追う者

篠原

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第十五章  挙式までの最終戦  ~巡り合うのは善か、悪か?~

第十五章 ⑭

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(ここでは、第六章④、⑤と、
第九章⑪と時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる。
ただし、第六章については、
強めの犯罪描写【性犯罪】が
あります)











信じられないようなこと……。
それが、どんなことだったかと言うと…。


近所の子たちの間で、『引きこもり女』と
呼ばれ、有名で、気味悪がられていた私、
小5の私が、必死に、歯を食いしばり
ながら、怒り狂う丸瀬やよいちゃんの
腕を掴み続け……、そして、遂に、
大泣きし出した……、と言うのです。

呆気にとられ、静かになる、やよいちゃん。
4人の女の子達も、ぽかんと。
その場が、私の泣き声だけの世界に、
なります……。


「真子ちゃん……。どうしたの?」と、
腕を強く強く、痛くなるほどに掴まれている
やよいちゃんが、訊きます。


すると、小5の私は、泣きながら、
しゃっくりを繰り返しながら、必死に、
言ったそうです。
こんな内容のことを。
「やよいちゃん。私……、絶対に、離さない
から!!
友達だもん……!
友達だから、やよいちゃん、離さない。
今日、ここで、友達やめるって言われると
しても、絶対に、あっちに行かせない……。
だから、やよいちゃん、もうやめて。
そんなことしたら、やよいちゃんが、
ワルモノになっちゃうよ!!」。


涙をいっぱい流しながら、そう語る私を
見ていて、やよいちゃんの目からも涙が
こぼれおちます。
そして、戦意を完全に喪失します。
「真子ちゃん……」、そう言うやよいちゃん
の手から、山菜のこ鎌が、スッと地面に
落ちます。



そして……。
信じられないことに…。
あの子が……、つまり、率先して、私を
バカにしていた、やよいちゃんの元クラス
メートが私たちのとこに駆け寄って来て、
叫んだといいます。
「やよい!ゴメンッ!!
あと……。バカにして、ごめんなさい」、
と私にも……。
その子も泣いてしまっています。
そして、残りの3人の子も、続いてやって
来て……、「ごめん」、「ごめんね」と…。





その日、やよいちゃんは、思ったそうです。
「真子ちゃんみたいなのが、本当の友達
なんだなぁ」と。

本当の友達とは、喧嘩の時に加勢してくれ
たり、人をバカにしたり仲間外れにしたり
する時に同じグループになる人間じゃなく、
そんな時に、ちゃんと反対してくれる、
止めてくれる、叱ってくれる……、
そう言う人なんだ。
幼い、やよいちゃんは、幼いながらも、
それが分かったと言います。

そして、その理解、その気づきを、
「大学生の今でも、大事にしてます。
そんな人間でいよう、そして、そんな人と
本当に仲良くなろう……って考えています」
と言ってくれるほど、大切にしてくれていた
のです、ずっと……。



やよいちゃんの話を聞いて、そして、
今でも、私は嬉しいのです。
昔、平戸のヤツに腕を掴まれた母は、
そのせいで、強姦犯のクズ野郎に捕まり、
何度も何度もレイプされます。
その最悪で、悪夢のような事件の結果と
して生まれてきたような私……。

その私も、将来の夫になるなんて考えも
しなかった『クソ栄義時』に追われ、
逃げ回り、遂には、大親友だった葦田
みどりちゃんに、腕を掴まれ……、
そして、女子にとって耐え難い仕打ちを
受けることになるのです。
母娘そろって、何という、受難の歴史で
しょうか?

でも、です。
私は…、この私は、ある子の腕をしっかりと
掴み、離さずに、そして、彼女を危険から
守ってあげれていたのです!!
何と言う、嬉しいことでしょうか。
私は、腕を掴まれ、被害者にはなったけれど、
ある女の子の腕をしっかり掴み続け、その子
を助けることができたのです。
その子、つまり、丸瀬やよいちゃんが、
『山菜のこ鎌切り付け女』になることを
防いであげれたのです。
もし、小5の私が必死に止めてあげれて
いなければ……、やよいちゃんは、私の
ために、同級生の女の子たちに飛び掛かり、
そして、やよいちゃんが、『加害者』に
なってしまってたかもしれません。
そうしたら、その後の、やよいちゃんは、
どんなに苦しむことでしょう。
おそらく、私のように、不登校になって
しまうかもしれません。
一生、影日向で生きるような人生になって
しまうかもしれません。


私は、目には見えないけど、神様は、いると
信じています。
神様が、あの時、幼い私を使ってくれて、
やよいちゃんを助けてくれたんだな……と。
私は今この瞬間も、あの時、やよいちゃんを
助けることができて、本当に良かったと
思います。
そうでなかったら、やよいちゃんも、あと、
山菜のこ鎌で傷つけられる女の子たちも
『不幸』になってたでしょうから。





刑事のみどりちゃんが、言っていました。
「いやぁ、小5の真子ちゃんさ、
大活躍だね。
そうだよなぁ……。
本当思うんだけどさ、喧嘩の加勢をしたり、
殴り込みの時に一緒になって闘うのが、
本当の仲間、親友じゃないんだよね。
そんなの、単なる、『損友』、損にしか
ならない関係だよ。
私さ、仕事柄思うんだ……。
もし、周りに、親友がいて、ちゃんと、その
人を止めてあげていたら……、『犯罪者』、
『加害者』にさ、ならないで済むような人が
いっぱいいるなぁってさ。
そうしたらさ、『被害者』になっちゃうさ、
人もいないんだからさ……。
多くの人が、幸せになるわけよ。
だから、私さ、思う。
真子ちゃんとやよいちゃん、本当に、
親友だったんだねぇ。
で、今日からさ、また、『親友』だね!」。

うん!
はい!
私とやよいちゃんは、同時に、頷いて
いました……。
みどりちゃん、スゴ~く良いことを言って
くれた感じがします。
いえ、確かに、最高に良いことを言って
くれました。
妹ちゃんは、「お姉ちゃんって、なんかさ、
本当に、たま~に、良いコト、言うよねぇ」
と……。
で、みどりちゃんが言い返す…。
もう見慣れた感じがしだして、笑っちゃい
ましたね……。









(著作権は、篠原元にあります)
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