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篠原

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第十六章 義時と真子の挙式 ~純白のドレスと運動靴!?~

第十六章 ㊹

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でも、雪子さんは、言います。
「大丈夫!あれはねぇ、おトイレもある
だろうけど……。携帯を手に持ってた
でしょ?
多分、電話をかけたい人がいるのよ…」と。
さすが、大伯母さん。
真子ちゃんのことをよく分かって
らっしゃいます。
そして、何より!!
私も気づけなかったのに…!?
真子ちゃんが、携帯を持ってたのを、
見逃さなかったとは……。
スゴイ、観察眼。
聞き上手、話させることのプロ級のレベル、
それにその観察力…。
「刑事になれる!!」、いえ、「こういう
人が警察に必要だなぁ!」って思いました。



そして……。
初対面の私たちは…。
掘り炬燵の個室で、笑ってしまいました。
雪子さんは笑いながら、
「さすがに、本人の前で、
話しすぎちゃったわねぇ」と。
私も、「そ、そうですね」と。
2人で、真子ちゃんが戻ってきたら、
謝ることに決めました。


でも……。
実際問題として、真子ちゃんは、
なかなか戻ってきませんでした…。
どう考えても、トイレにしては長すぎる
……。
やはり、雪子さんが言ったように、
愛する男性へのラブコールか。



なので、彼女がいないので、雪子さんと
ゆっくり話すことができたのです、私は
……。
雪子さんは優しい表情で、慈しみに満ちた
目を向けて、私に話しかけてくれました。
そして、私の話す言葉をじっくりと聞いて
くれました。

雪子さんの目は……。
それまでに見てきたどんな人の目よりも
美しくて、キレイで、それだけじゃなく
力強さもあって……。
警察に身を置いていると、目の前に立つ、
座るのは、本当に、目が何とも言えない
『穢さ』や『怒り』、『性欲』でいっぱい
になってる連中ばかりです。
見たくもない、そんな目なんです!!
連中の目は……。
全世界の『悪意』のすべてを凝縮したよう
な瞳をしています。
それに言っちゃあ悪いですが、そういうの
と、普段、いつも接している刑事達も
似たような目つき、瞳になってしまう
……。
ってことは、私も、そうなのかもしれない
のですが。
でも、雪子さんの目と言えば!
なんて愛に満ちた瞳なのでしょう……。
そして、それだけじゃなく、なんと
力強い視線なのか……、まるで燃える
火のよう。
あんな目で見られたら、どんなクズ野郎
でも、全部、あらいざらい『うたう』
ことでしょう。



それで、そのような愛と力に満ちた目で
私を見つめながら、雪子さんが訊いて
くれたのです。
私にとって、あの頃、一番必要な
『質問』です。
そうです!
その時が、私の『人生のターニング
ポイント』の2つ目のスタートだった
のです。

「不動さんは、お子さんは、まだのよう
だけど、男の子がほしいの?
それとも、まずは、女の子かしら?」。

なんで、あのタイミングで、その日に
初めて会った私に、雪子さんが、
あんな内容の『質問』をしてくれたのか、
私には分かりません。
でも、私には、あの『質問』が必要不可欠
でした。
そして、あの『質問』に答えることで、
私が抱えていた【大きな大きな問題】が
解決へと至ることになるのです。



詮索したいとか、興味本位ではない…。
誠実な、誠意ある質問だって、瞬時に、
私には分かりました。
同時に、その優しい口調が、私の心を
溶かします。
何もかも話せるような感じが、します。
いえ、違います。
「今、全部話したい!
今、話さないと、一生……」。
そう思ったのです。


誰にも知られていない、……そうです、
夫にも、母にも、妹たちにも、当然、
真子ちゃんにも秘密にして隠し通して
いる、いわば、一生自分の胸だけに
しまっておこうと決めていた、
『経口避妊薬』のことも……、「この人に
打ち明けたいッ!」、このように思えた
んです。

そして、気づいたら、私はポツリと
言っていました。
「男の子……。
男の子がほしいです!」。
その瞬間です、涙がまるで滝のように
…。


私という人間は、あまり泣かない人間
だと自認していたのに。
それに、刑事として、目の前に座る人に
相対する時、絶対に感情移入は厳禁です。
それに、女として『男社会』の警察に
いる以上、むやみに涙を見せれば、
上司、同僚、後輩の男連中に、それだけで
ナメられるし、「だから、女って言うのは」
と言われることになるのです。
だから、自然と、そういうクセ……、
どんなことがあっても泣かないという
『特技』があったはずなのに…。
私は、自分の力で、自分の涙を止める
ことができなく……なっていました。

「どうして、何でっ?!」と、パニックに
なりかけながら、急いで、ハンカチを
取り出し、拭おうとしましたが、






















(・著作権は、篠原元にあります

・3月もよろしくお願いします。
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