に笑うアレクシアにブリジットは目を細めた。
あの時、ルイーズがアレクシアにインクを掛けられたと泣いている場所に遭遇したブリジットは、慌ててドレスのインクを拭いながら足元に転がるインク壺を手にした。
アレクシア・ルステンバーグと刻印されたそれを証拠だと持って行こうとするルイーズを、
「インク壺を落としたことに気が付いたら、アレクシアが取りに来るかもしれない。
証拠を取り戻す為にルイーズさんが危害を加えられる可能性もあるし、わたくしが持っていた方が良いわ。
幸いわたくしがここに来たことは彼女もしらないし、仮に知られても侯爵令嬢のわたくしに対して彼女は何も出来ないわ。
安心して、必要があればわたくしは証人として出ることも厭わないわ。」
と言って丸め込み、証拠品となるインク壺を手に入れた。
ルイーズとしても侯爵令嬢という立場ある人間を証人に出来るのは、願ってもないことだったのだろう。
ブリジットの言葉に感謝を示しながら、密かにしめしめとほくそ笑んでいた。
が、ブリジットは王宮から帰って来たアレクシアの元を訪れ、事の顛末を全て説明し、
「必要があればこれはこの場であなたにお渡しいたしますわ。
ルイーズさんに証言を求められても、知らぬ存ぜぬを通しましょう。」
と言ってきたのである。
これには流石のアレクシアも裏があるのではと思ったが、
「あら、嵌められそうになっている公爵令嬢をお助けしようとしているだけよ?
でもそうね、そんな一方的な申し出は受けられないでしょうから、あなたとヘイリー殿下との婚約破棄が成立した暁には、わたくしを次の婚約者に推薦していただく、というのではどうかしら?」
という。
アレクシアが婚約破棄を目論んでいるのではないかということに当たりをつけ、それを前提に条件を出す。
しかし婚約破棄後の王子なんて、臣籍降下は間違いないし侯爵家にとってはお荷物にしかならない。
侯爵家ともなれば良い縁談などいくらでもくるだろうに。
「そうね。確かに現状と婚約破棄を考えれば、ヘイリー殿下との婚約なんてコレの交換条件にもならないわね。
でもこれならどうかしら?
わたくしは未来の王妃としてのあなたを買っているの。」
そう言ってアレクシアの言葉を聞く前に、ブリジットはインク壺を彼女の手に握らせた。
「これをどう使うかは、あなた次第よ。」
その真っ直ぐな瞳に、アレクシアは彼女の手を取ることを決意した。
「あの時のブリジット様はまるで勇敢なる騎士のようでしたわ。」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくわ。」
レディを騎士に例えるのは些かどうかと思うが、ブリジットは満更でもないようだった。
「わたくし達の婚約式が終われば、次はあなた達の番ね。」
先日、国王と議会によりデュークが王太子となることが決定された。
それに伴いアレクシアは王太子妃となる。
結婚式は来年の春に行い、その一か月前にはアレクシアも王城に住まいを移すことになる。
「住み慣れた家を離れるのは少し寂しい気もするわ。」
「結婚とはそういうものよ。」
「まぁ、ブリジット様もいずれはお家を出ることになりますのよ?」
「学園は寮暮らしだったのだから、似たようなものよ。」
「あらあら。」
くすくすと笑いながら紅茶を飲む。
令嬢達の楽しいお茶会は、まだまだ続くのであった。
Fin.
お楽しみいただけましたら幸いです(*^^*)
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季節は春から夏へと移り変わり、陽射しも徐々に強くなり始めたある午後の一時。
公爵邸の中庭にあるガゼボからは、楽しそうに話す女性達の声が聞こえていた。
「ブリジット様とヘイリー殿下のご婚約式も、ついに来月になりましたわね。」
「ええ、ヘイリー殿下も来週末には王宮の方にお戻りになりますし、これから忙しくなりますわ。」
色とりどりの茶菓子を摘みながら優雅に紅茶を飲むのは、一年と少し前に第一王子に婚約破棄をされ新たに第二王子の婚約者となった公爵令嬢のアレクシアと、それに伴い第一王子の婚約者に選出された侯爵令嬢のブリジットだ。
学園ではクラスが違うことからあまり接点のなかった二人だったが、あの騒動以降はたまにこうしてお茶会をする仲になっていた。
卒業パーティでのアレクシアとヘイリーの婚約破棄騒動の後、王宮で国王や宰相達からこってり搾られたヘイリーは、アレクシアやデューク、今は王妃となった側妃イーディスの口添えもあり、王子として一から鍛え直されることを条件に臣籍降下は免れることとなった。
「新たな婚約者には、第二王子の婚約者と引けを取らないくらいにしっかりとした女性を!
(適当に当てがったらコイツまた何かやらかすぞ!)」
との臣下達の声を受けて、アレクシアが推薦したのがブリジットだった。
ブリジットの実家である侯爵家は前王妃派で、数年前までは第一王子派として一線にいた家だ。
昨今のヘイリーの愚行に最近では表立って支持はしていなかったが、元々の第一王子派としての土台があるし、侯爵は側妃イーディスとの仲も良好なため、ブリジットへの婚約はすんなりと決めることとなった。
「ヘイリー殿下はお元気かしらね?」
「最初の頃にいただいたお手紙には随分と弱音が書かれていましたが、今はかなり頑張っておられるようよ。」
「そう。それは良かったわ。」
ブリジットはあまり表情が表に出ないタイプだが、ヘイリーの話をする時には少し目元が緩むことから、二人の関係はなかなか上手くいっているのだなと、アレクシアも安心した。
さてその件のヘイリーはというと、アレクシアの家に突撃してきて喚き散らした後にアレクシア達からヘイリーの母である今は亡き王妃マルグリットの想いを聞き、それなりに改心することができていた。
まだ横柄な態度を取ることもあるし我儘を言って困らせたりすることもあるが、第二王子デュークの母、側妃イーディスを侮辱したことはデュークにきちんと詫びていたし、アレクシアに対しても後日謝罪の手紙が来ていた。
アレクシアやデュークの話を聞いて彼なりに思うところがあったらしく、マルグリット亡き後も彼女のための側妃であろうとしたイーディスを認め、王妃に立后することを進言したのもヘイリーだった。
元々いつイーディスが王妃になっても良いように密かに準備を進めていた国王は、これ幸いと立后式を行ったのが半年前のことだ。
そして今ヘイリーは、王妃イーディスやその息子のデュークと共に王家の避暑地にいる。
そんなところで何をしているのかと言うと、避暑地にある大きな湖の無人島で、王子としての鍛え直しという名の扱きを受けている最中だ。
これはデュークも昔経験したことがあるらしく、イーディスがヘイリーを無人島に連れて行くと言い出した時に、苦虫を噛み潰したような顔をしていたことから、相当な鍛錬が待っているのだなということは容易に想像できた。
「しかしイーディス様も凄いことなさるわね。」
「でもまぁ王子を鍛え直すという意味では、ある意味良い方法だと思うわ。」
淡々と言ってのけるブリジットに、アレクシアは苦笑いした。
それなりに良好な関係ではあるが、ブリジットはヘイリーを甘やかす気は一切ない。
避暑地にある無人島は、無人島というだけあって何もない。
一応管理用の小屋があってそこに寝泊まりはできるらしいが、王宮のようにガスや下水道は整備されていないので、そこで暮らすとなるとかなり厳しいものになる。
アレクシア達の住む国は先進国で、庶民ですらガスや下水道は整備されていることから、ヘイリー達はそれ以下の暮らしになる。
元々騎士団の野営訓練をそのままデュークの教育のためにイーディスが応用したのだが、これまで王子として王宮で蝶よ花よと育てられてきたヘイリーにはかなり酷な生活だ。
まあ今回はイーディスだけでなく弟であるデュークも付き添っているので、幾分かマシではあるだろうが。
「ところで聞きましたわよ?
あなたキャスリーンさんのご実家をご支援なさったんですって?」
「あら、お耳が早いわね。」
キャスリーンは婚約破棄騒動で、子爵令嬢のルイーズが偽証人として仕立て上げたあの男爵令嬢だ。
実際は家同士の取引をネタに脅されて無理矢理証言するように強要されたのだが、それでも公爵令嬢に冤罪を掛けたことには間違いないので、キャスリーンはあの後修道院に行くことになった。
ちなみにルイーズの実家である子爵家は事の重大さから取り潰しに、ルイーズ共々僻地で強制労働に従事することになった。
「ご自分を罠に嵌めた相手の実家を、よくもまあ救おうなどとお思いになりましたわね?
いくらルイーズさんに脅されたからとはいえ、偽証は偽証でしょうに。
少し甘過ぎるんじゃなくて?」
ブリジットの言葉にアレクシアは苦笑いした。
確かにキャスリーンはアレクシアを嵌めるために偽証したのだが、実家との取引を盾に脅されては断りようがなかったと思う。
聞けば彼女の実家は母親が寝たきりで、父親の領地は一昨年の旱魃の煽りで経営が上手く行っておらず、その為キャスリーンの下の妹達は王立学園に入学することも叶わず、他の貴族の屋敷で下働きとして家計を助けていた。
そんな状況でルイーズの申し出を断ればどうなるか。
ただでさえギリギリの状態だった男爵家はあっという間に潰れてしまうし、薬も買えなくなった寝たきりの母親に残されるのは死だけだ。
「だって事情を聞いてしまったら、捨ておけなかったのよ。
経営の悪化が散々とかならともかく旱魃のせいだし、母親の命が懸かっていたら断れなかったのもわかるもの。」
「優しいのはあなたの美徳でしょうけど、優し過ぎる人間はいつか足元を掬われるわよ。
ただでさえあなたはこれから王太子妃として、権謀術数渦巻く王宮で狸共とやり合っていかなければならないのに。」
「ふふふ、それは大丈夫よ。
わたくしだって馬鹿ではないのだから、情けをかける相手くらい見極めているわ。
それに……なにかあったらあなたが私を助けてくれるでしょ?」
意味深に笑うアレクシアにブリジットは目を細めた。
あの時、ルイーズがアレクシアにインクを掛けられたと泣いている場所に遭遇したブリジットは、慌ててドレスのインクを拭いながら足元に転がるインク壺を手にした。
アレクシア・ルステンバーグと刻印されたそれを証拠だと持って行こうとするルイーズを、
「インク壺を落としたことに気が付いたら、アレクシアが取りに来るかもしれない。
証拠を取り戻す為にルイーズさんが危害を加えられる可能性もあるし、わたくしが持っていた方が良いわ。
幸いわたくしがここに来たことは彼女もしらないし、仮に知られても侯爵令嬢のわたくしに対して彼女は何も出来ないわ。
安心して、必要があればわたくしは証人として出ることも厭わないわ。」
と言って丸め込み、証拠品となるインク壺を手に入れた。
ルイーズとしても侯爵令嬢という立場ある人間を証人に出来るのは、願ってもないことだったのだろう。
ブリジットの言葉に感謝を示しながら、密かにしめしめとほくそ笑んでいた。
が、ブリジットは王宮から帰って来たアレクシアの元を訪れ、事の顛末を全て説明し、
「必要があればこれはこの場であなたにお渡しいたしますわ。
ルイーズさんに証言を求められても、知らぬ存ぜぬを通しましょう。」
と言ってきたのである。
これには流石のアレクシアも裏があるのではと思ったが、
「あら、嵌められそうになっている公爵令嬢をお助けしようとしているだけよ?
でもそうね、そんな一方的な申し出は受けられないでしょうから、あなたとヘイリー殿下との婚約破棄が成立した暁には、わたくしを次の婚約者に推薦していただく、というのではどうかしら?」
という。
アレクシアが婚約破棄を目論んでいるのではないかということに当たりをつけ、それを前提に条件を出す。
しかし婚約破棄後の王子なんて、臣籍降下は間違いないし侯爵家にとってはお荷物にしかならない。
侯爵家ともなれば良い縁談などいくらでもくるだろうに。
「そうね。確かに現状と婚約破棄を考えれば、ヘイリー殿下との婚約なんてコレの交換条件にもならないわね。
でもこれならどうかしら?
わたくしは未来の王妃としてのあなたを買っているの。」
そう言ってアレクシアの言葉を聞く前に、ブリジットはインク壺を彼女の手に握らせた。
「これをどう使うかは、あなた次第よ。」
その真っ直ぐな瞳に、アレクシアは彼女の手を取ることを決意した。
「あの時のブリジット様はまるで勇敢なる騎士のようでしたわ。」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくわ。」
レディを騎士に例えるのは些かどうかと思うが、ブリジットは満更でもないようだった。
「わたくし達の婚約式が終われば、次はあなた達の番ね。」
先日、国王と議会によりデュークが王太子となることが決定された。
それに伴いアレクシアは王太子妃となる。
結婚式は来年の春に行い、その一か月前にはアレクシアも王城に住まいを移すことになる。
「住み慣れた家を離れるのは少し寂しい気もするわ。」
「結婚とはそういうものよ。」
「まぁ、ブリジット様もいずれはお家を出ることになりますのよ?」
「学園は寮暮らしだったのだから、似たようなものよ。」
「あらあら。」
くすくすと笑いながら紅茶を飲む。
令嬢達の楽しいお茶会は、まだまだ続くのであった。
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