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篠原

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第十七章  栄真子の新婚、新居生活  ~すべてが初めてな新妻!~

第十七章 ㉗

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私たちは。
 足立区まで来た目的を果たせずに、
また、来た道を、そのまま戻った。
千住北駅に向かって……。
彼は、見るからに、力を落としているし、
若い私は、そんな状況の配偶者に、どの
ような言葉を、どうかけてあげたら
良いのか全く分からなかった。
だから、黙って、私も、千住の町を
歩いた。

 
 歴史的な街並みと、聞いたことも
あったけど。
あの日、私たちが歩いた、千住の道は、
そんな雰囲気は一切なかった…。
ただ、飲み屋街の中を通り抜け。
それから、スナック、キャバクラ、
ソープの前を足早に…。





そして。
翌日。
私たちは、羽田空港に、いた。
若い妻である私は、彼との新しい地での
生活、開業医としての闘いを夢見て、
ウキウキしているところが、正直、
少しはあったけれど。
 今からすれば、彼は。
完全に、『負のオーラ』でいっぱい
だった。
それは、そう。
東京の超有名大学病院を、そう、強制的に
追い出されたようなものなのだから……。
しかも、これから行く、今まで1度も行った
ことのない新天地・愛媛県でうまくいける
かも分からない。
能天気な若い妻を養わないといけない……
のに。
自分には、もう、コネも高給もないのに。
 そう、彼は、考えていたに違いない。

結局、その日、羽田の空港でも、
飛行機の中でも、松山の空港でも、
彼は、一切笑ってくれなかった。
 彼の笑顔を、あんなに見れなかった日は、
あの日だけだった……。


そして、私たち2人は、空港からバスに乗って
市駅の近くに、その古ぼけた安いホテルに
入った…。
いざ、故郷・松山に着いてみると。
私も、正直、不安と心配にいっぱいに
なった。
「これから、2人だけで、この松山で
本当にやっていけるのかな……。
勢いで来ちゃったけれど……」
  本当に、そんな感じ。
私たち2人―いや私―は、勢いだけで、
彼を連れて、松山に帰ったのだった…。






















(・著作権は、篠原元にあります


・第十七章⑱が参照というより…、
そこに戻りました。
ぜひ、どうぞ!

・いつも、読んでいただきありがとう
ございます。
登録、高評価、感想とかをもらえると
嬉しいのです……! ヨロシクです  )
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